認知症をAIが診断!活用事例や認知機能を判別するサービス

先日、データ分析支援を行うFRONTEO(フロンテオ)と塩野義製薬が連携して、認知症診断支援AIの開発を行ったというニュースが発表されました。認知症診断支援AIとは、患者と医師が行った5~10分程度の会話のやりとりをAIが解析し、疾患の可能性を判定します。

今回は、認知症ケアにAIを活用すると得られる効果やAIの認知症に関する活用事例・認知機能を判別するサービス等をご紹介します。

AIによる認知症ケア

日本では高齢化が進んでおり、今後認知症の高齢者も増加すると言われてます。認知症は、脳の病気等で日常生活に支障が出る状態を指しますが、その原因は様々です。

最も多いアルツハイマー型認知症は根本的な治療がなく、新薬も軽度の認知障害がある患者が対象と言われています。そのため、認知機能の低下を早期発見することが重要です。従来、認知症は日常生活の異変の聞き取りから認知機能のチェック・血液検査や画像診断等で診断されるため、一定の時間やコストがかかっていました。

しかし、AIの有効活用により時間やコストを削減しながら、認知症の早期発見が可能になっています。現在、ヘルスケア分野で認知症の早期発見をする取り組みが進んでおり、症状の進行を遅らせる等の期待が高まっています。

認知症ケアにAIを活用すると得られる効果

認知症ケアにAIを活用すると得られる効果

AIの導入で一定の時間やコストを削減しながら認知症に対する取り組みが進んでいますが、認知症ケアにAIを活用すると得られる効果は他にもあります。以下で具体的に解説します。

会話や音声から認知症を検知することができる

認知障害を検知することができるAIは、人が発する音声や話し方から微妙な認知障害が検知可能です。既に海外ではAIが初期段階のアルツハイマー型認知症患者を早期検知しており、50以上の機関で導入されています。

日本でも後述する認知機能みまもりAI等が提供されており、さまざまな機関で導入され認知症の早期検知が行われています。

多方面から認知症のケアを行うことができる

対話型のAIが認知症患者と直接会話を行うことで話し相手となり、脳の活性化を促して認知症の進行を遅らせることができます。AIが認知症患者の話し相手になることで、従来、介護にあてていた家族の負担も軽減させることが可能です。

また、会話のデータを分析し認知症患者がどのような内容に反応するか、どのくらいの頻度で応答するのか、というデータを可視化することもできます。記録したデータをかかりつけの医師に共有することで、効率的な治療を行える可能性もあるでしょう。

AIの認知症に対する活用事例

現在、世界では認知症患者が5,000万人を超え、日本でも600万人を超えていると言われています。今後も認知症患者の増加が予測されている状況ですが、一方で基礎疾患の治療・生活習慣の改善・トレーニング等により、認知症の進行を防ぐことができると明らかにされました。

現在は、AIを用いた認知症の予防や認知症の方に対応した様々な認知症に関する活用事例が増えています。以下ではその一例を具体的にご紹介します。

対話型AIを活用した認知機能の維持

日本語対話型AI「LIFE TALK ENGINE」を開発したウェルヴィル株式会社が株式会社J:COM湘南・神奈川と連携し、LIFE TALK ENGINEを活用し認知機能維持を目的とした取り組みをしていました。高齢者がテレビの画面に映されたAIアバターと会話をし、日常生活を楽しめるよう健康維持と認知機能の維持を目指すための実証実験です。

LIFE TALK ENGINEは、日本語に着目した独自のアルゴリズムを持ち、曖昧な表現や感情等を解釈し、過去の会話文脈を判断した上で自然な応答ができます。また、対象の高齢者の家族や故郷等の思い出に会話を誘導し、回想による脳の活性化を促します。

AIが音声から認知機能の変動を検知し、自身が気づきにくい認知機能の変化を記録することも可能です。さらに、自動問診推論エンジンを内蔵しており、対話内容から体の不調の記録もできます。

AIが記録した問診記録を医療機関での受診の際に活用することで、医師に正確な情報を伝えることが可能です。高齢者の認知機能をサポートしながら、安心な暮らしのサポートができるでしょう。

認知症将来リスク予測プログラム

島根大学医学部・滋賀医科大学・株式会社ERISAが共同開発した脳画像解析技術による認知症リスクを予測するプログラム「SupportBrain」です。脳の一部はもちろん脳全体を膨大なデータと比較し精度の高い検査結果を実現しています。

2021年11月に提供して以来、全国で60箇所以上の医療機関で導入されています。SupportBrainは、AIを活用した以下の2種類の検査結果の提供が可能です。

  • 現在の脳の萎縮が加齢に伴うものか認知症の低下によるものかを判定
  • 現在の脳萎縮から3年後の認知機能の低下を予測

2種類の検査ともに同年代比較をしており、検査を受けた方には脳の各部位の萎縮度を可視化したレポートや認知機能低下予防に繋がる生活習慣の改善策が提供されます。SupportBrainを受ける手順は以下になります。

  1. 株式会社ERISAに検査希望の方がネット予約する
  2. 首都圏40箇所のMRI撮像機関クリニックで脳のMRIを撮影する
  3. MRI撮像機関クリニックが株式会社ERISAに検査希望の方の脳MRI画像を提供する
  4. 株式会社ERISAがAIによる脳のMRI画像解析を行う
  5. 株式会社ERISAから検査希望の方に検査結果レポートが届く

なお、検査結果レポート郵送のみのAプラン(39,800円)と検査結果レポート郵送+医師によるオンラインでの結果説明のBプラン(49,800円)があります。株式会社ERISAのHPのSupportBrain紹介サイトから対象医療機関を選択して申し込み可能です。

AIが記憶障害の改善を支援

認知症の症状の1つとして記憶障害が挙げられます。しかし、認知症が進行したとしても必ずしも長期的な記憶障害になるわけではないため、記憶障害への機能回復を目指したリハビリテーションが有効と言われています。

スコットランドの研究チームでは、AIが親近感のあるストーリーを生成することで、患者の記憶を戻すプロジェクトを進めているようです。AIが生成するストーリーは、年齢・社会背景・患者の人生経験やニーズに合わせたもので、患者の記憶の回想を促すことになります。

世代や個人に関する自伝的な記憶を提供することで、個人のイベントを追体験させて記憶障害の改善を支援する仕組みです。

認知症の行動や心理症状を予測

ゲオム株式会社が開発したGEOM.aiは、認知症の行動や心理症状(BPSD)を予測して適切な介護ケア方法と共に通知する認知症対応型のAIアプリです。AIが認知症の方のバイタルデータや介護記録等を分析して、認知症のBPSDの予兆を検知します。

例えば、「30分後に徘徊が予測されます」等、予測したBPSDの種類や適切なケア方法がタブレットに通知される仕組みです。BPSDを発症する前にAIが適切な介護ケア方法を提案するため、BPSDを未然に防げます。

介護者1人で3人しか対応できなかった現場が、GEOM.aiの導入により1人で4人以上対応可能になる等、介護負担の軽減につながったようです。

AIが認知機能を判別するサービス

AIが認知機能を判別するサービス

現在様々な機関で認知症に対してAIが活用されている事例をご紹介しました。では、2024年2月現在、一般の方が活用可能な認知機能を判別するAIサービスをご紹介します。

一部のサービスは期間限定になりますが、いずれも簡単な診断で判別可能です。

ONSEI

医療機器メーカーの日本テクトシステムズ株式会社が提供しているAIによる認知機能チェックができるスマートフォンアプリです。認知症医療の第一人者である医師により監修されており、簡単な質問に声で回答するだけで認知機能の変化が簡単に分かります。

アプリを開いて認知機能の判別が分かるまで20秒でチェック可能です。ONSEIは、3種類の独自のアルゴリズムと1008の音声の特徴の組み合わせを解析して生み出されたAIで、軽度認知症に対して93%の正分類率で軽度のアルツハイマー型認知症と健常者が判定可能と言われています。

脳の健康チェックフリーダイヤル

NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com)提供のAIによる認知機能測定サービスです。AIを搭載した電話検査システムで、2022年9月より無償トライアルを行った半年間で約45万コールの利用があり、利用者の8割が50代〜70代のようでした。

脳の健康チェックフリーダイヤルは、前述したONSEIのアルゴリズムを利用し、質問に対するユーザーの回答や年齢から認知機能の変化を判定します。以下の手順で認知機能の確認を実施します。

  1. 専用番号0120-468-354へ発信する
  2. 本日の日付を伝える(西暦◯年・◯月・◯日・◯曜日)
  3. 年齢を伝える(◯歳)
  4. 1分以内にAIが会話の内容や話し方を分析し認知機能の状態を判定する

利用者の約半数は、脳の健康チェックフリーダイヤルのHPにアクセスしていたようで大きな反響があったようです。NTT Comでは、新たなビジネスモデルを創出するため、無償トライアル期間を2024年3月末まで延長しています。

脳の健康チェックplus

NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com)提供の音声認識AIで、認知機能を図る有償のサービスです。専用の番号に電話して複数の質問に回答することでAIが認知機能を判定し、認知機能の症状を確認できます。

脳の健康チェックplusには、NTT Comと日本テクトシステムズ株式会社が共同開発の認知機能みまもりAI「M-KENSA」が導入されています。M-KENSAは回答中の沈黙・声の高さ・即時記憶・時間見当織・脳の記憶処理能力等をチェックし、脳の健康チェックフリーダイヤルよりもより詳細な判断が可能です。

また、脳の健康チェックフリーダイヤルよりも早期の認知機能低下の疑いを音声のみで検知できるほか、認知機能の症状を5段階に分けることができます。脳の健康チェックplusでは以下の手順で認知機能の確認が可能です。

  1. 専用番号0570-012-354に発信する
  2. 本日の日付を伝える
  3. 複数の質問に答える
  4. 6分程度でAIが会話の内容や話し方を分析し認知機能の状態を判定する

脳の健康チェックplusは今後は法人向けのサービスを予定していますが、有償トライアルで個人も利用可能です。なお、ナビダイヤルで提供するため、携帯電話からの場合は約180円・固定電話からの場合は約60円程の通話料が発生します。

人工知能AIによる認知症ケアが可能に!

今回は、AIが認知症ケアに与える効果やAIの認知症に関する活用事例・認知機能を判別するサービス等をご紹介しました。高齢化により、今後認知症の高齢者も増加すると言われている近年、AIの導入で認知症の早期発見の重要性はますます高まるでしょう。

医療機関で認知症の診断を受けるのは抵抗を感じる方も多いと思いますが、日常生活の中でAIによる認知症の早期発見診断サービス等を利用できる機会が増えることを期待します。気軽に認知症の早期診断を行うことができれば、認知症の進行を遅らせる可能性も増えるでしょう。

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