AIという言葉を見聞きしたことがない人は少ないでしょう。それほどまでに広く浸透していますが、AIは音楽産業にも影響を与え始めています。AIで音楽制作を試みる人も登場し、実際にSNS上で発表されているケースも少なくありません。有名アーティストの作品ではなくても、SNS上で注目を集め人気が出れば、音楽業界にいる人たちも無視し続けるのは難しいでしょう。そういう意味でも、AIが音楽産業に与える影響は大きいといえます。
一方で、あまりよくない影響がある点も否めません。AIで音楽が作られることに危機感や嫌悪感を抱くアーティストもいます。自らの知識や経験、技術を駆使して音楽制作を行っているアーティストやプロデューサーからみれば、音楽業界へのAIの参入を歓迎できないと考えるのは当然です。
本記事では、AIを活用した音楽制作のメリットや課題などを考えながら、AIが音楽産業に与える影響をさらに深掘ってみましょう。
AIを活用した音楽制作のメリット
良くも悪くもAIが音楽産業に影響を与えているのは、そこに何かしらのメリットがあるためでしょう。ここでは、AIを活用した音楽制作の主なメリットを挙げてみます。
制作効率の向上
AIを活用すると、音楽の制作効率を上げられます。AI音楽生成ツールを用いれば、数分程度で作品を作り上げることも可能です。時間短縮だけではなく、アーティストやプロデューサーの負担軽減にもなるでしょう。精神面やコスト面など制作における負担が大幅に減れば、より多くの楽曲の発表にもつながります。
従来とは異なる音楽の生成
人間の知識や技術、価値観では生み出せなかった音楽の生成が期待できる点も、AIを音楽に活用するメリットです。AIは学習機能が備わっているため、基本的には人間がこれまで生み出してきた作品を参考に音楽を作成するでしょう。
しかし、さまざまな異なるアーティストの特徴を盛り込むことで、AIがこれまでにない新しい作品を生み出す可能性は十分にあります。個人の限界を超えた音楽と出会える可能性を秘めている点は大きなメリットです。
誰でも本格的な楽曲の制作が可能
これまで音楽の勉強をしたことがない、楽器にすら触れたことがないといった人でも、AIの活用により音楽制作が可能となります。SNS上で発表できるなど世に送り出す手段もすでに広がっているため、表現者として活動する人は今後さらに増えていくでしょう。誰もがアーティストになれる時代になっており、それを可能としているのもAIといえます。
AIで音楽作成する手順
AIでの音楽作成の手順は、目的やツールにより異なります。楽曲のすべてをAIで作成するのか、一部にAIを利用するのかでも変わるでしょう。ここでは、音楽の生成ツールを活用した際の、基本的かつもっとも簡単な楽曲作成の手順を紹介します。
1.音楽の特徴を設定する
音楽生成ツールにもよりますが、おおむね音楽の特徴の設定が必要です。「ムード」や「スタイル」「曲の長さ」「テンポ」などを設定するツールが多いでしょう。生成する曲の数が設定できるものもあります。歌詞を入力し、それにマッチした楽曲を生成してくれるツールも少なくありません。
2.音楽を生成する
音楽の特徴を設定したら、早速AIで音楽の生成を開始します。音楽はすぐに生成されて、その場で再生・確認することが可能です。上記で設定した特徴をそのままに、何度も新たな楽曲を生成し続けられるツールもあります。好みの楽曲が流れるまで生成し続けるのもよいでしょう。
3.保存やダウンロードをする
気に入った楽曲があれば保存しておきます。ダウンロードすれば、それをスマートフォンやパソコンで楽しんだり、SNS上で発表したりすることも可能です。
AI音楽技術の実例
AIを活用した楽曲制作やAIを含めた音楽技術は、進化・発展の一途をたどっています。ここでは、そうした技術の進化や発展が垣間見える実例を、AI音楽生成ツールとアーティストによるAI活用事例からみてみましょう。
市場で活躍するAI音楽生成ツール
AI音楽生成ツールで脚光を浴びているものの一つに「Suno AI」があります。AIのエンジニアだけではなく音楽家が開発に携わっている点も人気となっている理由でしょう。使用方法もとても簡単です。テキストプロンプトの入力で音楽を自動的に生成してくれます。ボーカル部分と非ボーカル部分とに分けて生成してくれる点も特徴的です。無料プランも用意されており、誰でも気軽に楽しめるツールといえます。
そのSuno AIを凌ぐといわれているのが「udio」です。元Googleの研究者が開発に携わっており、作曲レベルの高さが話題となっています。日本語のボーカルも生成できるので、日本人にとっても使い勝手のよいツールとなるでしょう。商用利用も許可されているため、多くの人にとって活用価値の高いツールといえます。
アーティストによるAI活用事例
音楽制作のすべてでAIを活用し、かつ制作した楽曲を商業的に発表している著名なアーティストはまだあまりいないでしょう。ただ、試験的に導入しているアーティストやプロデューサーはいます。
ポール・マッカートニー
例えば、ザ・ビートルズのメンバーのひとり、ポール・マッカートニーです。同じくメンバーだったジョン・レノンのボーカルをもとにAIを活用し新たな楽曲を完成させたと話題になりました。
デヴィッド・ゲッタ
EDMシーンの代表的プロデューサーであるデヴィッド・ゲッタも、AI生成の音声を活用し楽曲を作っています。あくまでも試験的な取り組みであり、実際にリリースされたわけではありません。しかし、積極的にAIとの関わりをもとうとしているとはいえるでしょう。今後も、こうしたアーティストによるAI活用事例は増えるとみられます。
AI音楽の将来性と課題
AIそのものの進化や発展は誰にも止められません。それが音楽業界にのみ波及しないことも考えづらいため、AI音楽の将来性が急速に広がっていくことに関しては疑う余地がないでしょう。一方で、AIで作る音楽に関しても課題があります。
オリジナリティがなくなってしまう
例えば、自身のオリジナリティの喪失です。AIは人間とは異なるタイプの音楽が生成できる可能性を秘めていますが、AIのみで独自性を生み出し続けるのは容易ではありません。
多くのアーティストが楽曲制作をAIに頼り始めれば、さらにその傾向は強まることが懸念されます。楽曲制作の効率化が図れる反面、産みの苦しみによって作り出される新しい音楽が減っていくとも考えられるでしょう。
人間が成長できない
同時に、アーティストの成長を阻害することも危惧されています。音楽に関する技術や知識の成長を求めないアーティストが増えれば多様性が失われ、むしろ時代に逆行しかねません。
創造性も欠如し、音楽業界が退化しかねないとの指摘もあります。こうした課題とどう向き合い、楽曲の制作にAIを組み込んでいくかがポイントとなるでしょう。
AI音楽の法的・倫理的問題で注意すること
AIで作った音楽では、法律的な問題や倫理的な問題に注意することが必要です。ここでは、どんなことに注意したら良いのか具体的に解説していきます。
著作権やクレジット
AIで作る音楽は、著作権やクレジットの観点でも注意が必要です。個人で楽しむぶんには問題ないものの、仮にAIで制作した音楽が著名なアーティストや楽曲に似通っており、それを商用的に利用した場合、問題が生じかねません。法的な責任は誰が負うのかの判断が難しいケースも出てくるでしょう。AIが作ったものだから問題はないと判断するのは適切ではなく、常に法的かつ倫理的に問題がないかを考えながら楽曲の制作にあたる必要があります。
倫理的な評価が下がる可能性
AI音楽は、法的な整備が追いついておらず倫理的にも評価が分かれる可能性が高い、まさに過渡期にある点を認識しておきましょう。もちろん、既存のアーティストの音声や歌詞、楽曲を使ったフェイク曲の作成は許されません。世に溢れている情報をインプットしたうえで楽曲が生成されているというAIの特性を理解したうえで楽しむことが大切です。
AIの音楽についてまとめ
AIの発展とともに、AIを活用した楽曲もどんどん生まれてきています。今後は、著名なアーティストが積極的にAIで音楽を作り発表するケースも出てくるでしょう。AIツールを活用すれば、誰でも簡単に音楽の作成ができます。楽曲制作の効率化も図れ、時間やコストを節約できる点は大きなメリットです。
一方で、オリジナリティの喪失や著作権の問題など課題も無視はできません。技術の進化や発展はさまざまな業務や創作活動を便利にする反面、常に法的・倫理的な課題を抱えていると理解しておく必要があるでしょう。そのうえで、AIを活用した音楽の作成を楽しむことが求められます。