日本語では人工知能と訳されるAIの技術は、日々進化し続けています。
膨大なデータを用いたAIの学習能力や、それにもとづく判断などは、すでに人間の域を超えているといってもよいでしょう。
そうしたAIは、防災にも活用され始めています。
AIを用いて災害予測や被害拡大の防止、それらに関連した教育を行うことが、AI防災の基本的な概念です。同時に、AIはあくまでも人間をサポートするためのものである点も押さえておきましょう。
本記事では、AIで行う防災について、具体的な役割や活用事例のほか、未来への展望や課題についても紹介します。
AI技術が防災において果たす役割
AI技術の活用範囲は多岐にわたります。
ここでは、AI技術が防災分野で担える代表的な役割を紹介しましょう。
災害の事前予測と状況解析
膨大なデータを収集・分析し、さまざまな状況の把握が可能なAIは、災害の事前予測の役割を担うと期待されています。
気象学的なデータや過去の震災のデータなどから、災害の発生時期や規模をある程度予測できるようになる可能性もあるでしょう。
大規模地震など、事前予測が難しい分野がある点は否定できません。
しかし、緊急地震速報などがすでに導入されているように、今後、精度が高まればAI技術が防災に果たす役割はさらに大きくなります。
また、災害発生時の状況の正確な把握・解析も、AI技術の重要な役割の一つです。
今後の事前予測につながるとともに、災害時の適切な判断や対応にも寄与するでしょう。
災害発生後の早期の支援と復旧
AIの活用により、災害そのものだけではなく、被災状況の事前予測も可能です。
災害の規模ごとの被災状況が推定できれば、支援が必要な箇所や程度も把握できます。
人員の配置や資材の支給などをスムーズに行え、早期の支援と復旧が実現できるでしょう。
災害の事前予測とあわせて行うことで、災害発生前に人員や資材を確保・整備しておくことも可能です。
支援が滞り復旧が遅れると、日本経済にも悪影響を及ぼしかねません。
AI技術が防災において十分な役割を果たせれば、ひいては日本経済へのダメージを最小限に抑える効果も期待できます。
二次災害の防止
地震が起きた際の火災や、津波の第二波・第三波、救助にあたる人への被害など、二次災害の防止にもAI技術は役立ちます。
AIの迅速な判断により即座に避難経路を示したり、二次災害に関する警告を発したりすることで、被害を最小限に抑えられるでしょう。
被災者はもちろん、救助にあたる人や自治体などの組織もAI技術の活用により、すぐさま適切な対応が取れるようになります。
大規模な地震が発生した際には、家屋の倒壊よりも火事や津波による被害が大きくなるケースも少なくありません。そうした間接的な被害の防止へとつながる点は、AI技術が防災において果たす重要な役割となりえます。
AIを活用した災害時の活用事例
AI技術は、防災分野においてすでに活用が始まっています。
ここでは、AIの具体的な活用事例を紹介しましょう。
防災にAIを活用した事例1.降水状況の可視化
株式会社ウェザーニューズでは、AI技術を用いて降水状況を可視化するプロジェクトを進めています。衛星やレーダーの画像を活用し、どのエリアでどの程度の雨が降っているのかを視覚的に、かつ詳細にわかるようにする取り組みです。
従来のおおよその天候予測とは異なり、局所的な降水状況が把握可能なため、降水予測と大雨時の避難誘導などに役立てられると期待されています。参照:ウェザーニューズ
防災にAIを活用した事例2.津波の予測と被害軽減対策
株式会社富士通研究所は、東京大学や東北大学の研究所、さらには川崎市と共同し、津波の予測や対策に関するプロジェクトを実行しています。
各エリアの地形にあわせた津波の規模や到達時刻などを計算により導き出すとともに、津波からの避難をサポートする取り組みです。
AIの活用によって、エリアごとの津波の予測と被害軽減対策が細かく設定される点が特徴といえるでしょう。参照:富士通株式会社
AIと防災教育の活用事例
AIを防災分野へと最大限に活用するには、教育の観点も無視はできません。
ここでは、AIを防災教育へと盛り込んだ取り組み事例をいくつか紹介します。
サイバー・フィジカル防災訓練
新潟県燕市では、複数の大学や民間企業などとともに「サイバー・フィジカル防災訓練」を実施しています。AIを活用した総力型の被災状況把握の訓練です。
被害状況の把握や被災箇所の特定をAIと人力処理により行い、意思決定の迅速化を目指しています。
防災訓練の一環として取り入れることで防災教育へとつながるとともに、正確な情報伝達や状況把握の必要性への認識を高める取り組みにもなるでしょう。参照:一般財団法人消防防災科学センター
VRを活用した防災教育システム
Microsoft社は、VRを活用した防災教育システムを開発しています。
これもAI技術を用いた防災教育の一環として活用できるでしょう。
実在する建物内を3Dデータ化し、その中で起こった災害を疑似体験できる仕組みです。
訓練時の精神状態も確認できるため、避難方法だけではなく、状況判断の難しさなども含めて体験・分析できるシステムとなっています。三重県でも防災教育の一環として、VRを導入済みです。
小学校で災害が起こった際に、子どもたちがどう対応したらよいのかを考えるきっかけとして活用されています。
AI防災技術の未来と課題
AIを活用した防災の技術やシステムは、AIの進化・発展とともに精度は高まり、活用範囲も広がっていくでしょう。
精度が高まれば、より多くの人が災害から命を守れる手段を手に入れることになります。
AI防災技術の未来は明るいことは確かです。
一方で、AIを防災へと活用することには課題もあります。
まず、AIにも限界があることを理解しなければいけません。
エラーを起こすリスクも否定はできず、どこまで信頼するのかの判断はとても困難です。
特に災害時は情報が錯綜し、しばしば訓練時とは異なる状況も生まれます。
最終的には人間自身の行動が命を守ることにもつながるため、この点を平常時から理解しておく必要があるでしょう。
また、精度をより高めるには膨大なデータが必要となる点も課題の一つです。
データ収集のために人為的に災害を起こすわけにはいかないため、AI防災技術の進化のスピードをコントロールするのは容易ではないといえます。
AI防災における倫理的・法的な考慮
AIを防災へと活用する際に注意したいのが、倫理的および法的な考慮です。
AIの活用により被害が拡大してしまった際の責任の所在は、大きな問題の一つとなるでしょう。
AIそのものの責任を問うのは現実的に困難です。
とはいえ、AI防災システムの開発者や運用者に責任を押し付けると、AI防災技術の発展を阻害しかねません。
また、公平性や透明性の問題もあります。
被害を最小限に抑える目的で、ある程度の被害を許容する判断をAIがした場合、倫理的に問題が生じると考えられるでしょう。
命の選択をAIに委ねると、やはり倫理的かつ法的に問題となりかねず、結果的に、積極的な運用が難しくなる恐れが生じます。
膨大なデータを収集・分析する必要があるため、プライバシーの問題も考慮しなければいけません。
AIで行う防災についてまとめ
AIの活用は、災害の予測や二次災害の防止、災害発生時の早期復旧など、防災におけるさまざまな点で役立ちます。
すでにAIによる防災システムの開発や研究なども進んでおり、今後はさらに加速していくでしょう。また、適切な災害対応や意識を高めることを目的として、AIを活用した防災教育なども取り入れられ始めています。
一方で、課題がある点も否定はできません。
AIがエラーを起こすリスクもあり、問題が生じた際の責任の所在も不明瞭といえます。
AIにより命の選択がなされてしまえば、倫理的な問題も生じるでしょう。
AI防災のシステム整備や意識の高まりは重要であるものの、同時に課題も克服しながら進めていく必要があります。
