生成AIの高度化に伴い、企業によるインフラ投資が加速しています。マイクロソフトの決算発表では、その規模が前年比で大幅に増え、AI開発に必要なデータセンターやスーパーコンピューターへの投資が明らかになりました。
AIは膨大な計算量を必要とするため、安定したインフラの維持が不可欠であり、企業は成長期待に応えながら、巨額投資を回収するという難しい経営判断を迫られています。そこで今回は、インフラ管理をAIで行う目的やAIを用いたインフラ管理の企業事例、注意点、AIによるインフラ管理を成功させる秘訣を詳しく解説します。
インフラ管理をAIで行うとは?
インフラ管理をAIで行うことで、企業のITシステムを支えるネットワークやサーバー、データベースなどの構成を把握し、常に監視することができます。専用のツールやサービスを活用し、手動での管理や外部企業への委託など、様々な方法で実施されます。
以下で、インフラ管理をAIで行う目的を具体的に解説します。
インフラ点検については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
障害対応
ITインフラ管理は、企業の命綱とも言えるネットワークやサーバーが突如停止してしまった際に、その障害が及ぼす範囲を迅速かつ正確に把握し、問題の原因となっている部分を特定するためのものです。例えば、電子商取引サイトのサーバーがダウンした場合、売上機会の損失だけでなく、顧客からの信頼低下やブランドイメージの悪化といった深刻な事態に発展する可能性があります。
また、障害発生後の対応だけでなく、日頃からシステムの監視やパフォーマンスの計測を行うことで、潜在的な問題を早期に発見し、障害発生のリスクを低減することを目指します。
快適性
ITインフラ管理は、システムの安定性と快適性を高めるための重要な活動です。例えば、やりとりするデータ量の増加による遅延や、サーバーリソースの不足による処理性能の低下といった問題をリアルタイムで可視化し、迅速に対応することで、ユーザーへの影響を最小限に抑えることができます。
コストの最適化
ITインフラ管理はコスト最適化の観点から、リソースの有効活用を目的とした活動です。ネットワーク帯域のように、契約リソースに対して実際の利用量が低い場合は、リサイズすることでコスト削減が期待できます。
この一連の業務は、キャパシティプランニングと呼ばれ、ITインフラの最適化において重要な役割を果たすでしょう。
AIを用いたインフラ管理の企業事例
AIを活用したインフラ管理は各地で実証実験を経て、本格的な導入が始まっています。以下では、具体的な企業事例をご紹介します。
道路設備のAI管理
広島県北広島町は、NTTビジネスソリューションズ株式会社および日本電信電話株式会社アクセスサービスシステム研究所と共同で、道路設備のAI管理に関する実証実験を実施しました。実験では、簡易カメラを搭載した車両を用いて町道を走行し、沿道画像を大量に取得しました。
取得した画像データを深層学習に基づく画像認識AIで解析することで、標識やガードレールの錆を自動検出するシステムを構築しました。その結果、標識とガードレールの錆の検出精度97.5%という高い精度を実現したのです。
本実験で開発したAIによる画像認識技術を導入することで、点検業務以外の日常的な車両運行中に画像データを収集し、AIによるインフラ点検を継続的に実施することが可能となります。これにより、従来の人的な目視による点検に比べて、大幅なコスト削減や点検頻度を向上させることで、より早期の劣化検知と適切な保全が可能となり、インフラの延命化に貢献することが期待されます。
小規模橋梁管理
石川県七尾市では、株式会社日本海コンサルタントと共同で、AIを活用した橋梁点検システムの実証実験が行われました。この取り組みは、国土交通省からその革新性と実用性が認められ、第4回インフラメンテナンス大賞の「優秀賞」を受賞しました。
この実証実験では、過去の橋梁点検データを学習したAIが、橋梁の画像を解析し、健全度や劣化の原因を自動的に診断して橋梁の健康状態を詳細に把握できるのです。実運用を開始した結果、AIによる診断結果は驚異的な精度を示しました。
健全度の判定では92.9%、劣化要因の特定では96.4%という高い正答率を達成し、熟練の技術者による診断と同等か、それ以上の精度を実現したのです。
道路の舗装管理
札幌市は道路の維持管理を効率化するため、最先端のAI技術を活用した新たな管理システムを導入しました。スマートフォンに搭載された加速度センサーが車両の振動を感知し、路面の凹凸を精密に測定します。
従来の徒歩による目視点検では時間がかかり、人手不足も課題となっていましたが、新システムでは、高性能カメラで撮影された路面画像をAIが解析することで、ひび割れやわだち掘れの程度を自動的に評価します。
これらにより、従来の点検作業で必要だった人的資源と時間を大幅に削減し、迅速かつ正確な道路点検を実現しているのです。
インフラ管理をAIで行う際の注意点
AIを活用したインフラ管理は、そのメリットから注目を集めていますが、いくつかの注意点が存在します。以下では、インフラ管理をAIで行う際の注意点を解説します。
現場の意見を重要視する
インフラ管理の現場では、日々、管理者たちが設備の状態を把握し、作業を行っています。この現場経験から得られる設備の特性や管理作業のノウハウは、まさにAI技術導入の礎となる貴重な資産です。
そのため、AIを効果的に導入するためには、技術的な側面だけでなく、現場の業務フローやプロセスに合わせた導入が不可欠です。現場の管理者たちの声に耳を傾け、彼らのニーズに合った機能やシステムを導入することが、成功の鍵と言えるでしょう。
AI導入のメリットを伝えるだけでなく、現場の意見を尊重することも重要です。管理者たちは、日々の業務の中で多くの課題や改善点を見出しています。彼らの意見を聞き、AIがどのように彼らの仕事をサポートできるのかを具体的に説明することで、信頼関係を築き、スムーズな導入を推進することができるでしょう。
AIの精度は100%ではない
AIは、インフラ管理の効率化と精度向上に貢献する強力なツールとなりつつあります。しかし、AIはあくまでも補助的な役割であり、人間の判断を代替できるものではありません。
特に、新たな種類の異常や複雑な要因が絡み合った問題に対しては、熟練技術者の経験と判断が不可欠です。AIと人間の協働によるインフラ管理は、作業効率を上げるだけでなく、インフラの安全性と信頼性を高める上で、より重要な役割を果たしていくでしょう。
AIは学習するデータの質と量に左右される
AIは与えられたデータから学習し、判断を下すため、AIの性能は学習に用いるデータの質と量に大きく左右されます。例えば、インフラの亀裂を検出するAIの場合、様々な大きさや形状の亀裂の画像を大量に学習させることで、より正確な検出が可能になります。
しかし、ある特定の種類の亀裂の画像ばかり学習させてしまうと、他の種類の亀裂を見つけることができなくなってしまいます。現在、インフラ管理の現場では、AIに学習させるためのデータを効率的に収集・整理する方法やAIの学習結果を実際の管理業務にどのように活用するかといった点が課題となっています。
AIによるインフラ管理を成功させる秘訣
AIによるインフラ管理を成功させる秘訣には、以下のポイントに注意しましょう。
- 課題と目的を明確化する
- 事前準備と体制構築を行う
- AIと人間の役割分担を明確にする
- AI人材を配置する
それぞれを具体的に解説します。
AI導入の落とし穴については、以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
課題と目的を明確化する
AIを導入する前に、まず自社で解決したい課題を具体的に洗い出すことが重要です。課題を明確にすることで、目的が定まり以下のようなことが明確化されます。
- どのAIが自社に適しているのかを判断できる
- 期待できる効果を具体的にイメージできる
また、AIを活用してどのような効果を期待するのかを具体的に定めることも重要です。定量的な目標を設定することで、導入効果を測りやすくなり、関係者間の認識を統一できるメリットもあります。
事前準備と体制構築を行う
AIを効果的に活用するためには、綿密な準備が不可欠です。特に、自社が保有するデータの整備は、AIの学習精度を左右する重要な要素となります。
AIに学習させるためには、まず、自社で蓄積されたデータを整理・統合し、修正する必要があります。このプロセスを通じて、AIが正確に学習できる高品質なデータセットを作成するのです。
また、先述したように現場の業務知識を持つ従業員を巻き込むことで、より実践的なAI管理を検討することができるでしょう。現場の意見を積極的に取り入れながら、AIが管理をどのように支援できるのかを具体的に検討していくことが重要です。
AIの導入や運用には、専門的な知識とスキルが求められます。そのため、社内にAI専門チームを設置し、AIの導入から運用、効果検証までを一貫して行える体制を構築することが望ましいです。専門チームが中心となれば、AIに関する技術的な課題解決や、社内全体のAIリテラシー向上を図れるでしょう。
AIと人間の役割分担を明確にする
AIを導入する際には、AIに得意な大量データ処理やパターン認識といった作業を任せ、人間は臨機応変な対応が必要な業務などに集中することで、それぞれの強みを最大限に活かすことができます。
一方で、AI導入によって仕事がなくなるのではないかと不安に感じる社員もいるかもしれません。AIは人間の仕事を奪うのではなく、より付加価値の高い仕事に集中できるようサポートするツールであることを、具体的な事例を交えて説明することが重要です。
例えば、「これまで手作業で行っていたデータ分析をAIが自動で行うことで、得られた結果をもとに、より戦略的な企画立案に時間をかけられるようになる」といったように、社員一人ひとりの仕事がどのように変化し、どのようなメリットがあるのかを具体的に示すことで、理解と協力を得やすくなるでしょう。
AI時代に求められる人材については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
AI人材を配置する
AIによるインフラ管理の成功には、AI人材の配置が不可欠です。AIを導入するだけでなく、運用や改善を担う専門的な人材が求められます。
AI人材はインフラに関する深い知識と、AI技術の専門性を両立させている必要があります。インフラデータを分析し、AIモデルを構築・評価することで、より精度の高い予測や異常検知を実現できるでしょう。また、AIの導入初期においては、既存のインフラシステムとの連携や、業務フローへの組み込みなど、多岐にわたる課題に対応する必要があります。
AI人材の役割は、システムの運用に留まりません。常に最新のAIの動向を把握し、インフラ管理の課題解決に繋がる新たなAIモデルの開発や既存モデルの改善、AIシステムの性能評価、その結果に基づいた改善策の提案も重要になります。
AI人材を配置することで、企業はAIによるインフラ管理を最大限に活用し、より効率的で信頼性の高いインフラ運用を実現することができるでしょう。AI人材を育成するには、以下のようなセミナーがおすすめです。
企業向けDX・AI人材育成サービス
CROSS TECHが提供する「企業向けDX・AI人材育成サービス」は、企業が抱えるDX・AIに関する課題を解決し、AI人材育成を効率的に進めるための総合的なソリューションです。企業向けDX・AI人材育成サービスには以下のような特徴があります。
特徴 | 詳細 |
オーダーメイド型 | 企業が抱えている課題、目指す目標など異なる状況に合わせて、最適なカリキュラムを設計します。 |
日常の業務と並行可能 | 短期的なプランから中長期的なプランで企業の業務にあわせてカリキュラムを構築できます。 |
経験豊富な講師 | 10年以上のコンサルティング経験を持つ製造業・建築業にも強いコンサルタントが 、カリキュラム作成及び講師を担当しております。 |
企業向けDX・AI人材育成サービスは、Eラーニングにも対応しているため、時間や場所を気にせずAI人材育成を行うこともできます。
インフラ管理にはAIと技術者の連携が重要
今回は、インフラ管理をAIで行う目的やAIを用いたインフラ管理の企業事例、注意点、AIによるインフラ管理を成功させる秘訣を詳しく解説しました。インフラ管理の現場では、老朽化の進展や担い手の不足など、さまざまな課題が山積しています。こうした状況下で、AI技術への期待は高まっています。
とはいえ、AIはまだまだ発展途上であり、学習データの質や量などの解決すべき課題も残されています。そのため、インフラ管理においては、AIが得意とする画像認識などの作業と、人間が持つ経験や判断力といった強みを組み合わせることが重要です。
AIと技術者が協力することで、より効率的で精度の高いインフラ管理を実現できるでしょう。
