AIを活用したインフラ点検とは?事例やメリット・デメリットをご紹介

現在、全国の様々な企業でAIを活用したインフラ設備点検の試みが進んでいます。JR西日本では車両の屋根にカメラを乗せて信号機や架線を撮影し、撮影画像をAIに読み込ませることで設備の故障を検出する点検作業を行っています。

人手不足が深刻な中、AIを活用したインフラ点検作業を取り入れて補修の効率化を図っているのです。こうしたインフラの修繕に向けて、2024年2月にJR西日本をはじめ、NTTコミュニケーションズ・三菱UFJ銀行などを加えた6社が共同事業「JCLaaS(ジェイクラース)」を立ち上げたと発表されました。

JCLaaSではインフラの老朽化が進んだ自治体に対し、デジタル技術を活用した施設の点検や修繕や更新に必要な資金の調達を支援するといった取り組みを行うようです。今回は、AIを活用したインフラ点検の仕組み・事例やメリット・デメリットなどを解説します。

AIを活用したインフラ点検とは?

AIを活用したインフラ点検とは?

AIインフラ点検は、AI技術を用いてインフラ設備の点検を行うことです。インフラ業界は人々の生活を支えるために本来の機能を維持しながら設備の安全を守る社会にとってなくてはならない存在であり、一般的に以下の4つの分野に分かれています。

それぞれさらに細分化された分野が存在し、エネルギーインフラの場合はガスや電気・水道などがあります。

  • エネルギーインフラ
  • 生活インフラ
  • 空間インフラ
  • 運搬物流・交通インフラ

しかし、開発後に経年劣化したインフラ設備は、部品の損傷や故障・異常などの様々なトラブルを引き起こす可能性があります。早めに部品の損傷や故障・異常を発見し、様々なトラブルを未然に防ぐことで、重大な事故防止につながります。

インフラは生活に密着しているものが多いため、些細な損傷や故障を見落としたことが人命にかかわる事故に発展する恐れもあるのです。従来、インフラ業界では人間が点検を行っていましたが、労働力不足や技術者の高齢化・資金不足など様々な問題が生じています。

このような問題を解決するために、AIによるインフラ点検が注目されています。AIを活用したインフラ点検は人間による点検に比べ、安全性や精度が高いだけではなく、効率的かつ短時間で点検することが可能です。

AIを活用したインフラ点検の仕組み

AIを活用したインフラ点検は、以下のような仕組みで構成されています。

  1. 【データ収集】点検対象のインフラ設備から様々なデータを収集する
  2. 【データ前処理】収集済みのデータをAIが学習できるようにノイズ除去など様々な処理を行う
  3. 【深層学習】処理された大量のデータを用いてAIに学習させる
  4. 【インフラ点検】学習済みのAIを用いて損傷・異常箇所の検出や分析などインフラ設備の点検を行う
  5. 【点検結果の分析】AIが点検した結果を分析し損傷・異常箇所に対する適切な対策を行う

AIを活用したインフラ点検の事例

AIを活用したインフラ点検は現在様々な分野で導入されています。以下では代表的なAI活用によるインフラ点検の事例をご紹介します。

送電線

送電線の点検は、人間が鉄塔に登って点検する必要があるため危険が伴い、地上から撮影するのも非常に困難な作業でした。広範囲にある送電線を人間の目視で点検するため、見落としや誤検出のミスが発生しやすい傾向でした。

また、点検作業には多くの時間や人員が必要なため、コストが高くなる上に作業員にも大きな負担がかかります。AIロボットやドローンなどを点検作業に活用することで、送電線の状態を定期的に監視することができ、安全かつ容易に点検が可能です。

水道

水道管の点検は、点検作業を行う人間がヘッドフォンをつけて水道管から聞こえる音から漏水を判断しています。しかし、水道管の工事をする度に別の水道管から漏水が起こるため、いたちごっこが続いていました。

常に人手不足な状態だったため、AIに水道管を敷いた時期・場所・過去に漏水した情報など様々なデータを学習させ、効率的に点検する方法を導入しました。

道路

管理網の道路をくまなく点検する作業は、自治体にとって時間やコストがかかります。簡易的な補修や除草などの維持管理点検の際に、道路の異常箇所を人間の目視で点検しており、老朽化が進む管理網の道路を網羅できない傾向にありました。

そのため、車両にカメラを搭載して道路状況を撮影した画像をAIが自動解析し、ひび割れなどの道路の異常を検出するシステムを導入しました。従来の点検方法より大幅にコストを抑えることができ、点検精度の向上や作業の省略化が可能です。

架線

架線のインフラ点検は、深夜の電車が走っていない時間帯に、トラックを改良した高所作業車を線路内に入れて行っていました。しかし、貨物列車が通る度に作業を中断する必要があり、効率的な作業が困難でした。

そのため、試験車両の屋根にカメラを装着し、架線の状態を撮影した画像をAIで解析し損傷を判断するシステムを導入しました。効率的に損傷部分を発見することができるため、メンテナンスの担当者が修繕を行うことができ、業務効率や検査頻度も向上させることが可能です。

AIを活用したインフラ点検のメリット

AIを活用したインフラ点検のメリット

従来の点検では人間の目視や超音波検査・赤外線カメラなどを活用し、インフラ設備の状態を点検していました。以下でAIをインフラ点検に活用するとどのようなメリットがあるのか詳しく解説します。

検査の作業時間を半減する

AIは画像やデータから自動的に損傷箇所を検出し、分析することができます。従来行っていた人間による点検は、時間と労力がかかる上、人間の集中力が持続せず、誤判定や見落としも発生しやすい傾向にありました。

しかし、AIによる点検作業は24時間365日天候に左右されず自動で行うことができ、人手と時間を削減することが可能です。また、インフラ設備が広範囲になると点検に時間がかかっていましたが、AIを活用することにより短時間かつ効率的な点検が可能になりました。

点検精度が大幅に向上する

AIは人間の目視や赤外線カメラなどで見落としがちな細かい損傷箇所などを検出することが可能です。人間による目視は経験や勘に頼ることが多く、細かい損傷箇所などの発見が困難な傾向にありますが、AIの導入で初期段階の異常や誤判断のリスクを防ぐことができます。

AIは赤外線カメラの画像から画像認識技術や機械学習技術などのデータを用いて、より高精度なデータ検出に基づいた判断ができるため、従来の点検の精度に比べ点検精度を向上させることが可能です。

人の安全性を確保できる

AIは危険な場所や高所・悪天候・夜間などでも点検作業を行うことができます。従来のインフラ点検では高圧電線や風力発電機など人間が危険な場所に入り、高所作業や夜間作業を行うことがあり、事故や健康被害のリスクが懸念されていました。

しかし、AIを活用したインフラ点検では遠隔操作で点検ができるため、人間が危険な場所に入る必要がなくなり作業員の安全性を大幅に向上させることが可能になりました。また、AIは事故や健康被害のリスクを心配する必要がなく、夜間や悪天候でも点検作業ができます。

データの分析や長期の蓄積ができる

従来の点検作業では紙ベースでの記録が多かったため、点検のデータ分析やデータの長期的な保管が困難でした。しかし、AIは点検結果をデジタルデータとして蓄積できる上に分析もでき、データに基づいた最適なメンテナンスの提案もできます。

また、点検データを長期的に管理できるため、インフラ設備の状態や変化を長期的に把握することが可能になりました。

様々なコストを削減できる

AIによるインフラ点検は従来の点検と比較し、様々なコストを削減することが可能です。AIの導入によりインフラ点検を自動化することが可能なため、点検作業に要する人手を大幅に削減でき、人件費はもちろん、人材育成へのコストも削減されます。

また、AIはインフラ設備の損害や停止時間・事故発生にかかる保険料の削減ができ、予防保全によるインフラ設備の寿命を延長できるため、維持管理コストの削減にもつながります。AI導入によるコスト削減効果は、インフラ設備の種類や規模・導入方法により異なるため、費用対効果をしっかり検討した上で導入することが大切です。

AIを活用したインフラ点検のデメリット

AIによるインフラ点検は多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。下記ではインフラ点検のデメリットを詳しく解説します。

初期投資のコストがかかる

AIをインフラ点検に導入するには、様々なコストがかかります。導入規模や複雑性により異なりますが、ハードウェアやソフトウェア・AIシステム開発など数百万円から数億円規模になる可能性も考えられます。

また、AIシステムの知識を持った人材育成などにもコストがかかるでしょう。中小企業などにとっては、初期投資のコストが大きくなる場合があります。

AIの精度向上には様々なデータ量が必要になる

AIをインフラ点検に活用するには、インフラ整備の種類や状態など様々なデータを学習させる必要があります。多くのデータを集めるには時間とコストがかかる上、AIの精度や質を向上させるには、より多くの質の高い学習データが重要です。

万が一、AIに十分なデータ量が確保できない場合は、点検の精度が低下する可能性も考えられるでしょう。

技術的な専門知識を持つ人材確保が必要になる

AIの技術は日々進化しているため、常に最新技術を導入していく必要も考えられます。複雑なインフラ点検の場合は、AIモデルの精度向上・セキュリティ対策・データ管理体制の構築など様々なインフラ設備に対応できる汎用性の高いシステム開発が重要になるでしょう。

その場合は技術的な専門知識を持つ人材が不足している場合、導入や運用が難しい場合があります。

AIによるインフラ点検で点検の効率を向上させよう!

今回は、AIを活用したインフラ点検の仕組み・事例やメリット・デメリットなどを解説しました。AIによる点検は従来人間が行っていた目視や非破壊検査に代わる革新的な技術です。

AI技術をインフラ点検に活用することで、点検の効率化や精度・安全性の向上・データの蓄積など様々なメリットが期待できるでしょう。今回ご紹介したAIによるインフラ点検以外にも様々な点検が存在し、今後もさらなる手法が増えていくと考えられます。

AIのインフラ点検は、日本の生活や安全性を支える技術としてますます注目されていくでしょう。

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