企業が新たな技術開発を進める上で、自社の技術が世界中の特許とどのように関連しているのかを把握することは、研究開発の方向性を定める上で非常に重要です。従来、この作業は膨大な時間と労力を要していましたが、シンガポールのスタートアップ企業「パットスナップ」が開発したAIを活用した検索ツールによって、世界中の特許情報を迅速かつ網羅的に検索できるようになったようです。
近年、進化しているAIシステムを開発する企業にとって、特許取得は避けて通れない重要な課題です。特許を取得することで、自社技術の独占的な権利を確保し、競合他社との差を広げることができます。
しかし、日本の企業においては、AI特許の取得が必ずしも進んでいないのが現状です。今回は、AI特許取得に必要な条件やメリット、認めてもらうためのポイント、注意点をご紹介します。
AI特許とは
AI特許は、AI技術に関する特許の総称ですが、大きく分けて以下の2つの種類に分類できます。
AIについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
AI特許の種類 | 内容 |
AI技術そのものに関する特許 | 学習処理やニューラルネットワークなど、AIがデータを学習し、知識を獲得するプロセスに関する特許 |
AIを応用したシステムに関する特許 | AI技術を医療、金融、製造など、特定の分野の課題解決に適用したシステムに関する特許 |
AIを応用したシステムは、具体的な問題を解決し、新たなビジネスモデルを生み出す可能性を秘めています。例えば、医療分野ではAIによる画像診断システムが、医師の診断を補助し、医療の質向上に貢献することが期待されています。
そのため、ビジネスにおいては、AI技術そのものに関する特許も重要ですが、より高いビジネス価値を生み出すのは、AIを応用したシステムに関する特許であると考えられるのです。
AI特許取得に必要な条件
一般的に、AI特許を取得するためには、発明が以下の4つの要件をすべて満たしている必要があります。
要件 | 内容 |
新規性 | 単なるアイデアではなく発明であること |
進歩性 | 世の中に存在しない、全く新しい発明であること |
明確性 | 発明の内容が誰でも理解できるよう、明確かつ詳細に記載されていること |
実施可能性 | 発明が技術的に実現可能であること |
上記の要件のうち、一つでも満たさなければ、特許として認められません。また、AI発明の特許出願は技術的な専門知識だけでなく、特許法に関する深い理解も必要となります。
実務経験に基づいた判断が求められるため、弁理士への相談が強く推奨されます。
AI特許出願のメリット
AIの特許出願は、企業間で積極的な姿勢と消極的な姿勢に分かれるのが現状です。以下では、AI特許を出願することのメリットをご紹介します。
資金調達が有利に運ぶ
AI特許の出願は、資金調達において強力な武器となります。特に、創業間もないスタートアップ企業にとっては、AI特許を取得することで、自社の技術力の高さを証明する強力な手段となるでしょう。
AI特許を持つことで、自社の技術が独創的で、競合他社との差別化が図れることをアピールすることができます。そのため、投資家からの信頼を獲得し、資金調達の成功確率を高めることが期待できるのです。
競合他社の参入をブロックできる
AI特許権を取得することで、自社のAI技術を法的に保護することができます。そのため、競合他社が同様の技術を用いた製品やサービスを開発・販売することを妨げ、自社製品の市場独占を図ることが可能になります。
結果として、自社技術の優位性を長期間にわたって維持し、市場競争力を強化することができるでしょう。
競合他社を牽制できる
AI特許の取得が難しい場合であっても、特許出願を行うことには、競合他社に対する抑止力となるという重要なメリットがあります。特許出願中の技術は、一般的に「秘密保持」として扱われます。
そのため、競合他社は技術の詳細を把握することが難しくなるのです。また、特許出願自体が、技術に対して強い知的財産権意識を持っていることを示すサインとなります。
競合他社は、当該技術を利用することにより、特許侵害のリスクを負う可能性があると考え、技術開発を躊躇する可能性が高まるのです。
AI特許として認めてもらうためのポイント
AI特許として認めてもらうには、いくつかのポイントがあります。以下で詳しくご紹介します。
独自の学習方法である
画像からの物体検出をはじめとする画像認識技術は、AI分野において非常に活発な研究開発が行われている領域であり、先行技術文献も数多く存在します。そのため、新規な発明を特許として認められることが難しい分野と言えるでしょう。
しかし、独自の学習方法を導入することで、特許取得の可能性を高めることができます。
重要なデータに重み付けを行い、学習効率を向上させる
複数のニューラルネットワークを組み合わせ、より高精度な認識を実現する手法は、従来の学習方法とは異なる新規性があります。技術的な進歩性が認められれば、特許として保護される可能性があるのです。
適用分野に限定されている
特定のAI技術分野における入力データと出力データの相関関係や学習方法は、当該分野の技術的背景と密接に結びついています。そのため、技術的背景との関連性が深いほど、特許における新規性や進歩性が認められやすくなります。
AI特許出願の注意点
AI特許出願には、以下のような注意点があります。
- 出願するAI特許の有効性を確保する
- OSSが使われていると特許が取れない可能性がある
- 学習用データは特許では守れない
それぞれの注意点について具体的に解説します。
出願するAI特許の有効性を確保する
AI特許の出願で最も重要なことは、特許の有効性を確保することです。特許が無効と判断されてしまうと、せっかく取得した権利を行使できなくなり、多大な損失につながる可能性があります。
特許の出願や権利化の過程では、先述したAI特許取得に必要な条件を満たしているか厳密に審査されるでしょう。特に、新規性と進歩性については、AI分野において注意が必要です。
AIのアルゴリズムは日々進化しており、多くの先行技術が存在します。そのため、自社のAI技術が既存の技術と比べてどこが新しく、どこが優れているのかを明確に示す必要があります。
OSSが使われていると特許が取れない可能性がある
OSS(Open Source Software)とは、オープンソースソフトウェアの略称で、ソースコードが公開されているソフトウェアのことを指します。AIを搭載した製品やサービスにおいて、特許を取得したとしても、その中にOSSが含まれている場合、特許権の利用が制限される可能性があります。
これは、OSSのライセンス規約の「コピーレフト型」ライセンスの条項によって、技術の利用や再配布に関する制限が課されるためです。コピーレフト型ライセンスは、ソフトウェアの著作権を保持しつつ、改変して再配布する際に、元のソフトウェアのライセンス条件を継承することを義務付けるタイプのライセンスです。
そのため、コピーレフト型のOSSを利用して開発した製品やサービスも、原則として同じライセンス条件で公開しなければならないのです。このような状況を避けるためには、AI製品に組み込むOSSのライセンス規約を事前にしっかりと確認することが不可欠です。
OSSのライセンスは多種多様のため、それぞれのライセンスに異なる条項が定められています。特に、コピーレフト型ライセンスは、内容を十分に理解し、自社の製品開発に与える影響を慎重に検討する必要があります。
学習用データは特許では守れない
AIの性能は、学習に用いるデータの質に大きく左右されます。しかし、この学習用データ自体は、発明ではないとみなされるため特許で保護することが困難です。
特許は、新しい技術や発明を保護するための制度ですが、データは既存の事実や情報を集めたものであり、新規性や独創性が認められにくいとされています。そのため、学習用データに高い価値がある場合、特許は出願せず、営業秘密として扱うことをおすすめします。
営業秘密として管理することで、競合他社への情報漏洩を防ぎ、自社の競争優位性を維持することができるでしょう。
AI特許の出願前にAIの基礎知識を深めよう
ここまで、AI特許の出願における専門的な知識や注意点について解説してきました。特許出願は技術的な深堀りだけでなく、法的な知識も必要とする高度な作業です。
特許出願の前に、まずはAIの基礎知識を深めることをおすすめします。 AIの技術は日々進化しており、最新のトレンドや技術動向を把握しておくことは、特許戦略を立てる上でも非常に重要です。
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AI導入・活用のコンサルティングについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
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AI特許出願で企業の知的財産を保護しよう!
今回は、AI特許取得に必要な条件や進め方、審査基準、活用方法、成功事例をご紹介しました。特許出願の前に、AIに関する基礎知識をしっかりと身につけることは不可欠です。
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