小売業界におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は、ますます重要性を増しています。あらゆるツールのデジタル化が進んだり、オンラインショッピングが普及する中で、小売業者は新たな課題に直面していることも事実です。
一方DXを推進することで、小売業者は多くのメリットを享受できる可能性もあります。本記事では小売業界におけるDXの現状と課題、そして小売DXがもたらすメリットについて詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
小売業界においてDXはどれくらい進んでいる?
小売業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の進捗は企業によって異なりますが「比較的進んでいる」といっていいでしょう。
たとえば2020年には新型コロナウイルスの影響により、オンラインショッピングが急速に普及しました。その背景から日本国内のEC市場規模は前年比21.7%増の12兆2,333億円となり、EC化率は8%、増加率は2兆1818億円となっています。
今現在も小売業界はDXによる変革を積極的に継続しており、その進捗が上記のように数字にも表れていると言えます。
小売業界はなぜDXが求められる?
小売業界にDXが求められる理由は、購入手段やユーザーニーズの多様化が進んでいるからです。
たとえば近年インターネットの普及とスマートフォンの利用増加により、消費者はオンラインショッピングやモバイルアプリを通じて、いつでもどこでも商品を購入できるようになりました。また消費者のニーズも多様化しており、個々のライフスタイルや価値観に合わせたパーソナライズドなサービスが求められています。
この変化に対応するためには、従来の店舗運営だけではなくデジタル技術を活用して顧客体験を向上させることが不可欠というわけです。例えばオンラインとオフラインの融合(オムニチャネル戦略・OtoO)やAIを活用した個別化された商品提案、ビッグデータ解析による消費者行動の把握などが挙げられます。
なお小売業界に限らず、いまや中小企業こそ積極的なDXが必要とされています。理由やメリットは以下で詳しくご紹介していますので、気になる方はご一読ください。
小売業界が抱える現状のDX課題
小売業界が抱える現状の小売DX課題として、以下のようなものが挙げられます。
- レガシーシステムによりデータ取得が困難
- 新システム導入のハードルが高い
- DX人材の不足で教育体制が整っていない
この章では、上記それぞれ順を追って解説していきます。
DX課題①レガシーシステムによりデータ取得が困難
小売業界におけるDX推進の一つの大きな課題は、レガシーシステムの存在によりデータ取得が困難であることです。
多くの小売企業は長年にわたって使用してきた既存のシステムに依存しているのが現状だからです。これらのシステムは言わずもがな、新しいデジタル技術との統合は難しい傾向にあります。
レガシーシステムはデータのサイロ化を引き起こし、異なる部門間でのデータ共有が困難にしてしまうことから、消費者行動や販売パターンに関する統合的なデータ分析ができず、適切なマーケティングや在庫管理が難しくなります。さらに保守・運用コストも高く、新しいシステムへの移行が遅れる原因にもなります。
レガシーシステムはリアルタイムのデータ分析や、パーソナライズされた顧客体験の提供が遅れ、競争力の低下を招くリスクがあるので、大きな課題として挙げられています。
DX課題②新システム導入のハードルが高い
前述のレガシーシステムの課題と共通することでもありますが、新システム導入のハードルが高くなっていることも課題の一つです。新しいデジタルシステムは導入のための初期投資が大きく、予算の確保が難しいためです。
とくに中小企業にとっては、資金調達が一層困難になります。また新システムの導入には、既存の業務プロセスを見直し社員のトレーニングやシステムの試運転を行うための時間とリソースも必要です。
加えて導入後のシステム運用や保守にもコストがかかり、これを管理するための専門知識やスキルを持った人材の確保も課題といえるでしょう。とくに既存のレガシーシステムと新システムの統合や、データ移行の複雑さは技術的な障壁を伴うことも多いです。
新システムの選定やベンダーとの契約においても、適切な選択をしないと期待する効果を得られないリスクもあるので、段階的な導入戦略と、全社的な協力と支援体制の構築が不可欠といえます。
DX課題③DX人材の不足で教育体制が整っていない
小売業界におけるDX推進のもっとも大きく重要な課題の一つに、DX人材の不足とそれに伴う教育体制の未整備もります。小売DXを効果的に進めるには高度なデジタル技術やデータ分析の知識を持った専門人材が不可欠ですが、多くの小売企業ではこうしたスキルを持つ人材が不足し、社内の教育体制が十分に整っていないのが現状です。
以下はパーソル総合研究所が発表した「労働市場の未来推計」というデータから抜粋した人材不足の人数予測ですが、小売業界は他の業界と比較しても著しく不足人数が多い状況です。
需要 | 供給 | 不足 | |
電力・ガス | 62万人 | 55万人 | 7万人 |
運輸・郵送 | 392万人 | 732万人 | 21万人 |
教育 | 203万人 | 176万人 | 28万人 |
通信・サービス | 206万人 | 175万人 | 31万人 |
製造 | 810万人 | 771万人 | 38万人 |
小売 | 1129万人 | 1070万人 | 60万人 |
参考:パーソル総合研究所
小売DX人材の不足はデジタル技術の導入や活用を妨げるだけでなく、既存の社員に新しい技術やプロセスを習得させるためのトレーニングの実施さえも困難にします。そして専門的な知識を持つ外部の講師やコンサルタントを雇うにもコストがかかるため、社員のスキルアップが遅れたり小売DX進行が停滞するリスクがあります。
急速な技術進化に対応するには継続的な学習とスキルアップが必要なのにもかかわらず、そのための環境やリソースが整っていない企業がとても多い状況です。
なお上記で紹介した課題の他にも、DXにはさまざまな課題が残されています。興味のある方は以下の記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
小売業のDX導入方法
小売業のDX導入方法には、以下のようなものがあります。
- アプリケーションの導入
- AI技術を用いた売上予測
- 問い合わせ対応の自動化
それぞれ見ていきましょう。
導入方法①アプリケーションの導入
ECサイトや販売プラットフォームのアプリケーション版をリリースします。
現在主流のスマホユーザー向けにクーポンの配布やメルマガなどでお得な情報を発信できれば、ユーザビリティの向上にもつながるうえ、ユーザーの購入意欲を向上させることにもつながるでしょう。
導入方法②AI技術を用いた売上予測
AIを活用することで、大量の販売データや顧客データを分析し、正確な売上予測を行うことができます。これにより、在庫管理の効率化や過剰在庫の削減、欠品の防止に役立ちます。
在庫管理の質の向上や無駄なコストを削減といった観点で重宝すること間違いありません。
導入方法③問い合わせ対応の自動化
問い合わせにチャットボットやAIを活用した自動応答システムを導入することで、ユーザーからの問い合わせに迅速かつ正確に対応できるようになり、サービスの向上と業務効率化に大きく貢献するでしょう。
従業員の負担を軽減し、より高度な顧客対応や問題解決にリソースを集中させられることから、いまやほとんどの小売企業で当たり前のように導入されています。
DX推進を狙うならAI研究所
小売DX推進を狙うのであれば、AI研究所が運営する「DX完全攻略ハンズオンセミナー」がおすすめです。数あるDXセミナーの中でも、本講座はハンズオン形式でスキルを学ぶことができるため、課題をこなしながら現場で役立つ知識やノウハウが着実に身につきます。
短期集中の1日講座となっており、料金も35,200円からとリーズナブル。コツコツと継続した学習が苦手な方はもちろん、年齢やタイミング的に学習に時間をかけられない方にもおすすめです。
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小売業界がDXを導入するメリット
小売業界がDXを導入するメリットとして、以下のようなものがあります。
- 人材不足に対応できる
- 売上アップにつながる
- データによって分析と改善が容易になる
- 業務自動化によって重要な任務に時間を割ける
- 人的ミスが減る
それぞれ見ていきましょう。
メリット①人材不足に対応できる
小売業界がDXを導入するメリットとして、人材不足への対応が可能になることが挙げられます。デジタル技術を活用することで業務の自動化や効率化が進み、少ない人員で多くの業務をこなすことができるからです。
たとえば在庫管理や発注業務を自動化することで、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになります。また、AIを活用したチャットボットやカスタマーサービスの自動化により、顧客対応の質を保ちながらも人手を削減できるでしょう。
小売業のDXは慢性的な人材不足の問題を緩和し、企業全体の生産性向上と顧客満足度の向上に寄与してくれます。
メリット②売上アップにつながる
小売業界におけるDXの導入は、売上アップにつながる大きなメリットがあります。デジタル技術を活用することで、顧客データの収集・分析が可能となり、顧客の購買行動や嗜好を把握したり、顧客の購買意欲を高める戦略を立てられるからです。
またオンラインとオフラインを統合したオムニチャネル戦略を展開することで、顧客がどのチャネルでも一貫した購買体験を享受できるようになります。たとえばオンラインでの商品検索や予約、店舗での受け取りや試着など、多様な購買方法を提供することで、顧客の利便性を向上させ、購買頻度を増加させることもできるでしょう。
メリット③データによって分析と改善が容易になる
小売業界におけるDXの導入により、データの収集と分析が容易になって業務の改善が迅速に行えるようになります。たとえばリアルタイムでの売上データ、顧客の購買履歴、在庫状況などを一元管理できるようになり、迅速かつ正確な判断ができるようになるといった具合です。
また予測分析を活用できれば将来の需要変動に柔軟に対応でき、最適な在庫管理や販促活動を実施することも可能になるでしょう。
メリット④業務自動化によって重要な任務に時間を割ける
小売業界におけるDXの導入は、業務自動化を通じて従業員が重要な任務に集中できる環境を提供してくれるでしょう。ルーティンワークや定型的な業務を自動化することで、たとえば在庫管理、発注処理、顧客対応などの時間を大幅に削減できます。
その結果、従業員はより付加価値の高い業務に時間を割くことができ、商品企画や顧客サービスの向上に専念できるようになることは大きなメリットになるでしょう。
メリット⑤人的ミスが減る
人的ミスが大幅に減少することも、小売業界のDXによって得られるメリットになります。システムやデジタルツールを活用することで、在庫管理や発注業務、データ入力などの反復的な業務が自動化されるため、手作業によるミスが防止されれるからです。
ミスが減るだけでなく、データの収集・分析がリアルタイムで行えるため、異常値や問題の検出を早め、迅速に対応することも可能になります。正確で一貫した業務運営が実現し、トラブルやミスによるコスト増加を防ぐことにつながるでしょう。
小売DXまとめ
現代では、小売業界におけるDXは急速に進展しています。2020年のコロナウイルスの影響も相まってEC市場も着実に拡大しており、それは数字にも顕著にあらわれています。
小売業の現状のDX課題としてはレガシーシステムによってデータ取得が困難になっていること、企業によっては新システム導入までのハードルが極めて高いことなどが挙げられます。またもっとも大きな問題と言えるのは、DX人材の不足でしょう。
とはいえ小売業界におけるDX導入は顧客エンゲージメントの向上、在庫管理の最適化、オムニチャネル戦略の実現、人材不足への対応、売上や分析力アップ、人的ミスの削減など、あらゆるメリットがあります。今後さらなる成長を遂げるためにも、小売業界はよりDXに積極的になっていく必要がありそうです。
