AIをはじめとするデジタル社会化が止まらないこの頃、「スマートシティ」という言葉を耳にする機会が以前にもまして増えてきました。しかし、スマートシティという言葉にいまいち馴染みがないという方は多いでしょう。
今回の記事ではスマートシティの基本概念から、実際の各自治体の取り組み事例、現状の課題などを解説します。
スマートシティはこれまで、構想やテストなどの導入の前段階でした。しかし、いよいよ近年では自動運転車、エネルギー効率向上、デジタルインフラの整備など、実装に向けての動きが活発化しているのが現状です。
未来の都市開発の可能性を理解するため、ぜひお読みのうえ、参考にしてください。
スマートシティとは?
一般的にスマートシティとは「先進テクノロジーを用いて、住民の暮らしをより快適にするための取り組み」のことを指します。ここでいう先進テクノロジーは多岐にわたりますが、主に「AI」や「IoT」などのことです。
たとえばスマートシティは、交通、エネルギー、環境などのデータをリアルタイムで解析し、持続可能なエネルギー利用や交通の最適化などで生活の利便性向上に貢献します。
スマートシティの目的は、主に「テクノロジーの活用によって、住民の生活品質を向上させつつ、環境への負荷を軽減する」ことです。
スマートシティが注目を集めている理由
近年でスマートシティが注目されているのは、以下のようなことが実現できると期待されているからです。
- 都心への人口集中、かつ地方の人口減少の食い止め
- 多様化する住民のライフスタイルや働き方への対応
- SDGs(持続可能な開発目標)
スマートシティの実現と発展で暮らしやすさが向上すれば、地方に住み続ける人が増加します。「住民が都市に順応するのではなく、都市が住民の多用な暮らしに順応する」ために、あらゆる取り組みや実験が行われています。
スマートシティによって実現できること
スマートシティが実現すれば、主に以下のようなことが実現できます。
- SDGsの達成に大きく貢献する
- 災害対策に役立つ
- 労働人口の減少への有効な対策になる
- 未来の世代にとって暮らしやすい都市が作れる
- 強固な防犯対策による高齢者へのケアの実現
それぞれ解説します。
SDGsの達成に大きく貢献する
SDGsの実現は、スマートシティでできることの代表例として挙げられます。SDGsとは、持続可能な社会をつくるため、2030年までに世界中で達成させる17つの目標のことです。
具体的には、災害対策の強化や交通渋滞に対する緩和がSDGsに大きく貢献すると期待されています。SDGsについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
災害対策に役立つ
スマートシティは、災害対策にも大きく貢献します。センサーやIoT技術を活用することで、地震や洪水などの自然災害の早期検知が可能になるためです。
早期察知が可能になることで、住民に対し迅速に避難情報などを提供できるので、被害を最小限に食い止めることができます。また、スマートシティによって遠隔医療やモバイル診療所などの健康管理が実現すれば、安全性の向上にも直結します。
労働人口の減少への有効な対策になる
スマートシティは、労働人口の減少に対処するための効果的な手段にもなります。具体的には次のような手段で、人口減少による労働力低下を補えるということです。
- 交通管理の効率化
- 無人運転自動車の浸透
- ロボットによる作業支援
- リモートワーク環境の整備
これについてはすでに導入している企業もあり、圧倒的な生産性の向上を実現しています。そして上記をあらゆる職種に適応させることで、労働者が徐々に減っていく中でも、変わらない生産性を維持できるでしょう。
未来の世代にとって暮らしやすい都市が作れる
スマートシティの実現は、未来の世代にとってより快適な生活環境が構築できる可能性があります。交通の効率化や公共サービスのスマート化によって、住民の生活の利便性が向上し、ストレスや時間の浪費が軽減されるためです。
また、環境モニタリングやエネルギー効率最適化によって都市インフラが整備されることで、空気や水の品質も向上します。結果としてスマートシティは、SDGsの達成にも大いに貢献することも利点です。
強固な防犯対策による高齢者へのケアの実現
スマートシティは高齢者へのケアも実現します。以下のようなことが可能になるからです。
- AIセンサーや監視カメラによる映像録画
- 顔認証や音声認識、行動分析
- 一人暮らしの高齢者の自宅へのドローン訪問
- インターネットを用いた遠隔見守り
AI搭載の防犯カメラなどによって、高い防犯対策と容易な犯人特定が実現できます。また、ドローンやインターネットを用いた生存確認によって、高齢者の孤独死問題の減少にも貢献します。
スマートシティ実現へ取り組む自治体5選
この章では、スマートシティ実現に前のめりで取り組んでいる自治体と、その具体例を以下のトピックで紹介します。
- スーパーシティ構想(宮城県仙台市)
- 浪江町復興スマートコミュニティ(福島県双葉郡浪江町)
- スマートローカル(長野県伊那市)
- 柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)
- FUKUOKA Smart EAST(福岡県福岡市)
スーパーシティ構想(宮城県仙台市)
仙台市は東北大学と「仙台市×東北大学スーパーシティ構想推進協議会」を設立し、スマートシティ実現のための実験を行っています。具体的な実験内容は、以下のとおりです。
- NTTとの連携によるXR技術やドローンを活用した実験
- IoTセンサーを活用したレール温度遠隔管理システムの実験
- 撮影した動画のAI検証で交通量などのデータを解析する実験
2023年3月、これらの活動が「デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)」に採択されるなど、注目を集めています。
浪江町復興スマートコミュニティ(福島県双葉郡浪江町)
福島県双葉郡浪江町では、復興とスマートシティ実現を目的とし、以下の3つに注力しています。
- 「非常時の安全・安心」
- 「再生可能エネルギーの導入」
- 「生活利便性の向上と新たな雇用の創出」
引用:浪江町公式サイト
具体的には太陽光発電や風力発電施設、エネファーム、EVの導入などが挙げられます。また、電気自動車を移動電源等として活用し、地域の活力と安心の向上につなげることも狙いのひとつです。
スマートローカル(長野県伊那市)
長野県の伊那市では、スマートシティの取り組みとして「ドローンで配送を行う買い物サービス」を導入しています。こちらはKDDIとの協業によって実現したサービスで、ケーブルテレビをリモコンで操作することで、食料や日用品を購入できるものです。
導入の背景にあるのは「地方の過疎化による高齢化社会の食い止め」と「生活インフラの確保」です。この他にも伊那市では、AI自動配車タクシーや移動診療車も導入されています。
柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)
千葉県柏市では「柏の葉スマートシティ」として、以下の3つのカテゴリーに注力しています。
- ライフサイエンス(医療およびヘルスケア)
- モビリティ(自動運転事業の発展)
- エネルギー(省エネの実現)
とくにモビリティ分野では、NTTドコモや柏ITS推進協議会、東京大学との連携により、自動運転やドローンの本格的な実証実験が行われています。
FUKUOKA Smart EAST(福岡県福岡市)
福岡県福岡市では「Fukuoka Smart East」と題し、未来に誇れるモデル都市を構築するための取り組みを行っています。主な取り組み内容は、以下のようなものです。
- 少子高齢化など、ものづくりのあらゆる課題の解決
- 持続的な発展を見越した、最先端技術の導入
- 快適で上質なライフスタイルと都市空間のの実現
こちらの活動は、九州大学箱崎キャンパスの移転後の跡地を再利用して行われています。ドローン活用や自動運転タクシーやバスの導入など、あらゆる活動や実験が活発に行われている現状です。
スマートシティの現状の課題
着々と実験、導入が進められているスマートシティですが、以下のような課題があることも事実です。
- 導入および維持にかかるコスト
- エラーやトラブルによる都市機能の停止
- 個人情報およびプライバシーへの配慮
それぞれ見ていきましょう。
導入および維持にかかるコスト
スマートシティ実現には、導入はもちろん維持にも膨大なコストがかかるものです。都市そのものの整備が必要だったり、大規模な実装になるほどコストは跳ね上がってしまいます。
最新技術や機器の導入には税金や公金の使用が必要になるため、やはり住民や関係者の理解・承認が必要不可欠です。目的意識と費用対効果をよく考慮し、導入に踏み切らなければなりません。
エラーやトラブルによる都市機能の停止
大規模なシステムエラーやトラブルが発生してしまった場合、主要な都市機能が停止してしまう可能性があることも、現状の課題として挙げられます。たとえるなら、オール電化の家が停電してしまったとき何もできなくなってしまうといった具合です。
主要な都市機能が動かなくなってしまうことにより、住民にとって死活問題となってしまうこともあるでしょう。そのため、サーバーを分散して管理したり、そもそもスマートシティに頼りすぎない体制にしていくなどの対策が必要です。
個人情報およびプライバシーへの配慮
個人情報やプライバシーへの配慮も、スマートシティの課題のひとつです。
スマートシティは多種多様な住民の生活スタイルに合わせ、街そのものがITの力で柔軟に変化していくもの。住民の個人情報は必ず必要になるので「どのようにしてあらゆるウイルスやサイバー攻撃から情報を守るか」も策定しなければなりません。
またスマートシティ実現には、住民の理解と協力を得ることが不可欠です。そのため「個人情報の開示に抵抗がある住民にどう理解してもらうか」も課題でしょう。
まとめ
本記事で紹介した自治体の他にも、さまざまな自治体がスマートシティの実現に向け、それぞれの強みを生かして導入を図っています。スマートシティが実現することで人口減少や高齢者ケア、SDGs実現などのメリットがたくさんあるからです。
実際にドローン配達や無人運転など、実証実験が活発に行われ、さらには導入に踏み切っているケースも少しづつ増えています。「ITを全面的に活用した未来都市」が実現する未来は、そう遠くないかもしれません。