DXは、さまざまな分野において注目されている取り組みですが、製造業においても導入する企業が着々と増えています。昨今の顧客ニーズの変化やトレンドの急速化に対応するためには、生産ラインにおいてもDXの推進が急務となっています。
しかし、DXの基礎知識や製造業において必要とされる理由など、詳しく知らない方は少なくありません。
今回は、製造業DXが注目されている理由や進め方、企業での導入事例について解説します。
製造業DXとは
製造業DXとは、製造業においてこれまでの業務や作業の中にデジタル技術を適用し、業務効率化や品質向上を目指す取り組みのことをいいます。
個人の経験やカン・コツに頼った部分を極力データ化し、リードタイムの短縮や生産性を向上させることにより、顧客ニーズへの対応力を高めていくことが製造DXにおいて重要になります。
DXとは
DXとは、Digital Transformationの略で、これまでアナログベースで行っていた作業や手続きを、デジタル技術を活用してより良くすることです。
2018年12月に経済産業省が公表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」では、DXは次のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
製造業でDXが重視されている理由
さまざまな分野においてDXの必要性が議論されており導入が進んでいますが、製造業においても同様です。特に、製造業は、
- 新しい”働き手”として活用
- 生産効率を向上
- 設備メンテナンスコストを削減
- 新しい価値を開発
以上の4つの理由から、DXと密接なつながりがあると考えられています。
①新しい”働き手”として活用できるから
DXを導入することにより、これまで人が行っていた単純作業を自動化することができます。
これによってヒューマンエラーのリスクも回避でき、検査にかかる工数や生産性が向上します。
製造業においては、人材採用コストや教育コストの削減は課題となっており、こういった課題をデジタルの導入やデータ活用によって解決することができます。
結果的に、システムに任せられる仕事以外の、複雑な作業や成長戦略としてやるべき開発業務に注力することができるようになります。
②生産効率を向上できるから
製造業においては、DXを導入することで生産設備を自動化・半自動化することが一つの流れになっています。
これによって、「作業精度の向上」や「人的リソースの削減」などのメリットがあります。
さらに、生産データを蓄積することで、設計や開発に情報をフィードバックしやすくなったり、生産効率向上のために活用したりすることができます。
③設備メンテナンスコストを削減できるから
生産設備の稼働状況や部品の細かな情報をセンシングしデータを蓄積させることにより、細かな異常もすぐにシステム全体と連携して対応できるようになります。さらに、メンテナンス計画も立てやすくなるため、異常が発生するたびに発生する緊急停止の回数やダウンタイムを減らすことができ、メンテナンスに関わる品質向上や工数削減に役立てられます。
④新しい価値を開発できるから
顧客のニーズが多様化する昨今、製造業は同じものを大量に生産し続けるだけで利益が出るという構図は成り立たなくなりました。
そういった戦略を取ることにより、徐々に技術がコモディティ化し、薄利多売の生産競争は人件費の安い中国や東南アジア諸国に対して競争力がなくなっていってしまいます。
したがって、現在の製造業において必要なのは、新たな価値を想像するための開発やビジネスモデル構築といえます。
DXを実現して単純作業を自動化・無人化し、生産効率が上がれば、こういった開発行為にリソースを充てられるようになり、競合に対して競争力を高めることができます。
製造業DXにおける課題
製造業DXを推進するにあたっては、さまざまな課題があります。
ここからは、経産省の「製造業を巡る動向と今後の課題」をもとに、製造業のDXにおける主な課題について解説します。
人材不足
世界中で少子高齢化によって人口減少が深刻化しています。
この状況は、製造業においても同様です。
さらに、製造現場においては一部のベテランによる属人業務が細部に残っており、そのような技術を次の世代に継承するにしても、若手の人手不足ではそれが進行しません。
そのため、人材不足が企業の技術力低下の原因となってしまうことになります。
IT投資
日本の多くの製造業では、「既に存在する資源をいかにうまく活用して利益を生み出す」といったIT投資の考え方が根付いています。しかし、リソースやニーズが多様化する昨今では、「変化する環境へ新しい資源をうまく取り入れつつ対応する」という考えが重要だとされています。
したがって、製造業がDX推進を行う際には、行動指針が決められるDX推進の初期段階で「既存のシステムの使い方を見直すべき」という論調が強くなってしまう可能性があります。
製造業DXの方向性
製造業が抱える課題として、人手不足やIT投資の遅れは常態化しつつあります。
そこで何も対応できなければ、競争の激化している昨今の経営戦略において、他社に遅れを取る可能性が高まってしまいます。
現代において必要なことは、環境の変化に対応して迅速に変革を起こせる能力だといえます。
そういった企業活動に関して、DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速に向けた研究会の「DXレポート2」では、現代において企業が取り組むべきアクションとして、次の内容が挙げられています。
業務環境のオンライン化
新型コロナウィルスの感染拡大防止が進められる中、移動や会議などでの不特定多数との接触は避けるべきです。システムの老朽化やITリテラシー不足によってオンライン化やリモートワークの対応が遅れてしまうと、最悪の場合は感染が拡大し、業務が滞るリスクが高まります。
すでに一般的となったオンライン会議システムやチャットなどを利用した社内外でのコミニュケーションツールの活用は、企業の競争力を維持する重要な手段です。
業務プロセスのデジタル化
これまで紙ベースで行っていた書面のやり取りをペーパーレス化することにより、情報の参照を効率化できたり、テンプレートや自動ツールを活用した作業時間の短縮ができたり、業務を効率化できます。また、クラウドとの連動により、いつでもどこでも必要な時に書類を入手することができ、出先でもスムーズに通常業務が続けられるようになります。
従業員の安全・健康管理のデジタル化
コロナ禍のようなリスクを抱える環境においては、社員の健康管理を徹底する必要があります。体温や接触履歴などのデータを蓄積しておくことによって、感染リスクを最小限に抑えたり、万が一感染者が出たとしても即座に次なる感染者の発生のリスクを抑えるための対策が打てたりします。
顧客接点のデジタル化
BtoCのビジネスにおいては、ECサイトにおける商品やサービスの購入・契約が一般的になりつつあります。感染防止のためには、店舗に行くことを避けてオンラインを活用するのは賢い選択肢だといえます。
しかし、インターネットを活用して商品やサービスを比較しやすくもなっているため、他の企業に負けないような商品力や対応力が企業にとって必須となっています。
また、さまざまな問い合わせのために設けるコールセンターの代用として、チャットボットを活用する企業も増えています。チャットボットを活用することで、単純作業の自動化ができ、対応件数を増やせるため、顧客満足度を向上させることができます。
製造業DXの進め方
ここからは、具体的に製造業でDXを推進するにあたり、どのような手順を踏むべきなのかについて解説していきます。
1.現場の課題を把握する
製造業DXを進めるために、まずは現状を把握する必要があります。
DXを推進することを目的とすることを防ぐため、解決すべき問題に対して常に目的意識を持っておく必要があり、それを明確化しておきます。
なお、この初動の時点で経営層や関連部門に情報共有やヒアリングを行い、活動自体を認知・理解してもらうことも大切です。
DXは活動自体がブラックボックス化しやすく、しかも新しいシステムの導入には少なからず負荷がかかります。負担をかけてしまうかもしれない関係者には、計画や目的を理解しながら進めていくと良いでしょう。
2.人材を確保する・データを収集する
次に、ITに詳しい人材を確保します。
ITに詳しい人材とは、単にプログラミングスキルが優れているだけでなく、顧客や関係者が求めているものを明文化したり、システムに落とし込んでいくためのビジネススキルを兼ね備え、システムの中身も理解のできたりする人材のことをいいます。社内でそのような人材を確保できない場合は、外注するかコンサルティングサービスを活用して教育をする方法もあります。
人材を確保したら、データの活用目的や課題に合わせて適切なデータ収集を行います。
製造業においては、データを収集するためのセンシング手段や、データを活用したアクションを行う制御設計などもぼんやりと見据えておく必要があります。
3.業務を効率化する
ある程度データを収集できてきたら、そのデータを活用してどのような業務効率化ができるのか考えてきます。このとき、小さな事柄から始めることがポイントです。
たとえば、生産技術部門の指示で生産ラインの設備をすべて入れ替えてしまうと、作業担当者が設備の使用方法やクセを理解できておらず、かえって効率が悪くなることがあります。また、新しい装置の操作方法に慣れるまでは、作業担当者に負荷をかけてしまうことになります。
こういったことがないように、まずは既存のシステムに対して、一部のみ追加や修正を行った新システムを導入し、その結果を見てさらに更新をかけるか、別の方法を検討するか考える必要があります。
4.顧客を育成する
製造業において、商品やサービスの販売に関わる企業などのことを「サプライチェーン」と呼びます。DXの推進においては、サプライチェーン全体にこの取り組みに関して理解してもらう必要があります。
DXによる新たな価値の創造は、顧客ニーズの変化に対することが目的の一つとなっており、この目的が達成できればサプライチェーン全体に利益をもたらします。そういった関連性があるため、顧客に対してDXの計画や目的・進捗についても把握しておいてもらうとスムーズです。
製造業DXの事例
DXは国内の製造業においても着々と導入が進んでおり、変革をもたらしています。
最後に、国内の企業でのDXの取り組みについて事例を紹介します。
株式会社LIXIL:新規サービス開発に貢献
株式会社LIXILは、国内最大手の建材・設備機器メーカーです。
同社は、音声を活用した玄関のドア開閉システムを開発・サービス提供しました。
音声による操作は、非接触であるため感染のリスクを抑えることができ、鍵を忘れた場合にも解錠ができるなど、ユーザーにとってのメリットが大きいです。この取り組みは、世界初であり、メディアの注目を浴びています。
株式会社クボタ:故障診断フローによる属人化回避
株式会社クボタは、建機・農機などの設計・開発を行うグローバルメーカーです。
同社は、3Dモデル・AR機能を活用した故障診断ができる革新的なサービスを2020年12月に開始しました。
これによって、メンテナンスの担当者の経験によらず、均一なサービスを提供できるようになったり、繁忙期でメンテナンス員が出払っているときでも、近くの営業所から応援でメンテナンス作業者を派遣することができ、顧客への対応を早めることができたりしています。
ダイキン工業株式会社:工場IoTプラットフォーム
ダイキン工業株式会社は、世界最大クラスの空調機器メーカーです。
同社は、デジタルファクトリーと呼ばれる施設を設立し、そこにさまざまな拠点の製造現場のデータを集約しました。
集約したデータを分析し、生産効率を効率化したり、各工場の得意な工程や稼働状況を確認できるようになったりしました。そういった取り組みにより、需要が急増して生産が間に合わなくなりそうな場合にも別の工場に応援を頼めるようになるなど、拠点ごとの連携を強化し、顧客への対応力を向上させました。
まとめ
製造業DXは、対応が遅れてしまうと他社との差別化が困難になるため、推進が急務となっています。具体的な進め方や製造業における課題など、詳しいことを理解して進めることで、より効果的なDX推進を目指しましょう。