経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」。
この言葉は、今DXを進めなければ、2025年以降、最大で年間12兆円もの経済損失が日本全体に及ぶ可能性があるという深刻な問題を示唆しています。つまり、DXはもはや先送りできない、企業の存続を左右する喫緊の課題なのです。
そこで本記事では、DXの成功事例を業界別に34社ご紹介します。さらに、中小企業や海外での成功事例も取り上げ、それぞれの戦略や取り組みを徹底分析しました。「本気でDXに取り組みたい」とお考えの経営者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
DXとは?
DXとは、データとデジタル技術を使って、ビジネスモデルや働き方を根底から変革する全社的な取り組みです。
業務効率化や新技術の導入に留まらず、企業が抱える課題解決や顧客の潜在ニーズに応え、「今までになかった良いこと」を創出することを目指します。
なぜDXが注目されるのか
なぜ今、DXがこれほど注目されているのでしょうか。その背景には、大きく分けて3つの流れがあります。
①ビジネスを取り巻く環境が大きく変化
スマートフォンやパソコンが普及し、インターネットが社会インフラとなった現代において、顧客との接点や競争の場はデジタル空間へと移行しました。
この変化に対応し、デジタル技術を駆使して新たな価値を生み出す企業が、市場で優位性を確立しています。デジタル技術を基盤とする新興企業が台頭し、既存の勢力図を塗り替える動きが加速する中、企業の生き残り戦略としてDX化に注目が集まっています。
②既存ITシステムの老朽化問題
経済産業省も指摘するように、長年にわたり改修を重ねてきたシステムは複雑化し、担当者が不在となるなどブラックボックス化しているケースも少なくありません。
このようなレガシーシステムは、保守・運用コストの増大を招き、2025年以降に国内で巨額の経済損失が生じる可能性も指摘されるなど、DX化の推進に拍車をかける一因となっています。
③労働人口の減少
少子高齢化の影響で、深刻な人手不足が進んでいます。これにより、人手を増やして成長を目指す従来の「労働集約型」のビジネスモデルには限界が見えはじめてきました。
今後も経済成長を維持していくには、一人当たりの生産性を高めることが欠かせません。その手段として、デジタル技術の活用による業務の効率化、付加価値の高いサービスの創出を支えるDXに注目が集まっています。
DXの誤解
DXのよくある誤解として、「アナログなものをデジタルにする=DX」という考えがあります。しかし、それはDXのプロセスにおける一つの手段(デジタル化)に過ぎません。DXの定義は広範であるため、正しく理解していない企業の担当者が多いのも事実です。
例えば、「御社で進めるDXの内容は?」という質問に対して、「書類を全部スキャンしてデジタル化しています」と回答した場合、それだけでは不十分といえるでしょう。
つまり、この回答はDXの一つの手法を実践しているだけで、DXの本質的な取り組みである「ビジネスの在り方そのものの変革」を実現していないのです。
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業界別のDX成功事例
ここでは、経済産業庁が選定した「DX銘柄 2025」(日本の産業界におけるDXの模範的企業)の31社を取り上げ、その成功事例を業種ごとに区分し表形式でお伝えします。
なお、DX銘柄の業種区分は、「東証業種分類」を基準にしています。
- 陸運業・海運業
- 情報・通信業
- 建設業・不動産業
- 食料品・繊維製品
- 化学・医薬品
- 石油/石炭製品・ゴム製品・ガラス/土石製品
- 鉄鋼・機械
- 電気機器
- 輸送用機器
- 小売業・サービス業・その他製品
- 倉庫・運輸関連業・卸売り
- 銀行業・その他金融業
①陸運業・海運業
陸運業では、佐川急便で有名なSGホールディングス、「曳船DXプロジェクト」で人材不足解消を目指す日本郵船がDX銘柄に選出されました。
SGホールディングスは、今回2社選出されたDX銘柄グランプリ企業のひとつであり、DX成功事例の最たる企業といえるでしょう。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
SGホールディングス |
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日本郵船 |
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参照:SGホールディングス、日本郵船
②情報・通信業
情報通信業から選ばれたDX銘柄は、大手電気通信事業社・ソフトバンク株式会社、「au」ブランドで知られるKDDI株式会社の2社でした。
ソフトバンク株式会社はDXグランプリ企業の一つであり、DX銘柄の中でも特にチェックしおきたい成功事例です。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
ソフトバンク株式会社 |
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KDDI株式会社 |
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参照:ソフトバンク株式会社、日本経済新聞「KDDI株式会社」
③建設業・不動産
建設業・不動産業から選ばれたDX銘柄は、スーパーゼネコン5社のひとつ・大成建設株式会社、総合不動産デベロッパーとして名高い三菱地所株式会社でした。
では、これら大手2社のDX成功事例を見ていきましょう。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
大成建設株式会社 |
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三菱地所株式会社 |
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④食料品・繊維製品
食料品・繊維製品のDX銘柄 2025に選ばれたのは、「味の素」で知られる味の素株式会社、インナーウェアで有名な株式会社ワコールホールディングスの各1社でした。
これらの企業は、長年の実績とブランド力を基盤に、独自のDXを推進した成功事例の一つです。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
味の素株式会社 |
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株式会社ワコールホールディングス |
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⑤化学・医薬品
化学分野では、大手総合化学メーカーであり、多角的な事業展開を行う旭化成株式会社と富士フイルムホールディングスの2社がDX銘柄に選出されています。医薬品分野からは、老舗の製薬会社である第一三共株式会社が選ばれました。
これらの実績ある企業も、それぞれの分野でDXを推進し、着実に成功事例を生み出しています。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
旭化成株式会社 |
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富士フィルムホールディング |
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第一三共株式会社 |
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参照:旭化成株式会社、富士フィルムホールディング、第一三共株式会社
⑥石油/石炭製品・ゴム製品・ガラス/土石製品
続いて、石油やゴム、ガラスなど、地球由来の資源を加工する産業では、コスモエネルギーホールディングス株式会社、株式会社ブリヂストン、AGC株式会社の3社がDX銘柄に選出されています。
これらは、各々の事業領域で顕著なDX成功事例を創出している企業ばかりです。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント(目標) |
コスモエネルギーホールディングス株式会社 |
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株式会社ブリヂストン |
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AGC株式会社 |
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参照:コスモエネルギーホールディングス株式会社、株式会社ブリヂストン、AGC株式会社
⑦鉄鋼・機械
鉄鋼・機械でのDX銘柄は、JFE商事傘下のJFEホールディング株式会社、ダイキン工業株式会社、三菱重工株式会社の3企業です。これらの企業は、それぞれの分野でデジタル技術を積極的に導入したDX成功事例です。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント(予定) |
JFEホールディング株式会社 |
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ダイキン工業株式会社 |
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三菱重工株式会社 |
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参照:JFEホールディング株式会社、ダイキン工業株式会社、三菱重工株式会社
⑧電気機器
電気機器のDX銘柄は、三菱電機株式会社、日本電気株式会社(NEC)です。我が国を代表する大手電気メーカーでは、どのようなDX戦略で成功事例を収めているのでしょうか。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
三菱電機株式会社 |
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日本電気株式会社 |
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⑨輸送用機器
輸送用機器のDX成功事例では、DX銘柄に選ばれた株式会社デンソー、株式会社アイシンを紹介しましょう。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
株式会社デンソー |
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株式会社アイシン |
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⑩小売業・サービス業・その他製品
小売業のDX銘柄はアスクル株式会社、サービス業はH.Uグループホールディングス株式会社、その他製品では株式会社アシックスでした。それぞれの成功事例は以下の通りです。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
アスクル株式会社 |
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H.Uグループホールディングス株式会社 |
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株式会社アシックス |
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参照:プレスリリース「アスクル株式会社」、プレスリリース「H.Uグループホールディングス株式会社」、株式会社アシックス
観光産業でのDX成功事例は、サービス業と深く関連しています。小売り・サービス業のDX戦略をより深く理解したい企業の担当者の方は、ぜひ以下の記事をご一読ください。
⑪倉庫・運輸関連業・卸売り
倉庫・運輸関連業で選ばれたDX銘柄は三菱倉庫株式会社、卸売りでは双日株式会社、株式会社ミスミグループ本社が選出されました。これらの企業のDX成功事例はどのような内容なのでしょうか?
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
三菱倉庫株式会社 |
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双日株式会社 |
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株式会社ミスミグループ本社 |
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参照:三菱倉庫株式会社、双日株式会社、株式会社ミスミグループ本社
⑫銀行業・その他金融業
銀行業のDX銘柄は株式会社三井住友フィナンシャルグループ、株式会社ふくおかフィナンシャルグループの2社でした。その他金融業では、プレミアグループ株式会社、株式会社クレディセゾンです。
では、この4社のDX成功事例を見ていきましょう。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
株式会社三井住友フィナンシャルグループ |
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株式会社ふくおかフィナンシャルグループ |
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プレミアグループ株式会社 |
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株式会社クレディセゾン |
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参照:株式会社三井住友フィナンシャルグループ、株式会社ふくおかフィナンシャルグループ、プレミアグループ株式会社、株式会社クレディセゾン
中小企業のDX成功事例
先ほど紹介したDX銘柄には、日本の各業界を代表する大手企業が名を連ねていました。しかし、大企業のDX成功事例は、中小企業の私たちにはそのまま当てはまらないのではないか…そうお考えの担当者の方もいらっしゃるかもしれません。
そこでここでは、DX銘柄を主催する経済産業省が選出した中小企業のDX成功事例に焦点を当ててみました。
中小企業がどのような課題に直面し、それをどのように乗り越えて成功を掴んだのか、その戦略を徹底的に分析したのでぜひご一読ください。
企業名 | 主な課題点 | 主な対応策 | 主な成功ポイント |
西機電装株式会社 |
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株式会社みらい蔵 | 農業界が直面する様々な課題解決促進 | 顧客価値向上を主とした製品開発 | 農業従事者への価値提供 |
①53名で挑むDX!失敗からの脱却からDX成功への道のり
まずは、愛媛県新居浜市に本社を置く製造業企業・西機電装株式会社のDX成功事例を見てみましょう。
こちらの企業は53名の社員で、造船所や製鉄所、港湾などで使用される大型クレーンの電気室・制御盤の設計・製作を手掛ける同社は、顧客ごとにカスタマイズした製品を提供しています。そのため、製造過程で生じる設計変更の際、情報の抜け漏れや共有不足、手戻り作業が頻発するという課題を抱えていました。
この課題解決のために生産管理システムパッケージを導入しましたが、計画変更が日常茶飯事となる同社のビジネスモデルとは相性が悪く、結果は大失敗。投資した費用や時間への未練から、効果が見込めないシステム改修に投資し続ける「コンコルド効果」の状態に陥っていました。
DX成功へ向かったのは、サイボウズの「kintone」との出会いでした。同社はスモールスタートの戦略を採用し、まずは人事台帳など間接系のアプリから開発を始めました。社員の心理的抵抗を減らすため、弁当発注アプリなど身近で効果が実感しやすいものから導入。製造現場ではICカードやQRコードで簡単に操作できるIoTデバイスも自社開発し、物理的ハードルも下げました。
この地道な取り組みにより、社員から自発的な改善アイデアが次々と生まれる好循環を作り出し、現在では製番ごとの損益計算がリアルタイムで把握できるまでに進化。さらに、「地域で助け合う自己解決型DX」と掲げ、自社の成功体験を活かし、地元愛媛で中小企業向けのDXコンサルティング事業も展開しています。
②20名で実現する農業DX!「ソイルマン」開発と顧客本位の経営
続いて、農業資材小売業のDX成功事例として、大分県豊後大野市に本社を置く農業資材小売業・株式会社みらい蔵を見てみましょう。
こちらの企業は、従業員数20名、1997年創業という比較的新しい企業で、農業資材販売や米穀集荷、農産物検査、土壌分析などを手がけています。同社はITコーディネータ(ITC)による伴走型支援を受けながら、農業の現場が抱える問題、例えば高齢化による人手不足や、肥料などの価格高騰、自然災害の増加に対して、デジタル技術を使って解決しようとしました。
具体的な取り組みとして、「土づくり」に注目し、「ソイルマン」というシステムを開発しました。これは、土の分析結果に基づいて、どんな肥料をどれくらい使えば良いかを提案するものです。これによって、農家の方は経験や勘だけでなく、科学的なデータに基づいて土づくりができるようになりました。その後、さらに進化した「ソイルマンシステムⅡ」も開発しています。
みらい蔵のDX成功事例の特徴は、「農業者への奉仕と提案」という考え方を大切にし、単に業務を効率化するだけでなく、お客様である農家の方にとっての価値を高めることを中心に考えている点です。また、毎年、売上高の1%をIT化や人材育成に投資する計画を立て、経営方針を発表する場ではDXの進捗状況を共有するなど、常に改善を続けていく仕組みも構築しています。
参照:経済産業省「中堅・中小企業等におけるDX取組事例集」
海外のDX成功事例
国外ではどのようなDX成功事例があるのでしょうか?ここでは、デジタル先進国として知られる「デンマークの行政サービス」のDX成功事例をお伝えします。
ICT先進国として世界をリード!市民目線の行政デジタル化
デンマークは行政のデジタル化で世界をリードする国として知られています。
デンマーク政府ICT(IT+通信技術)管理課のカレン・エイェルスボ・ルベルセン氏は、約20年間この分野に携わってきました。カレン氏は、真新しいテクノロジーを追い求めるのではなく、既存システムの適切な活用と管理を重視する姿勢を重視しています。これは、まさに持続可能なDXの本質を突いた視点といえるでしょう。
デンマークの行政DX成功は徹底した「ユーザーファースト」の姿勢からも見て取れます。国民は一つの市民ポータルから全ての行政手続きにアクセスでき、多くはプッシュ型で自動化。開発には「参加型デザイン」を採用し、実際のユーザーを巻き込んだテストを繰り返すことで、真に使いやすいシステムを作り上げました。
この成功事例は一朝一夕ではなく、1968年からの個人番号導入や80年代の経済危機を契機とした政党を超えた合意形成など、長い歴史の積み重ねの上に成り立っています。また、国・地方自治体・銀行が連携して基盤を整備してきた点も特徴的です。
デンマークのDX成功事例が示すのは、テクノロジー自体よりも「市民の時間を大切にする」という価値観の重要性です。行政手続きの効率化は、特に「時間の貧困」に直面する女性たちをエンパワーメントする力を持っているのです。
参照:グラファー
DX成功事例に共通する要素
このように、多くの企業がDXを推進する中で、成功事例となった企業には共通する取り組みが見られます。以下では、業種や規模の異なる様々な企業のDX成功事例を分析し、そこからいくつか見られる共通の要素をリスト形式でお伝えしましょう。
- 明確な課題認識と目標設定
- ユーザー中心の視点
- スモールスタートと段階的な推進
- 現場の巻き込みと協力体制
- 継続的な改善サイクル
- 生成AI・ノーコードツールの活用
- 経営層の理解とコミットメント
- データドリブンな経営
- 内製化の推進
- 人材育成と組織改革
- パートナーシップや連携
これらの共通要素を参考に、ぜひ自社の状況に合わせてDXを推進していきましょう。
DX成功事例についてまとめ
DXの成功事例から感じられたのは、DXの成功には、明確な目標設定、ユーザー視点の重視、さらには生成AIやノーコードツールの戦略的な活用、人材育成など複合的な要素が必要であることです。
今後も、大手企業から中小企業、海外企業までその動向を注視しながら自社の変革に活かしていきましょう。
