建設DX!建設業における先端IT技術の応用

建設業界においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せています。
先端のIT技術を活用することで、建設プロセスの効率化や品質向上、持続可能性の追求など、さまざまな課題の解決が期待されています。本記事では、建設業界の歴史や現状、課題と先端IT技術の関係、業界の動向、そして建設DXの具体的な事例について探っていきます。

日本の建設業の歴史

日本の建設業の歴史

日本の建設業は、古代からの伝統と独自の技術を誇り、国土の整備や建築物の建設など、国家建設に重要な役割を果たしてきました。古くから伝わる木造建築や寺社建築、城郭などは、緻密な技術と美的感覚が融合した傑作として世界的にも評価されています。
また、地震や台風などの自然災害が多発する日本において、自然災害に対して高い耐久性を備え、長寿命な建築物を実現するため日本独自の建築工法や構造設計へと進化しました。

しかし、高度経済成長期に建設されたインフラや建築物には経年劣化などが見られるものも増え、その整備が必要な時期に差し掛かっています。また、近年の地震や風水害の影響から災害復旧などの影響で建設業界では労働需要が高まっています。
さらに、人口減少や高齢化に伴い、住宅やインフラの需要は変化しており、省力化や効率化が求められています。また、環境への配慮や持続可能な社会の実現への要請も高まり、エネルギー効率や再生可能エネルギーの導入など、環境に配慮した建設が求められています。

にも関わらず、建設業界は長時間労働や賃金の安さなどの諸問題も相まって人手不足が続いており、新たな課題に直面しています。

これらの課題に対応するために、建設業界では新たなアプローチや先端の技術を活用する取り組みが進められています。DXをはじめとするデジタル技術の導入や、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータなどの先端技術の応用が、建設業界の未来を変革する鍵となると目されています。

これにより、より効率的なプロセスや高品質な建築物の実現、持続可能な社会の構築の実現が期待されています。建設業界の伝統と革新が融合し、未来の建築業界が創造される可能性に期待が寄せられています。

建設業界の現状と課題

建設業界の現状と課題

現代の建設業界は、大規模で複雑なプロジェクトが増加しており、厳しい納期と予算の制約の中で作業が進められています。このような厳しい状況下で、建設業界が直面している課題には以下のような点が挙げられます。

人手不足

建設業界は高度な技術と専門知識を要する仕事が多く、技術者や熟練工の不足が深刻な問題となっています。少子化の影響も相まって、特に若手の技術者の確保が難しく、人手不足が生産性やプロジェクトの進行に影響を与えています。

長時間労働

建設プロジェクトの進行には多くの作業が必要であり、これに伴い建設労働者の長時間労働が頻繁に行われています。業務の性質上、深夜にしか進めることのできない工事なども多く、不規則かつ長時間の労働になりやすい環境が存在します。
長時間労働の継続は労働者の健康や安全に悪影響を及ぼす可能性があり、また生産性の低下にもつながりかねません

低賃金

一部の建設業界においては賃金水準が低く、厳しい労働環境や人手不足が労働者の動機付けを損ねる原因となっています。適正な報酬が与えられることで、技術者や熟練工の確保やモチベーション向上に寄与することが期待されます。

人材育成の不足

建設業界では、基礎控除や橋梁の設計など専門の技術者が担当する専門性の高い作業や佐官などの熟練工が独自に身につけた技能など、デジタル化および自動化がしづらい作業が多く、習得にも長い年月を要するものが多いのが実情です。
そのため技術継承が難しいという課題を抱えており、人材の育成が不足しています。
そのような属人的な技術を効率よく教える、若手の登竜門となる研修や教育プログラムの整備が求められています。

これらの課題を克服するため、業界では先端のデジタル技術の活用や自動化、ロボティクスの導入など、建設業界のDX化が進められています
さらに、労働環境の改善や適正な報酬の提供、人材育成への投資などが行われることで、建設業界の課題解決に向けた取り組みが進展することが期待されます。

建設とAI、IoTなどの先端IT技術の関わり

建設とAI、IoTなどの先端IT技術の関わり

建設業界は、AI、IoT、デジタルツインなどの先端IT技術との関わりが深まっています。
これらの技術は、建設プロセスの最適化や効率化、安全性の向上、コスト削減など、さまざまなメリットをもたらす可能性があります。

AIによる予測や最適化

AIによる、ビッグデータの分析や機械学習により、建設プロセスのさまざまな場面で予測や最適化を行うことができます。
例えば、AIによる予測は、工期の遅延やコストの超過を防ぐのに役立ちます。また、AIによる最適化は、人員や重機などの最適配置に寄与することができ、作業効率の向上や安全性の向上につながる可能性があります。

IoTによるリアルタイムな監視や分析

IoT技術を活用して、センサーや機器をネットワークに接続することで、リアルタイムにデータを収集・分析を行うことができます。
これらのデータは、建設プロセスの安全性の担保や品質の向上に役立てることができます。
例えば、IoTによるネットワーク化された監視装置の遠隔操作及び自動化は、作業員の安全を守り、設備の故障を未然に防ぐのに役立ちます。

デジタルツインによるシミュレーション

デジタルツインとは、建物やインフラをコンピューター上で精密に再現したデジタルモデルです。実世界で取得した情報を元に、仮想環境を構築して、その仮想世界の中で様々なシミュレーションを行います。

デジタルツインを使用することで、建設プロセスのさまざまな場面でシミュレーションを行うことができます。例えば、大規模工事を仮想世界でシミュレーションして、どのような問題点や事故が発生し得るのかを事前に考慮することで、工事の安全性や品質の向上、コスト削減などに役立ちます。

また、国も建設DXに関する取り組みをしています。
「i-Construction」は、国土交通省が推進する建設現場のデジタル化プロジェクトで、先端技術(3Dモデリング、IoT、ロボティクス、ビッグデータ・AI)を導入しています。
DXを促進し、建設業界の効率化と生産性向上を図る取り組みを行っています。
労働環境改善と持続可能な社会の実現も目指し、国土交通省は支援と指針提供を行い、デジタル技術の革新を加速させています。この取り組みは、日本の建設業界に革命をもたらすものと期待が高まっています。
参考:NTT

これらの先端IT技術は、建設業界の課題解決に大きく貢献できる可能性があります。
今後、これらの技術がさらに普及することで、建設業界はより効率的、安全、そして持続可能なものへと進化していくことが期待されます。

課題解決に向けた建設業界の動向とDX導入事例

建設業界では、先にあげたような課題を解決するため、DXを推進するための取り組みが進んでいます。建設業では施工管理をAIによって最適化したり、製図をAIに行わせたり、重機を自動運転にするなど、先端技術を活用できる場面が多々あります。
様々な企業や研究機関が開発プロジェクトを展開し、デジタル技術の活用や標準化の推進に取り組んでいます。また、建設業界とIT企業の連携や新たなスタートアップの登場も注目されています。

建設DXの具体的な事例

次に、建設DXの具体的な事例を紹介します。
大手企業、スタートアップ、そして各課題に対する解決方法の観点で紹介します。

大手企業の事例:清水建設

清水建設株式会社は、AR技術で施工管理を支援する「Shimz AR Eye」を開発しています。
このシステムは、携帯型タブレットの端末上で建物のBIMデータ(3D情報にさまざまな情報・属性をプラスして構築するモデルデータ)とリアルタイムのライブ映像を合成して見える化し、施工中の設備配管や建物躯体の施工管理を支援します。

清水建設
出典:清水建設

このシステムは、従来紙ベースで行っていた施工管理をデジタル化することで、以下のようなメリットをもたらします。

  • 施工ミスの削減
  • 施工効率の向上
  • 安全性の向上
  • コスト削減

清水建設株式会社は、このシステムを今後も改良・拡充し、建設業界のDXを推進していく予定です。なお、同社は経済産業省が定める「DX認定取得事業者」にも選定されています。

スタートアップの事例:株式会社クアンド

建設スタートアップ企業の株式会社クアンドが開発、提供しているサービスは、現場特化型ビデオ通話アプリ「SynQ Remote」です。
遠隔からプロフェッショナルな判断を可能にするこのアプリは、現場にいる建設作業員と遠隔にいる施工管理者や設計士などの専門職を繋ぐことで、現場の作業員が必要な時に施工管理者や設計士などの専門家に直接相談したり、逆に専門家側から現場の作業員に指示を出すことが可能になります。このサービスにより、作業員の安全性の向上や作業効率の向上が期待されます。

株式会社クアンド
出典:株式会社クアンド

また、株式会社クアンドは、ATMや窓口での取引履歴から不正な取引候補を自動でAIが抽出し不正取引を検出するシステムも開発しています。このシステムは、不正取引の早期発見と被害の拡大防止に役立ちます。

株式会社クアンドは、これらのシステムを通じて、建設業界と金融業界のDXを推進しています。

人員不足と長時間労働に対する解決策:清水建設・大成建設

先ほど紹介した清水建設は、人員不足の問題にも取り組み、自動化・省人化技術の導入を実現した企業です。同社は、人間とっては負荷の大きい作業を、ロボットで代替できないかと考え自律型ロボットを開発しました。
そして誕生したのが以下の3つです。

  • 資材搬送ロボット「Robo-Carrier」
  • 全自動溶接ロボット「Robo-Welder」
  • 仕上げロボット「Robo-Buddy」

Robo-Buddy
出典:清水建設

これらのロボットは、いずれも自律的に場所を移動し、対象物を認識した上で、自ら次の動作の計画を作成し実行する、現場での作業効率化を目的に、建設現場での作業者の負担軽減や作業時間の短縮につながったとされています。

また建設重機の自動運転技術の導入事例として、大成建設が挙げられます。
同社は、無人で作業を行う建設機械「T-iROBO」の開発に取り組んでおり、複数の自動運転建機の協調運転を制御するシステム「T-iCraft」を開発しました。

T-iCraft
出典:大成建設プレスリリース

このような、作業を自動化できるロボットや自動運転技術の応用によって、人員不足と作業の効率化を果たしています。

人材育成の不足に対する解決策:村田製作所

人材育成の不足に対するDX導入事例として、村田製作所が挙げられます。
同社は、センサとAIの融合によって、熟練した作業員が持つ高度な技を、より多くの若手作業者に効率よく継承するための方法を開発してきました。
具体的には、熟練作業員の動きをセンサーで検知し、映像に映る作業者の間接や骨格の動きから作業中の動きをモデル化し、熟練作業者の動きと比較してその動きの違いを可視化することで、重要なポイントを見える化します。これによって、若手の作業者に効率よく技術を継承することが可能になります。

村田製作所出典:村田製作所

これら以外にも、ドローンを使った人が侵入できない場所での検査技術など、多彩な技術導入が行われています。

建設DXの将来予測

AIやロボット技術の進化、デジタルツインの発展、データの活用やセンサーネットワークの普及などが進んでいる現状を鑑みると、今後も建設DXのさらなる進化が予想されます。
また、サステナビリティや環境に配慮した建設プロセスも重要なトレンドとなるでしょう。
建設業界はデジタル技術を活用し、持続可能な社会の実現に向けて進化していくことが期待されます。

まとめ

日本の建設業は伝統と技術に誇りを持ちながら、少子化や人口減少による人手不足、低賃金などの課題に直面しています。建設DXではAIやIoT、デジタルツインなどの先端技術を活用し、効率化や安全性の向上を図っています。
大手スーパーゼネコンから、中小企業、AIスタートアップ企業に至るまで、建設業界が抱える多くの課題を解決するために、先端IT技術を活用した様々なサービスが展開され、企業もDX導入に向けた取り組みを加速させています。
今後も環境への配慮や持続可能な社会への貢献が重要なトレンドとなり、この動きは加速していくことが予測されています。

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