半導体の需要は世界的に高まりを見せており、日本でも生産基盤の強化が急務となる一方で、深刻な人材不足が大きな課題として浮上しています。先日、米国の半導体大手マイクロン・テクノロジーは、日米の大学と連携し、半導体業界の高度な人材育成を目指すプログラムに、2000人以上の学生が参加したことを発表しました。
このプログラムは、同社が2023年に発足し、日本からは九州大学や広島大学、名古屋大学、東京科学大学、米国からはワシントン大学やバージニア工科大学などが参加しています。
マイクロンは、広島県に主力工場を持つなど、日本との関係が深い企業とされ、今回のプログラムは、日本の半導体産業の活性化にも大きく貢献することが期待されています。
今回は、半導体業界の人材が不足している理由や人材不足を克服するポイントを詳しく解説します。
半導体人材とは
半導体人材とはスマートフォンやPC、AIなど、あらゆる電子機器の心臓部ともいえる半導体を生み出すために欠かせない存在です。
半導体の開発や設計、製品化に至るまで、高度な技術力と専門知識が求められるため、製品一つ一つに情熱を注ぎ込み、最先端技術の最前線で活躍するエンジニアや研究者たちが日々、革新的な製品を生み出しています。
半導体業界は、高い技術力と専門知識が求められる分、その報酬も高く設定されていることが特徴です。年収は業界全体として比較的高水準であり、自身のスキルアップと同時に、やりがいと高い収入を両立したいという方にとって、魅力的なキャリアパスと言えるでしょう。
半導体エンジニアについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
半導体人材の職種
半導体人材は、大きく分けて以下の4つの職種で構成されています。
- 開発・設計
- 品質管理
- 営業
- 調達
それぞれ異なる役割を担っていますが、密接に連携することで、高品質な半導体製品を世に送り出すことができます。以下でそれぞれを詳しく見ていきましょう。
開発・設計
設計・研究開発は半導体技術の最前線で、新たな製品を生み出す非常にやりがいのある仕事です。例えば、半導体製品の設計では、製品化後の工程まで見据えながら、顧客のニーズに最適な材料を選択し、最新のトレンドを取り入れる必要があるため、常に新しい技術や市場動向に目を光らせ、最先端の知識を習得し続けることが求められます。
半導体メーカーの研究開発部門では、半導体に使用する材料の研究や製造装置の設計開発など、幅広い分野で活躍できます。研究室では、新しい技術を発見するための実験やシミュレーションを行い、設計部門では、研究成果を基に製品化に向けた設計を行います。半導体製造の基礎を支える重要な役割を担い、テクノロジーの進化を牽引するエキサイティングな仕事と言えるでしょう。
半導体設計については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
品質管理
半導体製品の品質を維持するためには、半導体や構成する材料、製造装置に至るまで、徹底的な品質管理と品質保証が重要です。品質管理は、製品が設計通りの品質を満たせるよう、製造工程や業務手順を管理し、常に最適な状態を保つための活動です。
一方、品質保証は、製造された製品が品質基準を満たしているかどうかを検証し、顧客からのクレームが発生した場合には迅速に対応するなど、製品の品質に対する責任を担います。
これらの職種では、半導体や製造装置に関するハードウェアの評価や、製造プロセスの検証といった技術的な業務だけでなく、製造フローの明確化や改善点の洗い出しなど、より広範な業務が求められます。具体的には、製造された半導体に不具合がないか厳密に検査し、製造装置が正常に動作し、顧客の要求仕様に合った製品を製造できるかを確認するなどの作業が挙げられます。
製造フローを明確にする目的は、もし製造工程で不具合が発生した場合に、迅速かつ的確な対策を講じることができるようにするためです。品質管理・品質保証の仕事は、製品の品質を維持するだけでなく、製造プロセス全体の効率化や改善にも繋がっています。
営業
半導体業界には、製造メーカーや販売商社など様々な企業が存在しますが、共通して営業職が重要な役割を担っています。半導体メーカーの営業職は、自社で開発・製造した半導体や関連製品を、半導体商社に販売することが主な仕事です。一方、半導体商社は、メーカーから仕入れた半導体を電子機器メーカーや産業機械メーカーといった企業へ販売します。
どちらの営業職も顧客のニーズを的確に捉え、最適な製品を提案することが求められます。また、商品を売るだけでなく、納品後のサポートやトラブル対応など、顧客満足度の向上にも力を入れる必要があります。
半導体は世界中で使用されているため、半導体メーカーの営業職の中には、海外の顧客を担当する人もいます。グローバルなビジネスに関わりたい方には、魅力的な仕事と言えるでしょう。
調達
調達とは半導体そのものの材料だけでなく、製造に必要な装置までの幅広い範囲を指します。顧客が求める半導体を実現するためには、ニーズに合致した高品質な資材が重要です。
時には、コストパフォーマンスに優れた低コストの資材を調達することも求められたり、国内だけでなく、海外から最適な資材を調達したりすることも珍しくありません。
そのため、半導体製造メーカーでは、材料や製造装置を調達する調達・購買という専門職が活躍しています。調達・購買担当者は、指定された材料や装置を正確に調達することはもちろん、顧客のニーズを的確に捉え、最適な資材を選定する能力が求められます。
半導体業界の人材が不足している理由
半導体業界が現在直面している人材不足は、単一の要因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って生じている深刻な問題です。以下で、半導体業界の人材が不足している理由をご紹介します。
きついイメージが強いため
半導体業界では、高度な技術を要する研究開発職や生産技術職だけでなく、製造現場のオペレーターも深刻な人材不足に直面しています。半導体製造のオペレーターの仕事は、大きく分けて半導体製造装置の操作、完成品の検査、製品の出荷作業に分けられます。
これらの業務は、特別な資格を必要とするものがほとんどないため、未経験者でも挑戦しやすい側面がありますが、「きつい」というイメージが先行しているため、求人に応募者が集まりにくいという現状があります。
このイメージの背景には、半導体製造の多くがクリーンルームで行われているという点が挙げられます。クリーンルームは、空気中の塵やホコリを徹底的に排除するために、室内の温度や湿度、気圧などが厳密に管理された環境のため、作業者は防塵服やマスクを着用するなど、服装に制限があり、動きにくさや息苦しさを感じる場合があるのです。
また、半導体工場は24時間稼働が一般的で、交代制勤務が求められることも、人材不足の一因となっています。立ち仕事が中心で長時間労働になることから、体力的な負担が大きいと感じる人もいるでしょう。
離職率が高いため
半導体業界において、人材の離職率の高さは深刻な問題となっており、製造業は新規の採用よりも離職する人が多く、人材不足に拍車をかけている状況です。
特に、半導体業界は高度な専門知識が必要となるため、一人前の技術者になるまでに長い時間がかかり、育成対象となる若手人材の不足は、業界全体の活性化を阻む大きな要因となっています。企業は、即戦力となる人材を求めながらも、育成に時間とコストがかかる若手人材の確保にも頭を悩ませています。
人材育成が追いつかないため
1980年代、日本の半導体産業は隆盛を極め、世界シェアの半分近くを占めていましたが、日米半導体協定を契機に、品質問題や業界構造の問題が表面化し、国際競争力が低下しました。
生き残りをかけた企業は、事業再編やリストラ、新規採用の抑制といった厳しい選択を迫られた結果、多くの優秀なエンジニアが業界を離れ、新規に人材を育成する体制が整わず、人材の断絶が生じてしまいました。
半導体製造には、高度な専門知識と技術が重要です。電気・電子工学や半導体工学などの専門分野の深い理解はもちろん、日々進化する最先端の設備や機材を扱う能力も求められるため、人材育成には長期間を要し、即戦力となる人材を確保することは容易ではありません。
企業は中途採用だけでなく、第二新卒を含めた若手人材の採用に力を入れているものの、即戦力となる人材は少なく、2~3年の育成期間を設けて、じっくりと育てていくことが求められています。
半導体業界の人材不足を克服するポイント
半導体業界が抱える人材不足問題は、一朝一夕に解決できるものではありません。しかし、企業が様々な取り組みを積み重ねることで、状況は少しずつ改善に向かいつつあります。
最後に、企業が人材不足問題に対処するために、どのようなアクションを取ることができるのかそのポイントを解説します。
産学連携を強化する
産学連携とは、企業と大学が協力し、新たな技術や製品を生み出す取り組みです。大学が持つ高度な専門知識や研究成果を企業が抱える課題解決や技術革新に活かすことで、双方にメリットをもたらします。
特に、半導体製造において強みを持つ台湾では、産学連携が盛んに行われています。半導体企業が大学に資金や人材を投入し、即戦力となるエンジニアを育成するシステムが確立されており、その成果は目に見えています。
日本においても、産学連携の重要性が認識され、産業界や教育機関、行政機関が連携し、大学や高専の教員に製造現場を見学する機会を提供したり、企業の専門家を講師として招いたりするなど、実践的な人材育成に取り組んでいます。
これらの取り組みは、大学における理論的な知識と企業における実践的な経験を結びつけ、即戦力となる人材を育成することを目的としています。産学連携の強化は、日本の半導体産業の活性化に欠かせない要素と言えるでしょう。
労働環境を改善する
近年、働き方改革が叫ばれる中、半導体業界でも柔軟な働き方が求められており、テレワークやフレックスタイム制度を導入し、従業員が仕事と生活を両立できるような環境を提供する企業も増えています。
このような取り組みは、従業員の満足度向上だけでなく、生産性の向上にも繋がると期待されています。また、従業員のキャリア開発を支援することも重要です。
従業員自身がキャリアを主体的に考え、計画できるような機会を提供することは、従業員のモチベーション向上に繋がります。従業員が自身の成長を実感し、企業への帰属意識を高めることで、定着率の向上も期待できるでしょう。
さらに、半導体製造現場の過酷な労働環境を改善するために、従業員の健康管理やメンタルヘルスケアを重視し、働きやすい環境づくりを進める企業も増えています。
これらの取り組みで、魅力的な労働環境を提供することで、優秀な人材を惹きつけ、育成し、長期的に活躍してもらうことが可能になります。
人材育成を行う
半導体業界における人材不足を解消するためには、既存の従業員のスキルアップと新たな人材の育成が重要です。これらの取り組みは、企業単独で行うだけでなく、地域全体が一体となって推進していくことが重要です。
多くの企業は、社内研修の強化に力を入れており、従業員のスキルアップを支援しています。企業内において、従業員が最新の技術を習得できる環境を整えることは、人材育成の第一歩と言えるでしょう。
例えば、以下の3次元CAD利用技術者試験2級対策講座は、設計や製図に欠かせないCADに関する知識とスキルを証明する試験のための講座です。半導体業界をはじめ、さまざまな分野でCADが活用されており、これらの業界で活躍したい方にとって、有益と言えるでしょう。
3次元CAD利用技術者試験2級対策講座
3次元CAD利用技術者試験2級対策講座は、CADの経験が浅い方でも、わずか数時間の集中学習で試験合格を目指すことができます。この講座では、試験で求められる3DCADの実践的なモデリングスキルを習得し、出題傾向を把握することで、効率的に試験対策を進めることができるでしょう。
また、学んだ知識やスキルは実際の業務でも活用できるよう、実務に役立つ内容も盛り込んでいます。
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半導体業界の人材不足を解消して再び世界をリードしよう
今回は、半導体業界の人材が不足している理由や人材不足を克服するポイントを解説しました。半導体業界における人材不足は、日本の産業競争力そのものを左右する深刻な問題です。
企業は、短期的な人材不足に対応するだけでなく、中長期的な視点に立った人材育成戦略を策定し、継続的な改善に努めることが重要です。半導体産業の発展は、日本の経済成長を加速させ、技術革新を牽引する力となるでしょう。
