日本発の最先端半導体量産を目指すラピダスが中心となり設立された「最先端半導体技術センター(LSTC)」は、米国のAI半導体企業テンストレントと共同で、半導体設計の人材育成プログラムを開始すると発表しました。
このプログラムは、日本の半導体業界における人材不足を解消し、国際競争力を強化することを目的としています。
若手技術者を対象に、最長1年半にわたる米国での研修や、国内の大学・研究機関での研修など、3段階のカリキュラムを用意しており、5年間で計1000人規模の育成を目指すようです。
今回は、半導体設計エンジニアに必要なスキルや主な仕事内容、取得しておくと有利となる資格を徹底解説します。
半導体設計とは
半導体は、電気を通す導体と通さない絶縁体の中間の性質を持つ物質です。
この独特な性質により、電気を自在に制御することが可能となり、私たちの生活に欠かせない様々な製品やシステムに利用されています。
半導体は、以下のような現代社会のあらゆる分野で活躍しています。
- 冷蔵庫
- 洗濯機
- テレビ
- PC
- 太陽電池
- 人工知能
- 軍事システム
- 物流システム
半導体設計とは、この半導体を用いて、複雑な回路を小さなチップ上に集積させる設計のことを指します。
この集積回路がコンピューターやスマートフォンの中核を担うマイクロプロセッサーや、様々な機能を実現するIC(集積回路)として利用されています。
AIの処理に特化したAI半導体については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
半導体設計の主な仕事内容
半導体設計エンジニアは、従来の半導体メーカーはもちろん、家電製品メーカーや自動車メーカーにおいても、自社製品に搭載する設計の需要が高まっています。
半導体設計という仕事は、複雑な工程から成り立っており、一人ひとりが全ての工程を担うことは現実的ではありません。
そのため、半導体設計の現場では、それぞれが異なる専門性を持ち合わせたエンジニアたちがチームを組んで開発を進めています。
半導体設計の主な仕事のフローは、以下の通りです。
1.半導体の仕様検討 | 顧客や製品開発部門との連携のもと、半導体の仕様を決定し、様々な要素を考慮した仕様書を作成する |
2.回路の設計 | 論理回路とアナログ回路を設計し、シミュレーションによってその動作を検証する |
3.レイアウトの設計 | 設計ツールを用いて、回路図に記された記号や線を実物の部品のサイズや配線の太さに置き換える |
4.半導体の試作 | 既存の電子部品を基盤に組み込み、新たな半導体の機能を検証する試作を行う |
5.試作品の評価 | 温度や湿度、圧力など環境条件の変化に対する耐久性も検証し、仕様書に基づいた機能・性能評価を行う |
半導体の量産 | 実機評価の結果、半導体の量産段階へ進む |
回路設計は、大きく分けて機能設計とシミュレーションの2つの段階で行われます。機能設計では、回路がどのような働きをするのかを詳細に設計します。
この際、電子回路には、信号の電圧を離散化して扱う論理回路と、連続的な電圧を扱うアナログ回路の2種類があります。
シミュレーションでは、ゲートレベルシミュレーションと呼ばれる回路の論理的な動作を検証するシミュレーションを行います。
その後、回路の物理的な配置や配線を仮想的にシミュレーションする仮想配置配線シミュレーションを行い、実際の回路での動作を予測します。
設計段階で抽象的に表現されていた回路を、具体的な形へと具現化していく工程を「回路レイアウト」と呼びます。
回路レイアウトの目的は、電気信号の流れを視覚的に捉え、より効率的かつ安定した回路を実現することです。
単に機能を実現するだけでなく、美しさや秩序などの要素を追求することで、より優れた回路設計へと繋がります。
半導体設計エンジニアに必要なスキル
半導体設計エンジニアになるためには、必ずしも特別な資格が必要というわけではありません。
以下で、半導体設計エンジニアに必要なスキルを解説します。
半導体エンジニアに向いている人については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
電気・電子工学の知識
半導体設計という高度な専門スキルを習得するためには、電気工学と電子工学の知識が不可欠です。
電気工学は、電気に関するあらゆることを研究する学問です。電気をエネルギーとしてどのように活用できるのか、電気回路や半導体などの電子部品、情報通信や光といった幅広い分野を扱います。
一方、電子工学は、電子が動くことによって起こる現象を研究し、その現象を応用した技術や装置を開発する学問です。
別名「エレクトロニクス」とも呼ばれています。これらの学問分野は、大学院まで深く学ぶことで、より高度な知識と技術を習得できます。実際、多くの専門家が大学院で学んだ上で、半導体設計の現場で活躍しています。
数学や物理などの知識
電気・電子工学の知識が十分でない方でも、数学や物理学の基礎力があれば、電気・電子系の企業への転職の可能性は十分にあります。
数学や物理学は、電気・電子工学の基礎となる学問であり、これらの知識があれば、新しい技術を習得するスピードも速まります。
そのため、企業側としてもポテンシャルの高い人材を積極的に採用したいと考えているのです。
また、多くの企業では採用後、入社した社員が即戦力となることを期待するのではなく、会社独自の研修プログラムを通して必要なスキルを習得してもらうことを前提に採用活動を行っている企業も少なくありません。
EMCの知識
EMCに関する知識を身につけることで、半導体エンジニアの価値を飛躍的に高めます。
EMCとは、電子機器が周囲の電磁波の影響を受けずに正常に動作し、同時に他の機器に電磁波障害を与えない性質のことです。
設計段階でのEMC対策をすることで、試作段階での手戻りを減らし、製品の品質向上も期待できるでしょう。
また、EMC規格への適合性を確保することで、製品の市場展開をスムーズに進めることができます。
設計支援ソフトウェアの操作スキル
半導体エンジニアにとって、ソフトウェア操作スキルは欠かせない能力と言えるでしょう。
特に、製図作業においては、CADやCAMといった設計支援ソフトウェアが広く利用されています。
これらのソフトウェアを使いこなすことで、効率的かつ精度の高い設計が可能となるため、ソフトウェア操作スキルは必須のスキルなのです。
英語力
半導体設計という分野は日々目まぐるしく変化しており、常に最新の技術動向を把握することが求められます。
しかし、最新の技術情報は、特に米国をはじめとする英語圏で発表されるケースが圧倒的に多いため、日本語の情報だけでは十分とは言えません。
そのため、日本語で翻訳された情報に頼ると、どうしてもタイムラグが生じてしまい、すでに古い情報となっている可能性があります。
半導体設計エンジニアは、英語で書かれた学術論文や技術書を直接読解し、常に最新の知見を得る必要があるでしょう。
最新の技術情報は、英語で書かれた論文やニュース記事、技術ドキュメントなど、様々な形で発信されています。
これらの情報を正確に理解し、自分の仕事に活かすためには、英語で書かれた文章をスムーズに読める能力が不可欠です。
チームワーク力
チームワーク力とは、他のメンバーと協力し、共同で目標達成を目指す能力を指します。
先述したように、半導体設計のような複雑なプロジェクトでは、多岐にわたる専門知識を持つ技術者が集結し、共同で一つの製品を作り上げます。
そのため、個々の能力に加えて、多様なメンバーと協力し、共通の目標に向かって共に働く姿勢が不可欠です。
チームワーク力を高めることで、それぞれの強みを活かし、より効率的に作業を進めることができ、プロジェクトの成功確率を高めることができます。
また、多様な視点を持つメンバーが意見交換することで、より良い解決策を見つけることができるようになるでしょう。
チームワークを重視する組織は、従業員のモチベーション向上にも繋がります。
メンバー同士が協力し、共に目標を達成することで、達成感や帰属意識を高めることが期待できます。
情報を敏感にとらえる能力
半導体技術は目まぐるしいスピードで進化を続けています。そのため、一度学んだ知識だけで仕事をしていくことは難しいのが現状です。
常に新しい技術に触れ、自分のものにしていく力が求められているのです。
貪欲に知識を吸収し、自分のスキルを向上させていくことで、半導体業界で生き残っていくことができるでしょう。
半導体設計において取得すると有利な資格
先述したように、半導体設計エンジニアになるために、必ず取得しなければならない資格はありません。
しかし、就職や転職活動においては、自身のスキルや知識を客観的に示すための手段として、資格があると有利に働くことがあります。
半導体設計に関する理解を深めながら、同時にスキルアップも目指せる以下のような資格を取得することで、専門性が高まり、より多くの企業から注目を集めることができるでしょう。
ディジタル技術検定
ディジタル技術検定は、公益財団法人国際文化カレッジが主催する情報処理から情報制御まで、ものづくりに必要な幅広いIT知識を総合的に評価する試験です。
この検定は、半導体設計エンジニアにとって不可欠な半導体の仕組みや回路理論、通信などに関する基礎知識を問うとともに、ハードウェアとソフトウェアの双方にわたる深い理解度を測ります。
CAD利用技術者試験
CAD利用技術者試験は、半導体設計をはじめとする様々な分野で活用されるCADシステムの操作スキルを評価する資格です。
この試験に合格することで、CADを用いた設計や製図に必要な知識と技術を習得していることを証明することができます。
試験は、大きく分けて以下の2次元CADと3次元CADの2種類があり、それぞれのレベルに合わせて複数の等級が設定されています。
2次元CAD | 3次元CAD | |
スキル | 平面的な図面を作成 | 立体的な形状を設計 |
特徴 | 基礎から専門的なレベルを学ぶ | 高度な設計業務への対応力を養う |
2次元CADの1級試験では、機械、建築、トレースの3つの専門分野から選択することができます。
それぞれの分野で求められる知識やスキルは異なり、自分の専門分野に合わせて受験することができます。
CAD利用技術者試験に合格することで、半導体エンジニアとしてのキャリアアップに繋がるだけでなく、高度な設計業務に携わるための基盤を築くことができるでしょう。
3次元 CAD利用技術者試験は、一般社団法人コンピュータ教育振興協会(ACSP)が主催しています。
以下の講座は、ACSP主催検定試験の試験対策講座となっているためおすすめです。
3次元CAD利用技術者試験2級対策講座
3次元CAD利用技術者試験2級対策講座は、わずか8時間で、3DCADの実践的なモデリングスキルを習得し、試験に出題される技術的な知識を網羅的に学ぶことができます。
e-ラーニング対応のため、PC、スマートフォン、タブレットに対応しており、ご自身のペースで学習を進めることができます。
また、本講座オリジナルの教材(小テスト37問、模擬試験60問)がPDF形式で提供されるため、試験直前まで繰り返し学習することで、合格率アップが期待できるでしょう。
半導体設計エンジニアの需要は飛躍的に高まっている
今回は、半導体設計エンジニアに必要なスキルや主な仕事内容、取得しておくと有利となる資格を徹底解説しました。
半導体設計は、私たちの生活を支える様々な製品に欠かせない集積回路の設計を行う仕事です。
近年、世界的に半導体への需要が急増しており、それに伴い半導体設計エンジニアの不足が深刻化しています。
半導体設計エンジニアは、売り手市場と言えるほど求められており、家電メーカーや自動車業界など、幅広い分野で活躍の場が広がっています。
半導体設計エンジニアになるためには、電気・電子工学などの専門的な知識やコミュニケーション力や、日々進化する技術に常にアンテナを張り、最新の情報をキャッチアップする姿勢も求められます。
ただし、半導体設計エンジニアになるために必ず取得しなければならない資格はありません。意欲と能力があれば、未経験からでもこの分野に挑戦することができるのです。