米国のテクノロジー大手メタは、自社の生成AIの基盤技術を、米国の政府機関や民間企業による安全保障上の目的での利用を許可すると発表しました。
従来、メタは規約においてAIの軍事利用を禁止していましたが、この度、軍事利用における方針を転換したのです。
この決定の背景には、米国製のAIを国防分野に積極的に導入し、中国をはじめとする他国の技術に先行する必要性があるとメタが判断したことがあります。
メタの今回の発表は、最新技術の軍事利用をめぐる国際的な議論に新たな火を付ける可能性があります。
そこで今回は、AIの軍事利用の現状や軍事利用に用いられる種類、用いるメリット、軍事利用する際の問題点を詳しく解説します。
AIの軍事利用の現状
AIが軍事利用されるようになり、その倫理的な側面が大きな議論を呼んでいます。
特に注目されているのが、自律的に行動する兵器システムの存在です。兵器システムの運用は、一般的に以下の3つの段階に分けることができます。
- 認識
- 意思決定
- 攻撃
現在、AIは「認識」や「攻撃」の段階ではすでに軍事利用がされています。例えば、画像認識技術を用いて標的を自動的に特定する機能は、多くの兵器システムに組み込まれています。しかし、「意思決定」の段階については、依然として人間による介入が不可欠です。
軍事利用における多くの兵器システムでは、最終的な判断は人間が行う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」と呼ばれる仕組みが採用されています。
ヒューマン・オン・ザ・ループでは、AIが「意思決定」までを行い、人間はそれを監視するだけの役割に限定されています。
AIについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
軍事利用に用いられるAIの種類
軍事利用に用いられるAIは、その自律性の度合いによって大きく半自律的兵器と自律的兵器に分けられます。
軍事利用に用いられる種類を以下で詳しく解説します。
半自律的兵器 | 自律的兵器 | |
人間の関与 | 最終的な決定 | なし |
目的 | 追跡、回避行動など | 目標の選択、攻撃実行など |
倫理的な問題 | 少ない | 多い |
半自律的兵器
半自律的兵器とは軍事利用において、人間の操作を支援することで、より高度かつ迅速な攻撃が可能となるシステムです。
この種の兵器は、攻撃目標の選定や攻撃の実行などの最終的な判断は人間が行うことを前提としており、人間と機械が協働して運用されます。
例えば、ガンダムのようなロボットや遠隔操作で飛行するドローン、実戦で使用されているトマホーク巡航ミサイルなどが、半自律的兵器の代表的な例として挙げられます。
自律的兵器
軍事利用における自律的兵器は、攻撃目標の選定から攻撃の実行まで、全ての判断を自動で行う兵器のことです。
攻撃目標の識別や状況判断、攻撃の実行などの一連のプロセスを、人間の手を介さずにあらかじめ設定されたプログラムに基づいて自律的に行動することが特徴です。
ただし、AIが自律的に攻撃を判断する兵器は、倫理的な問題から大きな議論を呼んでいます。
高い生存性と強力な攻撃能力を備えており、人間による操作を必要としないので、一度暴走すれば制御ができない危険性があるためです。
SF映画に登場するターミネーターや、無人で飛行するドローン、一度起動すると自動で目標を攻撃するCIWSなどが、代表的な例として挙げられます。
AIの軍事利用例
AIが軍事においてどのように利用されているのか、その一例を以下でご紹介します。
ドローン
ドローンは、人が搭乗することなく遠隔操作や自動で飛行する無人航空機です。その軽量化が進み、100グラムを超えるものは全てドローンと定義されています。
ドローンは、指示された場所へ飛ぶだけでなく、自ら状況を判断し、軍事利用において最適な行動を選択できるようになります。
従来、人間が搭乗して行っていた危険な敵地への偵察や攻撃などは、AIを搭載したドローンに代替される可能性があります。
高性能カメラで撮影した地上の画像を人間よりもはるかに高い精度で分析し、特定の目標を識別することができるためです。
さらに、軍事利用ではその分析結果に基づいて、自律的に攻撃を行うことも可能です。
ロボット
軍事利用においては、AIを搭載したロボットが、人間の兵士に代わる新たな戦力として期待されています。
戦車や装甲車などの車両を自動運転化し、自律的に行動するロボットは、すでに開発が進んでいます。
また、人型や動物型など、多様な形態のロボットも登場しており、人間に匹敵する運動能力を持つロボットも存在します。
人間のように様々な行動が可能な汎用性は、今後の軍事ロボット開発に大きな影響を与えることが期待されています。
ロボットを動かし、様々なタスクを自動化することができるロボットプログラミングについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
軍事利用の支援として
AIは兵器として利用されるだけでなく、軍事利用を支援するツールとしてもその可能性を広げています。
例えば、イスラエルのミサイル防衛システムは、敵からのミサイル攻撃に対して、最適な迎撃タイミングや方法を算出し、味方の被害を最小限に抑えるための判断を支援しています。
このように、戦場における意思決定を迅速かつ正確に行い、人的被害を減らすことにも繋がります。
軍事利用におけるAIの活用により、従来は経験と勘に頼っていた判断が、データに基づいたより客観的なものへと変化しつつあるのです。
自律型兵器システム「LAWS」
自律型兵器システム(LAWS)は、人間が一切関与することなく、自律的に目標を設定し攻撃を実行する兵器です。
LAWSの代表例として、空中で待機し、標的を自動的に追尾して攻撃するドローンなどが挙げられます。
このような兵器は、一度起動されると、人間の介入なしに攻撃を実行できるため、その危険性について国際的な議論が活発化しています。
人間による介入を必要としないため、迅速な対応が期待できる一方で、倫理的な問題や国際的な規制に関する議論が活発化しています。
AI兵器の倫理的な問題は、どこまでその判断を委ねるべきかという点にあります。AIが「意思決定」の段階まで関与することになれば、戦争の様相は大きく変化し、予期せぬ結果をもたらす可能性も否定できません。
AI兵器の開発は、軍事技術の進歩という側面だけでなく、倫理的な観点からも深く検討されるべき課題です。
AIを軍事利用に用いるメリット
軍事利用においてAIの高度な情報処理能力や学習能力は、従来の軍事システムにはない新たな可能性を開いています。
以下では、AIを軍事利用することで得られるメリットを具体的に解説します。
人間が命を落とす可能性がなくなる
軍事利用においては、自国兵士の生命を危険に晒すことなく、軍事作戦を遂行できる可能性があります。
従来の戦争においては、兵士が直接戦闘に参加し、生命の危険に曝されることが避けられませんでした。
しかし、AIを搭載した無人機やロボットが戦場を駆け巡る未来では、軍事利用での危険な任務をAIに任せることで、人的被害を最小限に抑えることが期待されています。
軍事利用でAI同士の戦闘が実現すれば、人間が直接殺し合わなければならない状況は減少し、戦争の犠牲者を減らすことにつながる可能性があります。
高度な分析や判断ができる
軍事利用によるAIの導入は、判断と行動の精度において、人間を大きく凌駕する能力を発揮します。
戦争では、敵地への正確な攻撃や予測不能な状況への迅速な対応が求められます。
AIは、膨大なデータを瞬時に分析し、最適な判断を下す能力に優れているため、従来の人間の能力では実現が難しかった正確な攻撃や刻々と変化する状況への適応を可能にします。
例えば、衛星画像やセンサーデータなど、多様な情報源から得られるデータをリアルタイムで分析し、敵の動きや戦況を正確に把握します。
軍事利用では、その分析結果に基づき、ミサイル発射や部隊の展開など、迅速かつ的確な行動を指示することができるのです。
このように、AIは人間を超える精度とスピードで、軍事行動を遂行できるため、多くの国がAI技術の軍事利用に大きな期待を寄せているのです。
休まず稼働することができる
AIは、人間のように疲労や睡眠を必要としないため、24時間365日年中無休で稼働し続けることができます。
この特徴は、軍事利用における人件費の大幅な削減に繋がるだけでなく、人的ミスや感情的な判断による誤りを防ぎ、冷静な判断を必要とする軍事行動においても大きなメリットをもたらします。
特に、危険が伴う軍事行動においては、感情に左右されることなく冷静な判断を下せる点が大きな強みとなるでしょう。
AIを軍事利用する際の問題点
AIの軍事利用は、効率化やコスト削減といったメリットをもたらす一方で、深刻な課題も様々あります。
以下では、AIの軍事利用がもたらす問題点を解説します。
制御ができない恐れがある
AI兵器の開発は技術的な進歩とともに、倫理的な問題も深刻化させています。
特に懸念されているのが、AIの暴走による危険性です。もし、人をターゲットにするようにプログラムされたロボットが、制御不能となり市街地に放出された場合、軍人や民間人を問わず、無差別に攻撃が行われる可能性があるのです。
AIは、一度暴走すれば、人間が介入できないほどの速さで、多くの犠牲者を出すことが考えられます。
そのため、軍事利用を進める際には、その技術的な進歩だけでなく、倫理的な側面についても十分に考慮し、万が一の事態に備えた対策を講じる必要があります。
兵器の攻撃に対する責任が不明瞭である
従来の兵器は、人間が操作するため、誤った判断や意図しない行為が行われた場合、その責任は操作者に帰属しました。
しかし、軍事で自律型兵器を利用する場合、最終的な判断はAIが行うため、責任の所在が曖昧になります。
AIに責任を問うことはできず、開発者や製造者、運用者など、様々な主体が責任の一端を負う可能性が考えられるでしょう。
この責任の所在の不明確さは、国際法の枠組みにおいても大きな問題となります。
既存の国際法は、人間による行為を前提としており、自律型兵器のような非人間的な行為に対する規定が十分ではないのです。
AIの軍事利用は最新動向を把握しておくことが重要
今回は、AIの軍事利用の現状や軍事利用に用いられるAIの種類、用いるメリット、AIを軍事利用する際の問題点を解説しました。
近年、AIが急速な発展を遂げ、軍事分野への応用が期待される一方で、倫理的な問題など様々な議論を巻き起こしています。
AIの軍事利用は、決して新しい概念ではなく、歴史を振り返れば、技術革新が常に戦争の様相を変えてきたことがわかります。
しかし、AIの登場は、そのスピードと規模において、これまでの技術革新とは異なるレベルのインパクトをもたらす可能性も秘めています。
AIの軍事利用に関する議論を深めるためには、まず、現在の技術が軍事分野でどのように活用されているのか、その最新動向を把握することが不可欠です。
AIが軍事にもたらす可能性と課題を多角的に理解することで、より建設的な議論へと繋げることができるでしょう。
