米IBMは、AIの学習を飛躍的に加速させる新たな技術を発表しました。この技術は、AIデータセンター内のサーバー間の通信に光を用いることで、従来の電気通信に比べて大幅な高速化を実現します。
具体的には、LLMの学習時間を最大5倍まで短縮できる可能性があるとされており、AIモデルの学習期間が大幅に短縮されます。
例えば、従来3か月かかっていたAIの学習が、わずか3週間で完了する見込みです。これは、AI開発のスピードを劇的に向上させ、新たなAIモデルの創出を加速させる可能性も期待されています。
今回は、AIデータセンターが重要な理由や従来のデータセンターとの違い、その特徴を詳しく解説します。
AIデータセンターとは
AIデータセンターは、AIがその能力を最大限に発揮するために欠かせないインフラです。AIは、大量のデータからパターンを見つけ出し、学習することで、私たちの生活をより便利にする様々なサービスを提供します。
しかし、AIが高度な処理を行うためには、膨大な計算能力が必要となります。AIデータセンターは、この計算能力を提供するための専用の施設であり、高性能なコンピューターやネットワーク機器が多数集結しています。
特に、GPUと呼ばれる画像処理に特化したチップにより、AIはより高度な学習や推論を行えるようになるため、私たちの生活を大きく変えるようなサービスを提供できるようになるのです。
AIデータセンターと従来のデータセンターとの違い
AIデータセンターと従来のデータセンターには、役割と構成において大きな違いがあります。従来型のデータセンターは、主にデータを保存したり、一般的な計算処理を行うことを目的に設計されており、汎用性の高いCPUが搭載されています。
一方、AIデータセンターは、人工知能の学習や推論といった高度な計算処理を専門に行うために作られており、高性能なGPUやTPUなどの特殊なチップが搭載されています。
これらのチップは、大量のデータを並列処理することで、AIモデルの学習を高速化し、より高度なAIの開発を可能にします。
AIデータセンター | 大量のデータを高速に処理し、複雑なパターンを認識する |
従来のデータセンター | 汎用的な処理を目的とする |
AIの学習は非常に多くのエネルギーを消費するため、従来型のデータセンターでは対応できないほどの熱が発生するため、AIデータセンターでは、液体を用いた冷却や水冷などの冷却技術が導入されています。
AIデータセンターが重要な理由
AIの発展に伴い、その学習や処理には膨大な計算資源が必要不可欠となりました。データセンターは、このような計算資源を集中させて提供する施設であり、AIの進化を支える基盤としてその重要性を増しています。
以下で、AIデータセンターが重要な理由を詳しく解説します。
データセンターが進化しているため
かつてインターネットの根幹を支える存在として誕生したデータセンターは、冷却技術や電力供給システムの高度化、セキュリティ対策の強化など、目覚ましい発展を遂げてきました。
近年では、規模や性能を自在に設計できるようになり、地域ごとの多様なニーズにも対応できるようになりました。
特に、AIをはじめとする高度なデジタル技術の普及に伴い、データセンターの重要性はますます高まり、その需要は爆発的に拡大しています。
AIが多くの業界で利用されるようになったため
AIは、かつては専門的な研究機関や大企業でしか利用されていなかった高度な技術でしたが、近年では、そのコストが大幅に低下し、性能が飛躍的に向上したことで、私たちの身近な製品やサービスにも広く活用されるようになりました。
AIが複雑な問題を解いたり、大量のデータを分析したりするためには、膨大な計算処理能力が必要となるため、AIを支えるための専用の施設として、大規模なデータセンターが建設されるようになりました。
データセンターは、AIが24時間365日安定して稼働するために不可欠なインフラであるため、今後もその重要性はますます高まっていくでしょう。
AIデータセンターの形式
AIデータセンターにはいくつかの形式があり、企業は、自社のニーズに合う形態からAIデータセンターを選ぶことができます。以下で詳しく解説します。
ホスティング形式
企業が自社でサーバーを用意する代わりに、データセンター事業者が用意したサーバーを借りて利用する形式です。高価なサーバーの購入費用や、動かすための専門スタッフの雇用などの負担を軽減できるのが利点です。
しかし、ホスティング形式では、利用できるOSやソフトウェアの種類が限定されている場合や、サーバーのスペックを自由にカスタマイズできない点に注意しましょう。
クラウド形式
従来のホスティングサービスをさらに発展させた形態として、ITシステムの運用を丸ごとクラウド事業者に委託できる形式です。
このサービスを利用することで、企業は自社でサーバーやソフトウェアを用意したり、管理したりする必要がなくなり、システムの維持や更新にかかる手間やコストを大幅に削減できます。
一方で、利用できる環境はクラウド事業者が提供するものに限られるため、システムを自由に設計したいという場合は、制約を受ける必要があるため注意して下さい。
ハウジング形式
企業が所有するサーバーをデータセンターの施設内に設置し、その施設の電源や冷却設備、ネットワークなどのインフラを共有して利用する形態を指します。
既存のサーバーをそのまま移すだけで、高度なセキュリティ対策や安定した電力供給といった、データセンターならではの環境を利用できるのがメリットです。
しかし、その一方で、サーバーの故障やソフトウェアのアップデートなど、日常的な管理業務は企業自身で行う必要があるという点に注意が必要です。
AIデータセンターの特徴
AIデータセンターは従来のデータセンターとは異なり、以下のようなAIの高度な処理に特化した独自の設備と技術で構成されています。
- 高性能なハードウェアを搭載している
- 高度な冷却技術が導入されている
- 大量のデータの効率的な管理ができる
それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
高性能なハードウェアを搭載している
AIデータセンターの中核を担うのは、GPUとTPUと呼ばれる高度なプロセッサーです。GPUは、元々3Dグラフィックスの描画を高速に行うために開発されたチップですが、並列処理能力が高く、多くの計算を同時にこなせるため、AIモデルの学習に最適であることがわかりました。
一方、TPUはGoogleがAI専用に開発したプロセッサーで、GPUよりもさらに専門化されており、ディープラーニングの計算を高速かつ効率的に行うことができます。
これらのプロセッサーのおかげで、AIの開発は飛躍的に進み、私たちの生活に様々な形で貢献されています。
ディープラーニングについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
高度な冷却技術が導入されている
AIデータセンターでは、多数のチップが密集して配置されるため、冷却対策が特に重要です。従来の空冷方式では、処理能力の向上に伴い、冷却が追いつかなくなるという課題がありましたが、AIデータセンターでは、液浸冷却や直接水冷などのより高度な冷却技術が採用されています。
液浸冷却 | ハードウェア全体を特殊な液体に浸すことで、発生した熱を効率的に液体に吸収させる |
直接水冷 | 冷却水をパイプを通してチップに直接接触させる |
液浸冷却のメリットは冷却効率が非常に高く、ハードウェアの寿命が延びたり、省スペース化が実現できたりすることです。さらに、液体がハードウェアを保護するため、防塵性や耐振動性も向上します。
一方、直接水冷は液浸冷却と比べて設置が容易であり、既存のデータセンターにも導入しやすいという特徴があり、液浸冷却と同様、高い冷却効率と省エネ効果が期待できます。
これらの高度な冷却技術により、AIデータセンターでは、AIの開発スピードが加速し、私たちの生活を大きく変えるような革新的なサービスが生まれつつあるのです。
大量のデータの効率的な管理ができる
AIデータセンターにおいては、膨大な量のデータをリアルタイムで処理する能力が求められます。この高度な処理を実現するためには、大容量ストレージ、高速ネットワーク、分散処理システムという3つの基盤技術が不可欠です。
大容量ストレージ | AIモデルの学習や推論に必要不可欠な膨大なデータを保管する |
高速ネットワーク | データセンター内の様々な機器間を接続し、大量のデータを円滑にやり取りするための基盤 |
分散処理システム | 複数のコンピューターを連携させ、大規模な計算処理を高速化する |
このような基盤技術により、大規模なAIモデルの学習や推論がスムーズに行われ、AIの性能を最大限に引き出すことができるのです。
AIデータセンターは、これらの技術の高度な組み合わせにより、複雑なAIモデルの学習やリアルタイムでの推論処理といった高度なタスクをこなすことが可能です。
AIに必要なビッグデータの量については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
AIデータセンターにおける課題
高性能サーバーを活用し、機械学習やAIなどの技術を駆使しようとするとき、乗り越えなければならない課題がいくつか存在します。以下では、その中でも特に重要な課題について詳しく解説します。
多くの電力が必要になる
人工知能の進化に伴い、高性能なコンピュータであるHPCサーバーやGPUサーバーへの需要が高まっています。しかし、これらのサーバーは膨大な電力を消費するため、データセンターの電力供給が追い付かず、高密度なサーバー配置が困難になっています。
また、先述したように大量の熱が発生するため、効率的な冷却システムも不可欠です。この電力消費と発熱の問題は、サーバーの起動時間や設置場所の制限やシステム全体の安定稼働に影響を与え、AI基盤の構築を阻む大きな課題となっています。
そのため、AI時代に求められるデータセンターは、電力供給や冷却システムなど、高度なハウジング環境が整備されていることが必須と言えるでしょう。
ラックが複数必要になる
HPCサーバやGPUサーバは、従来のサーバに比べて消費電力が非常に大きく、1台で数キロワットの電力を必要とすることも珍しくありません。
しかし、多くのデータセンターでは、1ラックあたりの電力供給能力が限られているため、高性能なサーバを十分に活用することができないため、複数のラックにサーバを分散して設置する必要が生じ、運用コストが増大するという課題が生じています。
さらに、これらのサーバは大量の熱を発生するため、適切な冷却を行うためにラック間のスペースを広く取る必要があり、データセンターのスペース効率も低下するのです。
AIデータセンターを用いて企業の技術基盤を向上させよう
今回は、AIデータセンターが重要な理由や従来のデータセンターとの違い、その特徴を解説しました。DXやAIの進展に伴い、AIデータセンターの重要性はますます高まっています。
従来のデータセンターは、大量の電力を消費するなど、様々な課題を抱えていましたが、より効率的な冷却システムや安定的な電力供給を備えた、次世代のAIデータセンターが求められています。
これからのデータセンターは、企業の技術動向やビジネスニーズに柔軟に対応し、AIの最大限の活用を支援するようなサービスを選定していく必要があります。
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