富士フイルムホールディングス(HD)は、生成AIを全社的に導入し、様々な業務への活用を進めています。その中でも特に注目すべきは、コールセンター業務における人員配置の最適化への取り組みです。
同社は、生成AIを活用することで、年間8000時間以上の作業時間削減を見込んでいます。今回は、人員配置を最適化するタイミングや具体的な6ステップ、最適化する際のポイントを詳しく解説します。
人員配置の最適化とは
人員配置の最適化とは、企業が掲げる経営目標を達成するために、従業員一人ひとりの能力やスキル、経験などを総合的に評価し、最適な部署やポジションに配置する人材マネジメントのことです。
採用時だけでなく、人事異動や昇進・昇格などのタイミングで、従業員を適材適所に配置することで、組織全体の生産性向上や従業員のモチベーションアップに繋がります。
例えば、ある従業員がこれまでの経験から新しい業務に高い適性があると判断された場合、新しい業務を任せることで、スキルアップの機会を提供し、同時に組織全体の能力向上にも貢献することができるでしょう。
また、従業員の希望やキャリアプランも考慮しながら配置を行うことで、従業員の満足度を高め、定着率向上にも繋がる可能性があります。
AI時代に求められる人材については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
人員配置を最適化するタイミング
従来、人員配置の最適化は、例えば新年度や組織改編時に行われることが一般的でしたが、現代のビジネス環境は急速に変化しており、変化に対応しきれない可能性があります。
より効果的な人員配置の最適化のためには、以下のような複数の要素を組み合わせて、最適なタイミングを見極めることが重要です。
- 新たに採用した時
- 人員を採用した時
- 職位が昇格した時
- 雇用形態が変更した時
- 雇用の継続が難しくなった時
これらの要素に加えて、従業員の異動希望や育成計画なども考慮しながら、柔軟に人員配置を最適化していくことが重要です。
つまり、人員配置の最適化は、特定のタイミングに縛られることなく、企業の状況に合わせて、継続的に見直していくべきなのです。
AIを利用した新人教育については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
人員配置を最適化する具体的な6ステップ
では、実際に人員配置を進める上での具体的な6ステップを解説していきます。
①必要な人員数を見積もる
まず、目標達成のために人員数を増やすべきか、減らすべきか、現状維持で良いのかを明確にする必要があります。
人員数が概算で決まれば、人件費の試算が可能になるため、階級や役職を考慮した上で、必要な人員数と人件費の見積もりを立てましょう。
②現在の人員配置を確認する
事業部や営業所ごとに、どのようなポジションの従業員が何人いるのか、現況の人員配置を確認します。
さらに、現場の担当者へのヒアリングを通して、人員が不足しているか、過剰になっているかなどの現場の声を収集することも重要です。
③現在の人員データを把握する
従来の人事データだけでなく、以下のような従業員のデータを詳細に記録することで、より精度の高い人材配置が可能になります。
個々の従業員のスキルを数値化し、人材配置の際の重要な判断材料として活用できるでしょう。
スキルデータ | 各従業員の持つスキル、知識、経験などを詳細に記録したデータ |
キャリアデータ | 個人が過去にどのような職務に従事し、どのような実績を上げてきたのかを示すデータ |
キャリアプランデータ | 将来的に目指す職種や役割、身につけたいスキルや経験を具体的に示したデータ |
特に大企業の場合、従業員数が多いため、人事部門だけではすべてのデータを収集することは困難なため、現場部門との連携を強化し、従業員自身が自身のスキルデータをシステムに入力できるような仕組みを構築することが大切です。
従業員の情報を正確に把握し、最適な人材配置を行うことで、組織全体の生産性向上に貢献することが期待できるでしょう。このプロセスにおいては、採用や異動に伴うコストについても綿密に検討することが重要です。
④面談で人員へヒアリングする
スキルデータの収集に基づき、各従業員へキャリアプランに関するヒアリングを実施します。現在のポジションに対する満足度や、将来どのようなキャリアを歩みたいのかといった志向に関する情報を収集し、人員配置の計画に活かします。
各従業員一人ひとりのキャリアプランを考慮し、個人単位で詳細な計画を立案することで、従業員のモチベーション向上と組織全体の成長に繋げることができるでしょう。
⑤人員配置を実行する
従来の人員配置は、空いたポジションに適任者を充てるという適所適材の考え方が一般的でしたが、より戦略的な人員配置を実現するためには、事前に各ポジションに最適な人物像を明確化し、それに合う候補者リストを作成しておくことが重要です。
これにより、空席が発生した際に、即座に最適な人材を配置することが可能です。また、人員計画と実際の状況との間に生じるギャップを埋めるための取り組みも大切です。
例えば、人員が不足したり、予想以上の成果が出なかったりといった問題が発生した場合、人員の配置や育成を行うことで、迅速な対応が可能になります。
これらの取り組みを通じて、より柔軟かつ戦略的な人員配置を実現し、組織全体の活性化に繋げることが期待できます。
⑥人員配置の効果を測定する
人員配置は一度実行すれば終わりというわけではありません。人員配置の前後での変化を比較し、従業員のパフォーマンスが向上しているか、新たな課題が生じていないかなどを継続的にモニタリングすることが重要です。
部署や業務ごとに数値化できる売上高や契約数、利益率などの経営上の重要な項目は、数値化して可視化することで、変化をより明確に捉えることができます。
これらの数値に加え、他の指標についても可能な限り数値化し、効果測定を行うことで、人員配置が組織にもたらした影響をより深く理解することができます。
また、従業員満足度などの数値化が難しい項目についても、アンケート調査などを活用することで、定量的なデータとして捉えることができるでしょう。
人員配置の最適化は計画、実行、評価という一連のプロセスを繰り返しながら、組織全体の最適化を目指していく動的な取り組みなのです。
人員配置を最適化する際のポイント
人員配置を適切に行うためには、どのような点に注意すべきか、具体的な要素を一つ一つ丁寧に説明していく必要があります。以下で、人員配置を最適化する際のポイントを詳しく解説します。
各タスクに必要なスキルを洗い出す
適切な人員配置を行うためには、自社の業務を一つひとつ丁寧に分析し、各業務に必要な以下の要素を明確にする必要があります。
- 人員数
- スキル
- 知識
- 経験
- 属性
業務によって必要な要素は大きく異なります。例えば、高度な専門知識が必要な業務もあれば、コミュニケーション能力が重視される業務もあるでしょう。
それぞれの業務に最適な人材を配置するためには、業務ごとの特徴を細やかに把握し、それに合った人材像を具体的に描くことが重要です。
もし、人員配置後に従業員が業務に適応できず、業務効率や従業員満足度が低下してしまう事態を招きたくないのであれば、この段階での徹底した分析が欠かせません。
従業員一人ひとりのパフォーマンスを可視化する
従業員一人ひとりの成績を可視化することは、人員配置の効果測定だけでなく、従業員一人ひとりを適切に評価するためにも欠かせない取り組みです。
人員配置がうまくいったように見えても、従業員を正しく評価できなければ、従業員満足度が低下し、結果的に離職につながる可能性があります。
人員配置が適切に行われたとしても、従業員が会社を離れてしまっては元も子もありません。そのため、従業員一人ひとりの成績を可視化し、効果測定と並行して、個々の成績評価を行うことが重要です。
これにより、従業員の能力を正確に把握し、より適切な人材配置を実現することができるでしょう。
人員配置最適化のためのツールを用いる
人員管理ツールを導入すると、組織内の状況をより詳細に把握できるようになります。具体的には、誰がどの部署でどのような業務を担当しているかだけでなく、各業務にどれだけの時間が費やされているかなどの、より細かいレベルでの情報を得ることが可能です。
さらに、日報や勤怠管理機能を活用することで、従業員の勤務状況を正確に把握することもできます。これらの機能により、売上への貢献度が直接見えないような人事配置も効率的にコスト管理を行うことが可能です。
これらのツールは、人材管理にかかる人的リソースが不足している企業や、より簡便な人材管理方法を求める企業にとって、有効な手段と言えるでしょう。
法的な問題が生じないよう確認しておく
企業は、一般的に従業員をある部署から別の部署へ異動させるなど、人事に関する幅広い決定権を持っているため、通常、従業員は会社から出された異動などの命令を拒否することはできません。
しかし、異動の理由がはっきりしない場合や、労働契約に違反している場合、会社が権限を乱用していると判断される場合には、従業員が異動を拒否できる可能性もあります。
会社は、このような人事異動に関するルールを事前に従業員が確認できるよう、就業規則に明記しておくことが求められます。
社内公募制度で組織の活性化を促進する
社内公募制度とは、人材が不足している部署が社内で人材を募集する制度の事で、ジョブ・ポスティングとも呼ばれています。
この制度は、従業員が自ら進んで異動や転籍を希望し、キャリア形成を主体的に行えるようにすることを目的としているため、近年では従業員のキャリア自律を促進する人事施策として注目されています。
従来の人事異動は、人事担当者が主体となって人員配置を進めることが一般的でしたが、この方法では従業員の希望が反映されない場合があり、結果としてモチベーションの低下に繋がる可能性があります。
社内公募制度を導入することで、従業員は自分のスキルやキャリアプランに合った部署で活躍できる機会を得ることができ、組織は必要な人材を適切な場所に配置できるというメリットがあります。
ただし、社内公募制度を導入する際には、社内公募の対象外となる従業員のモチベーションが低下してしまう可能性があるため、社内公募制度を導入する際には、全従業員が公平に扱われるような仕組みを構築することが重要です。
人員配置を最適化して定着率を上げよう
今回は、人員配置を最適化するタイミングや具体的な6ステップ、最適化する際のポイントを解説しました。人員配置の最適化は、業務効率化だけでなく、人材の育成やコスト削減にも繋がり、結果として事業目標達成や企業価値向上に直結する重要な施策です。
そのためには、まず、各業務に必要な人員数やスキルを正確に把握し、従業員の能力や希望を考慮した上で、最適な配置を行うことが求められます。
人員配置の効果を検証するためには、配置前後での業務効率や従業員満足度を比較し、客観的なデータに基づいて改善点を洗い出すことが重要です。
また、個々の従業員の貢献度を可視化することで、より効果的な人材育成や定着率向上にも繋げることができるでしょう。
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