日本の企業がESG経営の一環として力を入れるGX。GXは、温室効果ガスの排出削減を図りながら、持続可能な社会を実現するための取り組みを指します。
具体的には、再生可能エネルギーの導入促進、省エネルギー化、循環型経済の構築など、多岐にわたる施策が含まれます。このGXを担う人材の育成が、新たなビジネスチャンスとして注目を集めています。
CO2排出量算定ソフト国内最大手のアスエネは、GXに特化した転職プラットフォームを立ち上げ、その動きを加速させています。環境情報開示が世界的に義務化される中、スタートアップ企業が日本のGX人材育成を牽引し、ESG経営をより一層推進する役割を担うことが期待されています。
そこで今回は、ESG経営が企業にもたらすメリットやデメリット、ESG経営を成功させるポイントを詳しく解説します。
ESG経営とは
ESGとは、企業が環境問題や社会問題、企業の経営体制に配慮しながら、長期的な成長を目指すための経営理念です。この考え方は、利益追求だけでなく、地球環境や社会全体の持続可能性を重視しています。
| Environment | 環境 |
| Society | 社会 |
| Governance | ガバナンス |
ESGという言葉を最初に広めたのは、コフィー・アナン元国連事務総長が提唱した「責任投資原則」です。これは投資家に対して、企業の財務情報だけでなく、ESG要素も投資判断に組み込むことを促すものです。
ESG経営を取り入れることで、企業は社会からの信頼を高め、中長期的な視点で持続的な成長を実現できると期待されています。
ESGとSDGsの違い
ESGとSDGsは、どちらも持続可能な社会の実現を目指すという点で共通していますが、その定義や主体は異なります。
| ESG | SDGs | |
| 定義 | 企業の非財務的な側面である環境、社会、ガバナンスの要素を評価する投資基準 | 2030年までに達成すべき持続可能な開発のための世界共通の目標 |
| 主体 | 投資家や企業 | 国連や政府、企業などのあらゆる利害関係者 |
ESGは、企業の非財務的な側面である環境や社会、ガバナンスの3つの要素を評価する投資基準として生まれました。一方、SDGsは、国連が提唱する世界共通の目標であり、各国政府や企業、私たち一人ひとりが取り組むべき課題です。
ESGは、企業がSDGsの目標達成に貢献するための具体的な行動指針です。ESG経営を実践することで、企業はSDGsの目標達成に貢献し、同時に、長期的な企業価値の向上も期待できるのです。
SDGsの実現として注目されているスマートタウンについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
ESG経営が企業にもたらすメリット
ESG経営には、多くのメリットが期待できます。以下で詳しく解説します。
ブランドイメージが向上する
ESG経営を推進していることを積極的に発信することは、企業にとって大きなメリットをもたらします。ESG経営により企業のイメージが向上すれば、求職者からの注目を集め、優秀な人材の採用が容易になります。
また、金融機関からの評価も高まり、資金調達が円滑に進みやすくなるなど、企業経営の様々な側面において好影響をもたらすことが期待できるでしょう。
優秀な人材を確保する手順については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
働きやすい環境を整えることができる
ESG経営に取り組むことは、働きやすい職場環境の構築に直結します。国際規範に基づいた経営を実践することで、ジェンダーギャップやハラスメントなどの社会問題の解消に貢献し、多様な人材が活躍できる職場へと変革を遂げることができます。
このような取り組みは、従業員の離職率低下に繋がり、優秀な人材の確保や育成コストの削減など、企業にとって多岐にわたるメリットをもたらします。
投資家から評価される
世界全体のESG投資額は近年急成長しています。この背景には、環境問題や社会問題への関心の高まりから、企業のESG経営が投資判断の重要な要素となっていることがあります。
しかし、一部の企業による見せかけの環境対策が問題視されるようになり、投資家は企業のESG経営における取り組みをより厳しく検証するようになりました。企業側にはより透明性が高く、実効性のあるESG経営が求められています。
これらの状況を踏まえると、企業が資金調達を円滑に進めるためには、多様な利害関係者から評価されるような、長期的な視点に基づいたESG経営戦略の策定が不可欠です。単なる流行に追随するのではなく、自社の事業特性や社会との関わりを深く理解し、真に持続可能な社会の実現に貢献できるような取り組みを推進していくことが求められるでしょう。
大きなビジネスチャンスの可能性がある
ESG経営に取り組み、新たな顧客や取引先を開拓し、これまでとは異なる視点から新規事業を創出することで、大きなビジネスチャンスにつながることが期待されます。ESGの概念が社会全体に浸透していくにつれて、ESG経営に取り組む企業の価値はますます高まっていくでしょう。これは、ESGを重視する消費者や投資家が増加し、そうした利害関係者からの支持を得ることで、企業の収益力や成長力が向上する可能性があることを意味します。
もちろん、ESG経営が必ずしも全ての企業にとって成功を保証するものではありません。しかし、将来的なキャッシュフローの増強という観点から、ESG経営への積極的な取り組みは、企業の持続的な成長を支える重要な要素となり得るのです。
経営リスクの軽減ができる
ESGに関する取り組みが一般的になる中、ESG経営を実践していない企業は、利害関係者からの信頼を失う可能性が高まり、経営に大きな打撃を受ける恐れがあります。経営リスクを軽減するために最も効果的な手段の一つが、ガバナンスの徹底です。
ガバナンスとは、企業の統治構造を指し、企業が法令や倫理規範を遵守し、株主をはじめとした利害関係者の利益を最大化するために、適切な管理体制を構築することです。具体的には、不正行為や情報漏洩を防ぐための仕組みを整備したり、透明性の高い情報開示を行うことなどが挙げられます。
ESG経営におけるデメリット
ESG経営には、多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。企業はESG経営に取り組む上で、デメリットを認識し、適切に対処することが重要です。
長期的に取り組む必要になる
ESG経営の実現には、少なからず時間を要する地道な取り組みが不可欠です。効果が現れるまでには数年単位の期間が必要になるケースもあり、中長期的な視点での戦略策定が求められます。
一方で、短期的には費用対効果が必ずしも見込めないという点も留意すべきです。費用回収までの期間が長期化する可能性を考慮すると、資金力に乏しい企業にとっては、キャッシュフローの悪化や、最悪の場合、経営危機に陥るリスクもあります。
そのため、ESG経営においては、費用対効果を意識したプロジェクト選定だけでなく、資金管理の徹底も重要です。
明確な方向性がわかりにくい
企業のESG経営に対する関心は高まっているものの、評価基準が統一されておらず、複数の調査会社が独自の指標を算出しているのが現状です。そのため、企業は自社のESG経営がどの程度評価されているのか、客観的に把握することが困難です。
特に欧米では、ESG評価基準の多様性による投資家の混乱や、企業の不透明な情報開示などの問題が深刻化しており、一部の証券規制当局は、企業のESG情報開示に関する規制強化に乗り出す動きを見せています。
ESG評価を行う調査会社は世界中に600社以上存在し、各社が独自の視点で企業を評価しているため、企業は自社の強みを最大限に活かせるようなESG経営に取り組む必要があります。そのためには、国内外のESGに関する動向を常に注視し、評価されやすい取り組みを重点的に行うことが求められます。
経営者の振る舞いが注目されるようになる
ESGの考え方が社会に広く浸透するにつれて、企業経営者に対する目がますます厳しくなってきます。企業の顔として、経営者の言動一つ一つが、企業全体の評価に大きく影響を与えるようになるためです。
ESG経営に取り組む企業は、特に厳しい視線にさらされることが予想されます。そのため、経営者はビジネスシーンだけでなく、プライベートにおいても慎重な言動を心がける必要があるでしょう。
ESG経営を成功させるポイント
ESG経営は、企業の持続可能性を追求する上で非常に重要な取り組みですが、安易な導入は必ずしも成功を保証するものではありません。費用対効果を考え、慎重な計画の下で取り組むことが肝心です。
ESGに関連した事業を選ぶ
ESG経営は、すべての事業が容易に取り組めるわけではありません。ESG経営に向いている事業は、以下のような特徴があります。
- 水やエネルギーの使用量を削減しやすい事業
- 貴重な資源に依存しない製品の生産
- 従業員の負担が少ない事業
これらの事業は環境負荷を低減させたり、社会的な責任を果たしたりする取り組みが比較的容易であるため、ESG経営との親和性が高いと言えるでしょう。
一方で、ESG経営に向いていない事業は以下の通りです。
- 環境破壊につながる事業
- 安全性や持続性が低い製品の生産
- 従業員に大きな負担をかける事業
これらの事業は、ESGの観点から多くの課題を抱えており、取り組みが困難なケースが多いです。ESG経営との関連性が強い事業は、生産体制を整えるまでに時間がかかる傾向があります。
社内外の環境を徐々に改善していく必要があるため、短期間での成果を期待することは難しく、数年単位の長期的な計画が必要となります。しかし、安定した生産体制が構築できれば、長期的な成長が期待できるでしょう。
算出基準を基に経営計画を立てる
ESG評価機関は、投資判断の指標となるESGスコアを算出しています。このスコアは、個人投資家をはじめとする様々な投資家が、どの企業に投資するかを判断する際の重要な材料となっています。
代表的な評価機関では、独自の算出基準に基づいたESGスコアを算出しており、算出基準を詳しく分析することで、投資家から高く評価されるような取り組みを特定し、自社の経営計画に反映させることが可能です。
例えば、ある評価機関が「気候変動への対応」を重視している場合、再生可能エネルギーへの転換や温室効果ガスの排出削減などの取り組みを積極的に進めることで、高いESGスコアを獲得できる可能性が高まります。このように、ESG評価機関の算出基準を参考に経営計画を策定することで、企業は持続可能な成長を実現し、長期的な企業価値の向上に繋げることができるでしょう。
取り組むべき重要課題を明確にする
ESG経営は多岐にわたるため、企業が目指す方向性を明確にする上で、重要課題の設定は必要不可欠です。もし、複数の重要課題が特定された場合、全ての課題に同時に取り組むことは現実的ではありません。そこで有効となるのが、課題の優先順位付けです。
自社の事業特性や置かれている状況を踏まえ、投資家や社会から特に注目される重要課題を厳選し、重点的に取り組むことで、より効果的なESG経営を実現することができるでしょう。
ESG経営を成功させて企業価値を向上させよう！
今回は、ESG経営が企業にもたらすメリットやデメリット、ESG経営を成功させるポイントを解説しました。変化の激しい現代社会において、企業が持続的な成長を遂げるためには、ESG経営が必要不可欠となっています。
ESG経営を実践することで、ブランドイメージの向上やスムーズな資金調達など、企業経営に多角的なメリットをもたらすことが期待できます。日本でもESGに取り組む企業が増加しており、様々な成功例も生まれています。ぜひ、自社の経営戦略にESGの要素を取り入れてみてはいかがでしょうか。
