福島県いわき市において、最新のデジタル技術と環境技術を融合させた「スマートタウン」の開発が本格化する見通しです。積水化学工業を代表企業とする企業グループがいわき市と共同でプロジェクトを進めており、今後協定を締結し具体的な開発に着手する予定です。
このスマートタウンでは、IT技術を最大限に活用し、地域全体の安全性を高めるための取り組みが展開されます。具体的には、AIを活用したオンデマンド交通システムの導入や次世代型太陽電池の実証実験などが計画されています。
いわき市は、これらの最新技術により、より安全で持続可能な都市へと生まれ変わることが期待されています。今回は、スマートタウンが注目される理由や必要な技術、国内事例、成功させるためのポイントをご紹介します。
スマートタウンとは
スマートタウンは最新のIT技術を使って、モノや情報、街のあらゆるものをネットワークで繋ぎ、より住みやすく環境にも優しい街にする取り組みです。具体的には、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入、スマートグリッドの構築、交通システムの効率化、便利な市民サービスなどを通じて、自立した経済圏を構築し、都市全体の活性化するような仕組みを作ります。
スマートタウンとスマートシティの違い
スマートタウンと良く似た言葉に「スマートシティ」があります。スマートタウンとスマートシティは、どちらも最新のIT技術を活用して都市の課題を解決し、より良い未来を築くための取り組みです。
本質的には同じ方向を目指していますが、規模に若干の違いがあります。スマートタウンが一つの街区や住宅地のような小規模な地域を対象としている一方、スマートシティは大規模な都市全体を対象としていることが多いです。
| スマートタウン | スマートシティ | |
| 地域 | 大規模 | 小規模 |
| 規模 | 都市全体 | 一つの街区や住宅地 |
ただし、スマートタウンとスマートシティの区別は厳密ではなく、プロジェクトの規模や特徴によって、どちらを使うかが変わることがあります。ちなみに、日本政府が推進している「スーパーシティ」は、スマートシティをさらに発展させたもので、複数の都市機能を統合し、大胆な規制改革を行い全く新しい都市モデルを実現することを指します。
スマートタウンが注目される理由
近年、なぜスマートタウンが注目されているのでしょうか。以下では、スマートタウンが注目される背景やその魅力について、具体的に解説します。
地球環境の保護
スマートタウンは地球が直面するエネルギー危機や資源枯渇といった問題に対する解決策を提供します。最新のIT技術を活用することで、再生可能エネルギーの導入を促進し、エネルギー消費を最適化するのです。
さらに、スマートゴミ収集システムやリサイクル施設の連携により、廃棄物を最小限に抑え、循環型社会の実現に貢献することができます。スマートタウンは、地球環境問題が深刻化する中、具体的な課題に対する具体的な解決策を提示できることから、多くの自治体や企業から注目されているのです。
経済発展
都市における効率の低下や生産性の停滞は、現代社会が抱える深刻な経済課題です。スマートタウンは、都市部の経済成長が鈍化する中、AIなどの先端技術を活用することで、都市のインフラ管理を最適化することができます。
市民の生活の質を向上させると同時に、経済成長にも貢献することが可能です。企業の誘致を促進し、雇用創出にも貢献することが期待されるでしょう。
少子高齢化による労働人口の減少
日本の少子高齢化が進む中、労働人口の減少は深刻な社会問題となっています。スマートタウンでは、自動運転車やドローン、ロボットなどの先端技術を導入することで、物流や製造業、サービス業など、さまざまな分野において労働力の不足を補うことができます。
例えば、自動運転車が物流の効率化を図り、ドローンが配送の新たな手段として活用されることで、人手不足が解消される可能性があるでしょう。また、リモートワークの普及や業務のDX化が進み、場所を選ばずに働ける環境が整いつつあります。そのため、都市部への人口集中が緩和され、地方への移住が促進されることも期待されています。
自動運転については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
SDGsの実現
SDGsはSustainable Development Goalsの略称で、持続可能な開発目標のことです。2030年までに達成したい17の目標からできています。
例えば、「貧困をなくそう」や「飢餓をゼロに」といった、誰もが幸せに暮らせる社会を作るための目標があります。スマートタウンにおいてSDGsは、目標達成への貢献に寄与するとして世界中で注目されているのです。
スマートタウンに必要な技術
スマートタウンでは、最新技術が活用され、私たちの暮らしを大きく変えようとしています。以下では、スマートタウンを支える最新技術を詳しくご紹介します。
AI
スマートタウンにおいて、AI（人工知能）は欠かせない存在となっています。AIは人間の知能を模倣し、大量のデータを分析・学習することで、高度な判断や予測を行うことができる技術です。AIは都市の様々な場面で活用され、市民の生活の質向上や都市全体の効率化に貢献しています。
例えば、AIチャットボットの導入により、市民からの問い合わせに24時間365日対応が可能となり、行政職員の負担を軽減するとともに市民の利便性も向上します。AIの活用により、都市の様々な課題を解決し、市民の生活の質を向上させることが期待されているのです。
AIチャットボットによる問い合わせ業務については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
AI画像解析
AI画像解析とはAIを用いて、画像や映像に含まれる情報を分析し、特定の物体やパターンを認識・分類して判断する技術です。従来の画像解析では難しかった複雑なパターンや微妙な差異をAIが学習することで、高精度な分析が可能になりました。
AI画像解析は、スマートタウンの様々な場面で活用され、市民の安全や利便性の向上に貢献しています。例えば、防犯カメラにAI画像解析を導入することで、不審な人物や行動を自動で検知し、犯罪発生を未然に防ぐことが可能です。
また、過去のデータから学習することで、AIの検知精度が向上し、より効果的な監視システムを実現できるでしょう。
データ連携基盤
スマートシティの実現には、様々なテクノロジーが連携して機能することが不可欠です。その中でも、データ連携基盤はAIなどの多様な技術を統合し、都市全体の効率化を推進する上で、極めて重要な役割を果たします。
交通やエネルギー、防災など、都市の様々な分野のデータを連携させることで、より効率的な都市運営を実現することが可能です。例えば、交通渋滞の緩和やエネルギー消費の最適化、災害時の迅速な対応などが挙げられます。
また、異なるジャンルのデータを組み合わせることで、新たなサービスやビジネスモデルを生み出すこともできます。例えば、個人の行動パターンや健康データを分析し、パーソナライズされたサービスを提供したり、地域全体の経済活性化に繋がる新たなビジネスを創出したりすることができるでしょう。
IoT
IoTとは「Internet of Things」の略で、モノのインターネットという意味です。従来、インターネットに接続されていたのはコンピューターやスマートフォンなどの機器が中心でしたが、IoTは、家電製品や自動車、工場の機械など、「モノ」がインターネットに接続されることを指します。
また、IoTデバイスから収集された大量のデータを分析することで、より高度なサービスや製品の開発も期待できるでしょう。
ICT
ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、情報通信技術のことを指します。ICTは情報収集や処理、伝達を効率化し、都市の様々な場面で活用されています。
例えば、医療分野では時間や場所にとらわれず、医師と患者がオンラインで診療できるサービスが該当します。遠隔地に住む人や通院が困難な人にとって、医療へのアクセスが容易になるのです。
医療だけでなく、交通やエネルギー、防災など、都市の様々な分野において活用され、便利で持続可能な都市の実現に貢献しています。
エッジコンピューティング
エッジコンピューティングとは、データを大規模なデータセンターではなく、データが生成される「エッジ」と呼ばれるネットワークの端で処理する技術です。従来は、大量のデータをクラウドに送って処理していたものをデータの発生源であるセンサーやデバイスの近くで処理することで、より迅速かつ効率的なデータ処理が可能です。
エッジコンピューティングを活用することで、リアルタイムなデータ処理やネットワーク帯域の負荷の軽減、データ漏洩のリスクを低減するメリットがあります。
スマートタウンの国内事例
日本各地の自治体では、福島県いわき市以外にもスマートタウン実現に向けた様々な取り組みが活発に行われています。以下では、国内のスマートタウンにおける事例をいくつかご紹介します。
神奈川県藤沢市
藤沢市に誕生した「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン（Fujisawa SST）」は、1,000世帯もの人々が暮らすスマートタウンです。従来のスマートタウンは、最新技術を導入したインフラを整備した上で、住居や施設を建設する「技術中心」の考え方で開発されてきました。
しかし、Fujisawa SSTは住人の声を聞き、新しいサービスや技術を取り入れ、街を常に進化させていたり、住人の快適性や地域特性を考慮し、生活のあらゆる側面から街を設計する取り組みをしています。
また、100年後の未来を見据えたビジョンの実現に向けて、住人と共に街づくりを進めており、人々のつながりを大切にする住民が主役の街づくりを目指しています。
神奈川県横浜市
パナソニックが推進する「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン（Tsunashima SST）」は、パナソニックが所有する工場跡地を活用し、野村不動産などの様々な企業や横浜市などが協力して、未来都市の実現を目指しています。
Tsunashimaサスティナブル・スマートタウンは、最先端の技術を活用しながらも地域の歴史や文化を尊重し、人々が快適に暮らせる環境を提供します。
スマートタウンを成功させるためのポイント
スマートタウンは、最新テクノロジーを活用して都市の課題を解決し、快適な生活を実現するための新たな都市モデルです。しかし、スマートタウンの構築は様々な要素が複雑に絡み合うため、成功への道は決して平坦ではありません。
以下では、スマートタウンを成功させるための重要なポイントをいくつかご紹介します。
推進する意識が根付いた組織づくり
スマートタウンの推進は、技術の導入をするだけではなく、組織全体が一体となって取り組むことが重要です。プロジェクトを成功に導くためには、推進部署の存在が不可欠です。
推進部署は、スマートタウンのビジョンや目標を全社員に周知し、組織全体の意識を統一する役割を果たします。そのため、社員一人ひとりが自らの仕事とスマートシティの目標を結びつけ、モチベーションを高めることができるでしょう。
資金の確保と効率化
スマートタウンの構築は、多額の費用と長期的な取り組みを要する大規模なプロジェクトです。効果を実感できるまでには時間がかかり、途中で資金調達が難しくなることで、プロジェクトが中断してしまうリスクもあるでしょう。
そのため、スマートタウンを成功させるためには、資金の確保と効率的な運用が非常に重要です。都市計画やインフラ整備、ITなど、様々な分野の専門家が連携することで、無駄な費用を削減し、効率的なプロジェクト運営を実現できるでしょう。
また、スマートタウンの将来像を明確にし、長期的なロードマップを策定することで、長期的な視点での計画と実行が可能になります。
住民の理解と協力
スマートタウンの成功は、最先端のテクノロジー導入だけでなく、市民の理解と積極的な参加が不可欠です。住民がスマートシティのビジョンを共有し、プロジェクトに共感することで、より持続可能で魅力的な都市へと発展させることができるのです。
市民の理解と参加を深めるためには、以下の施策が有効です。
- 市民の意見を収集できるプラットフォームを構築
- スマートタウンの進捗状況や最新情報をリアルタイムで公開
- アンケート調査で市民のニーズや意見を把握
- オンラインイベントで遠隔地に住む市民の参加を促す
- モデルルームや施設を公開し、実際に触れて体験する機会を提供
このように、市民一人ひとりが主体的に関わることで、より豊かな未来を築くことができるでしょう。市民との共創を重視し、継続的なコミュニケーションを図ることが、スマートシティの成功の鍵と言えます。
スマートタウンの成功には様々な要素が必要
今回は、スマートタウンが注目される理由や必要な技術、国内事例、成功させるためのポイントをご紹介しました。スマートタウンの構築は、建物やインフラの整備ではなく、都市全体のシステムを革新する壮大なプロジェクトです。
そのため、技術の導入だけでなく、組織体制の整備や費用対効果の分析、市民の理解と協力といった多岐にわたる要素を考慮した長期的な計画が必要です。技術や組織、費用などの要素は、それぞれが密接に関連し合い、互いを補完し合うことで持続可能で住みやすい環境へと進化していくのです。
しかし、都市の進化は技術の進歩は目まぐるしく、市民のニーズも常に変化するため、計画段階から柔軟な対応ができるよう、継続的な見直しと改善が求められるでしょう。
