みずほ銀行は2024年8月から、電話やチャット、LINEなどで顧客とコミュニケーションできるAIの活用を開始すると発表しました。具体的には、生成AIで顧客とのやり取りをリアルタイムに分析しオペレーターに対して、適切な回答や関連商品・サービスを提案する仕組みです。
みずほ銀行は新システム導入により、顧客応対などにかかる時間を約3割削減、顧客の通話時間も約2割削減できるとしており、顧客応対の質向上と業務効率化を図ります。今回は、AIによる問い合わせ業務の仕組みやメリット、デメリット、導入事例や注意点を解説します。
AIによる問い合わせ業務とは?
AIによる問い合わせ業務とは、チャットボットなどを利用して、顧客からの問い合わせへの自動回答や対応を支援する業務を指します。チャットボットとは「チャット」と「ロボット」の言葉を組み合わせた造語で、自然言語処理やAIなどの技術を用いて、人間との会話をシミュレートするコンピュータープログラムです。
AIによる問い合わせ業務は、みずほ銀行以外でも現在様々な分野で活用されており、AI技術の進歩により今後ますます向上していくことが予想されます。
AIによる問い合わせ対応の仕組み
AIチャットボットは、「機械学習」と呼ばれる技術を用いて、大量のデータを学習します。学習データには、以下のようなものが含まれます。
- FAQデータ
- 過去の顧客とのやり取り
- 販売している商品やサービスに関する情報
これらのデータを学習することで、顧客の質問の意図を理解し、適切な回答を生成する能力を身につけていきます。ユーザーが入力した内容は、自然言語処理により理解します。
自然言語処理はNLPとも呼ばれ、以下のような処理を行い人間の自然言語を解析し、その意味をコンピューターが理解できるよう処理する仕組みです。
処理の流れ | 内容 |
1.形態素解析 | 文章を単語や記号などの基本的な単位に分解する |
2.構文解析 | 単語や記号の並び方を分析し、文章の構造を理解する |
3.意味解析 | 単語や記号の意味を分析し、文章全体の意味を理解する |
このようなNLP技術の進歩により、複雑な文章や曖昧な表現であっても意味を正確に理解できるようになってきています。
AIによる問い合わせ業務のメリット
企業において顧客満足度向上と業務効率化は永遠の課題です。そんな課題解決の鍵となるのが、AIによる問い合わせ業務の導入です。
以下で、AIによる問い合わせ業務のメリットについて詳しく解説します。
人件費を削減することができる
顧客対応は、企業にとって重要な業務の一つです。しかし、電話やメールによる問い合わせ対応は担当者の負担が大きく人件費もかさみます。
AIを問い合わせ業務に導入すると、24時間365日の問い合わせ対応ができ、よくある質問への回答や顧客情報の入力作業を自動化することができます。そのため、担当者の負担を軽減し、より付加価値の高い業務に集中することができるでしょう。
適切な回答を導き出すことができる
顧客満足度向上は、企業にとって永遠の課題です。顧客からの問い合わせに迅速かつ適切に対応することは、顧客満足度向上に不可欠です。
AIは顧客の会話の前後の文脈を理解し、より適切な回答を生成することができたり、過去の顧客との会話ログを分析し、類似した質問に対する回答を参考に、適切な回答を生成することができます。このように、AIの自然言語処理の技術を活用することで、顧客の質問を正確に理解し、適切な回答を導き出すことができるのです。
親しみを感じながら会話できる
従来の電話やメールによる問い合わせ対応は、担当者と顧客の間に距離感が生まれやすく、親しみを感じながら会話することが難しいという課題がありました。しかし、AIチャットボットや音声認識システムは、顧客と自然な会話を実現することができるため、親しみを感じながら会話することができます。
AIは顧客の感情を分析し、顧客情報に基づき一人ひとりに合わせた回答や提案を行うことが可能なため、顧客との信頼関係構築に貢献することができるでしょう。
AIによる問い合わせ業務のデメリット
AIによる問い合わせ業務は24時間365日対応が可能で、顧客からの問い合わせに迅速かつ正確に回答することができます。しかし、導入前に知っておくべきデメリットも存在します。
以下で詳しく見ていきましょう。
誤ったデータを学習すると回答の精度が下がる
先述したように、AIは大量の学習データを用いて学習します。しかし、学習データに誤りがあると、AIは誤った情報を学習し、間違った回答を生成してしまう可能性があります。
そのため、回答の精度が下がってしまい、顧客満足度を低下させてしまう恐れがあるのです。AIを導入する際には、学習データの質に十分注意することが重要です。
AIの質により学習や設定に手間がかかる
AIの質は、学習データの質やアルゴリズムの複雑さなどによって大きく左右されます。そのため、AIの質が低い場合、十分な成果を得られず、導入にかけた時間やコストに見合わなくなる可能性があります。
高品質なAIを導入するためには、高品質な学習データの収集や複雑なアルゴリズムの開発、運用環境に合わせたAIの調整が必要です。
状況により人間によるチューニングが必要となる
AIを導入しても、完全に自動化できるわけではありません。先述したように、常に人間が監視し、必要に応じて調整する必要があります。
顧客のニーズや問い合わせ内容は常に変化しており、AIもそれに合わせて適応していく必要があるためです。例えば、新しい商品やサービスに関する問い合わせの場合、AIは十分な学習データを持っていません。
そのため、人間がAIに最新の情報を提供し、AIの回答を修正する必要があるのです。
AIによる問い合わせ業務の導入事例
AI技術は、問い合わせ業務の効率化において大きな可能性を秘めています。近年、AIを導入し、様々な成果を上げている企業が続々と現れています。以下で、具体的な導入事例をご紹介します。
社内問い合わせのヘルプデスク
ダイキン工業株式会社では、AIチャットボットを導入し、メールやネットワークに関する社内問い合わせ業務の効率化と顧客満足度向上を実現しています。従来、社内からの問い合わせは電話で対応しており、担当者の負担が大きくなっていました。
しかし、チャットボットの導入で、1日100件以上の質問に自動回答できるようになり、電話対応工数を大幅に削減することができたようです。また、チャットボットは質問内容のログを残すため、要望を「見える化」することができます。
そのため、重点的に対応が必要なFAQを絞り込みアップデートすることで、対応品質の向上にも繋げているようです。
LINEやFacebook Messengerで自動応対
オンライン生命保険の販売を行うライフネット生命保険株式会社は、LINEやFacebook Messengerで利用できるチャットボットを導入することで、保険相談を身近にし、業務効率化を実現しています。従来の保険相談は電話や対面が主流でしたが、電話への躊躇や小さな子どもがいる家庭では対面相談が難しいなどの理由から、保険会社への問い合わせを控えてしまう子育て世代が多い傾向にありました。
そこで、多くのユーザーが日常的に利用しているLINEで相談できるチャットボットを導入し、1分で最適な保険を見つけられる「ほけん診断」や生年月日などを入力するだけで見積もりが行える「保険料見積り」などの機能を充実させました。その結果、問い合わせ件数は大幅に増加し、特に子育て世代からの利用が急増しているようです。
また、チャットボットによる自動応対と有人対応の棲み分けを実現することで、担当者はより複雑な内容や専門性の高い相談に集中できるようになり、業務効率化や顧客満足度向上にも繋がっています。
チャットボットで顧客対応の時間短縮
「@cosme(アットコスメ)」を運営する株式会社アイスタイルは、チャットボットで、顧客問い合わせを自動化することにより、業務効率化と顧客満足度の向上を実現させています。従来の顧客対応は有人対応が中心でしたが、ちょっとした質問にも長時間待たせてしまうことが課題でした。
迅速な対応が求められていたものの、人手不足もあり対応が追いつかない状況だったようです。そこでアイスタイルは、チャットボットを導入し、FAQや商品情報など、頻繁に寄せられる質問に自動で回答できる仕組みを構築しました。
その結果、24時間365日顧客の質問に迅速かつ正確に回答することができ、顧客満足度を大幅に向上させることに成功しました。また、チャットボットにより、顧客対応にかかるスタッフの負担を大幅に軽減することができ、より複雑な質問や個別の相談に集中できるようになったようです。
AIを問い合わせ業務に導入するときの注意点
AIによる問い合わせは、顧客対応の効率化や顧客満足度向上など、多くのメリットをもたらすでしょう。しかし、導入を成功させるためには、いくつかの注意点を事前に考慮する必要があります。以下で詳しく解説します。
導入の目的を明確にする
AIを問い合わせ業務に導入し成功させるためには、事前準備が非常に重要です。特に、自社の課題と現状の把握・分析は、AIの問い合わせ業務を成功させる上で欠かせません。
課題と現状を明確にすると、課題を解決し現状を改善するために、どのような目的でAIチャットボットを導入するのかを明確にすることができます。導入の目的を明確にすることで自社の課題や現状に合致した機能や性能を持つAIを選ぶことができるでしょう。
スモールスタートで開始する
いきなり大規模なAIの導入を試みると、コストやリスクが大きくなりがちです。そのため、AIによる問い合わせ業務を成功させるためにはスモールスタートで導入し、効果や課題を検証しながら徐々に規模を拡大していくことをおすすめします。
例えば、 FAQや注文受付などの業務を1つだけAI導入し、解決できない場合のみ、窓口へ問い合わせるという動線を作るのも良いでしょう。
AIシステムを運用する人材育成を行う
問い合わせ業務にAIシステムを導入しても、正しく運用できなければ、効果を最大限に発揮できません。AIによる問い合わせ業務を成功させるためには、運用するための人材育成が非常に重要です。
AIシステムを運用する人材には、以下の能力が必要になります。
- AI技術に関する基礎知識
- AIを使いこなせるスキル
- データ分析スキル
- 問題解決能力
- 倫理的に利用するための知識と意識
上記のような能力を備えた人材を育成することで、AIによる問い合わせ業務の成果を実現することができるでしょう。
AIの問い合わせ業務を導入するならセミナーがおすすめ
自社でAIシステム運用の人材育成をするには、社内研修や外部研修、OJT、セミナーなど様々な方法が存在しますが、AI問い合わせ導入を成功させるためには、オンラインセミナーがおすすめです。オンラインセミナーでは、インターネット環境さえあれば、場所や時間を選ばずに参加できるため、多忙な方にもおすすめです。
また、利便性からAIの基礎知識はもちろんのこと、書籍やインターネットでは得られない最新の情報、独学では難しい体系的な知識を身につけることができます。
チャットボット入門セミナー
AI研究所が開催する「チャットボット入門セミナー」は、チャットボットの基礎知識から、AIチャットボットの作成方法、応用方法までを幅広く学ぶことができる入門セミナーです。未経験の方でも1日で応用レベルまで理解することができ、実務で使える知識と活用術を身につけることができます。
応用では、FAQに対応したAIチャットボットやLINEを利用した自動応答システム、予約システム用チャットボットなど、様々なチャットボットが作成できるようになります。e-ラーニング形式で、いつでもご自分のペースで受講できる上に、視聴期間中は何回でも視聴可能なので、何回でも復習できることが魅力です。
また、社員研修用に内容のカスタマイズも可能なため、自社に合ったオリジナルのセミナーを作成することもできます。
AIによる問い合わせ業務は効率化に有効
今回は、AIによる問い合わせ業務の仕組みやメリット、デメリット、導入事例や注意点を解説しました。AIを問い合わせ業務に導入することは、顧客満足度向上や業務効率化など、多くのメリットをもたらします。
しかし、事前に十分な準備をせずにいきなり本格的な導入を試みると、失敗してしまう恐れもあります。また、AIシステムは導入後も継続的な運用が必要であるため、適切な知識とスキルを持った人材が必要です。
AIシステムを導入し、問い合わせ業務を成功させるためには、セミナーなどを活用し、AI技術に関する基礎知識や操作スキルなどを身に付けることが有効です。AIによる問い合わせ業務を成功させ、顧客満足度向上や業務効率化を実現しましょう。