NTT東日本は、北海道大学と連携し、同大学構内に「スマートイノベーションラボ 北海道 札幌共創ルーム」を設立しました。
この施設には、地域限定の高速通信規格である5Gや、サーバーに接続可能なネットワーク環境が整備されており、北海道におけるスマート農業の実証を強力に推進しています。
北海道では農業従事者の減少が深刻な問題となっていますが、NTT東日本の通信技術を活用することで、この課題解決の一端を担おうとしています。
具体的には、ローカル5Gによる高速かつ安定した通信環境を基盤に、AIを活用した遠隔監視や自動化など、様々なスマート農業技術の実証を進めています。
今回は、スマート農業におけるAIの必要性や活用事例、スマート農業の注意点を詳しく解説します。
AIを活用したスマート農業とは?
AIを活用したスマート農業とは、AIの最先端技術を導入することで、農業の生産性と効率性を高める取り組みです。
具体的には、農作業の自動化や情報共有の円滑化、データ分析による最適な栽培管理といった手段を通じて、人手不足の解消や高品質な農産物の安定生産を目指しています。
スマート農業の目的については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
スマート農業におけるAIの必要性
スマート農業において、AIはどのように農業の課題を解決し、新たな可能性を開いているのでしょうか。
以下では、スマート農業におけるAIの必要性を詳しく解説していきます。
農業の生産性を高めるため
従来は多くの工程を手作業で行うため、時間と労力を要していましたが、AIの導入により、生産管理や出荷前の検品などの作業を自動化・効率化できるようになりました。
例えば、スマート農業でAIを活用した画像認識技術を用いれば、作物の生育状況や病害虫の発生を迅速かつ正確に検出することが可能です。
また、センサーネットワークと組み合わせることで、土壌の水分量や気温などのデータをリアルタイムで収集し、最適な灌水や施肥を行うことができます。
スマート農業における技術により、少ない労力でより多くの作物を高品質に生産することが可能となり、結果として生産効率が大幅に向上します。
農業が人手不足のため
近年、若い世代が都市部へと流出する傾向が加速し、後継者不足が深刻な問題となっています。
この問題は、単に農業従事者の数が減少するだけでなく、長年培われてきた伝統的な技術やノウハウの継承が断絶されるという、より深刻な問題を引き起こしかねません。
熟練の農家が持つ高度な技術や深い知識は、長年の経験と勘に基づいたものであり、一朝一夕に後天的に身につけることは困難です。
これらの貴重な技術や知識が失われることで、農産物の品質の低下や多様な作物の栽培が困難になるといった事態が懸念されます。
この問題を解決するためには、スマート農業でAIなどの先端技術を活用し、熟練農家の技術や知見をシステム化することが一刻を争う課題です。
また、スマート農業でAIを活用することで、作物の生育状況を精密にモニタリングし、最適な栽培管理を行うことが可能です。
また、ロボット技術の導入により、収穫作業の自動化や省力化も期待できるでしょう。
農薬の使い方を改善させるため
農作物を病害虫から守り、安定した収穫を確保するためには、農薬散布が不可欠です。
しかし、従来の人手による農薬散布は散布量にムラが生じたり、必要以上の広範囲に農薬が散布されたりするなど、効率性や正確性に欠ける問題がありました。
また、農薬散布作業は、作業者の健康を害する可能性や環境への負荷も懸念されています。
スマート農業でAIを活用することで、農作物の生育状況や病害虫の発生状況をリアルタイムにモニタリングし、最適な農薬の種類や散布量を自動で算出することができます。
ドローンやロボットと連携することで、ピンポイントで必要な箇所にのみ農薬を散布することが可能になるのです。
リアルタイムに情報を解析・処理するスマートセンシング技術については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
自然災害の被害が増えているため
近年、大型台風や豪雨、豪雪など、極端な気象現象が頻発し、その影響は深刻な打撃を与えています。
特に、収穫期に自然災害に見舞われると、農作物の損失は甚大となり、農家の経営を圧迫する要因となります。そのため、早期予測と対策の重要性はますます高まっています。
スマート農業によりAIを活用し、気象データと過去の収穫量データを詳細に分析することで、今後の収穫量をより正確に予測することが可能です。
AIによる予測は、収穫量を推定するだけでなく、自然災害による被害を最小限に抑えるための具体的な対策を立案する上でも役立ちます。
例えば、収穫時期を早めたり遅らせたりといった対策を事前に検討することで、災害による損失を軽減できる可能性があるのです。
スマート農業により、気象データと収穫量データを連携させ、AIを活用することで、農業は自然災害のリスクを軽減し、安定的な生産ができるようになるでしょう。
スマート農業におけるAI活用事例
AIによる効率化や高品質化は遠い未来の話ではなく、すでに多くの農場でスマート農業が実用化され、その成果を上げ始めています。
以下では、スマート農業におけるAI活用の成功事例を詳しく解説していきます。
野菜の自動収穫
ある自動車メーカーは、スマート農業によりAIを搭載した自動野菜収穫ロボットを開発しました。
収穫時期は、多くの農家にとって多忙を極める時期です。収穫規模が大きくなるほど、それに伴う人件費などのコストも増加しがちなため、24時間稼働可能な自動収穫ロボットの開発に成功しました。
スマート農業でロボットを導入することで、農家の作業負担を大幅に軽減し、収穫作業の効率化を実現したのです。
将来的には収穫作業だけでなく、雑草除去作業も自動化することで、さらに作業効率の向上に繋がることが期待されています。
栽培の最適化
あるスタートアップ企業では、AIを駆使した美味しいトマトを栽培しています。
スマート農業により、トマトの葉の状態や気温、湿度、日射量などの情報をカメラとセンサーを用いて綿密に収集されます。
集められたデータをAIが分析することで、熟練の農家が行ってきたかのように、最適な水やりのタイミングを自動で判断できるようになりました。
スマート農業によるAIの導入により、経験や勘に左右されることなく、安定的に高品質なトマトを栽培することが可能になりました。
農家はより創造的な作業に時間を割くことができ、農業の新たな可能性を切り開いています。
スマート農業におけるAI活用の注意点
スマート農業におけるAIの導入は、農業の生産性向上や労働力不足の解消に繋がると期待されています。
しかし、スマート農業においてAIを導入する際には、いくつかの注意点が存在します。以下で、スマート農業におけるAI活用の注意点を詳しく解説します。
AI導入には初期コストがかかる
AI技術はスマート農業の現場にも徐々に導入され始めていますが、その導入には高額な初期費用がかかることが大きな課題となっています。
特に、小規模な農家にとっては、スマート農業における多額の投資は容易ではありません。
AI導入によって、作業の効率化や生産性の向上、高品質な農産物の生産による収益増などが期待できる一方で、初期投資に対する回収期間や限られた資金の中でどのシステムを導入すべきかなど、農家にとっては悩ましい問題です。
しかし、その技術は日々進化しているため、スマート農業によるAI導入コストは徐々に低下していくと考えられます。
また、国や自治体によるスマート農業に関する補助金制度や金融機関による融資制度を利用することで、初期投資の負担を軽減できる可能性もあります。
AI導入には課題は多いものの、そのメリットは非常に大きく、スマート農業にすることで農業の未来を大きく変える可能性が期待されています。
一定の知識や技術が必要となる
スマート農業においてAIを活用した農業機械は、高度な技術を用いており、その操作方法や収集された膨大なデータを有効活用するためには、専門的な知識やスキルが求められます。
特に、長年慣れ親しんだ従来の農業手法に慣れている高齢の営農者にとっては、スマート農業におけるAIの利用自体が大きな障壁となっているのが現状です。
スマート農業を成功させるためには、農業機械の導入だけでなく、営農者への丁寧な指導や、AIリテラシー向上のための教育プログラムの充実が不可欠でしょう。
また、農業分野におけるデータサイエンティストやAIエンジニアに精通した人材の育成も急務と言えます。
今後、スマート農業がより一層普及していくためには、技術的な側面だけでなく、人材育成や以下のようなセミナー活用にも力を入れていく必要があるでしょう。
AIエンジニア育成講座
AIエンジニア育成講座は、わずか2日間でAIプログラミングの基礎をしっかりと学べる、育成講座です。
この講座の最大の特徴は、プログラミング未経験者でも安心して受講できる点です。
会場受講はもちろん、オンラインでも完結するため、時間や場所に縛られず、自分のペースで学習を進めることができます。この講座では、以下のようなことが学べます。
- AIを構築するための機械学習の仕組み
- Pythonによる実装
- ディープラーニング
- AIの開発環境構築方法
- 機械学習ライブラリの活用
- AIモデルの評価・改善
- 高度な画像認識や自然言語処理
具体的には、センサーデータを用いた数値処理による行動分析、画像処理AIによる画像認識、RNNモデルの実装など、スマート農業に活用できる最先端のAI技術に触れることができます。
また、機械学習に必要なデータの前処理や特徴量エンジニアリングなどの高度なデータ処理スキルも習得可能です。
データサイエンティストセミナー
データサイエンティストセミナーは、データサイエンスの基礎を2日間で集中的に学ぶことができるプログラムです。
プログラミング経験がない方でも、Pythonを使ったデータ分析の基本から、スマート農業に繋がるビジネス課題解決のためのデータ活用まで、幅広く学ぶことができます。
本セミナーでは、単に分析を行うだけでなく、分析結果を基に仮説を立て、検証するための手法についても学びます。
また、社内外の技術者と連携してプロジェクトを推進するためのコミュニケーションスキルやデータからビジネス課題を抽出し、スマート農業における解決策を提案するためのプレゼンテーションスキルも身につけることができるでしょう。
主な講座内容は以下の通りです。
1日目 | 2日目 |
統計学やPythonによるプログラミング | 仮説検証の選定方法 |
データ分析の一連の流れ | 技術者への発注及びプロジェクト推進 |
分析結果を改善するための方法 | 課題解決の方針立てと発表 |
スマート農業におけるAI活用は様々な課題が改善できる
今回は、スマート農業におけるAIの必要性や活用事例、注意点を詳しく解説しました。
スマート農業により、従来、人手で行われてきた農業作業を自動化し、効率化することで、深刻化する担い手不足や高齢化問題の解決に繋げようとする試みが広がっています。
スマート農業におけるAIの導入により、作業効率の向上だけでなく、品質の安定化や生産量の増大も期待できるでしょう。
しかし、スマート農業におけるAIの導入には、高額な初期投資やシステムの運用に必要な専門知識の習得などの課題も存在します。
農業経営者は、自らの営農状況や将来の展望を踏まえ、スマート農業におけるAIの導入が自らの農業経営にどのようなメリットとデメリットをもたらすのかを慎重に検討する必要があるでしょう。