2024年10月に開催された「SKS JAPAN 2024」では、食産業におけるAI活用が大きな注目を集めました。AIは、食産業において様々な課題解決に貢献することが期待されています。
例えば、調理ロボットの開発においては、AIがレシピ生成や食感予測などの分野で活用されています。調理ロボットの開発が進むことで、人手不足の解消や調理の均質化、食品ロスの削減などが実現できる可能性があります。
今回は、調理ロボットが注目されている理由やビジネスモデルをご紹介します。
調理ロボットとは
調理ロボットとは、これまで人間が行ってきた調理工程を自動化するロボットのことです。センサーや高度な制御アルゴリズムを組み込むことで、以下のような様々な料理工程を自動化することができます。
食材をカットする | 様々な食材の大きさや形状に合わせて、自動でカットする |
加熱する | 茹でる、炒める、揚げるなどの加熱機能を備えており、様々な調理工程を自動化する |
混ぜる | 食材を均一に混ぜ合わせる |
ブレンドする | 様々な調味料を0.1g単位で自動計量し、最適な割合でブレンドする |
盛り付ける | 食材に合わせた掴み方で、形を崩すことなく正確に盛り付ける |
発酵させる | 特定の温度や湿度を保ちながら食材を発酵させる |
自動洗浄する | 水の使用量を大幅に削減し、調理後の洗浄作業まで自動化できる |
特に注目すべきは、人間が手作業で行うような繊細な業務を再現できる点にあります。例えば、そばロボットは、そばを自動的に茹でて、ぬめりを取り、水で締める工程までを正確かつ効率的に行います。
これらの調理ロボットは、主に外食産業での活用が進んでおり、人間が担当していたタスクを代替することで、省人化を実現するだけでなく、料理の品質を均一化し、作業の属人化を防ぐ効果も期待できます。
調理ロボットが注目されている理由
調理ロボットは食材のカットや調理、盛り付けなどの作業を自動化し、厨房の省人化や効率化、調理品質の均一化や食品安全性の向上といったメリットも期待されています。
以下では、調理ロボットが注目されている背景にある社会的な課題や技術的な進化、調理ロボットがもたらす可能性について詳しく解説します。
人手不足が深刻化しているため
パーソル総合研究所の調査によると、2030年にはサービス業界で400万人もの人手不足が予測されています。従来、人手不足の解消には、新たな人材の雇用が主な手段でしたが、人手不足が深刻化する現代において、人材の確保はますます困難になっています。
そのため、調理ロボットは、人を雇う以外に人手不足を解決できる新たな選択肢として注目されています。
業務効率が向上するため
人間は集中力が途切れると作業スピードが低下し、誤操作も発生しやすくなりますが、調理ロボットは休むことなく一貫した作業が可能です。
さらに、従業員の労働環境を改善し、働きやすい環境を提供することで、企業が従業員に対するケアを向上させる上でも価値を発揮するでしょう。調理ロボットを調理場に導入すると、一連の調理工程が自動化され、注文から提供までのオペレーションがスムーズになります。
例えば、パスタの提供に3分かかっていた飲食店が、調理ロボット導入により最速45秒でお客様への提供を可能にしたケースがあります。このように、調理ロボットの導入は大幅な時間短縮と業務効率化が期待できるのです。
品質が均一になるため
人間が調理を行う場合、熟練したプロの料理人であっても、体調や精神状態、ちょっとした気の緩みから、味にばらつきが生じる可能性は否めません。
一方、調理ロボットは、内部に蓄積されたデータと精密なアルゴリズムに基づいて調理を行うため、常に一定の品質で料理を提供することができ、顧客に安心感と信頼感を与えることができます。
特に、チェーン展開している飲食店や複数の料理人が交代で調理を担当する店舗においては、この品質の一貫性こそが大きな強みとなるでしょう。
アルゴリズムについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
作業環境の安全性が向上するため
調理ロボットの導入は、従業員の安全性を大幅に向上させる可能性があります。特に、揚げ物調理を行うロボットの場合、従業員は高温のフライヤーから離れた場所で作業を行うことができるため、油煙を吸い込むリスクや火傷のリスクを軽減し、より安全な職場環境を実現します。
また、調理ロボットは、食材のカットや盛り付けなど、従来は手作業で行っていた作業も自動化することができるので、包丁などによる怪我のリスクを減らすだけでなく、 RSIなどの職業病のリスクも軽減することが期待できるでしょう。
常に同じ作業を正確に行うため、調味料の計量ミスや調理器具の操作ミスによる火災などを防ぐこともできます。調理ロボットの導入は、従業員の安全性を向上させるだけでなく、より働きやすい職場環境を実現する上でも大きなメリットをもたらします。
調理ロボットが抱える課題
調理ロボットは、人手不足解消や品質の均一化など、多くのメリットをもたらします。しかし、導入を検討する際には、以下の課題も考慮する必要があります。
多くのコストがかかる
調理ロボット導入には、レンタル費用や購入費用の初期投資が不可欠です。その費用は種類によって大きく異なりますが、月額10万円以上かかるケースも珍しくありません。
また、5年契約などの長期契約が必須となる場合もあり、導入にあたっては企業の経営状況をしっかりと把握し、投資額の回収見込みを慎重に判断する必要があります。
調理ロボットは高度な機能を搭載しているため、どうしても高額になりがちです。導入を検討する際は、人件費削減効果と導入コストのバランスを考慮することが重要です。
調理する分野が限られる
調理ロボットは、設定された調理方法に沿って正確に作業を行うことができますが、その反面、人間のように臨機応変な対応ができないという側面も持ち合わせています。
例えば、たこ焼きロボットを導入した場合、たこ焼きの調理に特化しているため、他の料理を作ることはできません。
そのため、様々な料理を提供する飲食店では、特定の分野の作業しかできない調理ロボットは、その能力を十分に活かせない可能性があります。
調理ロボットの導入は、人手不足解消や品質の均一化に繋がる一方で、提供できる料理の種類が限られるという制約を抱えていることを理解しておく必要があります。
今後の技術発展により、汎用性の高い調理ロボットが登場する可能性もありますが、現状では、調理ロボットの導入は、提供する料理の種類や業態を慎重に検討する必要があると言えるでしょう。
汎用AIについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
調理ロボットのビジネスモデル紹介
最後に、外食産業の効率化に貢献する調理ロボットのビジネスモデルをご紹介します。
惣菜盛り付け
アールティの「Foodly」は、AIを活用して食材を認識し、自動的に選別してトレイやパッケージに盛り付けることができるロボットです。
人間との協働を前提に開発されており、人との接触時にも安全性を確保でき、双方に損傷を与える心配がありません。また、親しみやすい人型のデザインも特徴的です。
最大の強みは、ソフトウェアからハードウェアまで、すべてを自社で設計している点にあります。これにより、顧客のニーズに合わせた柔軟なカスタマイズが可能となり、様々な食品加工現場に対応できます。
ソフトクリーム
安川電機の「やすかわくん」は、まるで人間のような外見を持つソフトクリーム製造ロボットで、左手にコーンを持ち、右手でソフトクリーム機のレバーを操作します。
レバーを操作しながら左手を動かすことで、美しい渦巻き模様のソフトクリームがあっという間に完成します。特に夏季など、ソフトクリームの需要が高まる時期には、その効率性と安定した品質から、多くの企業が導入を検討しており、注目を集める調理ロボットの一つとなっています。
これまで人間が行ってきたソフトクリーム製造の工程を自動化することで、店舗の人手不足解消や、従業員の負担軽減にも繋がり、均一な品質のソフトクリームを提供できるため、顧客満足度向上も期待できるでしょう。
炒め調理
中華料理チェーン「餃子の王将」の一部店舗では、TecMagic株式会社と共同開発した炒め調理ロボット「I-Robo」が導入されています。
このロボットは、熟練した職人の技を忠実に再現できる点にあり、食材の投入タイミングや火加減、鍋の振り方など、職人の経験と勘に基づいて行われる繊細な調理工程を高度な制御アルゴリズムによって再現しています。
これにより、調理人が不足している時間帯でも、常に安定した品質の料理を提供することが可能になりました。実際、I-Roboが調理した料理は、顧客からも高い評価を得ているそうです。
また、「I-Robo」の導入により、食材の飛び散りや湯煙が大幅に減少したことで、厨房内を清潔に保ちやすくなり、調理スタッフの労働環境改善にも繋がっています。
餃子の王将では、「I-Robo」の導入によって、厨房における職人の比率を下げ、より効率的な店舗運営を目指しており、将来的には、日本の伝統の味を忠実に再現できる「I-Robo」を海外展開することも視野に入れているようです。
全自動調理
2015年にモーレイ社が発表した全自動調理ロボットは、鍋やフライパン、食材、調理器具を人間さながらに器用に使いこなし、調理を行います。
食材を切ったり炒めたりするだけでなく、蛇口をひねって水を出したり、完成した料理を皿に盛り付けたりすることも可能です。
モーレイ社のロボットの最大の特長は、調理器具の配置を正確に把握している点にあります。必要な時に必要なものを自分で取り出して使えるため、人間が調理器具を近くに用意しておく必要はありません。
調理だけでなく、後片付けまで自動で行うため、人間が材料をセットしておけば、後は全てロボットに任せることができます。
現在、モーレイ社のロボットは30以上のレシピを習得しており、将来的には5,000個のレシピに対応できるようになる予定のようです。
料理動画から学び料理を作る
ケンブリッジ大学の研究チームが開発した「ロボットシェフ」は、生成AIを活用し、料理動画を見るだけでその料理を再現できるという能力を持っています。
従来のロボットアームは、プログラミングされた手順に従って料理を作ることはできましたが、新しいレシピを学習したり、オリジナルのレシピを考案したりすることはできませんでした。
しかし、このロボットシェフは、人間が料理動画を見て学習するのと同じように、動画からレシピを理解し、実際に料理を作ることができ、既存のレシピ通りに料理を作るだけでなく、オリジナルのレシピを考案する能力も持ち合わせているとのことです。
この研究は調理ロボットの可能性を大きく広げるだけでなく、食品産業や外食産業にも大きな影響を与える可能性があり、新しい料理の開発や調理の自動化、個々の好みに合わせたパーソナルな料理の提供などが実現するかもしれません。
調理ロボットは業務効率化や人手不足の解消に繋がる
今回は、調理ロボットが注目されている理由やビジネスモデルをご紹介しました。現在、調理ロボットは大手飲食店を中心に実証フェーズにあります。
その有効性は徐々に証明されつつありますが、実運用における改善点も数多く抽出されており、まさにブラッシュアップの段階と言えるでしょう。
調理ロボットの普及拡大には、ロボットを用いた自動調理店舗の収益化が重要な鍵となります。調理ロボットの導入は、人手不足解消や品質の均一化といったメリットをもたらす一方で、初期投資や運用コスト、そして何より顧客の理解と受容を得る必要があります。
しかし、技術革新は日々進んでいるため、より高性能で低コストな調理ロボットが登場し、店舗側の工夫も進むことで、外食産業のあり方を大きく変える可能性があるでしょう。
AI研では、AI活用の無料相談を実施しております。貴社のご要望に合わせた最新の市場動向や具体的な活用アイデア、他社事例に加え、貴社の状況に合わせた最適なアドバイスを提供いたします。お気軽にご相談ください。
