近年、テキストや音声、画像を自動生成するAI技術が大きな注目を集めています。この技術は、システム開発の分野にも波及し、その可能性に大きな期待が寄せられています。
企業は、生成AIの動向を注視し、そのメリットを最大限に活かすことで、競争優位性を確立することができるでしょう。生成AIは、まだ発展途上の技術であり、今後ますます進化していくことが予想されます。
今回は、生成AIがシステム開発にもたらすメリットや基礎知識、実践方法、実際の開発事例についてご紹介します。
生成AIにおけるシステム開発とは
生成AIは、学習したデータに基づいて新たなコンテンツやアイデアを生み出すAIです。従来のAIは、データの分類や予測などのタスクに特化していましたが、生成AIは学習したデータそのものを活用し、文章や画像、音声などを自動生成します。
例えば、大量のテキストデータや画像データを学習することで、人間が書くような自然な文章を作成したり、写真のようなリアルな画像を生成したりすることが可能です。
近年、システム開発の現場では、生成AIの活用が注目されており、これまでプログラマーやシステムエンジニアが担ってきたシステム開発の領域においても、AIの力が活用され始めています。
現段階では、生成AIによるシステム開発の実現にはまだ技術的な課題も存在しますが、生成AIの導入により、開発プロセスが効率化され、迅速なシステム構築が可能です。
このアプローチにより、高い生産性が確保でき、ビジネススピードの大幅な向上が期待できます。生成AIの進化に伴い、エンジニアに求められるスキルも変化していくでしょう。
今後は生成AIと共存しながら、より高度なシステム開発やAIでは代替できない創造的な業務に注力していく必要が出てきます。
生成AIがシステム開発に与えるメリット
生成AIをシステム開発に導入することで、様々なメリットが期待できます。以下で詳しく解説します。
時間やコストを削減できる
生成AIをシステム開発に導入することで、開発時間やコストを大幅に削減することができます。これは、以下のような作業の効率化によって実現されます。
コード生成の迅速化 | プログラムコードを短時間で作成するため、開発プロセス全体のスピードアップに繋がる |
社内データに基づく文章生成 | 社内データを活用したマニュアルなどの文章を自動生成し、作成時間と労力を削減する |
ノーコード開発の推進 | 専門知識がなくてもシステム開発が可能となり、より多くの人が開発に携わることができる |
画像データ準備の効率化 | 生成AI活用により、画像データを用意する必要がなくなり、より迅速な開発が可能になる |
マニュアル作成の効率化 | 生成AIにより自動化し、時間とコストを削減しつつ、質の高いマニュアルを作成できる |
生成AIによるマニュアル作成については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
サポートの強化ができる
生成AIを運用フェーズで活用することで、ユーザーからの問い合わせに対して、自然な言葉で自動的に回答することができます。これにより、迅速かつ的確な以下のようなサポートを提供することが可能です。
- FAQを学習させ、ユーザーからの問い合わせに自動対応できる
- 過去の問い合わせ履歴などを分析し、ユーザーに合わせた最適な回答を提供できる
- 多言語に対応するため、海外のユーザーからの問い合わせに対応できる
品質の向上が期待できる
生成AIは、AIによるデバッグ支援やレビュー支援を通じて、システム開発におけるエラーを大幅に減少させることができます。
例えば、AIがコードの脆弱性を自動的に検出し、修正提案を行うことで、開発者は潜在的なバグに迅速に対応することができるでしょう。AIによるレビュー支援は、人間が見落としがちなエラーや改善点を発見し、コードの品質向上に貢献します。
システム開発における品質担保には、パフォーマンスの最適化など、様々な作業が必要です。生成AIが過去のデータやパターンを学習し、パフォーマンスボトルネックを予測したり、最適なコードや設定を提案したりすることで、開発者はより効率的に作業を進めることができるのです。
生成AIを用いたシステム開発のステップ
社内のシステム開発に生成AIを用いる場合、大まかな流れとして以下のステップを踏んでいくことになります。
- AI導入の目的を明確にする
- AIの導入方法を検討する
- 運用フェーズへ進む
各項目を詳しく見ていきましょう。
①AI導入の目的を明確にする
まず、社内で取り組むべきは、AIを用いたシステム開発の企画をまとめることです。どのような課題を解決するためにAIを導入するのか、AIを活用したい社内業務や生成AIに任せたい業務をピックアップし、数値で評価できる目標を設定します。
この企画段階を怠ると、AI導入が目的化してしまい、期待した成果を得ることが難しくなるでしょう。明確な目標設定を行うことで、AI導入による具体的な効果や投資対効果が把握でき、企画内容を共有することで、社内の関係者の理解と協力を得やすくなります。
②AIの導入方法を検討する
次に、どのような形でAIをシステムに取り入れるかを検討しましょう。この際、明確にしておくべきなのは利用する生成AIの種類です。
テキストや画像、動画など、生成AIにはそれぞれ得意な分野があります。自社のシステムにどのような形で生成AIを導入したいのか、具体的なビジョンを描きましょう。
生成AIをシステムに組み込む方法としては、大きく分けて2つの選択肢があります。
自社でLLMを構築する |
|
既存のサービスと連携する |
|
生成AIの導入を成功させるポイントについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
③運用フェーズへ進む
生成AIの導入目的が明確になり、最適なモデル選定が完了したら、いよいよ実際の運用フェーズへと進みます。社内システムとの連携を開始し、生成AIが意図した通りに機能しているか、予期せぬ問題が発生していないかを継続的に監視・モニタリングすることが重要です。
生成AIの運用状況を社内でモニタリングし、問題発生時には迅速に対応できる以下のような体制を構築しましょう。
- 生成AIの稼働状況やパフォーマンス、生成結果などを定期的に確認する
- 問題発生時の対応手順や責任者を明確化し、組織全体で共有する
モニタリング結果に基づき、必要に応じて生成AIの学習調整やモデル変更を実施し、精度向上を図りましょう。継続的なモニタリングと改善を通じて、生成AIを貴社のビジネスに貢献できる存在へと育てていくことが大切です。
生成AIを用いた開発には基礎知識を深めることが重要
生成AIの利用自体は、APIやツールを利用することで比較的簡単に行うことができますが、システム開発において生成AIを最大限に活用するためには、生成AIのモデルに関する深い理解が求められます。
生成AIの各モデルの特性や得意分野を理解し、目的に応じた最適なモデルを選択する必要があるでしょう。また、生成AIの学習やモデルのチューニングに関する知識があると、より高度な開発が可能になります。
生成AIセミナー
生成AIセミナーは、未経験でも2日間で生成AIの基礎知識から応用技術まで、幅広く学ぶことができます。生成AIの種類や大規模言語モデル(LLM)の仕組みはもちろん、生成AIプロジェクトの進め方やビジネス活用など、実務に直結した内容を学ぶことができるでしょう。
また、「生成AIセミナー」の内容をベースにした貴社の課題や目標に合わせた研修プログラムを企画・実施することも可能です。カスタマイズされた社内研修をご希望のお客様は、以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。
生成AIを用いたシステム開発事例
生成AIは、システム開発の様々な段階で活用することができます。最後に、具体的なシステム開発事例をいくつかご紹介します。
日立製作所
2023年11月21日、日立製作所は生成AIと日立が長年培ってきた自動車分野の知見を融合させたシステム開発を発表しています。このシステムは、車載カメラの映像から交通状況に関する詳細な説明文を自動生成することができます。
従来、自動車メーカーや車載器ベンダーは、ソフトウェア開発において車載カメラの映像や走行データなどを分析し、必要な情報を抽出する必要がありましたが、膨大な時間と労力がかかり、開発期間の長期化やコスト増大の一因となっていました。
しかし、生成AIが映像から必要な情報を自動的に抽出するため、このような煩雑な作業が不要になり、開発者は必要な情報を瞬時に検索できるようになり、開発期間の大幅な短縮やコスト削減が実現します。
NTT
通信事業最大手であるNTTが、法人向けシステム構築に生成AIを本格的に導入することを発表しました。NTTは、生成AIを利用したシステム開発手法やツールを社内で整備し、2024年度から国内外の開発部門に展開しています。
すでに実証段階では、開発工数を7割も削減できたという驚くべき成果も出ており、その効果に期待が高まっています。NTTのこの動きは日本の企業においても、今後さらに生成AIによるシステム開発が加速していくことを示唆しています。
富士通株式会社
富士通は、最先端のAI技術を迅速に試せるプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi – Fujitsu AI Platform」を開発し、その上で企業の課題解決に貢献するシステムを構築しました。
このシステムの特徴は、業務上の課題を自然言語で入力するだけで、AIがその意図を理解し、課題解決に役立つAIイノベーションコンポーネントを生成できる点にあります。
従来、AIイノベーションコンポーネントの作成には、AI専門のエンジニアの高度な知識とスキルが不可欠でしたが、専門家でなくても容易にAIモデルを開発できるようになり、AI開発の民主化を促進します。
KozuchiはAI技術の活用を身近にし、企業の業務効率化やイノベーション創出に大きく貢献することが期待されているのです。
生成AIによる開発は企業の成長と競争力強化に繋がる
今回は、生成AIがシステム開発にもたらすメリットや基礎知識、実践方法、実際の開発事例についてご紹介しました。生成AIを社内システムに取り入れる動きは、日本国内のみならず、世界中で急速に広がっています。
生成AIを業務に導入しないままでは、他社との競争において著しく不利な状況に陥る可能性があり、対応を先送りにすると、企業が時代に取り残される恐れもあります。
早期に生成AIを社内システムに組み込むことで、業界内で優位に立つことができるでしょう。今回ご紹介したNTTや富士通などの先進的な企業が生成AIの導入を進めていますが、現状ではシステム開発を完全に生成AIに委ねることは難しい状況です。
それぞれの開発環境によって最適な活用方法は異なるため、各社の事例を参考にしながら、自社における生成AIの活用方法を検討することが重要です。
