東京都豊島区が2022年4月から実施していた、AIが乗客の予約に応じて最適なルートを計算し、柔軟に運行するオンデマンド交通サービス「mobi」。この移動手段の実証実験が、2024年8月31日をもって終了しました。
AIを活用し、スマートフォンアプリや電話で配車予約ができるmobiは、事前予約制の乗り合い方式で、地域の交通空白地を補うことを目指していました。しかし、今回の実証実験の結果、本格的なサービス導入は見送られることとなったようです。
今回は、AI活用のオンデマンド交通の概要や失敗となるケース、メリット、デメリットやAI活用のオンデマンド交通を成功させるポイントを解説します。
AIを活用したオンデマンド交通とは
AIを活用したオンデマンド交通とは、スマートフォンアプリなどで予約を受け付けAIがリアルタイムに最適なルートを計算し、車両を配車するシステムです。利用者のニーズに合わせて、柔軟に運行ルートを調整できるのが特徴です。
複数の人の予約を効率的に組み合わせて運行することで、利便性と効率性を両立しています。東京都町田市でもスマートタウンを成功させる取り組みとして、オンデマンド交通の実証実験を行っていました。
スマートタウンについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
AIを活用したオンデマンド交通の特徴
オンデマンド交通という言葉を耳にする機会は増えたものの、「具体的にどんなサービスなのだろう?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。従来の交通手段とは異なるオンデマンド交通ならではの特徴には、以下のようなものがあります。
特徴 | 内容 |
ルートが固定されていない | 予約や道路状況をリアルタイムで判断し、最適なルートを自動作成 |
時刻表が存在しない | 独自の移動スケジュールに合わせて、出発時刻を自由に指定可能 |
アプリなどで事前予約をする | アプリなどで乗車したい時間や行きたい場所を自由に指定可能 |
仮想のバス停がある | 住宅や施設の近くに設置することも可能 |
AI活用のオンデマンド交通が失敗となるケース
東京都豊島区が実施していたAIオンデマンド交通のように、AIオンデマンド交通の導入が必ずしも成功するとは限りません。以下では、AIを活用したオンデマンド交通が失敗となる可能性のあるケースを具体的に解説します。
AI導入の落とし穴については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
導入自体が目的となっている
オンデマンド交通は、地域の実情に合わせた柔軟な運行が可能なため、注目を集めています。しかし、多様なタイプが存在する一方で、地域の実態を十分に考慮せずに導入してしまうと、失敗する可能性もあります。
オンデマンド交通を導入する際には、まずその地域に住む人々の移動に関する様々なデータを収集し、綿密な分析を行うことが不可欠です。例えば、移動したい場所や頻度、時間帯、利用したい交通手段など、多角的な視点から現状を把握することで、より効果的なサービス設計が可能になるでしょう。
例えば、高齢者が多い地域では乗り降りがしやすい車両の選定や、予約手続きの簡素化などが求められます。
住民との調整が不足している
オンデマンド交通の利用促進のためには、住民への周知徹底も欠かせません。新しい交通手段に対する不安や抵抗感を解消し、利用してもらうためには、住民説明会の実施や体験乗車会の開催など、様々な取り組みが必要です。
これらの検討を怠り、住民のニーズを十分に考慮せずにデマンド交通を導入してしまうと、せっかくの新しいサービスも利用者を得られずに失敗に終わってしまう可能性があります。オンデマンド交通は、地域住民の生活をより豊かにする可能性を秘めた画期的な交通手段ですが、導入にあたっては、地域の特性や住民のニーズを深く理解し、慎重な検討を重ねることが不可欠なのです。
AIを活用したオンデマンド交通のメリット
AIオンデマンド交通を正しく導入すれば、利用者だけでなく、運営側にとってもメリットが数多く存在します。以下で詳しく解説します。
運営コストを削減する
従来の路線バスは、決まったルートを定刻に運行するため、乗客の需要に左右されず運行コストがかかっていました。特に、利用者の少ない時間帯や地域では赤字路線となり、地方自治体の財政を圧迫する要因となっていました。
一方、AIオンデマンド交通は、AIが乗客の予約情報や位置情報を分析し、最適なルートを自動で算出するため、無駄な空車を減らし燃料費や人件費といった運行コストを削減することができます。
利用者の利便性が向上する
AIオンデマンド交通は、柔軟な運行システムにより利用者の利便性を飛躍的に向上させています。従来の公共交通機関では、決められた路線や時刻表に縛られ、利用者のニーズにきめ細かく対応することが困難でした。
しかし、AIオンデマンド交通はスマートフォン一つで、いつでもどこでも、自分の好きな場所へ好きな時間に移動することが可能です。例えば、深夜や早朝など公共交通機関が運行していない時間帯でも、利用者のリクエストに応じて柔軟に車両を配車することができます。
そのため、深夜の帰宅や早朝の外出が容易になり、生活の幅が広がるでしょう。
生活の足の確保をする
AIオンデマンド交通は、特に駅やバス停から目的地までの距離が離れている地域の移動手段としての空白を埋めるサービスとしても注目されています。従来の公共交通機関では、利用者が最寄りの停留所まで歩いて移動し、目的地へ向かう必要がありました。
しかし、AIオンデマンド交通は、自宅から目的地まで直接ドアツードアのサービスを提供することで、よりスムーズな移動を可能にするのです。そのため、自宅から目的地まで天候に左右されることなく、快適な移動ができ、自分のスケジュールに合わせて柔軟に移動手段を利用することができます。
利用者は自分のニーズに最適な交通手段を選択し、より豊かな生活を送ることができるようになるでしょう。
AIを活用したオンデマンド交通のデメリット
AIを活用したオンデマンド交通は、新たな可能性を秘めた移動手段として注目を集めています。しかし、その一方で、AIの導入によって生じる様々な課題も浮上しています。
以下では、AIを活用したオンデマンド交通が抱えるデメリットについて解説します。
路線バスよりも運賃が高額である
路線バスは多くの乗客をまとめて輸送することで、経済的な運行を実現しています。一方、AIオンデマンド交通は、運行本数が少なく車両の稼働率が低い傾向にあるため、一人あたりの運行コストがどうしても高くなってしまいます。
そのため、路線バスよりも運賃が高額になってしまうでしょう。これは、量産品と手作り品のコストの違いに似ており、大量生産することで、製造コストを下げることができるためです。
全員が満足する交通システムは提供できない
AIオンデマンド交通は、人々の移動ニーズが多様であるため、全ての人に完全に満足のいく交通サービスを提供することは難しいという側面があります。例えば、目的地までの所要時間や経路、乗り降りのタイミングなど、人によって重視する点が異なるため、一つのシステムで全ての要望に応えることは容易ではありません。
また、AIオンデマンド交通は予約制であるため、急な外出に対応しにくいというデメリットも指摘されています。さらに、利用者の増加に伴い、車両の配車に時間がかかったり、希望の時間に利用できないといった状況が発生する可能性も考えられます。
AIオンデマンド交通は非常に柔軟なシステムではありますが、その一方で、利用者全員の期待に応えるには限界があると言えるでしょう。
予約が大変である
AIオンデマンド交通は、利用者の需要に応じて運行経路や時刻が決定される柔軟な交通サービスです。しかし、利用するためには事前予約が必要となります。
予約手続きがスマートフォンアプリで行えるなど、簡便化が進んでいる一方で、電話予約やウェブサイトからの予約など、複数の予約方法が存在する場合や予約の確定まで時間がかかるケースも少なくありません。このような予約手続きは、利用者の利便性を損ない、結果として他の交通手段を選択してしまう要因となる可能性があります。
AI活用のオンデマンド交通を成功させるポイント
AIを活用したオンデマンド交通の成功には、単にAI技術を導入するだけでなく、地域の特性や住民のニーズを深く理解し、綿密な計画と実行が不可欠です。以下では、AI活用のオンデマンド交通を成功させるためのポイントを詳しくご紹介します。
導入の目的や要件を整理する
AIオンデマンド交通の導入を検討する自治体は、その目的を明確化することが重要です。例えば、交通空白地の解消を第一の目的とするのか、スクールバスの代替や観光客誘致など特定の用途を想定しているのかによって、以下のポイントが大きく異なります。
- 導入するシステム
- 車両
- サービス提供体制
- 運用方針
そのため、AIオンデマンド交通によって解決したい地域課題や課題の深刻度を、自治体の担当者が具体的に把握することが不可欠なのです。先述したように、漠然とした目的意識のまま導入を進めてしまうと、せっかくのシステムが十分に機能せず、期待した効果を得られない可能性も考えられます。
地元の交通事業者と連携を深める
AIオンデマンド交通の導入は、地域住民の利便性向上に大きく貢献する一方で、既存の路線バスやタクシーなどの交通事業者との関係性には十分な配慮が必要です。AIオンデマンド交通は、既存の交通サービスでは対応が難しい地域へのアクセス向上や利用者の多様なニーズへの対応を実現します。しかし、既存の交通事業者とエリアが重複する部分では、利用者を奪い合う競合が生じる可能性も否定できません。
そのため、AIオンデマンド交通を本格的に導入するには、地域交通事業者との連携を深め、相互理解を図ることが不可欠です。既存の交通事業者との間で事前の協議を十分に行い、AIオンデマンド交通が地域全体の交通サービスの向上に貢献することを説明して理解を得る努力が必要なのです。
電話の窓口を用意する
高齢者の多くは、スマートフォンやアプリに不慣れなため、サービスの利用に困難を感じるケースが少なくありません。例えば、予約や問い合わせなどの手続きをアプリ上で完結することが難しく、操作に迷ってしまうことがあるでしょう。
このような状況を踏まえて、高齢者が安心してサービスを利用できるよう、電話による窓口を設置することが不可欠です。電話窓口の設置は、高齢者にとって以下のようなメリットをもたらします。
- 担当者に直接問い合わせてスムーズに手続きができる
- 疑問点やトラブルへの対応が早い
- 人間とやり取りするため安心感が得られる
利用者を増やすために認知度を上げる
サービスを地域に根付かせるためには、多くの人々に存在を知ってもらい、利用してもらう必要があります。オンデマンド交通は、従来の交通手段とは異なり、予約が必要であったり、運行ルートが固定されていないといった特徴があります。
そのため、単にサービスの存在を知らせるだけでなく、これらの特徴を正しく理解してもらい、安心して利用してもらうための取り組みが不可欠なのです。例えば、説明会を開催し、サービスの詳細や利用方法を直接説明する機会を設けることが考えられます。説明会では、参加者からの質問に丁寧に答え、不安を解消することでサービスへの理解を深めてもらうことができるでしょう。
また、地域住民とのコミュニケーションを密にすることも重要です。例えば、アンケートの実施やイベントを開催して地域住民の声に耳を傾け、サービスを改善していくことで、より地域に根ざしたサービスへと発展させていくことができます。
AIを活用したオンデマンド交通は経済活性化につながる
今回は、AI活用のオンデマンド交通の概要や失敗となるケース、メリット、デメリットやAI活用のオンデマンド交通を成功させるポイントを解説しました。人口減少や少子高齢化が進む現代社会で、公共交通機関の利用者減少は深刻な問題となっています。
AIオンデマンド交通はこのような状況下で、新たな移動手段として注目を集めています。利用者の需要に応じて柔軟に運行ルートや時刻を設定する交通サービスのため、地域住民の移動の利便性を向上させ、地域活性化に貢献することが期待されています。
しかし、AIオンデマンド交通の導入には課題も存在します。オンデマンド交通の利用促進のためには、住民への周知徹底や予約システムの使いやすさ向上など、様々な取り組みが必要となるでしょう。自治体や事業者、地域住民が一体となり、AIオンデマンド交通の更なる発展に向けて取り組んでいくことが求められます。