近年、生成AI(人工知能)の技術は目覚ましい進化を遂げており、様々な分野で活用されています。EC(電子商取引)業界においても生成AIの技術が注目を集めており、イオンやZOZOなどで導入されていました。
2024年2月のニュースでは、ECの普及に伴い商品の仕分けやピッキングなどの作業が複雑化しており、AIを活用した物流倉庫での自動化への取り組みが広がっています。今回は、ECにおける生成AIの種類や具体的な活用事例・メリットデメリットなどを詳しく解説します。
ECにおける生成AIとは
生成AIは、テキストや画像などの膨大な学習データから、自ら分析し新たなデータを生成するAI技術です。現在は様々な生成AIが存在しており、AIにより得意なことが異なります。
例えば、Open AIが開発したChatGPTはテキスト生成AIと呼ばれ、ユーザーがテキストを入力するとAIが入力されたテキストに対する返答や翻訳・要約などが生成可能です。テキスト生成AI以外には、画像生成AIや音声生成AI・動画生成AIなどが存在します。
ECにおける生成AIでは、データの分析や人間が思い浮かばないようなアイデアを提供することができるでしょう。以下ではECにおける生成AIの役割の一例を解説します。
テキスト生成AI
テキスト生成AIは、ECサイトに掲載する商品説明文や商品のキャッチコピーを生成し、顧客からの問い合わせに対するチャットボットの会話文などを自動生成することができます。チャットボットは、コールセンターと異なり、24時間365日の問い合わせも可能です。
画像生成AI
画像生成AIは、ユーザーが入力したテキストからECサイトに掲載する商品画像やバナー画像を生成します。また、元になる写真から画像を作成することも可能なため、画像のバリエーションも広げることができるでしょう。
商品動画のサムネイル画像なども自動生成することが可能です。
音声生成AI
音声生成AIは、テキストデータを元に自然な音声に変換するAI技術です。人間と区別がつかないほど自然で高音質な音声を生成することが可能なため、商品説明のナレーションや顧客からの問い合わせのチャットボットを音声化することができます。
音声機能を追加することで、顧客からの問い合わせがよりスムーズになるでしょう。
動画生成AI
動画生成AIは、ユーザーが入力したテキストの情報に基づいて商品の説明動画・商品やサービスの広告動画などを自動生成します。広告動画はテキスト広告と比べ、訴求力が高いため、ユーザーの記憶に残りやすいと言われています。
ECにおける生成AIのメリット
ECにおける生成AIの導入のメリットには、以下のようなものがあります。
- 顧客満足が向上する
- 業務効率化が図れる
- サービスの使いやすさが向上する
顧客満足や業務の効率化・サービスの使いやすさが向上するとユーザーの購入率を高め、再来店率や売り上げの向上にもつながります。以下では各メリットを詳しく解説します。
顧客満足が向上する
近年は、ECサイトの顧客満足度向上が重要な課題です。顧客満足度の向上には、顧客1人1人に合うようなパーソナライズが必要不可欠でしょう。
生成AIをECサイトに導入することで、ユーザーの購入・閲覧履歴や行動から好みの傾向や属性を分析し、膨大な商品の中から顧客のニーズに合う商品を推奨することが可能です。ユーザーが購入する可能性の高い商品や関連性の高い商品を推奨することができるため、顧客の購買意欲やコンバージョン率も向上させることができます。
業務効率化が図れる
ECサイトに生成AIを導入することで、従来まで人間が行っていた様々な業務の効率が向上します。例えば、ECサイトでは商品画像が大量に必要なため画像生成AIを活用することで、商品画像作成の手間を省くことができます。
さらに商品説明文や・キャッチコピー・タグ生成を自動で行うことで、商品ページ作成にかかる時間を大幅に削減できるでしょう。また、 顧客からの問い合わせに自動で回答することができるチャットボットを導入することで、24時間365日の顧客対応が実現できます。
生成AIは分析することも可能なため、顧客レビューや販売データなどを分析し、商品改善や需要予測・在庫管理やマーケティング戦略に役立てることも可能です。AIの翻訳機能を用いて、海外市場へのEC事業進出も実現できるでしょう。
サービスの使いやすさが向上する
生成AIを活用することで、ECサイトのサービスがより使いやすくなります。例えば、音声生成AIを導入することで、ユーザーは音声入力での商品検索や問い合わせのチャットボットに対し、音声で問い合わせすることが可能です。
さらに、商品を3Dで表示することで、テキスト情報だけでは伝わりにくいあらゆる角度から商品の特徴や使い方などが把握できるメリットもあります。服などはバーチャル試着を用いることで、実際に購入する前に自分に合うかどうかを確認することが可能になります。
ECにおける生成AIのデメリット
ECにおける生成AIの導入には様々なメリットがある一方で、以下のようなデメリットも考えられます。
- 初期費用・運用コストが発生する
- データ品質を確保する必要がある
- 技術的な課題に左右される
- 導入後の継続的な運用や改善が必要になる
以下では各デメリットを詳しく解説します。
初期費用・運用コストが発生する
ECにおける生成AIの導入には、初期費用や運用コストなど様々な経済的負担になるデメリットが存在します。システムの規模などにより異なりますが、例えば生成AIにかかる初期費用として生成AIのライセンス費用やシステムの構築などのソリューション費用に数十万〜数百万かかるでしょう。
また、データ量や品質により変動しますが、学習するためのデータ収集費用や生成AIが学習や運用を行うためのインフラ構築費用もかかります。さらに、生成AIの運用にはサーバーやネットワーク機器の運用費や電気代・通信費・アップデートなどのメンテナンス費用も必要です。
導入する生成AIの複雑性により、生成AIの運用や管理を行うエンジニアやシステム運用のための人件費がかかる場合もあります。
データ品質を確保する必要がある
生成AIは膨大なデータを学習して自ら分析し、新しいコンテンツを生成します。そのため、AIが学習したデータの品質が悪い場合は、生成したコンテンツの品質も低下するのです。
例えば、学習データに誤りや矛盾・偏りがあると、生成される情報も不正確な情報や偏った情報になります。また、学習データの質が低い場合は、生成されるコンテンツが不自然なコンテンツになると考えられます。
データの品質低下は、顧客満足度を低下させ、企業のイメージダウンにつながる恐れもあるため、品質を保持する必要があるのです。
技術的な課題に左右される
ECに生成AIを導入しても生成AIの精度が低い場合は、ECサイトの商品説明文やおすすめ機能など、ユーザーに提供する情報が不正確な情報になる可能性も考えられます。例えば、不正確な情報の提示により、顧客ニーズに合う商品を推奨できず、顧客満足度が低下する可能性や購買の機会を失う可能性もあるでしょう。
また、生成AIは近年急激に進化をしている技術です。新しいAIモデルが開発されると既存のAIモデルは旧式化する可能性もあるため、最新の技術を調査した上でシステムの更新や新しいスキルの習得が必要になります。
導入後の継続的な運用や改善が必要になる
生成AIをECに導入した際は、効果を最大限に発揮するための継続的な運用や改善が必要です。生成AIには常に新しい顧客データや商品情報・市場動向などを学習させて更新することで、最新データが反映されてAIの精度も向上します。
定期的にAIにデータを学習させることで、最新のデータに基づいたコンテンツが生成できるようになります。また、AIのパフォーマンスを上げるために、AIが生成したコンテンツの品質や顧客の反応・売上の指標などを常に監視し、必要に応じて改善する必要もあるでしょう。
ユーザーからの意見や要望などのフィードバックを収集することで、ECサイトにおけるAIの改善点を特定することも可能です。また、生成AIは大量のデータを学習するため、データ漏洩のリスクも高まります。
さらに、悪意のある第三者による不正利用やサイバー攻撃の可能性もあるため、悪用されるリスクを回避するセキュリティ対策も重要です。
ECにおける生成AIの活用事例
近年、ECにおける生成AIの活用事例は、急速に増加しています。以下では代表的な活用事例をご紹介します。
商品画像の自動生成
株式会社ジュンでは、株式会社ELEMENTSが開発したファッションEC企業向け画像生成AIツール「SugeKae(スゲカエ)」を導入しています。SugeKaeは、1枚の商品画像から背景やカラーバリエーションを生成することができるため、撮影の工数が削減可能です。
背景を変更する以外にも以下のような機能があります。
- 商品がはっきり見えるように背景を白抜きする
- コーディネートの一部のアイテムを別のアイテムに入れ替える
- 商品画像のアイテムを他のカラーに入れ替える
- 生成した画像を一覧で表示してダウンロードする
株式会社ジュンでは、撮影や画像編集などに生成AIを組み込み、業務効率化や購買機会の拡大につなげています。
レビューの要約
アメリカのEC家電量販店Newegg Commerce(ニューエッグ コマース)では、様々なユーザーから寄せられた商品レビューを要約する生成AIツールを導入しています。レビューの要約は、ユーザーが商品を選ぶ時間を短縮することができるため、売上の向上につながっているようです。
商品画像の下部に生成AIが作成したレビューが表示される仕様になっており、ユーザーが投稿したポジティブなキーワードが強調された要約になっています。商品の長所と短所が一目で分かりやすくなり、特徴が把握しやすくニーズに合った商品が見つかりやすいため、売上の向上につながっていると考えられます。
なお、アメリカのAmazonでも生成AIによる商品レビューを要約する機能が利用可能なようです。
ビジネスの円滑な運営をサポート
ShopifyのShopify Magicでは、商品管理やEC成長のためのアドバイスなどEC事業に関する様々な作業をサポートする機能があります。ShopifyはオンラインストアやPOSシステム向けのECプラットフォームです。
カナダのShopify Inc.が開発・運営しており、世界175ヶ国以上で導入され、簡単にオンラインストアが開設できるため豊富な機能でECビジネスを効率化することができます。Shopify Magicは、主に以下のような運営サポートが可能です。
- ブログ記事や商品説明・問い合わせの自動回答などテキストの自動生成
- EC事業に関するアドバイス
- パーソナライズされた専門のAIアシスタント
- 商品説明や売上データのグラフ表示
- レビューの要約機能
生成AIの活用で効率的なEC運用が可能になる
今回は、ECにおける生成AIの種類や具体的な活用事例・メリットデメリットなどを解説しました。生成AIを活用したEC運用は発展途上ですが、本格的に導入される可能性は非常に大きいです。
今後、AI技術のさらなる進化と共に、ECでの生成AIの活用はさらに広がるでしょう。EC事業者は、自社の課題やニーズに合った生成AIを導入することで、顧客満足度の向上・業務効率化・売上向上など、様々なメリットを得られる可能性があります。
導入前にはしっかりと生成AIのデメリットを理解し、導入後の運用も考慮する必要はありますが、生成AIの有効活用をすることで、EC事業の成長につなげることができるでしょう。