新潟市は、職員の業務効率化を目的として、生成AIの「Copilot」と「ChatGPT」を正式に導入しました。これらのAIは、文章生成機能に特化しており、文章案の作成、要約、イベントのキャッチコピー作成など、様々な場面での活用が期待されています。
生成AIは、2024年8月13日から利用が開始され、希望する全職員が対象となっています。ただし、個人情報や機密情報の取り扱いには細心の注意を払い、生成された文章は必ず職員が最終確認を行うなど、市が定めたガイドラインに基づいた運用が義務付けられています。
新潟市では、昨年6月からChatGPTの試行利用を開始しており、約250名の職員が実際に利用してきました。この試行期間中のアンケート調査では、約7割の職員が業務効率化を実感したと回答しており、生成AIの有用性が示されています。
2024年1月に起きた能登半島地震への対応などもあり、正式導入が遅れていた生成AIですが、デジタル行政推進課では全庁への展開を進め、より一層の業務効率化を目指していくとのことです。今回は、デジタル行政推進課の目的やメリット、デメリット、デジタル行政推進事例を詳しくご紹介します。
そもそもデジタル行政推進課とは
デジタル行政推進課は、行政サービスをより便利にし、行政の働き方を効率化するために、IT技術を活用して様々な取り組みを進める部署です。具体的には、出生届や婚姻届などの手続きをオンラインで完結できるようにしたり、AIを活用して業務の自動化を進めたりといったことが挙げられます。
このような行政のデジタル化によって、住民は役所へ足を運ぶ手間が省け、行政は業務効率化によるコスト削減を実現できるのです。さらに、行政機関が保有するデータを民間企業とも共有することで、新たなサービスが生み出される可能性も期待されています。
行政のデジタル化は住民の利便性向上や行政の効率化、社会全体の改革を促進するための重要な取り組みなのです。
デジタル行政推進課の背景とは
デジタル行政推進課の背景には、行政手続きがオンライン化された「デジタル手続法」がありました。デジタル手続法は、複数の関連法を改正する包括的な法律であり、その中心となるのがデジタル行政推進法です。
デジタル行政推進法は、デジタル化の基本原則やオンライン化に必要な事項を具体的に規定しており、羅針盤のような役割を果たしています。
デジタル手続法 | 行政手続きのデジタル化を推進するための法的な枠組みを構築するもの |
デジタル行政推進法 | その核となる法律 |
デジタル行政推進課の目的
デジタル化は技術の導入ではなく、人々の生活をより豊かにするための手段です。政府はデジタル社会の実現に向けた改革の基本方針において、デジタル技術を活用し、一人ひとりが自分らしい生き方を選択できる社会を目指しています。
こうした社会を実現するため、行政のデジタル化には以下の直接的な目的があります。
住民サービスを向上させる
各種手続きのオンライン化は、住民サービスの向上において重要な役割を果たします。例えば、出生届や婚姻届などの届出をオンラインで行えるようになれば、役場に出向く手間が省け、住民の利便性が大幅に向上するでしょう。
また、転居時の手続きも1本化され、運転免許証や銀行口座などの登録住所を1度の届け出で変更できるワンストップサービスが実現すれば、住民は煩雑な手続きから解放されるとされています。
行政の効率化を図る
オンライン化は住民の利便性向上だけでなく、行政の効率化にも繋がります。必要人員やコストの削減が可能となり、行政サービスの質の向上に貢献することが期待されているためです。
AIを積極的に活用することで業務の効率化を図り、その結果生まれた余剰な人的資源を、より質の高い行政サービスの提供に充てることが可能になるでしょう。
デジタル行政推進課のメリット
行政手続のオンライン化は、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めています。以下では、デジタル行政推進課におけるオンライン化によって得られる主なメリットについてご紹介します。
コスト削減が期待できる
行政手続のオンライン化は、コスト削減という点において大きなメリットをもたらします。従来、行政手続きには書類の郵送に伴う費用や、大量の書類を保管するためのスペース、それらの管理にかかる費用などが発生していました。
しかし、オンライン化により、これらのコストを大幅に削減することが可能になります。例えば、住民票の発行をコンビニエンスストアで行えるようにすることで、市役所の窓口業務が効率化され、職員の負担が軽減されます。
そのため、人員削減が可能となり、人件費の削減にもつながります。さらに、ペーパーレス化により、膨大な量の紙書類を保管するためのスペースが不要となり、その分の費用を削減することができるでしょう。
人手不足を解消できる
行政手続のオンライン化は、人手不足解消に大きく貢献する可能性を秘めています。オンライン化により、申請書類の内容確認にかかる時間が大幅に短縮されます。従来、紙の書類を一つ一つ目視で確認していた作業が、オンラインシステム上でのデータ入力や検索によって迅速に行えるようになるためです。
また、ペーパーレス化の推進も紙の書類を保管したり、必要な情報を探し出す手間が省けることで、職員の業務負担が軽減されます。さらに、オンライン上で情報が一元管理されるため、迅速な検索が可能となり、業務のスピードアップに繋がるのです。
利用者の利便性が向上する
オンライン手続きの普及は、国民の生活に大きな変化をもたらします。従来、役所で手続きを行うには、開庁時間に合わせて役所へ足を運び、長い時間待たなければならないため、仕事や家事などで忙しい人にとっては、役所への手続きが大きな負担となっていました。
しかし、オンライン手続きの導入により、これらの煩わしい手間が解消され、いつでもどこでもスマートフォンやパソコンを使って手軽に手続きを行えるようになります。そのため、時間や場所にとらわれず、自分のペースで手続きを進めることができるのです。
デジタル行政推進課のデメリット
行政手続のオンライン化は、住民の利便性向上や行政の効率化に大きく貢献しますが、一方で以下のようなデメリットも存在します。
- 個人情報が流出する可能性がある
- 不正トラブルが起こる可能性がある
- すべてをペーパーレス化することは困難である
- ツール導入には初期コストがかかる
以下で、それぞれのデメリットを詳しく解説します。
個人情報が流出する可能性がある
行政サービスのオンライン化は、国民の利便性が大きく向上しますが、同時にセキュリティに関する新たな課題も生み出します。十分なセキュリティ対策を講じないままオンライン化を進めると、利用者の個人情報が外部に漏洩するリスクが高まります。
誰でもアクセス可能なシステムでは、悪意のある第三者が個人情報を不正に取得し、悪用する可能性があるでしょう。また、オンラインサービスを利用者を標的とした詐欺も増加する懸念があります。行政は、オンラインサービスの利用拡大を進める一方で、個人情報の保護をはじめとするセキュリティ対策を講じることが不可欠です。
不正トラブルが起こる可能性がある
行政手続きをオンライン化する際に、最も大きな課題の一つが本人確認です。従来、対面で行われていた手続きでは、職員が直接申請者の顔写真付きの身分証明書と照合することで、本人確認を行っていました。しかし、オンライン化により対面での確認が難しくなり、申請者が偽造や盗難された身分証明書を用いて不正に手続きを行うリスクが高まります。
一般的にオンライン上では、申請者は身分証明書の写真を添付することで本人確認を行いますが、巧妙に偽造された身分証明書の写真や高画質の画像編集ソフトを用いて改ざんされた写真では、役所側が不正を見抜くことが困難になる可能性もあるのです。
このような状況下では、不正な申請を防止するための様々な本人確認対策が必要になるでしょう。
すべてをペーパーレス化することは困難である
行政手続きにおいて、ペーパーレス化が完全には進んでいない現状があります。特に、登記事項証明書や戸籍謄抄本など、原本の添付が求められる書類においては、紙媒体での提出が一般的であり、オンライン化の大きな障壁となっています。
これらの書類は不動産取引や相続など、重要な手続きでは重要なものであり、信頼性や法的効力といった観点から、原本の提出が求められるケースが少なくありません。そのため、戸籍電子証明書や電子認証などの新たな技術の導入が待たれています。
これらの技術が普及すれば、原本の添付が不要となり、行政手続きのオンライン化が大きく進展することが期待されるでしょう。
ツール導入には初期コストがかかる
行政手続きをオンライン化するためには、専用のツールを導入する必要があります。ツールなしでオンライン化を実現することは、非常に困難でしょう。
ツールを導入する際には、費用面も考慮する必要があります。低価格のツールも存在しますが、セキュリティ面や機能性などを考えると、信頼性の高いシステムを選ぶことが望ましいです。システム導入には初期費用に加えて、月々の維持費も発生する場合が一般的です。
そのため、オンライン化を進める際には、事前に必要な費用をしっかりと把握しておくことが重要です。費用対効果を比較検討し、自らの組織に最適なツールを選択することが求められるのです。
デジタル行政推進の事例
行政において、デジタル化はもはや避けて通ることのできない流れとなっています。従来の対面形式の手続きから、オンライン化やAIの活用へと、行政サービスは大きく変貌を遂げようとしています。
以下では、デジタル行政の最前線で、すでに始まっている様々な取り組みをデジタル行政推進の事例としてご紹介します。
AI自動応答
戸田市では、AIを活用した「AI総合案内サービス」を導入し、市民への行政サービスの質向上に力を入れています。AI総合案内サービスでは、チャットボットが市民からの問い合わせに24時間365日対応することで、より便利で身近な行政を目指しています。
AI総合案内サービスは、市民がパソコンやスマートフォンからテキスト入力で質問すると、AIが会話形式で回答するシステムです。子育てや引越し、ごみの出し方、住民票の請求など、幅広い行政に関する質問に対応可能です。
チャットボットについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
デジタル書類の作成
港区ではAIの音声認識技術を活用し、庁内会議の議事録作成を自動化しています。具体的には、会議の音声を録音し、それを音声認識ソフトでテキストデータに変換します。
さらに、声の識別技術を用いて、発言者を特定することで、誰がどのような意見を述べたのかを明確に記録することができます。
音声認識については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
デジタル広告で費用対効果の可視化
デジタル広告は従来の広報活動と比較して、詳細なデータを取得し、効果を数値化しやすいという特徴があります。数値化されたデータに基づき、どの広告が効果的で、どの広告が効果的でないのかを分析し、今後の広告戦略に活かすことが可能です。
行政機関がデジタル広告を活用するケースは、企業が利用するような商品やサービスの宣伝とは異なり、住民への情報発信やサービス案内が中心です。近年では、その活用方法がますます多様化し、費用対効果の可視化も重要な課題となっています。
テレワークの実施
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、働き方を大きく変えました。その代表的な例がテレワークの普及です。民間企業を中心にテレワークが導入され、その流れは自治体にも波及しています。
テレワークの導入は一時的な対応策ではなく、働き方改革を加速させ、行政サービスの質を向上させる新たな可能性を秘めているのです。
IT人材の育成
行政のデジタル化の推進には、ITスキルを持った人材の育成が重要です。IT人材の育成は、新しいシステムを導入するだけでなく、システムを効果的に活用し、新たなサービスを生み出すための基盤となるためです。
例えば、デジタルリテラシー向上のための研修プログラムを導入し、職員のデジタルスキル向上を目指すことや、e-ラーニングやセミナーなどの方法で職員のITスキルアップを支援することも可能です。
以下で、IT人材を育成するためのおすすめのセミナーをご紹介します。
DX社内研修の重要性と効果については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
DX完全攻略ハンズオンセミナー
AI研究所のDX完全攻略ハンズオンセミナーは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現に向けて、実践的なスキルを習得できるセミナーです。このセミナーの特徴は、1日でDXの基本的な知識と仕組みが理解できるほか、各分野のDXの構築方法と様々な実践的スキルを習得することが可能です。
DX完全攻略ハンズオンセミナーは、基礎編と応用編に分かれており、以下のような内容が学べます。
基礎編 | 応用編 |
DXの基礎知識や事例 | 機械学習アルゴリズムの種類と特徴 |
DXのビジネスの取り入れ方 | 作業自動化ロボットの作成 |
複数の技術の融合 | 3Dデータ・3Dプリンターについて |
チャットボット入門セミナー
AI研究所のチャットボット入門セミナーは、AIチャットボットの基礎から実践までを網羅的に学ぶことができる人気のセミナーです。プログラミング初心者でも、チャットボット入門セミナーに参加すれば、実際にチャットボットを作成できるようになることを目指しています。
チャットボットは、行政のデジタル化においてAI自動応答で使われる技術です。実務に即した課題をトレーニングするため、受講後は業務でチャットボットを利用できるようになるでしょう。
生成AIセミナー
AI研究所が開催する生成AIセミナーは、生成AIの基礎知識から具体的な活用事例まで、幅広い内容を網羅しています。冒頭でも先述したように、デジタル行政では、ChatGPTなどの生成AIが正式に活用されつつあります。
生成AIセミナーでは、 初心者の方でも2日間で生成AIのモデルを構築したり、既存のモデルをカスタマイズする方法を学び、実務に活かすスキルを習得できます。
デジタル行政推進課は効率化や最適なサービス提供に繋がる
今回は、デジタル行政推進課の目的やメリット、デメリット、デジタル行政推進事例を詳しくご紹介しました。行政手続のオンライン化は、単に手続きをデジタル化するだけでなく、以下のようなメリットをもたらします。
- コスト削減
- 人手不足解消
- 利便性向上
住民の利便性向上と行政の効率化を両立させるためにも、積極的にオンライン化を進めることが重要です。