AIの普及に伴い、個人情報の収集や利用・分析が大規模かつ複雑化しています。そのため、従来の法制度では対応しきれない新たなリスクが生じています。
例えば、AIによる自動的なデータ処理や、個人を特定できる情報の推論などが挙げられます。個人情報保護委員会は、AI技術の進化を踏まえ、個人情報保護法の改正に向けた議論を仕切り直す方針を公表しました。
2025年の通常国会での改正案提出を目指す一方で、法制度の根本的な在り方を見直す必要性に迫られたためです。この議論では、AI技術の特性を踏まえた新たなルール作りや、個人情報の保護と利活用のバランスなどが焦点となるでしょう。
AIの急速な発展は、私たちの生活やビジネスに大きな変革をもたらしていますが、同時に新たな課題も浮き彫りにしているのです。今回は、AIが抱える課題や企業が知っておくべき導入前の注意点を詳しく解説します。
AIが抱える課題とは
AIをビジネスや私たちの身の回りの生活に取り入れることで、様々なメリットを得ることができると同時に、AIにはいくつかの課題があることを理解しておく必要があります。
以下で、AIが抱える代表的な課題を解説しますので、AI導入を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
情報漏洩のリスクがある
AIを活用する際は、ネットワークを経由してデータのやり取りを行うため、情報漏洩のリスクがゼロではありません。特にAIを活用したシステムでは、顧客情報や社内の機密情報などのデータを取り扱うことも少なくないため、外部からのハッキングだけでなく、内部の人間による情報漏洩が起こる可能性を踏まえた対策が必要です。
内部からの情報漏洩は過失の場合もありますが、意図的に情報を漏洩させるケースもゼロではありません。
そのため、従業員に対するITリテラシー教育の実施やデータ取り扱いに関するルールの策定だけでなく、社内のセキュリティシステム自体を何重にも強化し、管理するなど、専門知識を持つ担当者によるリスクマネジメントが重要となります。
セキュリティリスクがある
AIは、ハッキングやサイバー攻撃の標的となる可能性が高いと言われています。特に企業の重要なデータを扱う場合、従来のセキュリティ対策に加えて、AI特有の脅威に対応する新たなセキュリティ対策が必要になるでしょう。
例えば、データの暗号化やアクセス制御を強化することで、データ漏洩のリスクを低減することができます。
また、AIシステムの監視と異常検知を行うセキュリティツールの導入も、サイバー攻撃の被害を最小限に抑えるために有効な手段と言えるでしょう。
ハッキングやサイバー攻撃などの悪用リスクについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
雇用が減少する
AIを導入することによって労働力不足を解消することができますが、これまで人間が行ってきた業務を人間よりも速く正確にこなすことができるAIに置き換えることで、職種によっては雇用が減少する可能性があります。
特に、AIは単純作業や定型化された業務を得意としているため、店舗のレジ係や受付、工場のライン工など、比較的ルール化しやすい職種に関しては、将来的に雇用が減少してしまう可能性は否めません。
しかし一方では、AIを活用することによって、以下のような職業やこれまでにはなかった新しい業務が生まれ、従来とは別の分野で雇用が増えるのではとの声もあります。
AIエンジニア | AIを駆使し、情報技術システムやソフトウェアの構築および運用に携わる専門家 |
データサイエンティスト | 膨大なデータ群から有益な知見を導き出し、課題解決に貢献する専門家 |
AIプランナー | AIを駆使して企業の経営上の問題を解決し、全体を管理する役割を担う専門職 |
人間の仕事がAIに置き換わっていくとしても全ての業務がAIに置き換わってしまうという訳ではありません。何かをゼロから新しく生み出したり、感情に働きかけたりするようなクリエイティブな業務については、AIが苦手としている分野のため、今後はAIと人間それぞれの得意分野を活かし、適切な業務のすみ分けを行うことが大切です。
思考のプロセスを確認できない
AIは高度な処理能力により様々な分野で活用されていますが、同時に判断基準がブラックボックス化してしまうという課題も抱えています。
人間の場合、結論に至るまでの思考プロセスを辿ることができますが、AIは膨大なデータを高速で処理するため、どのような思考過程でその判断に至ったのかを明確にすることが難しいのです。
比較的単純なプログラムであれば、人間が判断基準を把握することも可能ですが、高度で複雑な処理が必要なケースでは、AIが導き出した結論が本当に最適なものなのか、人間側で確認することができず、AIを意思決定の判断材料として利用しにくいという側面があります。
100%完璧ではない
高精度で分析や予測をすることができるAIですが、いつでも100%完璧という訳ではありません。AIは人間よりも安定して高精度の処理をすることが可能ですが、誤検出や誤作動などを起こしたり人間の能力を下回ってしまったりすることもあります。
もちろん、処理の内容や分野によって差はありますが、AIがいつでも正しいという訳ではなく、いつでも人間が望む答えが導き出せるという訳ではないことも忘れてはいけません。
AIは膨大な量のデータを学習した上で自動的に計算し、最も合理的な判断を下しますが、人間の感情や倫理感などは考慮せずに、あくまでも計算上で最も合理的だと判断して答えを出します。
思考力が低下する恐れがある
AIは人間よりも高速で高精度な処理能力を持つため、人間がAIに依存してしまうことで思考力が低下する懸念があります。
例えば、売上予測を立てる際にAIを活用すれば自動で算出してくれるため、人間側で過去のデータを参照しながら計算する必要がなくなります。
また、初めての場所に訪れる時は、スマートフォンの地図アプリなどを使用すれば自分で地図を読む必要も所要時間を計算する必要もありません。
AIを活用することで、ビジネスにおける生産性や身の回りの生活の利便性は大きく向上しますが、何をするのにもAI頼りになり、人間が自分の頭で考える機会が減少することで、思考力が低下するだけでなく自身の能力を向上させるチャンスさえも逃してしまう可能性があるのです。
シンギュラリティ問題がある
シンギュラリティとは、AIが人間の知能を超える時点を意味しています。シンギュラリティの概念については、アメリカの発明家で人工知能の世界的権威でもあるレイ・カーツワイル氏をはじめとした多くの研究者が仮説を立てており、2045年に起こると予想されています。
AIがシンギュラリティに到達した場合、人間社会には大きな変化が生じるとされており、以下のような影響があると言われています。
- 多くの仕事がAIに代替され、失業者が増加する
- AIでは代替できない新たな仕事も生まれる
- ベーシックインカムの導入が進む可能性がある
- 人工臓器を用いた治療や人体改造が可能になる可能性がある
AIの課題を乗り越える導入前の注意点
企業の業務にAIを導入する際には、様々な側面から注意すべきポイントがあります。以下で詳しく解説します。
完璧という訳ではないことを理解する
AIは処理の内容やシステムの内容によっては、誤作動や誤検出を起こす恐れもあり、人間よりも処理精度が落ちることも少なくありません。
また、AIは人間の感情を理解することができないという特徴もあるため、全てをAI任せにしてしまうのではなく、あくまでも最終的な判断は人間側で行うべきだと意識しておくことも重要です。
AIはいつでも100%完璧という訳ではないということを理解した上で、AIのみに依存し過ぎずに上手く共存していくことが大切です。
長期的な視点で計画する
AIを実際に導入すればすぐに売上増加や生産効率の向上が狙えるという訳ではないため、あらかじめ長期的な視野で計画を立てておくことも重要です。
例えば、企業のマーケティングでAIを活用する場合などは、継続的にデータを取得して傾向を分析する必要があります。
効果が見えてくるタイミングはAIを導入する分野やシステム内容にもよりますが、AIを導入する際には、短期的な効果を求めるのではなく、長期的な視野で事業計画を立てるのをおすすめします。
セキュリティを確保する
AIは大量のデータを利用して学習・処理を行うため、情報を適切に管理しないと、情報漏洩やプライバシー侵害の問題が発生し、企業の信頼性やブランドに大きなダメージを与える可能性があります。
AIの活用には多くのデータを必要としますが、企業の内部情報や顧客データが含まれる場合があるため、AIを導入する際は、機密情報の流出や不正アクセスが発生しないよう、厳重な管理が必要です。
クラウドベースのAIサービスを利用する場合、外部のサーバーにデータを保存するため、セキュリティの確保が特に重要となります。機密情報を適切に保護するためには、以下の対策が有効です。
- 名前や住所などを伏せて利用するなどデータを匿名化する
- 必要な権限を持つ者のみにアクセスを許す
- 通信経路や保存時におけるデータの暗号化を徹底する
- 外部クラウドサービスを利用する際は、セキュリティ保障があるか確認する
- セキュリティ対策が機能しているか定期的に監査・テストする
以上を踏まえて、データの取り扱い方に関しては、社内で明確なルールを設定しておくことが大切です。
AIが生成した物の精度を確認する
AIは、学習データやアルゴリズムに基づいて出力を生成しますが、その過程で誤りが含まれることがあります。
特に顧客対応やマーケティング資料、製品説明などで発生すると、企業イメージや顧客満足度に大きな影響を及ぼしかねません。
そのため、生成物の精度確認は、生成AIを効果的かつ安全に運用するために不可欠です。生成物の精度を確認し、誤りを防ぐためには、以下の対策が効果的です。
- 成果物を専門知識を持つ担当者が確認し、必要に応じて修正や加筆を行う
- AIが生成したコンテンツをテストし、その結果を検証・評価するフェーズを設ける
- AIが使用するデータを定期的に更新し、最新の情報や正確なデータを反映させる
このようにして精度確認のプロセスを確立することで、AIの信頼性を高められるでしょう。
AI人材を育成する
AIの様々な課題を理解した上で、自社の業務にはどの程度の精度が必要か、それを実現するためにはどんな仕組みが必要かなど、安心して相談できる専門家を作っておくことが大切です。
また、リサーチ業務などのデータ収集にAIを活用する場合など、AIが分析した後のデータを十分に活かすには、専門知識やスキルも必要となります。
社内に専門知識を持つ担当者がいれば良いですが、もし社内にそういった人材がいない場合は、従業員を育成することをおすすめします。
AI人材を育成するならセミナーがおすすめ
AI人材を育成する方法は様々ですが、その一つとしてセミナーが挙げられます。セミナーは、短期間で集中的に知識やスキルを習得できるため、効率的な人材育成方法として注目されています。
以下のようなセミナーでは、AIの基礎知識から応用技術、倫理的な問題まで、幅広いテーマを学ぶことができます。
データサイエンティストセミナー
データサイエンティストは、データ分析の専門家です。AIを活用することで、データ分析の精度や効率を大幅に高めることができます。
AIを活用して得られた知見をビジネスの意思決定に役立てる役割も担っており、データに基づいて客観的な判断をすることで、効果的な戦略立案や課題解決に繋げることが期待されています。
データサイエンティストセミナーは、未経験の方でも2日間でデータサイエンスについて理解し、データを用いてビジネス課題を解決するためのスキルを身につけることができます。
このセミナーでは、データ分析の基礎から応用までを網羅的に学ぶことができます。短期間で集中的に学習することで、効率的にスキルを身につけることができるでしょう。
初心者向けのデータサイエンス参考書については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
AIエンジニア育成講座
AIエンジニアは、AIを活用して、ITシステムやソフトウェアを開発・運用する専門職です。AI技術の開発やAIモデルの構築、AIの活用方法の考案などが主な業務です。
AIエンジニア育成講座は、未経験の方でも2日間でAIプログラミングの基礎を理解できるおすすめの講座です。
会場受講のほか、オンラインでも学習できるので、場所や時間を選ばずに学ぶことができます。講座では、AIを構築するための機械学習の仕組みから、最新の画像認識モデルの作成まで、幅広いスキルを習得できるため、AIエンジニアとして活躍するための基礎知識とスキルを身につけることが可能です。
生成AIセミナー
生成AIセミナーでは、未経験の方でも2日間で生成AIについて理解を深めることができます。1日目には、生成AIの種類やLLMの仕組みといった基礎知識を習得し、ChatGPTの具体的な活用方法を学びます。
プロンプトエンジニアリングの概念を理解し、実際に生成AIを用いてイメージ画像を作成する実践的な演習も行います。
2日目はChatGPTを社内でどのように活用できるかを検討し、サービス開発に不可欠となるPythonの基礎を学びます。社内独自のデータを学習した生成AIの作成や、LLMを利用したサービス開発も視野に入れた、より高度な内容を扱う内容です。
このセミナーでは、生成AIの基礎から応用までを網羅的に学ぶことができ、実務に役立つスキルを身につけることが可能です。
AIにおける課題への対応策を確立しよう!
今回は、AIが抱える課題や企業が知っておくべき導入前の注意点を解説しました。AIの導入は、業務効率化や創造的な作業の支援など、企業に多大な利益をもたらします。
しかし、AIには、様々な課題も存在するため、課題に対処するには、専門的な知識と経験が求められるのです。
