生成AIが身近な存在になっている現在、「便利そうだけど、少し怖い」と感じたことはありませんか。例えば、AIが書いた文章やイラストが、思った以上に人間のようで戸惑う感覚。生成AIの進化の裏には、著作権やプライバシー侵害、誤情報の拡散など、見えにくいリスクが広がっています。
そこで注目されているのが、生成AIガイドラインという考え方です。生成AIを安全に使っていくには、ユーザー自身がルールを理解し、向き合う必要があるのです。
今回は、企業や個人における生成AIガイドライン作成の流れやポイントを解説します。
生成AIとは
生成AIとは文章や画像、音声、コードなどを人間の手を介さず自動で生成できる人工知能のことを指します。従来のAIが分類や予測を行う分析をしていたのに対し、生成AIは創ることに特化しているのが特徴です。
代表的な生成には、記事作成やイラストや写真風の画像生成、音楽や動画の制作があり、生成できる対象により、以下のように分類されます。
- テキスト生成AI
- 画像生成AI
- 音声合成AI
- 動画生成AI
- コード生成AI
生成AIガイドラインが必要な理由
以下では、なぜルールとしてのガイドラインが必要とされるのか、その理由を見ていきましょう。
倫理的な問題があるため
生成AIは、インターネット上の情報を学習し、それを元に新しいコンテンツを生み出す仕組みです。しかしその学習元には、著作権が存在する作品や個人を特定できる情報が含まれていることも少なくありません。
そのため、誰かのSNSや本、写真、音声データなどが、知らず知らずのうちに他人の権利を侵害している可能性があるのです。さらに、AIに組み込まれているバイアスの問題もあります。
AIは人間の価値観や歴史的な偏見をそのまま学習してしまうことがあり、意図せず差別的な出力を行うこともあるのです。だからこそ、人間が責任を持って管理することが重要なのです。
安全性における懸念があるため
生成AIは、人間の作業をサポートする一方で、武器として使われる可能性もあります。例えば、AIを使ってフェイクニュースやなりすまし画像を作ることは、技術的に十分可能です。
実際に、SNSで拡散された偽情報が世論や選挙結果に影響を与えるという事例や詐欺メール生成、サイバー攻撃にも生成AIが使われ始めているのです。このような悪用リスクは、企業だけでなく個人にも深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
誰の責任になるのかという曖昧なラインを明確にするためにも、安全性を見据えたガイドラインの作成が大切なのです。
各国で規制に対する動きが見られるため
著作権侵害やプライバシーの侵害、不正確な情報の拡散など、生成AIにおける課題は様々です。これらのリスクに対応するため、各国で法的なルールの整備が進められています。
欧州連合(EU)では、2024年8月に世界初のAI規制法が施行されました。この法律は、高リスクと分類されたAIに厳格な要件を課しています。さらに、生成AIには、学習データの透明性や生成物の明示などを義務としています。
また、アメリカ全体ではAI規制がまだ確立されていませんが、ニュージャージー州では、ディープフェイクの作成と配布を犯罪とする法律が制定され、違反者には最高3万ドル(約438万円)以下の罰金が科される可能性があります。
欧州のAI規制法については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
生成AIガイドラインにおける日本の取り組み
日本では、2025年4月時点で生成AIを規制する法律は存在しませんが、政府の取り組みとして「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」が策定されており、2025年3月には「第1.1版」が公表されています。このガイドラインは、AIの開発者や提供者、ユーザーが、AIのリスクを正しく認識し、自主的に必要な対策を実行できるように支援することを目的としたものです。
参照:AI事業者ガイドライン(第1.0版・第1.1版)|経済産業省
また、AI業界では、日本ディープラーニング協会(JDLA)が、「生成AIの利用ガイドライン」を公開しており、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、2024年7月に「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」を公開し、組織が生成AIを安全に導入・運用するための方針を提供しています。
参考:生成AIの利用ガイドライン|日本ディープラーニング協会(JDLA)
参考:テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
日本のAI法規制については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
企業や個人が生成AIガイドラインを持つ意味とは
生成AIの活用が当たり前になってきたからこそ、企業や個人は生成AIをどう使うのか、という視点が求められています。国や業界のガイドラインだけでは対応しきれない、現場ごとのリアルな課題に向き合うためには、企業や個人が自分たちのルールを持つことが大切です。
例えば、企業の場合は、以下のようなことを具体的にしておくことでトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
- どの部署がどんな目的でAIを使うのか
- 情報の取り扱いや確認体制をどうするのか
個人の場合でも、AIで書いた文章をブログに載せるとき、出典を明記したり、ファクトチェックしたりというルールの有無で、信頼性が大きく変わるでしょう。
誰かに決められる前に、自分たちで意思を持つためのガイドラインは、責任ある生成AIの使い方への鍵とも言えます。
生成AIガイドラインを作成する際の流れ
ガイドラインと言うと、少し堅苦しいイメージがあるかもしれません。しかし、実際は、生成AIをどう扱うかを自分たちで決めるための土台づくりをイメージして下さい。
ここでは、生成AIを安全に使うためのガイドライン作成時に押さえておきたいポイントを解説します。
①目的や範囲を明確にする
まず最初にガイドラインを作る目的を明確にしましょう。例えば、リスク回避のためや技術の革新を加速させるためなどです。
目的が曖昧なままだと、運用中に迷いやすくなります。また、生成AIを使う範囲も重要です。社内全体で使うのか、特定の部署やプロジェクトに限定するのか、個人でも仕事用とプライベート用でルールを分けるというのも一つの考え方です。
生成AIを使う目的や範囲がはっきりしていると、ガイドラインに沿った判断もしやすくなり、無意味になるリスクも減らせます。最初から完璧を目指すよりも、まずは「誰のために、何を守るのか」を明らかにすることが大切です。
②倫理に関する原則を設定する
次に、AIの倫理に関する以下のような原則を設定します。AIに任せるからこそ、人間側の倫理観がより強く問われるためです。
透明性 |
|
公平性 | 性別や人種、年齢などに偏った出力をしていないか確認する |
説明責任 | AIの出力に対して誰が責任を持つのかを明確にする |
倫理に関する原則は、正解がないからこそ曖昧になりがちです。しかし、あえて言語化して共有しておくことで、トラブル回避や信頼性の確保に繋がるでしょう。
③データ利用に関するルールを決める
生成AIの能力を左右するのが、学習用のデータです。AIに学習させるデータが適切に扱われていないと、AIの出力そのものが危ういものになります。
だからこそ、データの収集や利用、管理に関する以下のような基本的なルール作りが特に重要なのです。
- 第三者に権利がある情報を無断で使わない
- 個人情報が含まれるデータは除く
- 学習データの出所を明らかにする
また、社内データや顧客情報をAIに入力する場合には、アクセス権限や使用する範囲を定めておくことで、漏洩リスクを大幅に減らすことができるでしょう。
④知的財産権の保護に関するルールを決める
生成AIが出力した物の著作権は誰に帰属するのでしょうか。ユーザーや開発者など現在の法律ではグレーな部分が多いです。だからこそ、ガイドラインでルールを定めておくことが重要です。
企業の場合、AIで生成したコンテンツは社内だけで利用する、公開する時には、AIで作ったという明記をするなど、著作物に関する扱いを決めておくことで、トラブルを回避することができます。
また、他人の作品を真似た出力や、著作権を侵害するリスクのあるプロンプトの使用を禁止するルールも有効でしょう。
⑤セキュリティ対策とリスク管理
生成AIは便利ですが、セキュリティ上の落とし穴にも気をつける必要があります。例えば、業務データや顧客情報をAIにそのまま入力してしまうことで、情報が外部サーバーに渡ってしまい、漏洩のリスクが生じるケースがあるのです。
そんなうっかりしたミスを防ぐためにも、セキュリティ対策はガイドラインの軸となるべき項目です。具体的には、以下のような施策が挙げられます。
- 生成AIの使用を許可するサービスを限定しておく
- APIやクラウド利用時には、セキュリティチェックを必ず行う
- ログの保管期間やアクセス権の管理ルールを整えておく
個人で使う時も、AIにアップロードする前にこの情報を本当に出して大丈夫か、と立ち止まる習慣を持つことが大きな危機管理となるでしょう。
⑥違反した時の対応やペナルティを決める
ガイドラインは、守ることが前提で作るものですが、想定外の使い方やルール違反が起こることもあるでしょう。そのため、違反した場合にどう対応するか、違反するとペナルティがあるのか、をあらかじめ決めておく必要があります。
例えば、企業なら、初回は注意して教育し直し、悪質な場合は業務停止や懲戒の対象となる、などの段階的な対応を設けるのが一般的です。個人でも、SNSでAIでの虚偽情報を拡散したら、投稿やアカウントを削除するなどのペナルティを自ら決めておくことは、有効な自己管理になります。
ペナルティは脅しというよりも、予防としての意味合いが強いでしょう。
⑦定期的に見直して改善をしていく
生成AIの技術は、日々更新されているので、今日の常識が明日には古くなるようなスピード感で進化しています。それに伴い、生成AIに対する受け止め方もどんどん変化していくでしょう。だからこそ、ガイドラインは一度作って終わりではなく、育てるものと捉えるのが大切です。
例えば、半年に一度のペースで再考する、法改正やAIのアップデートに合わせて修正していくというルールを事前に決めておくと、無意味なものにならないでしょう。
さらに、利用者からフィードバックをしてもらい、その声を反映してアップデートする仕組みがあると、ガイドラインが現場で生きるものになります。生成AIとの付き合い方をアップデートし続ける姿勢こそが大切です。
企業における生成AIガイドライン作成のポイント
企業で生成AIを導入する際は様々な要素が絡み合う中で、組織としてどう向き合うかが問われています。ここでは、企業が実際に生成AIガイドラインを作成する際のポイントを解説します。
試験的な利用から始める
生成AI導入時は、PoCから始めましょう。まずは、リスクの少ないタスクに限定して利用するのがおすすめです。また、生成AIツールは、ログの保存ポリシーや外部へのデータ送信の有無など、ガイドラインで決めた基準をクリアしているかどうかを確認しましょう。
便利そうだから、と勢いで導入を進めてしまうのではなく、ルールと仕組みづくりを同時に進めることが、持続的な活用の近道です。
従業員への教育を行う
生成AIガイドラインを作っても、生成AIを使う人が内容を理解していなければ意味がありません。むしろ、生成AIは誰でも簡単に使えるため、社員一人ひとりのリテラシーが運用の質を左右します。だからこそ、生成AI導入と並行して、継続的に教育を行うことが大切です。
以下のようなセミナーを通じて、生成AIでできることやしてはいけないことを実例ベースで共有することで、理解と実践を結びつけやすくなるでしょう。
生成AIセミナー
生成AIセミナーは、これから生成AIを業務で使いたい人や、名前は聞いたことがあるけどよく分かっていないという初心者の人にも安心して受けられる内容です。短期間で学習できる内容で構成されており、初日は生成AIの仕組みやChatGPTなどの基本的な理解からスタートします。
実際の業務で生成AIをどう使うかに焦点を当てているのがポイントです。使用上の注意点やプロンプトの作り方など、明日から使える知識やテクニックがしっかり学べます。
セミナー名 | 生成AIセミナー |
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運営元 | ProSkilll(プロスキル) |
価格(税込) | 27,500円〜 |
開催期間 | 2日間 |
受講形式 | 対面(東京・名古屋・大阪)・ライブウェビナー |
AIリテラシーは、一度学んで終わりではありません。分かった上で生成AIを使いこなす環境づくりが大切なのです。
部門ごとにガイドラインを作成する
生成AIの活用方法は、部署や業務内容によって異なります。例えば、マーケティング部門では広告や企画アイデア出し、カスタマーサポートでは問い合わせの自動化、エンジニアではコード補完などです。そのため、企業全体でのルールではカバーしきれないでしょう。
そのため、社内共通の基本的なガイドラインに加えて、部門ごとのルールを作ることが効果的です。例えば、以下のような実務に直結する具体的なルールを持つことで、現場に定着しやすくなります。
- AI生成の画像を商用利用する前に上長に必ず確認する
- 顧客対応の文章はAI生成後に必ず人間が確認する
現場の事情に合わせてルールを調整することで、ガイドラインが守られやすくなるでしょう。
個人利用における生成AIルール作成のポイント
生成AIは、企業だけでなく個人でも気軽に使えますが、自由にしていいことは別問題です。気づかず他人の著作権を侵害していたり、プライバシーを傷つけていたりすることもあるでしょう。
ここでは、個人で生成ガイドラインのようなルールを作成する際に意識しておきたいポイントを紹介していきます。
利用規約を確認する
まず、自分が使っている生成AIサービスの利用規約をしっかり読みましょう。実は個人で使う場合、意外と見落とされがちです。
例えば、生成AIでは商用利用が禁止されていたり、生成物の著作権はユーザーにない場合もあったりします。規約を守らず使ってしまうと、アカウントの停止やトラブルに繋がることも。
特に、生成AIが作った作品を公開したり、販売したりする場合、ライセンスの条件や禁止事項をしっかり確認することが重要です。無料だから、みんなやってるからでは済まされません。
自分の使っている生成AIのルールを知ることが、トラブルから身を守ることに繋がるのです。
著作権やプライバシーの侵害に気をつける
生成AIは、既存のデータを使って学習するため、無意識のうちに他人の著作物や個人情報を再現してしまうことがあります。例えば、インターネット上の小説を学習したAIが元の小説そっくりな文章を出力したり、SNSにある写真を元にした画像を生成したりすることがあります。
それをそのまま公開したり、販売したりすると、著作権やプライバシーの侵害に問われる可能性があるのです。特に、プロンプトに人物や企業名、商品名などが含まれている場合は要注意です。
出力内容に誤情報や偏見が含まれていたら、責任を問われるのはユーザー自身のため、著作権やプライバシーに対して気を配る姿勢が特に求められています。
生成された情報を鵜呑みにしない
生成AIを上手く使いこなすには、出力された情報をどう読み解くかが大切です。AIは、もっともらしいことを語ってくれますが、それが正しいかどうかまでは保証してくれません。だからこそ、ユーザー側に求められるのが情報リテラシーなのです。
提示したデータに誤りがあるかもしれない、差別的な表現を含んでいるかもしれないという可能性がある前提で受け取り、他の情報源と照らし合わせたり、ファクトチェックしたりすることで、AIの使い方はまるで違ってきます。
AIを過信せず、使いこなす人間がコントロールするという意識を持つことが、個人ユーザーにとって何よりのリスク回避になるのです。
機密データや個人情報は入力しない
生成AIを安心して使い続けるためには、入力する情報に敏感になることが重要です。個人名や機密データなどは極力AIに入力しないようにしましょう。信頼できるサービスであっても、情報がどう処理されるかコントロールできません。
更新情報を常に把握しておく
使う生成AIツールやサービスの更新情報には定期的に目を通しておきましょう。セキュリティリスクや規約変更がある場合、早めに対応できます。生成AIを味方につけるためには、最新情報を把握しておくことがベストなのです。
生成AIガイドラインの策定でリスクを最小限にしよう
今回は、企業や個人における生成AIガイドライン作成の流れやポイントを解説しました。生成AIは、扱い方を誤るとリスクにもなり得るツールです。だからこそ、その便利さに甘えるのではなく、使う側の姿勢や判断がこれまで以上に求められるでしょう。
進化し続ける生成AIに伴い、ガイドラインも継続的に更新することが重要です。政府や業界では、生成AIの進化における新たなリスクに対応するため、定期的に見直しと改善を行っています。今後も安全に生成AIを使うための取り組みが進められることでしょう。
