政府は急速に発展するAIのリスクに対応するため、新たな法規制を検討し始めました。岸田首相は、AIの安全性確保と同時に改革を促進することが重要だと強調しています。
特に、生成AIが様々な分野で活用されるようになり、各国で規制の動きが活発化していることを受け、日本でも具体的な法整備を進める方針のようです。今回は、日本でAIの法規制が必要な理由や日本でAIの法規制が必要な理由や日本のAI法規制のポイント、生成AIがもたらすリスク、信頼できる生成AIの特徴を解説します。
日本でAIの法規制が必要な理由
生成AIは大量のデータを学習することで、人間のような文章作成や画像作成ができるAIです。この技術は、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めている一方で、誤った情報拡散やプライバシー侵害などのリスクも含まれています。
そのため、EUでは世界で初めて、AIに関する包括的な規制法を制定しました。日本もこの流れに乗り遅れることなく、AIの利用に関するルール作りを急いでいるという背景があるのです。
EUが定めたAIに関する規制法については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
日本のAIに関する法規制
現時点の日本では、AIを包括的に規制する法律は存在しません。企業は、個々の事例に応じて、個人情報保護法や不正競争防止法などの既存の法律を遵守しつつ、AIの利用を進める必要があります。
以下では、現在定められているAI活用に関連する主な法律について解説します。
著作権法
2019年の著作権法改正により、「情報解析」という新たな概念が導入されました。これにより、AIによる学習など、著作物に表現された思想や感情を理解することを目的としない利用は、原則として著作権者の許可なく行えるようになりました。
特に、AIのディープラーニングは、情報解析に含まれることが明記され、AI開発における著作物の利用が促進されることとなりました。
不正競争防止法
2019年7月施行の改正不正競争防止法は、特許や著作権といった従来の知的財産権では保護が難しかった、一定の価値を持つデータの不正な取得や使用を規制対象に加えました。これにより、営業秘密に該当しないデータであっても、不正な取得や使用に対して、差止請求や損害賠償といった民事上の救済措置が認められるようになりました。
この改正は、企業が保有する技術情報や顧客情報などの重要なデータの不正利用から、より効果的に自らを保護することを可能にしたと言えるでしょう。
日本がAI法規制を検討する生成AIがもたらすリスク
日本がAI法規制を検討している生成AIがもたらすリスクには、以下のようなものがあります。
- サイバー犯罪
- 著作権侵害
- 機密情報漏洩
- 製造物責任
- 大衆扇動
- 社会や個人への影響
以下でそれぞれの項目を解説します。
また、生成AIのリスク管理については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
サイバー犯罪
生成AIは画期的な技術である一方で、サイバー犯罪に悪用されるリスクも高まっています。生成AIが持つ高度なテキスト生成能力は、まるで人間が書いたかのような自然な文章を生成できます。
この能力は、巧妙ななりすましメールの作成を可能にするため、結果として、個人情報漏洩や金銭的な被害につながるフィッシング詐欺がより巧妙化されることが懸念されます。さらに、生成AIはシステムの脆弱性を突く高度なマルウェアの開発も加速させる可能性があります。従来、マルウェアの作成には高度なプログラミングスキルが必要でしたが、生成AIを使えば、比較的少ない知識で強力なマルウェアを生成できるようになるかもしれません。
これらのリスクは、もはや遠い未来の話ではなく、現実的な脅威として認識されています。個人だけでなく、企業や組織にとってもサイバー攻撃による情報漏洩やシステムダウンは、甚大な損害をもたらす可能性があるのです。
著作権侵害
AIの学習には膨大な量のデータが必要ですが、そのデータが著作権で保護されている場合、無断で利用することはできません。著作権者の許諾を得るか、著作権が消滅している作品など、適切なデータを選択することが重要です。
また、AIを活用する際には、学習データとして利用する既存の著作物だけでなく、AIが生成する文章や画像も著作権侵害のリスクをはらんでいます。特に、既存の著作物と極めて類似した内容が生成される場合、著作権侵害となる可能性が高いでしょう。
機密情報漏洩
生成AIを使うと、ユーザーの情報が思わぬ形で広まってしまう可能性があります。 AIは学習する過程で入力された情報を記憶するため、ユーザーの個人情報が他のユーザーに知られてしまう危険性があるのです。
また、サービス提供業者が記録している利用履歴も不正アクセスなどによって漏洩するリスクが考えられます。個人情報保護法に違反する可能性もあるため、注意が必要です。
製造物責任
AIの普及に伴い、AIが原因で人々や他の事業者に損害が発生するリスクが高まっています。このような場合、従来の製品と同様「製造物責任」に基づき、AIの製造者が損害賠償などの責任を負うことが考えられます。製造物責任とは、製造された製品に欠陥があり、それが原因で損害が発生した場合、製造者がその損害に対して賠償する責任を負うという原則です。
AIが高度化し、社会インフラや医療など、より広範な分野で活用されるようになるにつれて、製造者の責任はますます重要視されるでしょう。AIの設計段階から安全対策を徹底し、万が一問題が発生した場合には、迅速に対応できる体制を整えることが求められます。
大衆扇動
生成AIは膨大なデータを学習し、人間が作成したかのような高品質なテキストや画像などを生成できます。その高度な生成能力は、フェイクニュースやディープフェイクといった虚偽情報の大量生産を可能にし、大衆を誤った方向へ導く危険性を孕んでいます。
特に、政治や社会に関する情報が標的となった場合、その影響は計り知れません。AIによる損害の責任は、AIの所有者に限定されるものではなく、開発者や利用者を含め、より広範な範囲で問われる可能性があります。
このような状況を踏まえ、生成AIの開発・利用にあたっては、倫理的なガイドラインの策定と厳格な監視体制の構築が急がれています。
社会や個人への影響
生成AIの急速な進化は、雇用構造の変容や人間が持つ能力への影響といった課題も浮上しています。特に、AIが高度な知的作業を代替できるようになることで、従来のホワイトカラーと呼ばれる事務職や営業職などの職業が大きく影響を受ける可能性があります。
大量のデータを分析し、複雑な問題を解決する能力は、もはやAIの独壇場になりつつあり、人々の働き方そのものを大きく変えることが予想されているのです。さらに、AIへの過度な依存は、人間の思考能力の衰退を招く恐れもあると指摘されています。
AIが代行してくれるからといって、自ら考えることを放棄してしまうと、創造性や問題解決能力といった人間ならではの能力が低下してしまう可能性があるのです。生成AIは強力なツールですが、一方で、社会全体に大きな影響を与える可能性を秘めています。そのリスクを最小限に抑えるためには、技術開発だけでなく、社会制度や教育の改革など、多角的な視点からの議論と対策が不可欠です。
信頼できる生成AIの特徴
米国国立標準技術研究所(NIST)が2023年に発表した「AIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)」は、AIの信頼性を高めるための重要なガイドラインです。このフレームワークでは、AIが抱える以下の7つのリスクを特定して軽減することで、より信頼性の高いAIシステムを構築することを目指しています。
- 有効性や信頼性
- 安全性
- セキュリティと回復
- 説明かつ解釈可能
- プライバシー保護
- 公平性
- 透明性
引用:NIST「AIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)」
AI RMFはAI開発・利用に関わる日本の組織にとって、その信頼性確保に不可欠なツールと言えるでしょう。以下で、AI RMFを元にした信頼できる生成AIの特徴を解説します。
有効性や信頼性
信頼できる生成AIは、高い信頼性と有効性を備えており、常に意図した通りの動作を保証します。堅牢な動作により、外部環境の変化にも柔軟に対応し、安定した性能を発揮します。ユーザーは、安心して生成AIを様々なタスクに活用することができるのです。
安全性
生成AIの安全性は、その技術が社会に広く普及していく上で非常に重要な要素です。単に「危険ではない」というだけでなく、多角的な視点から安全性について検討する必要があります。例えば、差別的な表現やヘイトスピーチ、虚偽情報などを生成し、特定の個人や集団を傷つけたり、社会不安をあおるような状況を避ける必要があるでしょう。
セキュリティと回復
生成AIが社会に浸透するにつれて、その安全性と信頼性がますます重要視されています。特に、機密情報の取り扱いやサービスの中断が許されないような状況では、高度なセキュリティ対策が不可欠です。
信頼できる生成AIは、強固なセキュリティ体制による不正アクセスや外部攻撃への耐性があり、予期せぬ事態からの迅速な復旧能力が重要です。
説明や解釈が可能
説明や解釈可能なAIシステムとは、動作の根底にあるメカニズムを人間が理解できる形で言語化し、出力された結果を解釈できる状態を指します。なぜその答えが出されたのか、どのようなロジックで判断されたのかを、人間が納得できる形で説明できる仕組みが重要です。
どうしてその答えが出されたのかが分かることで、AIの出力に対する信頼性が高まり、問題が発生した場合は、その原因を特定し、対策を講じやすくなるでしょう。
プライバシー保護
信頼できる生成AIは、利用者の個人情報を適切に管理し、不正アクセスや情報漏洩を防ぐための厳重なセキュリティ対策を講じています。また、利用目的の範囲を超えた個人情報の利用は行わず、プライバシーを最大限に尊重することが重要です。
公平性
生成AIが社会に広く浸透する中、その公平性や多様性への配慮がますます重要視されています。信頼できる生成AIとは、あらゆる人々に対して公平な扱いを行い、特定の集団に対する偏見や差別を生み出さないような仕組みが重要です。
透明性
生成AIが信頼されるためには、動作原理や生成過程が透明であることが不可欠です。AIのライフサイクル全体を通じて、適切なレベルの情報にアクセスできる状態が求められます。AIがどのような構造で構築され、どのようなデータで学習されたのかを可視化することで、その動作原理を理解しやすくなるでしょう。
生成結果に対する信頼性が高まり、ユーザーはより安心してAIを活用できるようになります。
企業は日本のAI法規制で連動することが重要
今回は、日本でAIの法規制が必要な理由や日本のAI法規制のポイント、生成AIがもたらすリスク、信頼できる生成AIの特徴を解説しました。生成AIの急速な発展に伴い、そのリスク管理が重要な課題となっています。
AI RMFを元にした信頼できる生成AIの特徴は、組織のAIに関する成熟度を客観的に評価することができます。AIのリスクを適切に管理することは、信頼性の高いAIシステムを構築し、ビジネスの成功に繋げるために不可欠です。