生成AIブームの中、マイクロソフトは2024年4~6月期決算を発表しました。同社は6四半期連続の増収増益を達成するなど、堅調な業績を示しましたが、主力事業の一つである生成AIを活用したクラウドコンピューティング事業の成長が鈍化したことが注目されています。
そこで今回は、クラウドAIの概要やメリット、デメリット、クラウドAIの導入が向いている企業、活用事例を詳しく解説します。
クラウドAIとは
クラウドAIとは、インターネットを通じて、誰でも簡単に利用できる人工知能のことです。例えば、画像認識や音声認識といった機能などが代表的です。
従来、人工知能を導入するには、専門的な知識や高価なコンピューターが必要でした。しかし、クラウドAIはインターネットに接続できる環境さえあれば、誰でも手軽に利用できるようになったのです。
クラウドAIの比較として上げられるエッジAIについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
クラウドとオンプレミスの違い
クラウドコンピューティングの対義語として、オンプレミス環境が挙げられます。オンプレミスは自社でサーバーなどを所有し、システムを管理する方式です。一方、クラウドは、外部のサービスを利用することで、自社での管理負担を減らせます。
クラウド | インターネット上のコンピュータ資源を共有して利用するサービス |
オンプレミス | 企業が自社でITシステムを所有・運用する方式(自社運用) |
機密性の高いデータや社内システムとの連携が必要な場合は、自社で管理できるオンプレミスが選ばれることが多いです。一方、顧客向けのサービスでは、柔軟性や利便性が高く、専門知識がなくても利用できるクラウドが適しています。
クラウドAIのメリット
クラウド上で提供されるAIサービスであるクラウドAIは、手軽に高度なAI機能を利用できるのはもちろん、以下のようなメリットがあります。
- 大規模かつ複雑なデータ処理ができる
- サーバーへの負荷が軽減できる
- 多数のサンプルデータが利用できる
それぞれの項目を詳しく解説します。
大規模かつ複雑なデータ処理ができる
AIは膨大な量のデータを学習し、そこから新しい知識やパターンを見つけ出す作業を高速で行います。このような複雑な処理には、一般的なパソコンでは処理しきれないほどの計算能力と記憶容量が必要です。
クラウドAIは、大規模なデータセンターに設置された大容量のクラウドサーバーを利用します。このサーバーは、AIの処理に特化して設計されており、大量のデータを高速で処理することができます。
また、クラウド上の仮想サーバーは、必要なリソースを柔軟に拡張でき、利用状況に応じてリソースを調整できるため、コストパフォーマンスにも優れています。
サーバーへの負荷が軽減できる
クラウドAIは、大規模なデータ処理や複雑な計算をクラウド上で実行できるため、自社のコンピューターリソースの制約を気にせず、AIの能力を最大限に引き出すことができます。また、最新のAIモデルや膨大な学習データをクラウド上で手軽に利用できるため、自社で一から開発する手間とコストを削減できます。
多数のサンプルデータが利用できる
クラウドAIは、事前に学習済みのモデルと大量のサンプルデータを備えているため、新規ユーザーであっても手間なく高度なデータ分析を始めることができます。これにより、AI導入までの期間を大幅に短縮し、迅速なビジネス展開が可能になります。
クラウドAIのデメリット
クラウドAIは、その手軽さから多くの企業に導入されていますが、万能ではありません。クラウドという環境でAIを運用することは、特有の課題が存在します。
以下で、クラウドAIのデメリットについて詳しく解説します。これらの課題を理解することで、自社に最適なAI導入戦略を立てる一助となるでしょう。
通信や処理で遅延が発生する可能性がある
クラウドAIは、インターネットを通じて大量のデータをやり取りするため、ネット回線が混雑すると処理が遅れてしまうことがあります。例えば、大容量のファイルをたくさん送受信しているときに、インターネットが途切れてしまうようなイメージです。
しかし一方で、5Gの登場により、この課題は解消されつつあります。5Gは、従来の回線と比べて圧倒的に高速で遅延も少ないため、クラウドAIの性能を最大限に引き出すことができます。そのため、より高度なAIサービスが実現していくことが期待されます。
データ量の増加で通信コストが増える可能性がある
クラウドAIは、通信コストが増える可能性もあります。 特に、リアルタイムで大量のデータを処理するようなケースでは、通信量が増大し、結果的に通信費が嵩む可能性があるでしょう。一方で、高性能なサーバーの購入や専門の人材の雇用などの初期投資や運用コストを削減できるメリットもあります。
そのため、導入前に自社の利用状況やデータ量を精査し、通信コストとその他の費用を比較検討することが重要です。
エッジAIに比べセキュリティリスクが高い
エッジAIは端末内でデータを処理し、得られた結果のみをクラウドに送るため、データ漏洩のリスクを大幅に低減できます。機密性の高いデータを扱う企業にとっては、大きなメリットと言えるでしょう。
一方、クラウドAIはデータをクラウド上に集約して処理するため、ネットワークを通じてデータが移動する際に、外部からの攻撃にさらされる可能性があります。特に、機密情報を含むデータを扱う場合は、このリスクを十分に考慮する必要があるでしょう。
クラウドAIの導入が向いている企業
クラウドAIは強力な機能と柔軟性から、多くの企業にとって魅力的な選択肢です。しかし、マイクロソフトのクラウドAI事業の成長が鈍化したように、すべての企業に当てはまるわけではありません。
クラウドAIの導入を検討の際は、自社の状況と照らし合わせ、以下の特徴に当てはまるかどうかご確認ください。
コストや労力を抑えたい
クラウドAIは、インターネットを通じて提供されるサービスであるため、特別なハードウェアやソフトウェアを準備する必要がありません。そのため、初期投資を最小限に抑え、手軽にAIの導入を開始することができます。
また、専門的な知識がなくても利用できるよう、直感的に操作できるユーザーインターフェースが提供されていることが多いです。そのため、AIの専門知識がなくても自社の業務にAIを導入したいと考えている企業にもおすすめです。
汎用的な方法に使いたい
クラウドAIは顔認証や自動翻訳、チャットボット、文字起こしなど、幅広い用途に活用できる汎用性の高いツールです。学習済みのクラウドやソフトウェアであれば、専門的な知識がなくてもすぐに導入し、活用を開始することができます。
特に、大量のデータを処理し、分析することが求められる企業や顧客とのコミュニケーションを効率化したいと考えている企業にとって、クラウドAIは非常に有効な手段となるでしょう。クラウドAIの導入を検討している企業は、自社の課題や目標を明確にし、クラウドAIがどのように課題解決に貢献できるのかを検討することが重要です。
AIを試しに使いたい
クラウドAIは、柔軟なスケーリングに対応しているため、ビジネスの成長に合わせて、簡単にリソースを増減することができます。「今後、独自のAI開発のために、まずはAIについて学びたい」といった企業は、クラウドAIがおすすめです。
学習済みのモデルをすぐに利用できるため、AIの基礎を学びながら、実用的な経験を積むことができます。そのため、スタートアップ企業や事業規模が変動しやすい企業にとって、大きなメリットと言えるでしょう。
AIについて学びたいという方は以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
クラウドAIの活用事例
企業は競争力の強化や業務効率化のために、積極的にクラウドAIを取り入れており、幅広い分野で活用されています。以下で、具体的な事例を見ていきましょう。
不良品の検知
ある食品メーカーが抱えていた原料検査の負担を軽減するために、クラウドAIを活用した検査システムを導入しました。このシステムは、ベルトコンベアー上の原料をAIがリアルタイムで解析し、不良品を自動的に検出する仕組みです。
クラウドAIによる画像認識技術により、人手による検査では見つけられなかった微細な不良も発見できるようになりました。結果的に、検査の精度が向上し、製品の品質が安定したようです。また、人的ミスの削減やコストの抑制にも繋がり、生産性の向上に大きく貢献しています。
自動運転技術
自動運転ではクラウドAIとエッジAIの技術が協力することで、安全かつ快適に運転可能です。クラウドAIは自動運転において、リアルタイムの交通情報や地図データ、車両の履歴データを統合し、最適なルートを探索する上で重要な役割を担います。広範囲な交通情報を網羅的に分析することで、渋滞回避や最短経路の算出が可能となり、スムーズな走行に貢献するのです。
一方、エッジAIは車両に搭載されたカメラやセンサーから得られる画像データを高速処理し、障害物検知や車線維持など、即時的な判断を必要とするタスクを担当します。低遅延な処理により、安全な自動運転を行い、クラウドAIとの連携により高度な自動運転システムを構築しているのです。
商品の需要予測
あるスーパーマーケットでは、新型コロナウイルス感染症拡大による需要の急激な変動に対応するため、AI需要予測による自動発注システムを導入しました。このシステムは、過去の販売データや気象情報、イベント情報などの外部データをクラウド上で分析し、リアルタイムに最適な発注量を算出します。
これにより、コロナ禍特有の需要の変動にも柔軟に対応し、品切れや過剰在庫といった問題を未然に防ぐことに成功しました。
ECサイトにおけるレコメンド機能
あるゲーム販売ECサイトでは、クラウドAIを用いてユーザーの過去の購入履歴、閲覧履歴、プレイ時間などのデータを分析し、個人に合わせたレコメンドモデルを構築しています。このモデルに基づき、ユーザーが次に興味を示しそうなゲームをレコメンドすることで、顧客満足度の向上と売上の増加に繋がりました。
広告配信の分析
従来、広告効果を最大化するためには、専門の人間が長期間にわたってデータ分析を行い、最適な広告配信戦略を立てる必要がありました。しかし、クラウドAIの登場により、この作業が自動化され、大幅な時間とコストの削減を実現しています。
AIは大量のデータを高速に処理し、人間では気づけないようなパターンや相関関係を発見するという能力を持ちます。そのため、より精度の高い広告ターゲティングが可能になり、企業は限られた広告予算を最大限に活用できるようになりました。
農作物の管理
クラウドAIは、農業の分野においても画期的な革命をもたらしています。例えば、植物工場では、クラウドAIに各農作物の成長データや環境データを学習させることで、最適な温度や培養液の濃度を自動で調整できるようになりました。これにより、人的ミスを減らし、より高品質な農作物を安定的に生産できるようになっています。
さらに、 エッジAIを搭載したドローンを導入することで、農場の隅々までをリアルタイムで監視し、作物の生育状況を詳細に分析できます。最適なタイミングで収穫することで、品質の低下を防ぎ、収量を増やすことが可能です。
クラウドAIは業務効率化や売上向上が期待できる
今回は、クラウドAIの概要やメリット、デメリット、クラウドAIの導入が向いている企業、活用事例を詳しく解説しました。クラウドAIの魅力は、サーバーの構築や管理などの手間を省き、大規模なデータ処理を可能にする点にあります。
従来、AIの活用には高性能なサーバーや専門知識が必要でしたが、クラウドAIの登場により、これらの障壁が大きく取り払われました。柔軟性とコストパフォーマンスの高さから、多くの企業で導入が進んでいますが、メリットだけでなく、デメリットも理解した上で、自社のビジネスに最適なクラウドAIサービスを選択することが重要です。
クラウドAIはコスト削減や業務効率化、売上向上などの様々なメリットをもたらすため、これからのビジネスにおいて不可欠な存在となるでしょう。