2024年5月、欧州(EU)は世界初となるAI規制法を成立させました。この法案は、AIの安全性と論理的な利用を確保することを目的としており、リスクレベルに分類し、該当するAIシステムそれぞれに利用制限や管理義務を課す予定です。
2026年より本格施行される方針で、AI時代の新しいルールとして世界各国に大きな影響を与え世界の基準となることが期待されています。今回は、AI規制法の特徴や成立した背景、AI規制法が与える影響、企業が行うべき対策を解説します。
欧州が成立したAI規制法とは
AI規制法とは、AIシステムをリスクレベル4つに分け、それぞれに利用制限や管理義務を課す法案です。以下のようにリスクが高くなるにつれて、規制が厳しくなっていく仕組みです。
リスクレベル | AIシステムの例 | 概要 | 規制内容 |
レベル1 最小限のリスク | ゲーム 画像編集 ソフトなど | 日常生活で利用され、人や社会に与える影響が限定的であるAI | 基本的な安全要件 |
レベル2 限定的なリスク | 音声認識 チャットボットなど | 特定の状況下で、人や社会に軽微な危害を及ぼす可能性があるAI | ・透明性の確保 ・データ保護 ・人による監視などの義務 |
レベル3 高リスク | 医療診断 クレジット 自動運転など | 人や社会に重大な危害を及ぼす可能性があるAI | ・厳格なリスク評価 ・当局への報告 ・技術文書の作成 ・人による監視などの義務 |
レベル4 許容できないリスク | 社会信用スコア算出AI 犯罪予測AI など | 基本的権利を著しく侵害したり、社会に重大な脅威を与えたりする可能性があるAI | 利用禁止 |
また、この他にも生成AIなどに対する具体的な義務が適用されるようです。AI規制法は世界初の規制であり、AI技術の安全性と倫理的な利用の確保を目的としています。
AI規制法がAI規制法を成立した背景
近年、AI技術は目覚ましい進歩を遂げており、様々な分野で活用されていますが、その一方で、AI技術の悪用や倫理的な問題も懸念されていました。例えば、本人の知らない間に動画や音声を生成し、虚偽情報を拡散したり、なりすましを行ったりするディープフェイクなどです。
従来は法制度が急速に進化するAI技術に対応できておらず、倫理的な利用や安全性を確保するための法的な整備が遅れていました。倫理的なガイドラインを明確にすることで、責任のあるAI開発や利用を促進し、新たなビジネスチャンス創出にもつながることが期待されています。
欧州のAI規制法の特徴
欧州によるAI規制法は、AI技術の安全性や信頼性の向上はもちろんのこと、人権や民主主義を守るために画期的な役割を果たすことが期待されています。以下で、AI規制法の特徴を詳しく解説します。
基本的人権と倫理が守られる
AI規制法では市民の基本的人権と倫理を徹底的に守り、AIによる被害を受けた場合、苦情を申し立てることができます。 例えば、AIの意思決定理由について説明を受けることが可能です。
ただし、犯罪防止のための生体認証データや顔認識ソフトウェアの使用、人の感情を認識するソフトウェアの使用は安全上の理由のみ許可されており、完全には禁止されないようです。
AI技術に対する社会的な信頼を構築する
IT企業に対して、ディープフェイクやAI生成コンテンツのラベル付けを義務化し、ユーザーがチャットボットやAIシステムとやり取りしていることを明確に通知します。また、AI生成メディアの開発において、検出可能な方法を採用することを企業に義務化するようです。
これにより、AIの偽情報や偏見などの課題に大きな進展をもたらす可能性があります。
国際的なルール形成への基準となる
欧州によるAI規制法は、欧州でのAIシステムの市場投入と利用に適用されるだけでなく、世界各国のAI規制に大きな影響を与えることが期待されています。欧州は世界最大の経済圏であり、AI技術の開発と利用においても先進的な位置を占めています。
そのため、AI規制法の影響は欧州のみに留まらず、他の国や地域にも波及していき、国際的なルール形成への基準となることが予想されているのです。
欧州のAI規制法で予想される影響
欧州のAI規制法は、AI技術の発展と社会実装を加速させる可能性を秘めています。しかし、同時に、企業にとっては新たな課題も生まれるため、規制内容を理解し、適切に対応することが求められるでしょう。
以下で、欧州のAI規制法で予想される影響を解説します。
AI開発や提供コストが増加する
AI規制法はAI開発・提供企業に様々な義務を課しており、その結果、AI開発・提供コストの増加が懸念されています。特に、高リスクなAIシステムには、人権や安全に与えるリスクの文書化、開発・運用過程の監査、リスク軽減のための技術的・組織的措置の導入などが必要になります。
これらの要件を満たすためには、専門知識を持つ人材の確保や新たなシステムの導入、コンプライアンス体制の整備や監査の実施が重要となり、コストが増加するのです。
新規参入のハードルが上がる
AI規制法による義務が課されるのは、最重要社会基盤や保健医療などの「高リスク」に分類されるAI企業のみです。ただし、言語モデルなどの汎用AIモデルを開発する企業は、モデルの構築方法や著作権法への配慮を記した技術文書の作成、訓練用データの公開などが必要となり、新規参入のハードルが上がることが考えられます。
また、先述した検出可能なAI生成メディアの開発への義務化も技術的な課題があるでしょう。
国際的な貿易が阻害される
EUへAI関連のサービスを提供する場合は、規制対象となるでしょう。例えば、「GPT-4」や「Gemini」などの強力なAIを持つ企業の場合、以下の報告を行う必要があり、応じない場合には、巨額の罰金またはEU市場での販売禁止など厳しい要件が課されるようです。
- モデル評価
- リスク評価
- 軽減策の実施
- サイバーセキュリティ保護
- AIシステム故障時のインシデント報告
欧州のAI規制法に対する企業が行うべき対策
今後は、欧州によるAI規制法が国際的なルール形成への基準となる可能性も大いにあり得ます。そのため、日本の企業でも以下のような様々な対策が必要となるでしょう。
規制要件に向けた準備を行う
規制の施行前に、組織内の適切な人材が準備を開始することが重要です。早期に取り組むことで、自社がもたらすAIへの影響を十分に理解することができます。
例えば、以下のような具体的な取り組みが重要になります。
- 規制内容を詳細に分析し、企業への影響を評価する
- 必要なポリシーや手順を策定し、組織に周知徹底する
- 既存のAIシステムやプロセスを必要に応じて改修する
AIをリスクレベルに基づいて分類する
企業内で開発・利用されているAIシステムを、リスクレベルに基づいて洗い出しをすることが大切です。AIシステムの潜在的なリスクを把握し、適切な対策を講じるために必要になります。
AIシステムを早めに洗い出しすることで、許容できないリスクなどのAIシステムに優先的な対策を講じて、必要な変更を迅速に行うことが可能になるでしょう。
企業全体のAIリテラシーを向上させる
AI規制法の恩恵を受けるためには、社員一人ひとりが適切なAIリテラシーを持ち、アルゴリズムがもたらす害を理解することが不可欠です。現状では、多くの人にとってAIやアルゴリズムは抽象的な概念であり、その仕組みや影響について十分な理解が得られていないのが課題です。
そこで重要となるのが、企業全体のAIリテラシーの向上です。 セミナー受講や教育研修などを通じて、AIに関する基礎知識や倫理観を広く普及させることが重要です。
企業のAIリテラシーを高めるおすすめのセミナー
欧州によるAI規制法が国際的な規制につながれば、AIリテラシーの低い企業は、取り残される可能性さえあります。こうした規制に対応するためには、企業全体でAIリテラシーを高めることが重要です。
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受講中は、講師とチャットや音声通話で質問やレクチャー等のやりとりが可能なため、わからないことなどは直接質問もできます。
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来るべきAI規制要件に備えよう!
今回はAI規制法の特徴や成立の背景、AI規制法が与える影響や、企業が行うべき対策を解説しました。欧州のAI規制法は、AI技術の倫理的な開発と利用を促進し、社会全体に恩恵をもたらすことを目的とした法制度です。
欧州によるAI規制法は、世界初の包括的なAI規制として注目を集めており、今後は国際的なルール形成への基準となる予想がされています。そのため、日本企業も規制内容を理解し、適切に対応することが求められます。
