近年、行政機関においてAIの活用が急速に進んでいます。東京都練馬区が全国に先駆けて導入した住民税の未納対策を支援するAIシステムは、その代表的な例と言えるでしょう。
AIは事務作業の効率化だけでなく、ごみの分別や保育所の選考など、住民生活に密接に関わる分野でも活用され始めています。
人手不足が深刻化する中、AIは行政の貴重なリソースとなり得ますが、AIを単なるツールとして捉えるのではなく、住民サービスの向上という視点で導入を進めることが重要です。
今回は、行政がAIを活用するメリットや導入する際の注意点を詳しく解説します。
行政がAIを活用するメリット
AIを導入することで、従来の行政サービスの効率化や新たなサービスの創出が可能となり、市民生活の質向上に大きく貢献することが期待されています。
以下では、行政がAIを活用するメリットについて具体的に解説します。
業務の効率化が図れる
行政手続きは、従来、書類の提出や対面での手続きが一般的であり、職員の負担が大きいという課題を抱えていました。
しかし、AIを活用することで、書類の自動生成やオンライン手続きが可能になり、職員の手続きにかかる時間を大幅に削減できるため、職員はより創造的な業務や、市民との対話に集中できるようになるでしょう。
また、市民からの問い合わせが多い福祉事業などでは、自動応答システムの導入により、代表的な問い合わせに対する回答を自動化できるため、職員は複雑な案件に集中でき、業務効率が向上します。
さらに、AIは生活保護の申請者数や出生・死亡等の登録変更といった、大量のデータ処理を伴う業務においても、自動で応答することで、業務のスピードアップだけでなく、人為的なミスを減らすことも期待できます。
高精度なデータ集計や分析ができる
従来、交通量データを収集するには、人手を介した監視が一般的でした。担当者が現場に赴き、車両数を数えたり、走行速度を計測したりする作業は、時間と労力を要するだけでなく、ヒューマンエラーのリスクも伴っていました。
また、収集されたデータの集計や分析には、さらに多くの時間が必要となり、その結果、交通状況のリアルタイムな把握が困難でしたが、AIを活用することで、交通量データの収集と分析が飛躍的に効率化されます。
例えば、各交差点に設置されたカメラが捉えた映像をAIが解析することで、車両数や走行速度の計測、通行人の性別や年齢層などの属性の特定まで自動で行うことが可能です。
このリアルタイムなデータに基づいて、交通渋滞の原因を特定し、より効果的な対策を講じることができるようになります。
市民サービスの質が向上する
AIの導入により、従来、煩雑であった書類の提出や手続きが自動化され、市民はいつでもどこでも、より手軽かつ迅速に行政サービスを利用できるようになります。
例えば、自動音声システムやチャットボットなどのAIを活用することで、身分証明書や住民票の発行といった手続きを24時間体制で受け付けることやAIによる書類の分類・検索システムの導入により、市民は必要な情報や書類を迅速に探し出すことができ、行政機関への問い合わせにかかる時間を大幅に削減できます。
さらに、AIは市民ニーズの把握や利用者体験の向上にも大きく貢献します。例えば、市役所の窓口に設置されたAI受付は、市民からの問い合わせを自動的に収集し、行政サービスの改善に役立てられます。
また、交通機関や公共施設を利用する市民に対して、AIによる案内やおすすめスポットの紹介を行うことで、市民の利便性を高め、行政と市民とのコミュニケーションを深めることもできます。
AIによる問い合わせの自動化については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
防災対策を強化することができる
大規模災害や緊急事態発生時、道路の混雑や交通規制による渋滞は、迅速な対応を困難にする要因の一つです。
しかし、AIを活用した交通制御システムは、複数のカメラ映像をリアルタイム解析し、渋滞状況を的確に把握します。自動的な交通制御や迅速な指示対応を可能にすることで、交通の円滑化に繋げることができるでしょう。
また、行政ではAIを活用した避難指示システムを導入することで、防災情報を施設や学校のスピーカーから自動的に配信します。
地震や津波などの自然災害発生時には、AIによる被害状況分析に基づいた適切な避難指示はもちろん、SNSなどを通じて収集した避難者の情報を活用することで、遠隔地においても正確な情報共有を可能にし、より効率的な救助活動に繋げられます。
さらに、過去の災害データを解析することで、将来発生が予測される災害に対して最適な対策を提案し、安全な建物や避難場所の指定など、より精度の高い防災計画の立案を支援します。
防犯効果を高めることができる
街中の監視カメラにAIを導入することで、防犯効果を大幅に高めることが期待されます。AIは、不審者や異常な行動をとる人物を自動的に検知し、犯罪を未然に防ぐことに繋がります。
例えば、車上荒らしでは、人が車のドアの前で周囲を警戒しながら長時間滞在するという異常な行動パターンをAIに学習させることで、その兆候を早期に察知し、アラームを発することができるでしょう。
また、AIは周囲を何度も見回したり、商品を手に取りながらもカゴに入れないという万引きの前兆となる行動パターンを学習し、自動的に検知することができます。
このようなAIによる監視システムは、施設管理者に異常な状況を迅速に知らせ、万引き行為を未然に防ぐことに繋がります。
観光振興に繋がる
AIを活用した現地観光案内サービスは、行きたい場所のジャンルを選択するだけで、最適なスポットを推薦します。
これは、膨大なデータを学習したAIが、ユーザーの好みや状況に合わせたパーソナライズされた情報を提供できるためです。
さらに、AIと行政が設置したセンサーやカメラにAIを組み合わせ、観光客の滞在時間や移動経路から混雑状況をリアルタイムで把握し、最適な観光体験を提供できます。また、人流データを活用すれば、施設やサービスの改善にも繋がり、観光客の満足度向上にも期待できます。
観光客の興味関心をデータに基づいて分析し、最適な広告を配信することで、費用対効果を高めることができるでしょう。
AIとカメラを組み合わせた機能については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
行政にAIを導入する際の注意点
行政がAIを導入する際には、そのメリットと同時に、様々なリスクも考慮する必要があります。代表的な注意点としては、以下のような点が挙げられます。
- AIと人間の役割分担をしておく
- 最適なAIツールを選定する
- セキュリティ対策を確認しておく
- 定期的なAI活用の見直しをする
- 職員向けのルールを策定する
- 職員のAIリテラシーを向上させる
以下で各項目を詳しく解説します。
AIと人間の役割分担をしておく
AIの活用は、業務の効率化や新たな価値創造をもたらす一方で、その導入には慎重な検討が必要です。
AIの得意な分野と人間の強みを組み合わせることで、AI活用の成果を最大化し、同時にリスクを最小限に抑えることが可能です。
例えば、AIは大量のデータを迅速に処理し、パターンを認識する能力に優れています。そのため、文書の分類や画像認識など、明確なルールに基づいた判断が求められる業務においては、AIがその能力を最大限に発揮します。
しかし、倫理的な判断や創造性を必要とする業務については、人間の介入が不可欠です。
最適なAIツールを選定する
ChatGPTをはじめとするAIツールは、機能や設定によっては、セキュリティ対策が不十分な場合があり、不用意な導入は大きなリスクに繋がる可能性があります。
行政では、導入するAIツールが機能や性能、セキュリティ対策の観点から、自らの要求を満たしているかを慎重に評価し、最適なものを選択することが重要です。
例えば、AIツールの中には、ユーザーが入力した情報を学習し、その情報を他のユーザーに提供してしまう可能性があるものがあります。
このようなリスクを最小限に抑えるためには、「オプトアウト」という、自身が入力した情報を、AIの学習データとして使用させないことを選択できる機能を活用しましょう。
これにより、ユーザーは、個人情報や機密情報がAIの学習に利用されることを防ぎ、プライバシーを保護することができます。
セキュリティ対策を確認しておく
AIを活用する上で、個人情報や機密情報を保護するため、プライバシーポリシーの整備や個人情報を特定できないよう匿名化処理を施すなど、厳格な情報管理体制を構築する必要があります。
さらに、システムへの不正アクセスや情報漏洩を防ぐための高度なセキュリティ対策も必須です。
また、AIが生成するアウトプットの質を確保するためには、AIに学習させるデータの質が重要です。偏りのない高品質なデータを収集し、適切に整備することで、より正確で信頼性の高いアウトプットを生成することができるでしょう。
ただし、AIはあくまでツールであり、その判断や生成した結果を鵜呑みにすることは危険です。AIが生成したアウトプットは、必ず人間が最終的に確認し、その内容が適切であるか、倫理的に問題がないかなどを判断する必要があります。
定期的なAI活用の見直しをする
AIの技術やサービスは日々目覚ましい進化を遂げており、その活用方法や利用プロセスも多様化しています。それに伴い、新たなリスクが生まれる可能性も無視できません。
そのため、行政においては、国内外のAIに関する最新の動向を常に注視し、自らのAIの活用方法を定期的に見直すことが重要です。AIの技術は急速に変化するため、一度導入したシステムや運用方法が、すぐに陳腐化してしまう可能性も考えられます。
最新の技術動向を踏まえ、行政のAI活用方法を適宜更新していくことで、より安全かつ効率的な行政サービスの提供を実現することができるでしょう。
職員向けのルールを策定する
AIを効果的に活用し、リスクを最小限に抑えるためには、行政機関が職員に向けて明確な利用ルールやマニュアルを策定することが重要です。
具体的には、以下のようなルールやマニュアルなどを整備する必要があります。
- 行政におけるAIの利用目的や範囲
- 倫理的な側面に関するガイドライン
- データの取り扱いに関するルールやマニュアル
このような取り組みを通じて、職員はAIを安全かつ適切に利用するための知識を深め、行政サービスの質の向上に貢献することができます。
職員のAIリテラシーを向上させる
AIのポテンシャルを最大限に引き出し、同時にリスクを最小限に抑えるためには、職員のAIリテラシー向上が欠かせません。
AIに関する基礎知識はもちろん、適切な使用方法や情報漏洩などのリスクに対する理解を深めるため、以下のようなセミナー受講をおすすめします。
これにより、職員はAIを効率的かつ責任を持って活用できるようになり、組織全体のAI活用を促進することができるでしょう。
生成AIセミナー
ProSkilllの生成AIセミナーは、生成AIの基礎から応用までを2日間で効率的に学べます。このセミナーでは、生成AIが初めての方でも、その概念や具体的な活用事例を理解できるよう丁寧に解説いたします。
1日目では、生成AIの基礎知識や具体的な活用方法を学び、2日目では、学んだ知識を活かして、生成AIを実際の業務に活用する方法を学びます。
| 1日目 | 2日目 |
| 生成AIの種類とLLMの仕組み | ChatGPTの社内活用 |
| ChatGPTの活用方法 | Pythonの基礎知識 |
| プロンプトエンジニアリング | 独自データを学習させた生成AI作成 |
| 画像生成 | LLMを利用したサービス開発 |
このセミナーを通じて、生成AIの概念を理解し、具体的な活用方法を習得することで、行政における業務効率化や新たなビジネス展開に貢献できる人材へと成長することができるでしょう。
生成AIに興味をお持ちの方は、ぜひこの機会にご参加ください。
行政におけるAI導入は大幅な効率化に繋がる
今回は、行政がAIを活用するメリットや導入する際の注意点を解説しました。AIの導入は、行政機関の業務効率化や住民サービスの向上に大きな期待を集めています。
AIの活用により、行政サービスはパーソナライズ化され、文書作成やデータ分析などの業務の自動化も進んでおり、住民はより迅速かつ正確な行政サービスを受けられるようになり、行政の透明性と効率性も向上します。
しかし、AIの導入には、データのセキュリティや技術的な複雑さ、公平性、予算といった課題も存在します。特に、個人情報を含む大量のデータを扱う際には、厳重なセキュリティ対策やAIのアルゴリズムが公平性を保っているかどうかの検証も重要です。
これらの課題を克服するためには、比較的リスクの低い分野からAIを導入し、その効果を検証しながら、徐々に導入範囲を拡大していくことが望ましいでしょう。
AIのメリットを最大限に引き出しつつ、リスクを最小限に抑えることで、より良い社会の実現に貢献することが期待されます。
