損害保険ジャパンが開発中の生成AIは、膨大な保険に関する規定やFAQを学習し、対話形式で補償範囲を即座に解析できるシステムです。このAIは、営業現場における保険契約の引き受け業務を効率化することを目的としており、従業員からのフィードバックを基に、より使いやすく、全社で活用できるシステムへと進化させています。
今回はAIによる解析でできることやAI解析の基本的な5ステップ、注意しておきたい課題を詳しく解説します。
AIによる解析とは
AI解析とは、AIが膨大なデータを解析し、そこに隠されたパターンや規則性を自動的に見つけ出すことで、現在の状況をより深く理解したり、将来を予測したりする技術です。例えば、過去の販売データから将来の売れ筋商品を予測したり、顧客の行動パターンから新たなマーケティング戦略を立案したりすることが可能です。
AIが人間の脳のように学習を重ねることで、解析の精度がますます高まり、より複雑な問題にも対応できるようになってきています。
AI解析とAI分析の違い
AI解析に似ている「AI分析」という言葉をよく耳にするかと思いますが、両者は似ているようで少し異なる意味を持っています。
AI解析 | 分析した結果をAIがさらに深掘りし、その原因や背景を探ること |
AI分析 | ある対象をAIで細かく分解し、その構成要素や性質を明らかにすること |
AI分析は、大量のデータを統計的に処理し、傾向やパターンを抽出する作業です。一方、AI解析は、分析結果からより深い洞察を得るために、因果関係を推論したり、予測モデルを構築したりする作業です。AI分析が「何を」という問いに対する答えを探すのに対し、AI解析は「なぜ」という問いに対する答えを探すと言えるでしょう。
しかし、AI分析とAI解析の境界線は必ずしも明確ではありません。AI分析を進める過程で、自然と解析へと発展していくことも多く、両者は密接に関連しています。また、英語ではどちらも「Data Analysis」と表現されるため、日本語での厳密な使い分けは必ずしも求められないケースもあります。
AIによる解析でできること
AIによる解析は、単にデータを処理するだけでなく、複雑なパターンを見つけ出し、未来を予測したり、最適な意思決定をサポートしたりすることができます。
以下では、AIによる解析でできることについて詳しく解説していきます。
新しいビジネスチャンスを発見しやすい
AI解析は、膨大なデータを可視化することで、これまで気づかなかった顧客のニーズや市場のトレンドを鮮明に浮かび上がらせることができます。経験や勘に頼った従来のビジネス手法では、顧客の潜在的なニーズや市場の変化に迅速に対応することが難しく、貴重なビジネスチャンスを逃してしまう可能性があります。
AI解析によって得られた知見を基に、ターゲット顧客を明確化し、最適なマーケティング戦略を立案することで、より高い収益性を実現することができます。AI解析は、ビジネスモデルの改善を継続的に行うための重要な手段でもあるのです。
迅速な経営判断ができる
AI解析は、組織の現状や課題を客観的に把握することができます。これにより、将来をより正確に予測し、適切な施策を立案することが可能です。例えば、ある施策を実行した場合にどのような結果が得られるか、事前にシミュレーションすることができます。このシミュレーション結果を根拠に、経営陣はより迅速かつ確実な意思決定を行うことができるでしょう。
AI解析に基づいた説明は、その客観性から、社内の理解と賛同を得やすいというメリットもあります。従来のように、直感や経験だけに頼った判断に比べて、AI解析に基づいた判断は、より合理的で説得力のあるものとして受け止められるでしょう。また、顧客からのクレームやトラブルなどの緊急事態にもAI解析は有効です。
迅速な原因究明と対策の実施により、企業イメージの損失を最小限に抑えることができます。
機器や製品の不具合を検知できる
製造業において、製品の品質維持や不具合検知は重要な課題です。従来、これらの業務は熟練工による目視検査や経験に基づいた判断で行われてきました。しかし、人間の感覚や判断にはどうしても個人差が生じ、検査結果にばらつきが生じるという課題がありました。
一方、AI解析は製造機器から収集された大量のデータを高速かつ正確に解析し、製品の不良や異常を早期に検知することができます。例えば、画像認識技術を用いて製品の表面に生じた傷や汚れを自動的に検出したり、センサーデータから機械の異常な振動を検知したりすることが可能です。
製造業におけるAI解析の導入は、不良品の発生を事前に防ぐことで、製品の廃棄率を減らすコスト削減につながります。また、生産ラインの異常を早期に検知することで、設備の故障による生産停止を防止し、生産計画の安定化に繋がります。
AIによる生産管理については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
データドリブン経営を促す
データドリブン経営とは、企業が収集したデータを基に、客観的な事実や傾向を分析し、その結果に基づいて経営判断を行う経営手法です。例えば、マーケティングキャンペーンを実施する際に、顧客の購買履歴やwebサイトの閲覧履歴など、リアルタイムに収集されるデータを解析することで、顧客のニーズや行動パターンを深く理解することができます。
この解析結果に基づいて、キャンペーンの内容を最適化したり、ターゲット層を絞り込んだりすることで、より効果的なプロモーションが可能となり、結果的に売上向上に繋がるのです。AI解析によって、企業は自社のビジネスに関する深い洞察を得ることができ、より正確な予測や意思決定を行うことができるようになるでしょう。
労働力不足の解消ができる
AIは従来は人間が行っていた解析業務を自動化し、生産性を向上させることが可能です。もちろん、AIが人間のすべての能力を代替できるわけではありませんが、企業はAIを活用することで、人材不足を補い業務効率化を実現することができます。
AIの導入は、企業にとって大きなメリットをもたらす可能性を秘めています。人材不足に悩む企業にとっては、AIの活用が喫緊の課題と言えるでしょう。
AI解析の基本的な5ステップ
AI解析は、大きく分けて以下の5つのステップから構成されます。
- ゴールを明確にする
- 必要なデータを準備する
- データの前処理を行う
- モデル作成を行う
- モデルを評価して次の解析に活用する
以下でそれぞれのステップを具体的に解説します。
①ゴールを明確にする
AI解析を行う際は、明確なゴール設定が不可欠です。ゴールは大きく分けて以下の2つあります。
ビジネスゴール | 最終的に達成したい経済的な目標 |
解析のゴール | AI解析によって得たい具体的な成果 |
ビジネスゴールには、売上増加やコスト削減などが挙げられます。AI解析によって得られた知見が、どのようにビジネスに貢献し、収益向上につながるのかを具体的にイメージすることが重要です。
一方、解析のゴールは、顧客のWeb上での行動パターンから、その背景にある理由を解明するといったことが挙げられ、ビジネスゴール達成のための手段となります。ゴール設定を行う際には、「そもそもAI解析が本当に必要なのか」という根本的な問いから検討を始めましょう。AI解析は万能ではないため、費用や時間などのリソースも考慮し、他の手法と比較検討する必要があります。
②必要なデータを準備する
次に、目的達成のために必要なデータを洗い出します。社内に既に存在するデータだけでなく、外部から新たなデータを取得する必要も出てくるでしょう。例えば、インターネット上で公開されているオープンデータや企業や研究機関が提供するデータセットなどが活用できます。
データ収集の際には、目的から逆算して、本当に必要なデータなのかを慎重に検討することが大切です。一度AI解析を開始した後でも、より精度の高い結果を得るために、新たなデータを追加していくことが望ましいでしょう。
③データの前処理を行う
AIは人間のようにデータの背景や文脈を理解することができないため、集めたデータをそのままAIに与えても期待通りの結果を得ることは困難です。データの前処理は、AI解析の土台作りとなるもので丁寧に実施することで、AIモデルの精度を大幅に向上させることができます。データの前処理では、以下のような作業を行います。
- 解析に用いる変数を適切に選び、AIが学習しやすい形に変換します。
- データの中に含まれる外れ値を除去・補正したりします。
- データ数が不足している場合は、データを増やしたり、生成したりする必要があります。
- 画像データやテキストデータを数値化したり、調整したりします。
近年では、データ前処理を自動化したり、効率化したりするサービスが登場しています。これらのサービスを利用することで、データ前処理にかかる時間と手間を大幅に削減できるでしょう。
④モデル作成を行う
モデルを作成する際には、AI解析の目的を達成するために、適切なアルゴリズムを選択することが極めて重要です。アルゴリズムは、データの特性や解析の目的に応じて、様々な種類が存在します。
データ数が少ない場合、複雑なモデルは過学習を起こしやすく、汎化性能が低下し、データ数が非常に多い場合は、より複雑なモデルでも学習が可能です。
⑤モデルを評価して次の解析に活用する
AIモデルの開発において、学習済みのモデルの性能を評価することは重要です。これは、モデルが実際のデータに対してどれほど正確に予測や分類を行えるのか、その結果が信頼できるものであるかなどを検証するためです。モデルの評価では、一般的に以下の軸が用いられます。
- モデルの精度
- 過学習の度合い
- 人の解釈性
- 学習処理の実施時間
これらの評価軸に基づいてモデルを評価することで、モデルの改善点を見つけ出し、より良いモデルを開発することができるでしょう。評価結果は、次の解析におけるモデル選択の重要な根拠となります。
AIによる解析の課題
AI解析には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。以下で詳しく見ていきましょう。
データ解析の担当者が必要になる
データ解析には、人員の確保やデータの収集・加工などの新たな業務負担が発生することが考えられます。AI解析に必要な人員の確保は、企業にとって大きな負担となることがあります。
専門知識を持った人材の採用は、コストがかかるだけでなく、人材の流動性も考慮する必要があります。また、データの収集、整理、加工などの作業は、人的ミスが発生しやすく、時間と労力を要します。
スキルやリテラシーが求められる
データ解析は、高度な専門知識とスキルを必要とするため、誰でも簡単にできる作業ではありません。そのため、データ解析を担当するスタッフには、一定レベル以上の専門性とリテラシーが求められます。しかし、この専門性の高さゆえに、データ解析業務は特定の担当者に依存しがちになり、属人化してしまうリスクがあります。
担当者が異動したり、退職したりした場合、業務が滞ってしまう可能性も考えられます。こうした属人化のリスクを回避するためには、以下のようなセミナー受講がおすすめです。
データサイエンティストセミナー
データサイエンティストとは、企業が保有する膨大なデータを分析し、その中から隠された意味やパターンを見つけ出す専門家です。企業の宝であるデータを掘り起こし、その価値を最大限に引き出すエンジニアと言えるでしょう。
データサイエンティストについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
データサイエンティストセミナーでは、データサイエンスの基礎を2日間で効率的に学ぶことができます。データを用いてビジネス課題を解決するためのスキルをゼロから習得できるため、データサイエンスの経験がない方でも安心してご参加いただけます。
すぐに課題が解決するとは限らない
データ解析は過去のデータから未来を予測し、より良い意思決定を支援しますが、AI解析の結果が必ずしも万能な解決策をもたらすとは限りません。大量のデータを収集し、高度な分析手法を用いても、期待した成果が出ないケースも少なくありません。
これは、データが必ずしも現実を完全に反映しているわけではないこと、データだけでは捉えきれない複雑な要因が数多く存在するためです。AI解析の結果を鵜呑みにするのではなく、過去の経験や直感など人間ならではの判断力も重要でしょう。
AI解析は、あくまで意思決定をサポートするツールの一つであり、最終的な判断は、データと経験の両方を総合的に勘案して行うべきです。
AI解析で新たなビジネスチャンスをモノにしよう!
今回はAIによる解析でできることやAI解析の基本的な5ステップ、注意しておきたい課題を解説しました。データ解析に取り組むことで、企業は新たなビジネスチャンスを掴み、迅速かつ的確な経営判断を下せるようになります。従来の経験や直感に頼るのではなく、客観的なデータに基づいて意思決定を行うことで、より確実な未来を築くことができるのです。
しかし、データ解析において重要なのは、単に数値データを分析し、因果関係を明らかにすることだけではありません。数値化できない意見や感情、行動パターンなども解析対象として捉えることが重要です。これらの定性的なデータと定量的なデータを組み合わせることで、より多角的な視点からビジネス課題を分析し、より深い洞察を得ることができるでしょう。