近年、AIがCM制作の現場に導入され、その活用事例が増加しています。特に、画像生成AIや音声合成技術の発展により、かつては想像もできなかったような高度な映像表現が可能となり、多様なクリエイティブな表現が求められる広告業界において、AIは新たな可能性を開いています。
その代表的な事例として、シャープが2024年7月から「AQUOS」のテレビCMに、AIを用いて復元した故・松田優作氏を起用したことが挙げられます。
このCMは、AIによる高度な映像表現と故人の魅力的なキャラクターとの融合が見事に実現され、多くの視聴者から好評を得ました。結果として、前年比2倍の出荷台数を見込むという大きな成果を上げ、AIを活用したCM制作の有効性を示す好例となりました。
今回は、CM制作に使われているAI技術やCM制作にAIを活用する6つのメリット、デメリット、活用事例をご紹介します。
CM制作に使われているAI技術とは
近年、テレビCMやデジタル広告で、まるで実在の人物かのようなAI生成キャラクターが登場し、話題となっています。
2023年には、伊藤園のCMでAIで生成した人物が年齢を経ても健康であることを表現し、大きな注目を集めました。このようなCMに使われているAI技術には、生成AIが用いられています。
生成AIは文章や画像、音声など、全く新しいコンテンツを生成するAIの総称です。近年、生成AIの技術は目覚ましく発展し、簡単な操作で人間が作ったような高品質なコンテンツを自動生成できるようになりました。
この技術の登場により、私たちのビジネスや働き方は大きく変わりつつあります。例えば、テキスト生成AIは長文のレポートを要約し、画像生成AIは広告用のオリジナル画像を作成するなど、すでに様々な分野で人間の作業をサポートするツールとして活用されています。
生成AIについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
CM制作にAIを活用する6つのメリット
従来、人間が担ってきたクリエイティブな領域であるCM制作にAIを活用することで、以下のようなメリットをもたらしています。
- リサーチの大幅な効率化ができる
- 企画のフィードバックを得ることができる
- コンテンツ作成のコストを削減できる
- 思い通りのCMを作ることができる
- タレントによるトラブルがない
- 多言語でのCM制作ができる
それぞれの項目を詳しく見てみましょう。
①リサーチの大幅な効率化ができる
従来、Webサイトからの情報収集や翻訳、要約、Excelを用いた定量分析など、リサーチ業務の各段階は、膨大な時間と労力を要するものでした。しかし、生成AIの登場により、作業が大幅に自動化され効率化されたのです。
例えば、最新のWebサイトから必要な情報を収集し、多言語に翻訳、要約するといった一連の作業を、チャット形式で指示するだけで実行できるようになりました。
②企画のフィードバックを得ることができる
生成AIは従来、人間が長時間をかけて行っていたアイデア出しの作業を、短時間で大量に行うことが可能になりました。例えば、15分という短い時間で300通りの企画案を生成するといったことも、AIにとっては日常的な作業と言えるでしょう。
AIの最大の強みは、無限とも言える思考力にあり、人間が思いつかないような斬新なアイデアはもちろん、多様な視点からのアプローチを提案できる点が特徴です。
そのため、AIが生成した膨大な数の企画案の中から、人間が、より具体的にブラッシュアップしていく新しい企画立案のスタイルが今後多くの業界で主流となることが予想されます。
AIが担うのは、アイデアの創出という創造的な側面であり、人間は、そのアイデアを評価し、現実世界に適合させるという役割を担うのです。
③コンテンツ作成のコストを削減できる
広告業界においては、消費者一人ひとりに合わせたパーソナライズされたコンテンツの大量生成が求められるため、AIの高速かつ効率的な生成能力が大きなメリットとなっています。
従来、人間が長時間かけて行っていた多様なバリエーションのコンテンツ作成作業をAIに任せることで、大幅な時間とコストの削減ができるでしょう。
例えば、広告のA/Bテストにおいては、AIが様々なバージョンの広告コピーや画像を自動生成することで、より短期間で最適な広告を見つけることが可能です。
また、パーソナライズされた広告配信においては、AIが個々のユーザーの属性や行動履歴に基づき、最適なコンテンツを自動生成することで、高い効果が期待できるでしょう。
④思い通りのCMを作ることができる
従来、費用や場所の制約、人材などの現実的な問題によって実現が困難であったアイデアもAIを活用することで、現実世界で撮影されたかのような高品質な映像を生成することができます。
例えば、特殊効果を駆使した壮大なシーンや、特定の場所や時代を再現した背景など、現実世界では再現が難しいシチュエーションもAIの力を借りることで、実際に存在するかのような臨場感あふれる映像を作り出すことが可能です。
また、AIは高度な画像処理や映像編集技術を駆使し、従来の手法では実現できなかったような表現を可能にします。
また、CM制作は出演タレントやカメラマン、ディレクターといった多様な人材のスキルに左右される側面が大きかったため、想定通りの映像を制作するためには、綿密な打ち合わせや調整が必要でした。
しかし、AIを活用することで、これらの工程を自動化したり、効率化したりすることが可能となり、制作者はよりクリエイティブな部分に集中できるようになり、よりオリジナリティ溢れる視聴者に強いインパクトを与えるCMを制作することが可能になるのです。
⑤タレントによるトラブルがない
近年、芸能人の不祥事が社会問題化し、企業がタレントを起用する際のコンプライアンスリスクは高まっています。しかし、実在しないAIタレントを活用したCM制作が可能となりました。
AIタレントは、人間と見間違えるほどの高い完成度を持ちながら、実在の人物ではないため、不祥事を起こすリスクが皆無です。
AIタレントは、企業のイメージに合った理想的なキャラクターを創造できるうえ、コンプライアンスリスクを最小限に抑えることができるという点で、従来のタレント起用とは異なるメリットを得られます。
⑥多言語でのCM制作ができる
グローバル化が進む現代において、企業が世界中の消費者と効果的にコミュニケーションを取るためには、各国の文化や言語に根ざした自然な表現が求められます。
従来、多言語CMの制作には、それぞれの言語のネイティブスピーカーによる翻訳や現地タレントの起用が一般的でした。
しかし、この方法では、翻訳の質やタレントの選定にばらつきが生じやすく、ブランドイメージの統一が難しいという課題がありました。
一方、AIを活用したCM制作では、大量の言語データを学習することで、あらゆる言語を高い精度で翻訳し、自然な発音や言い回しを生成することができます。
また、AIは人間のタレントに比べて迅速かつ低コストで、多言語CMを制作することができるため、企業は多くの言語で、頻繁にCMを展開することが可能になり、グローバルな市場における競争力を高めることができるでしょう。
CM制作にAIを活用するデメリット
AIは、CM制作の現場に革新的な変化をもたらし、クリエイティブな表現の可能性を広げていますが、その活用には、メリットと同時に無視できないデメリットも存在します。以下で詳しく解説します。
法的権利を侵害する可能性がある
AIを活用したCM制作が盛んになる一方で、著作権や肖像権などの知的財産権の侵害は、企業にとって大きな損失につながる恐れがあるため、十分な注意が必要です。AIが生成するコンテンツは、学習データの量や質により、既存の作品と類似したものになる可能性があります。
そのため、生成AIが学習に用いるデータが、特定の作品の著作権を侵害していないか、慎重に確認する必要があるでしょう。
実際に、生成AIによって作成されたコンテンツが、既存の作品と酷似しているとして、著作権侵害の訴訟に発展した事例も存在します。このような状況を踏まえ、日本政府もAIによる知的財産侵害を防ぐための法整備を進めています。
企業は、AIを活用してCMを制作する際には、必ず弁護士に相談し、法的リスクを事前に把握しておくことが重要です。特に、以下のような様々な権利に抵触しないよう、細心の注意を払う必要があります。
プライバシー権 | 個人が自分の私生活に関する情報を、勝手に公開されることを防ぎ、自分の情報について自分で決めることができる権利 |
著作権 | 小説や音楽など、人間の創造性を形にした「著作物」を保護するための権利 |
肖像権 | 個人のプライバシーを保護するための重要な権利 |
意匠権 | 製品や建物、絵などのデザインに関する権利 |
商標権 | 商品やサービスに用いられる商標を、自分だけが使用できる権利 |
パブリシティ権 | 有名人の名前や顔のイメージが持つ、商品を売る力を独占的に利用する権利 |
専門家の意見を聞きながら、生成AIを適切に活用することで、法的リスクを最小限に抑え、安全にCM制作を進めることができるでしょう。
生成AIの悪用リスクについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
間違った情報を生成するリスクがある
生成AIの学習データが偏っていた場合、生成されるコンテンツも偏ったものとなってしまう可能性があります。例えば、特定の属性に対する偏見や差別を助長するような内容や事実と異なる誤った情報が含まれる可能性も考えられます。
このようなコンテンツが公開されると、企業のイメージ低下や、法的な問題に発展するリスクも考えられます。
また、一見すると非常に自然で説得力があるように見えるため、人間がその内容を鵜呑みにしてしまう可能性があります。そのため、AIが生成したコンテンツであっても、必ず人間による厳密なチェックが必要なのです。
共感を得ることが難しい場合もある
AIが演じることで、どうしても人間が演じる場合とは異なる印象を与え、表現できる範囲に制限が生じるという側面は否めません。
特に、温かい人間関係や心の動きを繊細に表現するハートフルな内容のCMにおいては、AIで生成した人物の起用が必ずしも効果的とは言えないでしょう。
AIは、高度な学習能力を持ち、人間らしい表現を模倣することは可能ですが、人間が持つ複雑な感情や共感能力を完全に再現することは、現時点では困難です。
そのため、感動的なストーリーや共感を得やすいキャラクターを表現することが難しく、どうしても冷淡な印象を与えがちです。
視聴者は、AIが演じるキャラクターに対して、人間と同じように感情移入したり、共感したりすることが難しいため、CMの訴求力が低下してしまう可能性があります。
CM制作にAIを活用している事例
最後に、AIがどのようにCM制作に活用されているのか、具体的な事例を交えながらご紹介します。
伊藤園のお茶
先述しているように、伊藤園のお茶のCMでは、生成AIによって作成されたモデルをテレビCMに起用するという業界初の取り組みを実施しました。
このCMでは、AIによって生成されたモデルが、まるで本物の人間のように自然な表情や動作を見せ、視聴者を驚かせました。その高いクオリティは、SNS上でも大きな話題となり、AI技術の可能性を広く世に知らしめることとなりました。
伊藤園は生成AIを積極的に活用することで、広告業界に新たな風を吹き込み、商品のブランディング強化に成功しました。同社の取り組みは、AIがマーケティング分野に与える可能性を示唆しています。
大日本除虫菊のキンチョール
大日本除虫菊のロングセラー商品「キンチョール」の若年層をターゲットとした新CM「ヤング向け映像」編では、未来都市を舞台に、キンチョールが革新的な製品として描かれています。
ポップでスタイリッシュなビジュアルは、従来の殺虫剤のイメージを一新し、若者たちの目を引くことに成功しました。
さらに、CMの企画段階においても生成AIとの対話を通じて、若者たちの興味を引くユニークなアイデアを数多く生み出すことができ、より効果的なCM制作に繋がっています。
大日本除虫菊は、生成AIをコンテンツ制作だけでなく、企画段階から積極的に活用することで、新たな可能性を切り開いています。
サントリーのCM企画
サントリーは、生成AIを積極的に活用し、広告制作チームに新たなインスピレーションを与え、独創的で印象的なCMを生み出しました。
AIは膨大な過去の広告データや最新のトレンドを分析し、人間には思いつかないような意外なストーリー展開や視覚表現を提案するため、視聴者の目を引く奇抜なCMが制作されています。
さらに、AIによるデータ分析によって、ターゲット層に最も響くキャストや、最適な演出方法を特定することが可能になりました。これにより、市場の変化に迅速に対応し、柔軟なマーケティング戦略を実行できるようになったのです。
CM制作にAIを活用して時代を先取りしよう!
今回は、CM制作に使われているAI技術やCM制作にAIを活用する6つのメリット、デメリット、活用事例をご紹介しました。CM制作はAIの導入により、大幅なコスト削減と人材不足の解消が可能となり、効率的でクリエイティブな映像制作が可能になりました。
しかし、AIを導入する上で重要なのは、すべてをAIに任せるのではなく、人間とAIが協働することで、より良い結果を生み出すことです。AIは、膨大なデータを解析し、最適な解を導き出す能力に長けていますが、人間の創造性や感性、倫理的な判断は欠かせません。
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