米メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)は、顔認識・顔認証AIによるプライバシー侵害でテキサス州と争っていた訴訟で、和解に合意したことが明らかになりました。メタは今後5年間で14億ドル(約2,100億円)を支払うことになるようです。
テキサス州の司法長官は、州民のプライバシー保護のための取り組みの一環として、2022年にメタを提訴していました。なお、フェイスブックの顔認識・顔認証技術をめぐる訴訟は、テキサス州以外にも発生しており、イリノイ州での集団訴訟も、メタが和解金で解決しています。
そこで今回は、顔認識・顔認証AIの概要や仕組み、活用事例、注意点を解説します。
顔認識・顔認証AIとは
顔認識・顔認証AIとは、カメラで捉えた顔とあらかじめ登録された顔を見比べて、本人かどうかを確認する技術です。この技術は、AIが膨大な顔の画像データを学習することで、目の形や鼻の高さなど、一人ひとりの顔の特徴を細かく覚え、高い精度で本人確認を行うことができます。
顔認識の精度は、特徴の抽出方法や照合のアルゴリズムによって大きく変わり、より多くの特徴を正確に捉え、効率的に比較する技術が求められます。また、データベースに登録されている顔データの質も重要です。高品質で様々な角度から撮影された顔画像が多数登録されていれば、より正確な判定が可能になる仕組みです。
アルゴリズムについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
【顔認識・顔認証AI】2Dと3Dの違い
顔認識・顔認証AIには、大きく分けて2つの種類があります。2D顔認識・顔認証AIは、平面的な画像を基に顔の特徴を捉え、本人認証を行うAIです。非接触で認証が可能であり、専用の機器が不要なため、スマートフォンなどでも利用でき、パスワードや物理的な認証デバイスが不要な点も大きなメリットと言えるでしょう。
しかし、光の影響を受けやすく髪型やメイクの変化、マスクの着用などにより認証に失敗することがあります。さらに、他者が別人の顔写真を使用して不正認証を行うリスクも懸念されています。
一方、3D顔認識・顔認証AIは、顔の立体的な情報を基に認証を行うAIです。2D顔認識・顔認証AIよりも光の影響を受けにくいという特徴があり、髪型やメイクが変わっても認証に影響を受けにくい点も大きなメリットと言えるでしょう。しかし、赤外線認証に対応した専用の設備が必要となるため、導入するための初期費用や維持費用がかかります。
2D | 3D | |
元にするデータ | 画像データ | 赤外線データ |
精度 | 低い | 高い |
安定性 | 失敗することもある | 安定している |
機材 | 専門機材は不要 | 赤外線認証対応の機材が必要 |
このように、2D顔認識・顔認証AIと3D顔認識・顔認証AIは、それぞれ異なる特徴を持っています。導入を検討する際は、システムの精度や導入コスト、セキュリティレベルなどを総合的に評価し、自社のニーズに合ったシステムを選ぶことが重要です。
顔認識・顔認証AIの仕組み
顔認識・顔認証AIは以下のようなプロセスで動作する仕組みです。
①顔の検出と特徴点抽出
まず、カメラで撮影された画像から、AIが顔の部分をピンポイントで探し出します。その後、目や鼻、口といった顔の特徴となる特徴的な部分の位置を正確に特定します。
②顔の特徴量抽出
次に、顔の特徴点をさらに細かく分析し、数値化します。例えば、「目の間の距離がどのくらいか」「鼻の形は丸いか尖っているか」などの個人を特定するための情報を数値に変換するのです。
③顔情報の登録
抽出された数値量を、個人の名前やIDなどの情報と紐づけて、データベースに登録します。
④顔の照合
カメラで新しく撮影された顔の特徴量とデータベースに登録されている顔の特徴量を比較し、一致するかどうかを判断します。一致すれば、その人物が特定できたということになります。
顔認識・顔認証AIのメリット
顔認識・顔認証AIには、以下のようなメリットがあります。
- 高いセキュリティレベルを保つことができる
- 非接触かつ非対面で本人確認ができる
- パスワードを忘れる心配がない
- 利用者の心理的不安が少ない
- データを残すことができる
それぞれを以下で解説します。
高いセキュリティレベルを保つことができる
顔認識・顔認証AIは、個人の顔の特徴を数値化し、データベースと照合することで本人確認を行う生体認証技術です。物理的な媒体を必要とせず、非接触で認証できるため、衛生的かつ迅速な本人確認が可能です。
指紋認証や静脈認証と比べても、偽造が極めて困難であり、より高いセキュリティレベルがあるのが特徴です。
非接触かつ非対面で本人確認ができる
顔認識・顔認証AIは、手を触れずに済むため、コロナ禍における衛生面への意識の高まりの中で、特に注目されています。例えば、オフィスビルや公共施設の出入管理に導入することで、感染リスクを低減し、利用者に安心感を与えることができます。
パスワードを忘れる心配がない
顔認識・顔認証AIは、顔という生体情報を用いることで、高いセキュリティと利便性を両立しています。暗証番号やカードと異なり、パスワードを記憶したり、物理的な物を管理したりする手間が省けるため、スムーズな認証が可能です。
専門の機器が必要ない
顔認識・顔認証AIは、専用の認証機器を必要とせず、汎用性の高いWebカメラとデータ保存用のサーバーを用いて構築できます。そのため、既存のIT環境への組み込みが容易であり、導入コストを抑えられる点が大きなメリットです。
データを残すことができる
顔認識・顔認証AIを導入することで、オフィス内のセキュリティレベルが大幅に向上します。誰が入室し、いつ退室したかの記録が自動的に残されるため、問題発生時の原因究明が迅速かつ正確に行えます。また、従業員の行動履歴を把握することで、内部不正の早期発見にもつなげることもできるでしょう。
顔認識・顔認証AIの注意点
安全で便利な顔認識・顔認証AIですが、導入にあたっては、慎重に検討すべき点がいくつか存在します。以下で詳しく解説します。
使用するシステムによって差が出る
顔認識・顔認証AIの性能は、製品によって異なります。例えば、年齢を重ねたり、顔が斜めになっていたり、髪型が変わったりしても正確に本人だと認識できるかどうかは、そのAIによって差があります。
また、メガネやマスクを着用している状態での認証に対応しているかも重要なポイントです。導入を検討する際は事前に登録できる人数や、さまざまな状況下での認識精度について十分に確認しましょう。
状況により精度が落ちる場合もある
顔認識・顔認証AIを設置する際は、屋外での使用に耐えられるか、暗すぎる場所や明るすぎる場所でも正確に動作するか、汚れや水に強い構造かなど、設置環境に合わせた製品を選ぶ必要があります。環境による精度の低下はセキュリティリスクに直結するため、十分な検討が必要です。
個人情報保護に注意する
顔のデータは、個人情報保護法において「個人情報」として位置づけられます。そのため、顔認識・顔認証AIにあたっては、事前に利用目的を本人に明示し、公表することで、本人のご理解とご同意を得ることが重要です。
さらに、利用目的の範囲を超えたデータの取り扱いを行わないなど、厳格なルールに基づいて運用することで、トラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
近年、EUでは公共空間における顔認識・顔認証AIを用いた捜査を原則禁止とするAI規制案が発表されるなど、プライバシー保護に関する議論が活発化しています。日本国内においても、顔認識・顔認証AI技術の利用拡大に伴い、過度な監視やプライバシー侵害への懸念が根強く存在しており、今後の法整備の形成が求められています。
欧州のAI規制法については以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
顔認識・顔認証AIの活用例
近年、顔認識・顔認証AI技術の進化は、私たちの生活や社会のあり方を大きく変えつつあります。以下で、顔認識・顔認証AIが導入されている事例をご紹介します。
空港の自動チェックイン機
成田空港は2021年7月より顔認識・顔認証AIを導入し、自動チェックイン機で顔写真を登録すると、パスポートや搭乗券の情報と紐づけられ、以降は顔認証だけで手荷物預けや保安検査場を通過できるようになりました。これにより、搭乗手続きのスピードアップだけでなく、人との接触を減らし、新型コロナウイルス感染症対策にも貢献しています。
オフィスでの出退勤システム
顔認識・顔認証AIは、IDカードやパスワードが不要で、顔の画像データと照らし合わせるため、なりすましの防止にも効果的です。体温測定機能との連携により、発熱者の早期発見が可能となり、オフィス全体の感染リスクを低減します。
さらに、入退室履歴のデータ化により、勤怠管理の効率化も期待できます。
アトラクションへの誘導
2018年から富士急ハイランドでは、顔認識・顔認証AIの導入で、アトラクションの待ち時間が短縮され、より多くのアトラクションを楽しめるようになりました。顔パスでサッと乗り物に乗れるので、ストレスフリーに遊園地を満喫できます。
工場などのドア開閉時
生体認証による顔認識・顔認証AIの導入で、セキュリティレベルを向上させつつ、従業員の利便性も大幅に向上します。 勤怠管理システムとの連携により、正確な勤怠データの収集と分析が可能となり、人事評価や労務管理の精度向上につながるでしょう。
スマートストア
店内に設置のカメラと画像認識技術により、購入したい商品をレジを通さずに、退店するだけで代金が決済される「スマートストア」がオープンしています。レジでの会計時に発生する煩わしさがなくなり、より快適なショッピングを楽しめるのが特徴です。
スマートフォンのロック解除
iPhoneのFace IDのような顔認証機能は、セキュリティを保ちながら、スピーディーな操作を実現します。パスコードを忘れる心配もなく、電子マネーでの決済もスムーズに行えるため、忙しい毎日をより快適に過ごせます。
ニーズに合う顔認識・顔認証AIのサービスを導入しよう
今回は、顔認識・顔認証AIの概要や仕組み、活用事例、注意点を解説しました。顔認識・顔認証AIは多くの企業で検討されるようになりました。サービスは多種多様にあるため、各社が自社のニーズに合ったAIを選択できる環境が整っています。
しかし、顔認識・顔認証AIによって取得される顔画像は、個人情報に該当するため、システム導入にあたっては、プライバシー保護に関する法規制や社内規程を十分に検討し、適切な運用体制を構築することが不可欠です。
AI研究所では、AIプロジェクト推進サービスを行っております。お客様の問題と理想をヒアリングをした上で課題設定を行い方向性と解決策をご提案致します。
顔認識・顔認証AIを導入したいものの、どのようなAIサービスを導入すれば良いか分からない方はぜひ、ご活用ください。なお、ご相談は無料です。