近年、AI技術が私たちの生活のあらゆる側面に浸透してきました。
その中でも、映画産業におけるAIの進化は、私たちのエンターテイメント体験に新たな次元をもたらしています。映画制作から視覚効果、市場予測まで、AIはその力を遺憾なく発揮しています。
本記事では、AIが映画産業にもたらす変革に焦点を当て、その具体的な応用例に迫ってみましょう。
AIの映画産業への波及
映画産業はAI技術の導入により、劇的な変革を経験しています。
以下に、映画制作から視覚効果、市場予測まで、具体的なAI技術の活用例を紹介します。
映画制作の効率化
AIは自然言語処理技術を駆使して、膨大な映画関連データを解析し、効果的なストーリーラインを特定するのに役立ちます。脚本執筆においては、キャラクターの対話や感情推定を最適化し、クリエイターに新たなアイディアを提供することができます。
また、映画のキャスティングにおいても、俳優や女優の過去の演技履歴を分析し、最適なキャストを選定する際の意思決定の支援ができます。まさしく映画DX化といえる新しいアイデアです。
現在ローンチされているサービスに「AIフィルム・ドクター」というサービスがあります。
このサービスは、映像のコンセプトが脚本等でうまく表現されているかどうかを、事前言語処理技術を用いたAIモデルで解析しスコアリングして評価します。
脚本等のストーリーラインに沿ってスコアリングするため、コンセプトに合った構成・表現への見直し・磨き上げが可能になっています。このサービスによって、映画の企画や制作から効果検証までのプロセスを一気通貫で支援することができるようになります。
出典：prtimes
VFXとCGの向上
AIは、画像認識、物体検出、セグメンテーションといった画像処理を得意としています。
画像生成技術についても周知のとおり、近年はStableDiffusionをはじめとした生成AIが登場し、その技術は大きく向上しており、革新をもたらしています。リアルなビジュアルエフェクト（VFX）とコンピュータグラフィックス（CG）の品質はこうした画像処理技術によって大きく向上しています。
例えば、Wonder StudioというAIツールは、実写映像をベースにCGキャラクターにアニメーションをつけるため、モーションキャプチャが必要なくなります。
また、ショット単位で動きをつける作業が不要になります。
さらに、カメラで撮影された映像をもとに、俳優の演技を自動検出する機能があり、その演技を自動でアニメーション、照明、合成された好みのCGキャラクターに反映させる機能があります。
参考：AIツール「Wonder Studio」
また、従来技術であるOpanPoseなどの姿勢推定の技術などを使用してモーションキャプチャーによって生成したキャラクターに独特の動きをつけることも可能です。
AIは大量の映像データを学習し、リアルな動きや物体の挙動をシミュレーションすることで、リアリティのある映像表現を可能にします。
VRやCG技術と組み合わさることで映像体験のクオリティはさらに増大します。
映画の予測と分析
AIは過去の映画データを分析し、新作映画の興行収入や評価を予測するのに活用されています。
また、社会的なトレンドや視聴者の嗜好を解析することで、映画の成功要因や市場での受け入れ可能性を評価する支援を行います。これにより、制作側はリスクを最小限に抑えつつ、収益性の高い映画プロジェクトを企画する際の意思決定が補完されます。
このように制作やマーケティング戦略の段階でもAIを活用して映画製作をサポートすることができます。
例えば、ScriptBookというAIツールは、脚本執筆の段階で映画の興行収入を予測することができます。このツールは、過去の映画データから学習し、脚本の内容から映画の興行収入を予測します。
出典：scriptbook
AI技術の導入により、映画産業はより効率的かつ創造的な展望を迎えています。
しかしながら、技術の進化と共に倫理的な問題やクリエイティブな側面に対する影響も考慮する必要も生じています。
AIとユーザー体験
AI技術は映画の視聴体験を根本的に変えつつあり、観客に没入感や参加感を提供する新たな方法を提供しています。以下では、ユーザー体験の向上と芸術性の高まりに寄与する主な技術に焦点を当てます。
リアルタイム音響調整
映画館やホームシアターにおいて、AIは観客の環境に合わせて音響を最適化する役割を果たしています。リアルタイムで部屋の音響特性を分析し、映画のサウンドエフェクトや音楽のバランスを微調整することで、臨場感豊かなオーディオ体験を提供します。
この技術は、音声認識や音声処理に関連する技術の一つで、音声の周波数特性を自動的に調整することで、よりクリアな音声を実現する技術です。
例えば、ヤマハが提供する「SURROUND:AI」は、AIを搭載したアンプで、人工知能を使ってリアルタイムに映画などの音響を解析して、それぞれのシーンに合った音場を、逐次変化させながらユーザーに最適な音を届ける技術です。音は環境によって適切なプログラムが違いますが、この技術を活用することで、「SURROUND:AI」の電源をONにしておくだけで、最適な音の環境が自動で適用された状態で映画が楽しめます。
出典：YAMAHA
これにより、映画の世界により深く没入できるだけでなく、監督の意図した音響効果を最大限に活かすことが可能です。その他のリアルタイム音響処理モデルとして「neutone」が、自動イコライジングモデルである「sonible」なども登場しています。
仮想現実（VR）との融合
AIと仮想現実（VR）の融合にも可能性を感じます。視聴者は映画の中に没入するだけでなく、その世界でインタラクティブに操作することが可能になります。AIはリアルタイムで映像を生成し、視聴者の行動に合わせてストーリーが変化する仮想現実映画を実現します。
これにより、従来の受動的な視聴体験から抜け出し、映画の世界に参加する感覚を提供します。
この技術の実用には、カメラ技術の向上や５Gのもつ映像の低遅延性が普及の鍵となるでしょう。
レコメンデーション
Netflixに代表される動画配信（ストリーミング）サービスでは、すでにAI技術を活用して、視聴者の好みや視聴履歴を学習することで、おススメの映画やドラマを個別最適化して推薦するシステムを導入しています。このようなレコメンデーション技術は、ユーザーが過去に鑑賞した映画や評価、検索履歴などのデータを分析し、その人の好みや嗜好を可視化することを可能にしています。
映画業界であっても、ユーザーの好みの映画広告を優先的に流すことで訴求効果の高い映画広告戦略が可能になります。映画DXの中で最も一般的であり、広く普及している技術と言えるでしょう。
AIと創造性の融合
Stable Diffusionの登場以降、AI技術は映画制作を含むアートの分野において新たな芸術的価値観をもたらしています。AIを活用することで、従来の枠組みを超えた斬新なアイデアや表現が可能となり、映画制作の領域にも革命をもたらしています。
新たな芸術的表現
AIは生成モデルを通じて音楽や映像を創造することができます。
例えば、Text to Music というモデルを活用すれば、AIが文章から自動で作曲をしてくれます。
作曲した楽曲を映画のサウンドトラックとして組み込むことで、従来の人間による作曲とは異なる独自の音楽体験を提供することが可能です。
このAIに入力する文章のことを「プロンプト」と言いますが、プロンプト事態も、AIに生成させることが可能で、作者は自分のイメージに合う情景画像を準備するだけで、それに合ったプロンプトを生成し、生成垂れたプロンプトからトラックを生成することも可能です。
また、AIが映像を生成する際にも、人間の感性とは異なる独特な視点、つまり膨大なデータの中にある規則性から映像表現が生み出されることがあります。
このような新たな芸術的表現は、映画制作者にとって新しい可能性を切り拓きます。
AIが生成した音楽や映像は、従来の枠にとらわれない斬新な要素を作品に取り入れることができ、観客に新しい視覚や聴覚体験をもたらすことがあります。
しかしながら、問題点もあります。
AIによる芸術的な表現は一部の人々からは賛否両論を巻き起こしています。
新たな形式の芸術を歓迎し、映画の進化を楽しむ人々もいれば、従来の人間による芸術制作を尊重し続ける立場からAIを批判する意見も存在します。
著作権の問題、倫理的に受け入れがたい表現、差別的な表現など、人間がコントロールしておかなければならない問題が散見されます。
生成AIを活用して作られた芸術作品については、様々な議論がなされており、このような議論を通じて、AIがもたらす芸術の新たな可能性や倫理的な観点が模索されています。
映画産業におけるAIの役割は今後も注目を集め続けることでしょう。
DXと映画 -AIが映画産業にもたらす変革- まとめ
映画産業はAI技術によって劇的な変化を遂げています。
AIは映画制作からVFX、市場予測、販売促進に至るまで多岐にわたって活用されています。
脚本執筆支援、画像認識技術によるVFXとCGの品質向上などクリエイティブでも積極的に活用されています。過去の映画データを分析し、収益予測や市場分析に活用することで、映画制作の効率性向上も図られています。このように、ユーザー体験の向上にも寄与しAIは映画鑑賞体験に新しい価値を提供しています。
映画制作者もユーザーも双方がAI技術の恩恵を受け、これまでにない新たな芸術的価値観と体験をもたらす変革が起きており、まさしく映画DXといえる現象が置き始めています。
一部では、AIによる芸術的表現には倫理的な側面も存在し、議論が続いており、技術的にまだまだ限界がある分野もあります。しかしながら、映画産業におけるAIの役割は、今後も大きくなると同時に、注目の技術分野となるでしょう。
