国内のAI先進企業の中でも、近年とりわけ大きな動きを見せているのがソフトバンクです。ソフトバンクはAIを単なる技術革新としてではなく、社会を支えるインフラとして捉え、その活用から運用、ガバナンスに至るまでの環境整備を進めています。
この記事では、ソフトバンクのAI戦略とは何かを軸に、10億AIエージェント構想と次世代インフラ戦略の全貌を整理して解説します。
AI関連のニュースは海外企業発信の情報が多くなりがちですが、国内でも着実に進む変化について、理解を深めていきましょう。
ソフトバンクのAI戦略とは
ソフトバンクのAI戦略の根底には、ソフトバンクグループ株式会社会長兼社長である孫正義氏が一貫して掲げてきた「AIは社会インフラになる」という思想があります。AIは電気やインターネットと同様に、あらゆる産業や人々の生活を支える基盤技術になるという考え方です。
この思想に基づき、ソフトバンクはAIを単なる業務効率化の手段ではなく、社会全体を変革する中核技術として位置づけています。AIを前提とした世界を見据え、その基盤づくりを自ら担おうとしている点がソフトバンクのAI戦略の大きな特徴です。
同時にソフトバンクは、従来の通信会社という枠を超え、AIを中心としたプラットフォーマーへの転換を進めています。全国に展開する通信ネットワークや膨大なデータ、計算基盤といった強みを活かし、AIを社会に広く行き渡らせる役割を果たそうとしているのです。
ソフトバンクのAI戦略は、個別の技術導入にとどまらず、AIを前提とした事業構造へ進化するための全社的な方向性だと言えます。
なぜソフトバンクはAI戦略に注力するのか?背景と狙い

ソフトバンクがAI戦略に大きく舵を切っている背景には、通信事業を取り巻く環境変化と、AIが社会構造そのものを変える技術になるという強い認識があります。ここでは、ソフトバンクがAI戦略に注力する理由を3つの視点から整理します。
- 国内通信事業の限界
- AIを「社会インフラ」にする野心
- 世界規模での競争の激化
①国内通信事業の限界
国内の通信事業は市場が成熟し、人口減少や価格競争の激化によって大きな成長が見込みにくい状況にあります。通信品質の向上や料金施策だけでは、持続的な収益拡大には限界があるのが現実です。
こうした中でソフトバンクは、通信を単体の事業として捉えるのではなく、次の成長を生み出すための基盤と位置づけ直しています。通信ネットワークを活かし、その上で新たな価値を創出する手段としてAIに注目したことが、ソフトバンクの戦略転換の大きな要因です。
②AIを「社会インフラ」にする野心
ソフトバンクが目指しているのは、AIを一部の企業や専門家だけが使う技術ではなく、社会全体を支えるインフラとして普及させることです。電気やインターネットが社会に不可欠な存在となったように、AIもあらゆる分野で当たり前に使われる基盤になると考えています。
そのためには、技術開発だけでなく、AIを安全かつ安定して利用できる環境を整えることが不可欠です。ソフトバンクは、自らインフラを担う立場としてAIの普及を下支えする役割を果たそうとしており、この野心がAI戦略を加速させています。
③世界規模での競争の激化
AI分野では、GAFAMをはじめとする米国の巨大テック企業や中国企業が莫大な資金と人材を投入し、世界規模での競争が激化しています。こうした状況の中で、日本企業がAIを活用するには、海外勢に依存しすぎない選択肢を持つことが重要です。
ソフトバンクはグローバルな視点で競争環境を捉え、日本からAI分野で存在感を示す必要性を強く意識しています。単なる追随ではなく、通信インフラや国内市場を活かした独自のポジションを築くことで、ソフトバンクは世界規模のAI競争に対応しようとしているのです。
ソフトバンクの最新AI戦略!7つの具体施策を解説

ソフトバンクのAI戦略は、理念や構想にとどまらず、すでに具体的な施策として展開されています。ここでは、ソフトバンクが現在進めている最新のAI戦略を7つの具体施策に分けて整理し、それぞれの特徴と狙いを解説します。
| ソフトバンクのAI戦略 | 取り組み内容の概要 |
|---|---|
| ①10億AIエージェント構想とデジタル従業員戦略 | 自律的に判断・行動するAIエージェントを社会に普及させ、デジタル従業員として活用 |
| ②AI-RANと次世代通信 | 基地局にAI計算基盤を組み込み、通信とAI処理を一体化 |
| ③国産AIモデル開発プロジェクト「Large Telecom Model」 | 通信分野に特化した国産AIモデルを開発 |
| ④ソフトバンク×OpenAI「SB OAI Japan」の設立 | OpenAIと連携し、日本企業向けに生成AI導入を支援 |
| ⑤安川電機と進めるフィジカルAI | 安川電機と協業し、AIをロボットなど現実世界で活用 |
| ⑥AI支援プログラム「AI Foundation for Startups」 | スタートアップに資金・AI基盤・ノウハウを提供 |
| ⑦データ主権とソブリンクラウド戦略 | 国内法制度下でデータを管理するクラウドとAI基盤を整備 |
①10億AIエージェント構想とデジタル従業員戦略
ソフトバンクが掲げる「10億AIエージェント構想」は、人間の業務を支援・代替するAIを社会全体に普及させることを目指した取り組みです。
ここで言うAIエージェントとは、単なるチャットボットではなく、目的を理解し、自律的に判断・行動する存在を指します。ソフトバンクでは、人の指示を待つだけでなく、業務を先回りして支える「デジタル従業員」としての役割が想定されています。
この構想では、AIエージェントを一部の専門業務に限定せず、あらゆる業界や職種で活用できる環境を整えることが重視されています。ソフトバンクの社内業務の効率化にとどまらず、企業活動や社会サービス全体の生産性を底上げするのが狙いです。
参考:SoftBank World 2025 孫正義特別講演より(2025年8月1日)
なお、AIエージェントについてはこちらで詳しく解説しています。
②AI-RANと次世代通信
ソフトバンクが進める「AI-RAN」とは、通信ネットワークとAIを一体で設計する次世代通信の考え方です。
従来は、通信は通信、AI処理はクラウドというように役割が分かれていましたが、AI-RANでは基地局自体がAIの計算基盤として機能します。通信の現場でAI処理を行うことで、遅延を大幅に抑えたリアルタイムなサービス提供が可能になります。
この構想の中核にあるのが、「基地局+AI計算基盤」という発想です。ソフトバンクは基地局に高性能なAI計算能力を持たせることで、ネットワークの最適化だけでなく、さまざまなAIサービスを支える基盤に進化させようとしています。
これを実現するために、ソフトバンクはNVIDIA社のGPUを活用し、大規模なAI処理にも対応できる環境を整備しています。
③国産AIモデル開発プロジェクト「Large Telecom Model」
Large Telecom Modelは、ソフトバンクが通信分野に特化して開発した国産AIモデルです。
汎用的な生成AIとは異なり、通信ネットワークの運用データやトラフィック情報などを学習させることで、通信事業ならではの課題解決に特化した設計となっています。ネットワークの最適化や障害の予兆検知、運用業務の自動化などへの活用が想定されています。
このプロジェクトの特徴は、日本国内での利用を前提に開発されている点です。ソフトバンクは海外製AIモデルへの依存を抑え、国内データを安全に活用できる環境づくりを目指しています。Large Telecom ModelはソフトバンクのAI戦略において、実用性と信頼性を両立させる中核的な取り組みと言えるでしょう。
なお、国産AIについてはこちらも参考にしてください。
④ソフトバンク×OpenAI「SB OAI Japan」の設立
SB OAI Japanは、ソフトバンクとOpenAIが共同で設立した、日本企業向けのAI活用を推進するための合弁会社です。急速に進化する生成AI技術を、日本の企業や社会が安全かつ実用的に活用できるようにすることを目的としています。
単に海外のAIサービスを導入するのではなく、日本市場の商習慣や法規制、企業ごとの業務特性に適した形でAIを提供する点が大きな特徴です。企業ごとの課題に応じたAI導入支援に加え、セキュリティやガバナンスに配慮した運用体制の構築も重視されています。
生成AIに関心はあるものの、導入の難しさやリスクを理由に踏み出せない企業は少なくありません。ソフトバンクの取り組みは、そうした課題を解消し、日本企業が生成AIを競争力強化につなげるための橋渡し役であり、グローバルな最先端技術と国内市場を結びつける重要な施策です。
⑤安川電機と進めるフィジカルAI
ソフトバンクは、安川電機と連携し、AIを現実世界で動かす「フィジカルAI」の実装を進めています。
フィジカルAIとは、ソフトウェア上で判断するAIと、ロボットや機械といった物理的な存在を組み合わせ、実際の作業や動作を自律的に行わせる技術です。これにより、AIは画面上の情報処理にとどまらず、現場で価値を生み出す存在へと進化します。
この取り組みでは、産業用ロボット分野で高い技術力を持つ安川電機の知見と、ソフトバンクのAI技術を融合させている点が特徴です。製造業や物流、インフラ分野など、人手不足や効率化が課題となる現場での活用が期待されています。
⑥AI支援プログラム「AI Foundation for Startups」
AI Foundation for Startupsは、ソフトバンクがスタートアップを対象に展開するAI支援プログラムです。資金提供にとどまらず、AI技術や計算基盤、事業開発の知見などをソフトバンクが包括的に提供することで、AIを活用した新たなビジネス創出を後押ししています。
スタートアップが直面しやすい技術面やリソース面の課題を解消し、成長スピードを高めることがこの取り組みの狙いです。ソフトバンクが培ってきたAIインフラやノウハウを活用することで、AIを軸としたスタートアップの集合体、いわゆるエコシステムを形成することも重視しています。
AI Foundation for StartupsはソフトバンクのAI戦略において、将来の技術革新や産業成長を生み出す土壌を育てる役割を担う施策と言えるでしょう。
⑦データ主権とソブリンクラウド戦略
ソフトバンクのAI戦略において重要な位置を占めるのが、データ主権を重視したソブリンクラウド戦略です。ソブリンクラウドとは、データの保管や処理を特定の国や地域の法制度の下で行い、企業や社会が自らのデータを主体的にコントロールできるクラウド基盤を指します。
AI活用が本格化する中で、データをどこで管理し、誰が統制するのかは、企業や社会にとって避けて通れない課題となっています。こうした課題に対し、ソフトバンクは通信インフラやAI基盤の整備とあわせて、信頼性の高い国内AI環境の構築を進めているのです。
海外クラウドへの過度な依存を避け、日本国内でAIやデータを安心して活用できる環境を整えることが、ソフトバンクのAI戦略の大きな狙いです。
こうした取り組みの一環として、ソフトバンクはオラクルとの協業によるソブリン性を備えたクラウドサービスの提供を開始しました。ソフトバンクのソブリンクラウド戦略は、AIを社会インフラとして定着させるための実践的な取り組みとして位置づけられています。
ソフトバンクのAI戦略は日本と企業に何をもたらすのか

ソフトバンクのAI戦略は、AIを社会インフラとして位置づけ、通信やAI基盤、エコシステムを一体で整備することで、国内におけるAI活用の前提条件を整えようとしている点が大きな特徴です。
こうした戦略が進展することで、国内では次のような変化が期待されます。
- 日本企業が生成AIや高度なAI技術を、安全かつ安心して活用できる環境が整う
- 通信インフラとAIの融合により、低遅延かつ高信頼なAIサービスが普及する
- デジタル従業員の活用が進み、業務効率や生産性の向上が期待される
- 製造業や物流分野を中心に、フィジカルAIによる現場の自動化・高度化が進む
- 国産AIモデルやソブリンクラウドの整備により、海外依存を抑えたAI活用が可能になる
- スタートアップ支援を通じて、国内AIエコシステムの形成が加速する
このような取り組みが進めば、日本企業はAIを特別な技術としてではなく、日常的に活用できる経営資源として取り入れやすくなります。ソフトバンクのAI戦略は、日本の産業全体の競争力を底上げし得る重要な取り組みとして、今後さらに注目されていくでしょう。
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ソフトバンクのAI戦略が日本と企業にもたらす未来
ソフトバンクのAI戦略は、10億AIエージェント構想をはじめ、AI基盤や国産AIモデル、フィジカルAI、スタートアップ支援までを一体で進めている点に大きな特徴があります。これらは単なる技術導入ではなく、AIを社会インフラとして定着させるための包括的な取り組みです。
通信インフラとAIを融合させ、データ主権にも配慮した環境を整えることで、日本企業が安心してAIを活用できる土台が築かれつつあります。今後、AIは一部の先進企業だけのものではなく、あらゆる企業の競争力を支える基盤となる存在になっていくでしょう。

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