企業での生成AI活用は、GitHub Copilotによるコーディングの自動補完など、開発現場での活用に注目が集まっていましたが、近年は活躍の場が大きく広がっています。例えば、インフラ構築に関するアドバイスや、システム運用の支援など、生成AIは今や、システム開発のあらゆる局面でその力を発揮しています。
今回は、企業の生成AI活用事例10選や活用するメリット、活用する際のポイントを詳しく解説します。
企業の生成AI活用事例10選
生成AIは、私たちの生活や働き方を劇的に変えつつあります。特に企業においては、その可能性に注目が集まり、様々な分野での導入が進んでいます。以下では、生成AIがどのように業務効率化に貢献しているのか、新たなビジネスモデルを生み出しているのかなど、具体的な事例をご紹介します。
生成AIが活用できるシーンについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
①新商品のテレビ CM
サントリー食品インターナショナルのWebCMでは、人気飲料「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」の魅力を伝えるため、キャストの選定からCMの内容に至るまで、生成AIのアドバイスが参考にされています。
生成AIは、人間には思いつかないような斬新なアイデアを数多く提案するため、生まれたCMは、キャストがバレエダンサーとなり高速回転するなど、想像を超える奇想天外な展開になりました。このCMは、生成AIが持つ創造性と人間のアイデアが融合することで生まれた「AIと人間の共創」と言えるでしょう。
②クリエイティブな広告アイデア
コカ・コーラ社は、OpenAIのGPT-4とDALL-Eを組み合わせた新たなプラットフォーム「Create Real Magic」を開発しました。このプラットフォームは、コンサルティングファーム大手のBain & Companyとの共同プロジェクトであり、ユーザーは、コカ・コーラの象徴的なボトルやロゴを題材に、自分だけのオリジナルアート作品を生み出すことができます。
コカ・コーラ社の会長兼CEOであるJames Quincey氏は、最先端のAI技術によってマーケティング活動の強化や事業全体の効率化を図るための重要な一歩であると述べています。これは、コカ・コーラ社が生成AIを今後の経営戦略において中核的な位置付けに置くことを示唆するものであり、コカ・コーラ社のデジタル変革に向けた積極的な姿勢がうかがえます。
③建設コストの予測
西松建設は、生成AIを活用したツールを導入し、建設コストの予測精度を大幅に向上させました。膨大な量のニュース記事や統計データを分析し、建設コストに影響を与える様々な要因を正確に把握するため、従来よりも精度の高い物価変動予測が可能となり、建設費用の見積もりにおけるリスクを軽減することに成功しました。
西松建設のこの取り組みは、建設業界におけるコスト管理の効率化に大きく貢献し、さらなる発展が期待されています。
④社内外で活用可能なGenerative AIセンター
日立製作所は、生成AIの社内導入を加速させるため、専門性の高い研究者やデータサイエンティストが集結する「Generative AIセンター」を設立しました。Generative AIセンターは、生成AIを活用した新たな業務プロセスやサービスの設計、実現するためのアプリケーション開発などを行います。さらに、生成AIの特性を最大限に引き出すためのプロンプトエンジニアリングやAIモデルのトレーニングなど、高度な技術に関する研究開発も積極的に行われています。
また、生成AIの利用が社内に広がるよう、従業員向けの教育プログラムも実施しています。そのため、従業員は生成AIの基礎知識を習得し、自らの業務に生成AIを効果的に取り入れることができるようになったようです。
⑤社員向けAIアシスタント
パナソニックホールディングスは、社員の業務効率化を目的としたAIアシスタントサービス「PX-GPT」を導入しました。PX-GPTは、パナソニックホールディングスがすでに一部の部門で活用していた「ConnectGPT」をベースに、マイクロソフトのAzure OpenAI Serviceを活用し、機能拡張と全社展開を実現したものです。
PX-GPTの導入に際しては、AIを提供するだけでなく、全社員への注意喚起や利用ルールの徹底にも注力したため、社員は安全かつ円滑にAIを活用できる環境が整備されています。国内全社員がアクセス可能で、IT部門に限らず幅広い部門の社員がAIを活用できるようにしたため、全社員が新技術を積極的に活用できる人材へと成長することを目指しています。
⑥作業時間の削減
LINEヤフーは、ソフトウェア開発の効率化を目的として、生成AIを全面的に導入しました。米マイクロソフトの子会社であるギットハブが提供する「GitHub Copilot」を活用しており、エンジニアが記述したい機能や動作をAIが理解し、それに合ったコードを自動生成することで、コーディング時間を大幅に削減しています。
これにより、LINEヤフーの約7000人のエンジニアは、従来のようにコードを書く作業に時間を費やすことなく、より創造性を活かした新サービスの企画や開発に集中できるようになりました。生成AIの導入は、単に作業時間を短縮するだけでなく、エンジニアのスキルアップを促し、企業全体の競争力向上に大きく貢献することが期待されています。
⑦システム開発の品質向上
みずほフィナンシャルグループは、生成AIを活用したシステム開発・保守の実証実験を開始しました。この取り組みでは、特に勘定系システム「MINORI」の一部商品に関するアプリケーションとインフラ基盤の設計手法に焦点を当て、生成AIによる設計書レビューの支援を通じて、開発品質の向上を目指しています。
生成AIが設計書に記載された内容を自動的に分析し、設計書の記載漏れや誤りを検出することで、より正確かつ高品質なシステム開発を実現することを目指しています。
⑧社員のAIスキル向上
KDDIは、社員のAIスキル向上と業務効率化を目的とした独自のAIチャットサービス「KDDI AI-Chat」を導入しました。KDDI AI-Chatを活用することで、リサーチやアイデア出し、文書作成など、幅広い業務が効率化されます。
また、KDDIは社員がAI-Chatを最大限に活用できるよう、教育プログラムの拡充にも力を入れています。AIの基礎知識から具体的な業務への応用まで、幅広い内容を学ぶことができる環境を提供することで、社員のAIリテラシー向上を図っています。
⑨チラシ作成の時間短縮
トヨタ系販売会社のウェインズトヨタ神奈川は、米Adobeの生成AI「Adobe Firefly」を搭載したデザインツール「Adobe Express」を導入し、販促活動の効率化に成功しました。ウェインズトヨタ神奈川では、年間約350件のイベントを開催しており、店頭販促用のPOPやチラシの作成を外部デザイナーへ依頼していましたが、デザインの意図が正確に伝わらなかったり、何度もやり取りするなど、1つのチラシの作成に1週間程度を要していました。
そこで、Adobe Expressを導入した結果、従来1週間かかっていたチラシの作成が、わずか20分程度に短縮されたケースも報告されています。Adobe Expressの導入により、担当者の負担が軽減され、よりクリエイティブな活動に集中できるようになっただけでなく、販促物の品質向上にも繋がっているようです。
⑩ユーザー向けのチャットサポート
ソニーネットワークコミュニケーションズは、高速光回線サービス「NURO 光」の顧客サポートを大幅に強化するため、生成AIを導入し、過去の問い合わせデータだけでなく、よくあるお問い合わせやサービスに関するお知らせなどの情報を幅広く学習しており、適切な回答を提供することができます。さらに、回答に関連するWebページのリンクなどを添えることで、ユーザーがよりスムーズに問題を解決できるようサポートしています。
従来、ユーザーからの問い合わせにはオペレーターが一人ひとりに対応していましたが、生成AIの導入により、NURO 光の顧客サポートは24時間365日体制となり、ユーザーはいつでも気軽に質問できるようになりました。また、オペレーターは、より複雑な問題に対応したり、新たなサービスの開発に注力したりできるようになったのです。
企業が生成AIを活用するメリット
生成AIをビジネスに導入することで、企業は多岐にわたるメリットを得ることができます。以下では、生成AIが企業にもたらす具体的なメリットを詳しく解説します。
新しいアイデアを生み出せる
これまで、新しい広告デザインや音楽、映像などのコンテンツを生み出すには、人間の創造性と長年の経験が不可欠でした。しかし、生成AIは何もない状態からでも、多種多様なアイデアを自動的に生成することができます。
この技術を活用することで、企業は従来よりも効率的かつスムーズに、斬新なアイデアを生み出し、ビジネスに活かすことができるようになりました。
業務の自動化や効率化ができる
高度な自然言語処理能力を活用したチャットボットの構築は、カスタマーセンターなど、顧客との直接的な接点を持つ部門において大きな変革をもたらします。生成AIによって構築されたチャットボットは、顧客からの問い合わせに迅速かつ正確に回答することが可能となり、担当者は煩雑なルーティンワークから解放されます。
そのため、社員はより高度な分析や戦略立案などの企業の収益に直接貢献する重要な業務に集中できるようになり、企業全体の生産性が向上します。さらに、生成AIを活用したチャットボットは、24時間365日稼働できるため、顧客満足度の向上にも繋がります。
いつでもどこでも迅速なサポートを受けることができるという顧客体験は、企業のブランドイメージ向上にもつながるでしょう。
顧客とのリレーション強化につながる
顧客の年齢、性別、居住エリアなどの基本的な属性情報に加え、過去の購入履歴やウェブサイトの閲覧履歴などの行動データを生成AIに学習させることで、顧客の興味関心や嗜好を詳細に把握することができます。
この情報を基に生成AIは、各顧客に合わせた最適な商品やサービスをレコメンドし、その人に響くようなメッセージを作成します。例えば、特定の地域に住む20代の女性顧客に対しては、その地域で開催されるイベント情報や、同世代の女性が好むような商品の情報を優先的に表示することができます。
顧客一人ひとりの特性に合わせたパーソナライズされたコミュニケーションを行うことで、顧客はより高い満足度を得ることができ、企業とのエンゲージメントが深まり、追加受注や顧客のロイヤリティ向上、解約率の低下にもつながることが期待できます。
企業が生成AIを活用する際のポイント
企業が生成AIを成功させるためには、以下のようなポイントを意識する必要があります。
- 目的に合うツールを選定する
- 使用状況を分析しながら追加学習をする
- 社員が生成AIを使いこなせるような工夫をする
各項目を以下で詳しく見ていきましょう。
小売業界が生成AIを有効活用するための対策については、以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
目的に合うツールを選定する
生成AIツールは多種多様であり、それぞれ得意な分野が異なるため、生成AIを導入する際には、まず自社の抱える課題や達成したい目標を明確にし、それに最適なツールを選ぶことが重要です。しかし、既存のツールでは対応できない、より高度なニーズが生じるケースも考えられます。
そのような場合は、ベンダーと連携し、自社独自の生成AIツールを開発するという選択肢も検討すべきでしょう。
使用状況を分析しながら追加学習をする
生成AIの能力は、学習させたデータに大きく左右されます。そのため、企業内の問い合わせ対応に生成AIを活用する場合、ChatGPTのように一般的な知識だけでは、自社の製品やサービス、社内独自のルールに関する質問には正確に答えられません。そのため、自社のマニュアルやFAQ、社内規定などの情報を追加で学習させる必要があります。
また、企業の状況は常に変化するため、生成AIも最新の情報を学習し続ける必要があります。例えば、新しい製品が発売されたり、社内ルールが変更されたりした場合には、生成AIにその情報を教え込むことで、より正確な回答を得られるようになるでしょう。
社員が生成AIを使いこなせるような工夫をする
生成AIは、AIとの対話を通じてアウトプットを引き出すという特徴上、その活用成果は利用者のリテラシーに大きく左右されます。企業が生成AIのポテンシャルを最大限に引き出すためには、従業員のAIリテラシー向上を図ることが不可欠です。
AIに対する理解が深まれば、従業員は生成AIを単なるツールとしてだけでなく、業務を効率化し、新たな価値を生み出すパートナーとして捉えることができるようになるでしょう。しかし、一方で、生成AIの誤った使用方法や倫理的な問題に関する知識が不足していると、誤った情報生成やプライバシー侵害など、様々なリスクが生じる可能性もあります。
そのため、企業は以下のようなセミナーなどを通じて、従業員に生成AIの基本的な知識や適切な使用方法、関連するリスクについて体系的に学ばせる必要があります。これにより、従業員は生成AIを効率的かつ責任を持って活用し、企業全体の生産性向上に貢献できるようになるでしょう。
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1日目 | 2日目 |
生成AIの概要 | 実践的な生成AIの構築 |
ChatGPTなどを活用した業務効率化 | チャットボットの作成 |
ChatGPTなどの実践テクニック | 生成AIアプリの開発 |
画像生成AIの実践 | Azure OpenAIの活用及び実践 |
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企業の生成AI活用で様々なメリットが享受できる
今回は、企業の生成AI活用事例10選や活用するメリット、活用する際のポイントを解説しました。生成AIは、私たちのビジネスのあり方を大きく変えつつあります。新規アイデアの創出や日々の業務の自動化など、生成AIがもたらすメリットは多岐にわたります。
実際、多くの企業が生成AIを導入し、業務効率化や新たなビジネスモデルの創出を実現しています。この文章を読んでいるあなたも生成AIを活用することで、自社の生産性を向上させ、競争力を高めることができるかもしれません。
