最新技術やそれらを活用したサービスが続々と登場し、人々の生活やビジネスなどにも大きな変革をもたらしています。その中でも、AIとメタバースは代表的な技術でしょう。それぞれが進化を遂げ、さまざまな場面で活用され始めています。
さらに、両者を掛け合わせたサービスも登場し、さらなる変革をもたらそうとしている点も、現代社会に生きる人々であれば無視はできません。AIとメタバースにより創造される世界は無限の可能性を秘め、今後、社会にも深く関わってくることが予想されます。
本記事では、AIとメタバースのそれぞれの概要を説明し、両者の掛け合わせにより実現できることや活用事例などを紹介していきましょう。
AIとは
AIとは、「Artificial Intelligence」の略であり、日本語では「人工知能」と訳されます。人間と近い、あるいは同等の知能や思考、理解力や認識力などを備えたコンピュータ上でのプログラムをAIと表現するのが一般的です。あるいは、そのプログラムを活用して作られたシステムやサービスをAIと表現するケースも少なくありません。
定義や解釈は、研究者や機関などによっても異なります。さまざまな情報を収集し、その中から最適なものを自動で選択するプログラムをAIと呼ぶ場合もあるでしょう。とりわけ、従来は人間のみが可能とされていた、特定の指示により新たな創造物を作り上げるAIは「生成AI」などと呼ばれます。
メタバースとは
メタバースとは、インターネット上に作られた仮想空間を指す言葉です。3次元で構成された空間内で、アバターと呼ばれる自分の分身ともいえるキャラクターを動かし、そこでコミュニケーションや経済活動などを行えます。
多くの人が集まることでコミュニケーションや経済活動は活発になり、現実社会と大差のない交流や取引が行われる点がメタバースの特徴です。
通信可能なゲームと異なるのは、商取引などを含めた社会的な活動が行われる点でしょう。アバター同士が自由に商品の売買ができ、ブロックチェーン技術などを用いながら商業的な契約を締結することも可能です。
企業が採用の面接や採用後の研修などに活用するケースも増えてきています。現実社会とあまり変わらない空間となる日も、そう遠くはないといえるでしょう。
AIとメタバースを掛け合わせてできること
AIを活用しながらメタバースの構築やサービスの提供・利用などを行うと、これまで以上にさまざまなことができるようになります。ここでは、AIとメタバースを掛け合わせることでできることや、その可能性を紹介しましょう。
アバターの作成
メタバースで他者とコミュニケーションを楽しんだり取引を行ったりするには、自分のアバターを作成・所有していなければいけません。自分を模したアバターを作成する場合もあれば、オリジナルのキャラクターを作り上げるケースもあるなど、姿形はさまざまです。
AIの活用により、アバターの可能性はさらに広がるでしょう。自分の姿形とほとんど変わらないリアルなアバターを作れれば、より現実社会と同じような行動をメタバース内でとりやすくもなります。
好きなイメージのキャラクターをAIにより生成することも可能となり、デザインやプログラムの知識や技術がなくとも、アニメやゲームに登場するようなアバターが作成できるでしょう。
ユーザーへの最適化
AIに備わっている学習機能を活用し、各ユーザーに最適なメタバース空間へと作り上げられる可能性も、両者の掛け合わせにより高まります。メタバース内にいるアバターは共通の空間やサービスを認識し、その中でコミュニケーションを図るのが一般的です。
しかし、AIと掛け合わせることで、アバターの行動や好みを把握・分析し、それを空間やサービスへと反映させることも不可能ではありません。同じメタバースを利用していても、体験できるものはユーザーごとに異なるといったサービスも今後は登場してくるでしょう。
世界中の人たちとのコミュニケーション
翻訳機能を備えたAIを活用すれば、言語の壁を超え、世界中の人たちとのコミュニケーションが可能となります。メタバースはインターネット上に作られた空間のため、国や地域など関係なく人が集まれる点も魅力です。
しかし、一つの言語しか扱えなければ、コミュニケーションや取引の幅も狭まりかねません。AIの活用により同時翻訳が可能となれば、より世界を広げられます。個人間だけではなく企業間の取引や契約も、当たり前のようにメタバース内で完結する未来がくるでしょう。
仮想アバターとのコミュニケーション
メタバースではさまざまなアバターとのコミュニケーションが楽しめますが、それらのすべてがリアルに存在している人のものとは限りません。AIの技術を用いれば仮想のアバターの作成が可能であり、それに人間と同じようなコミュニケーション能力をもたせることもできます。
文章作成が可能な生成AIなどでは人間との会話がすでに可能となっていますが、それがメタバース内で仮想アバターにより行われるとイメージするとよいでしょう。人間と生成AIによる自然なコミュニケーションが可能な時代となってきているため、メタバース内でもそうした仮想アバターを通じて会話が自然と行われるようになる未来も十分に想定されます。
不正などの防止
AIの学習機能や分析機能を、メタバース内での不正などの防止に活用することも期待されています。自分の分身ともいえるアバターとはいえ、仮想空間内でのコミュニケーションとなるため、SNSのように、しばしば攻撃的であったり排他的であったりといった行動に出る人も現れかねません。
不正や誹謗中傷の発見から防止、対応までAIが行えれば、ルールを守り楽しんでいるユーザーが、安心してメタバース内で行動できるようになります。
AI×メタバースの活用事例
AIとメタバースを掛け合わせたプロジェクトやサービスの提供などは、すでに始まっています。各社競うようにメタバースへのAI活用を進めており、今後は、さらにそれが加速していくでしょう。ここでは、AIとメタバースを掛け合わせたサービスや活用事例を紹介します。
Project CAIRaoke
メタバースの開発に力を注ぎ、社名も「Facebook」から変更した「Meta」は、メタバースのためのAIアシスタントシステムの構築と提供を行っています。そのうちの取り組みの一つが「Project CAIRaoke」です。
構築済みのシナリオに沿ったものではなく、そのときどきの文脈を重視した回答を導き出す、まさにAIの得意とする技術が、このプロジェクトのポイントといえるでしょう。この技術によりユーザーの行動をアシストし、メタバースでも活かそうとする試みです。
また、同プロジェクトの一環として、「Builder Bot」も発表されています。音声アシスタントによるメタバースの構築が可能で、アバター(ユーザー)の理想とするメタバースを作り上げられるシステムです。利用者が増えればさらに精度は高まり、近いうちに音声のみで手軽にメタバースが作れる時代が訪れるでしょう。
参照:Mogura VR News Metaがメタバース向けAIプロジェクトを公開
NVIDIA Avatar Cloud Engine (ACE) for Games
半導体メーカーとして知られる「NVIDIA」は、人工知能コンピューティングに注力している企業の一つです。NVIDIAは、ゲーム内でAIを活用し、仮想キャラクターと自然な会話が楽しめるサービスを発表しています。
これは、ゲームをするために作られたメタバース内で活用可能なサービスです。リアルタイムで会話が可能なアバターが存在することで、ユーザーに最適化されたメタバース空間の構築ができ、よりゲームのリアリティや没入感を高められるでしょう。
参照:NVIDIA NVIDIA ACE for Games が生成AIで仮想キャラクターに命を吹き込む
αU metaverse
電気通信事業を行うKDDIは、提供する「αU metaverse」内で、生成AIとコミュニケーションを図りながら謎解きが楽しめるイベントを開催しています。AIとの音声会話を通じて事件の真相に迫っていくゲームイベントです。ゲームのストーリーやルール、回答などをAIが学習し、プレイヤーからの質問に答えながら進行していきます。
通常、ユーザー同士がコミュニケーションを図る場として提供されている「αU metaverse」に、生成AIを取り込むことで新たなサービスの構築を試みたイベントといえるでしょう。既存のメタバースにAIを活用する事例も、このように登場してきています。
参照:KDDI αU metaverse、生成AI活用の謎解きゲームイベント開催
AI×メタバースのメリット・デメリット
AIのみ、あるいはメタバースのみのサービスと比べて、両者を掛け合わせたときには大きな効果や魅力を発揮します。一方で、注意しなければならない点も少なくありません。ここでは、AIとメタバースを掛け合わせた場合のメリットとデメリットをまとめましょう。
AI×メタバースのメリット
創造性や可能性が広がり、それらは多くの人の頭の中にあるものを優に超えていくであろう点が、AIとメタバースを掛け合わせることのメリットです。
メタバースや生成AIの登場で誰もが驚いたように、両者の融合により、さらに想像だにしないようなサービスが登場してくるでしょう。利用者は、専門的な知識や技術を必要とせず、そうしたサービスの利用が可能です。
メタバース内でのアバターの作成やコミュニケーションにおいて、AIのサポートがあれば、より高度なものにもできます。手軽に最新技術が利用できる点はユーザーにとって大きなメリットです。
また、個々の消費者だけではなく利用する企業側にとっても、メタバース内での監視や接客、交渉などを低コストで行えるメリットがあります。AIとメタバースの融合により、時間や場所も問わずにサービスの提供などが可能となるでしょう。
AI×メタバースのデメリット
ユーザーや利用する企業側とは異なり、開発者側には大きなコストと高度な技術が求められる点はデメリットといえます。開発できる企業は限られており、寡占的な業界となる可能性も否定はできません。
また、消費者ニーズが順調に盛り上がっていくかも不透明です。リアルなコミュニケーションが重要であると認識される時代となれば、AIやメタバースといった技術の発展が滞るおそれもあるでしょう。
また、メタバース内での社会活動が活発化すると、規制の対象となる可能性も高まります。生成AIによる著作権侵害の問題や、メタバース内での犯罪行為などがあれば、当然ながら国や行政も放置するわけにはいきません。
法整備が追いつくまではトラブルが続出するリスクもあり、法規制が強まれば自由な取引やコミュニケーションが阻害されてしまうおそれがあります。
ニーズと同様に、AIとメタバースに対する規制や価値の高まりが不透明である点も意識しながら向き合う必要があるでしょう。
AI×メタバースについてまとめ
人工知能であるAIと、仮想空間であるメタバースを掛け合わせることで行えるコミュニケーションや経済活動は無限の可能性を秘めているといえるでしょう。
AIを活用すれば、メタバース内でリアルなアバターを作成したり、ユーザーごとに最適化されたサービスやゲームを楽しめたりと、さまざまなことができるようになります。すでにそれらを可能とした事例も出てきており、今後は、さらにサービスの質も高まっていくでしょう。
ユーザーは専門的な知識や技術がなくても、AIとメタバースの融合や、それが生み出すサービスを楽しめる点もメリットです。一方で、開発者側には大きなコストと高度な技術が求められます。
今後、消費者ニーズや法規制がどう変化するかも不透明であり、こうした点には注意しながら取り入れたり利用したりする必要があるでしょう。