花王は、豊橋工場に建設した次世代倉庫において、物流の完全自動化を達成しました。具体的には、自動運転フォークリフトを導入し、製品の入庫からトラックへの積み込みまでの全工程を自動化することに成功しています。
これにより、同工場では人手を介さずに、スムーズな物流が可能になりました。今回は、製造業における完全自動化の6つの利点や課題、完全自動化のポイントを詳しく解説します。
完全自動化とは
完全自動化とは、人間が作業に関与することなく、機械に全工程を任せることを指します。ロボットをはじめとする多様な機械を統合し、一つの自動化装置として機能させることが一般的です。
しかし、この高度なシステムを構築するためには、複雑な設計工程が必要となり、結果として導入コストが大幅に高額になる傾向があります。
製造業における完全自動化の6つの利点
製造業における完全自動化には以下のような6つの利点があります。
- 人件費の削減ができる
- 作業の効率化ができる
- エラー発生率が低減する
- 製造時間が短縮される
- 品質が安定する
- 技能継承を用いた人材育成に取り組める
それぞれを具体的に見ていきましょう。
①人件費の削減ができる
完全自動化が進むことで、製造現場における人件費の削減が期待されています。自律型ロボットや協働ロボットなどの先端技術の進化は、従来、人間が行っていた作業を代替し、生産効率の向上に繋がります。これらのロボットは、高い精度とスピードで作業を行うことができるため、製造工場で必要とされる労働者の数が減少し、人件費の削減につながる可能性があります。
ただし、完全自動化によって人間の仕事が完全に消滅するというわけではありません。ロボットが得意とする作業と、人間が得意とする作業にはそれぞれ特徴があり、両者の協働がより高度な生産システムを実現すると考えられています。
②作業の効率化ができる
機械やシステムは、人間に代わって、決められた手順に基づいた作業を繰り返し行うことができます。そのため、完全自動化にすることで、人的ミスを減らし作業時間を大幅に短縮することにつながります。高度な思考力や柔軟な対応が必要な業務を除いては、完全自動化が作業効率の向上に大きく貢献するでしょう。
③エラー発生率が低減する
人間は長時間労働や単調な作業の繰り返しによる疲労を感じたり、集中力が途切れたりすることがあります。この状態では、ミスを犯しやすくなり、結果的に製品の品質低下や作業効率の悪化につながる可能性があります。
一方、機械はたとえ長時間稼働させても疲労を感じたり、注意が散漫になったりすることはありません。そのため、一度設定された手順に基づき、常に一定の品質で繰り返し作業を実行できます。この一貫性こそが、機械が人間よりもエラーを起こしにくい理由なのです。
④製造時間が短縮される
これまで、商品検査は人間の目視によって行われており、1秒間に検査できる個数は数個程度が限界でした。しかし、最新の画像処理センサを活用した完全自動化システムでは、1秒間に約300個もの商品を検査することが可能となり、検査速度は100倍近く向上します。
この劇的なスピードアップは、製造工程における大きなボトルネックとなっていた検査工程の時間を大幅に短縮することに繋がります。結果的に製品の生産コストを圧縮し、企業の競争力強化ができるでしょう。
⑤品質が安定する
人手による作業は、担当者によって品質に差が生じるという課題を抱えています。しかし、機械やシステムを活用した完全自動化は、この課題を解消し、常に一定の品質を保証することができます。結果的に、作業全体の品質レベルが向上し安定化が図られます。
⑥技能継承を用いた人材育成に取り組める
製造業における技術者の高齢化は、熟練工の持つ高度な技術やノウハウが失われることを防ぐため、技能継承が大きな課題となっています。完全自動化により機械やシステムに作業を置き換えることで、人手不足を解消しつつ熟練工が持つ時間を若手への指導に充てることができるようになります。
完全自動化によって生まれた余剰な工数を、体系的なOJTや研修プログラムに投資することで、より効率的な世代交代を実現し、企業の持続的な成長に貢献することが期待できるでしょう。
製造業における完全自動化の課題
完全自動化は多くのメリットをもたらしますが、同時に、多くの企業が様々な課題に直面しているという現実があります。以下で詳しく解説します。
高額な導入コストが必要となる
完全自動化システムの導入には、数千万円から数億円規模の初期投資が必要となるケースが一般的です。また、専門的な知識や技術を持ったエンジニアによるメンテナンスが必須となるため、年間数百万円の維持費がかかることも珍しくありません。
これらの高額な費用が、多くの企業にとって完全自動化への取り組みを躊躇させる大きな要因となっているのです。
機械やシステムを導入するスペースが必要になる
完全自動化を行う新しい機械やシステムを導入する際、それらを設置するための十分なスペースの確保が必要です。特に、これまで機械化されていなかった作業現場では、機器の設置に伴い、大幅なレイアウト変更が必要となるケースが少なくありません。
消防法などの法規制との兼ね合いも考慮し、安全かつ効率的な作業環境を構築するためには、綿密な計画と準備が求められます。
技術や判断が必要となる作業の完全自動化は難しい
「完全自動化」とは言うものの、複雑な判断や高度なスキルが必要な作業は、依然として人間の能力が必要になります。完全自動化によりコスト削減や効率化を図ることは可能ですが、すべての工程を完全自動化することは必ずしも最善策ではありません。
それぞれの工程における完全自動化のメリットとデメリットを慎重に比較検討し、最適な自動化戦略を立案することが求められます。
物流の自動化については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
専門知識を持つIT人材が必要になる
完全自動化を推進するためには、生産工程に関する深い知識と、産業用ロボットをはじめとするIT技術を熟知した人材が必要になります。しかし、現状ではIT人材の不足が深刻であり、企業は完全自動化を円滑に進める上で大きな課題に直面しています。
この人材不足を解消するためには、自社でIT人材を育成するか、外部企業に育成を委託するかのいずれかの選択肢を取らなければなりません。どちらの選択肢を選ぶにしても、少なからず以下のようなコストがかかることは避けられません。
自社育成 | 専用の研修プログラムの開発及び実施、エンジニアによる指導などの多岐にわたる費用 |
外部委託 | 外部企業への研修費用や人件費、自社との連携にかかるコスト |
このように、完全自動化に伴う人材育成は、企業にとって無視できないコスト負担となることが予想されます。
製造業における完全自動化のポイント
最後に、完全自動化を進める上で避けられない課題を克服し、完全自動化を実現するための重要なポイントを解説します。
完全自動化の目的を明確にする
完全自動化への取り組みは、目的がなければただの作業効率化に終わってしまいます。なぜ完全自動化が必要なのか、どのような課題を解決したいのかを明確にすることが成功への第一歩です。
完全自動化にはコストがかかるため、投資対効果を測る指標であるKPIを設定し、具体的な目標を設定しましょう。これにより、完全自動化が組織にもたらす価値を可視化し、効果的に進めることができるでしょう。
スモールスタートで導入する
導入を検討している現場が複数ある場合、いきなりすべての現場に新しい完全自動化システムを導入するのではなく、まずは一つの現場を先行的に選び、小規模な範囲からスタートすることをおすすめします。
先行的に選んだ現場でシステムを稼働させ、その効果を検証することで、システムの実際の運用状況を把握し、問題点があれば早期に改善することができます。繰り返し検証を行うことで、より具体的な効果を予測し、トラブルなくシステムを導入できるようになるでしょう。
既存設備と連携できるか確認する
完全自動化は、技術的・経済的な制約から、現時点では容易ではありません。多くの工場では、既存の設備が今後も一定期間使用されることになります。新しい機械やシステムを導入する際、最も注意すべき点は、既存設備とのスムーズな連携です。もし、新旧の設備が互いに連携できなければ、生産ラインが停止し、多大な損失に繋がる恐れがあるでしょう。
そのため、導入前には新旧システムの互換性やデータのやり取りに問題がないかなどを、細心の注意を払ってテストする必要があります。また、導入による影響を最小限に抑えるため、段階的な導入や既存設備の機能を最大限に活かすようなシステム設計も検討すべきです。
従業員の理解や教育を実施する
完全自動化によって、従業員は単純作業や反復作業から解放され、より創造性を活かせる業務に集中できるようになります。しかし、変化を恐れ、新しい業務に抵抗を感じる従業員もいるでしょう。このような状況では、従業員の理解と協力を得ることが、完全自動化を成功させる上で重要です。
そのためには、完全自動化の目的やメリットを従業員一人ひとりに丁寧に説明することが大切です。完全自動化によって、どのような業務が効率化され、どのような新しい可能性が開けるのかを具体的に示すことで、従業員の不安を解消し、変化への理解を深めることができるでしょう。
また、完全自動化に伴い、新たなスキル習得が必要となる従業員に対して、きめ細やかなサポート体制を整えることも重要です。多様な学習方法を用意し、従業員が自分のペースでスキルアップできる環境を提供しましょう。これらの取り組みを効果的に実施するためには、以下のような人材育成サービスの導入を検討することも有効です。
完全自動化で活躍できるDX人材育成については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
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製造業における完全自動化は慎重に取り組もう!
今回は、製造業における完全自動化の6つの利点や課題、完全自動化のポイントを解説しました。近年、製造業の多くの企業が完全自動化を目指していますが、その実現には様々な課題が立ちはだかっています。完全自動化は生産効率の向上や人件費削減など、多くのメリットをもたらす一方で、高額な初期投資やシステムの複雑化といったリスクも伴います。
完全自動化の利点と課題を十分に理解した上で、慎重かつ計画的に取り組み、自社の状況に合った最適な完全自動化戦略を策定する一助となれば幸いです。