厚生労働省は2025年度の予算概算要求を公表し、一般会計の要求額は過去最大の34兆2763億円となり、前年度比1.4%の増額となっています。医療や介護に関する情報を全国で共有するためのシステム構築や、電子処方箋の普及促進など、介護DXを加速させるための予算が大幅に増額されました。
年末の予算編成過程では、歳出改革も課題となる中、厚生労働省の概算要求がどのように反映されるのか注目されます。特に、介護DX推進や創薬力強化、感染症対策、少子化対策など、国民生活に直結する施策への予算配分が焦点となるでしょう。
今回は、介護DXを推進する理由や導入のメリット、事例や導入のポイントを解説します。
介護DXとは
DXとは、最新のデジタル技術を活用しながら企業の業務プロセスや製品・サービス、ビジネスモデルそのものを改革し、新たな価値を生み出す取り組みです。近年、新型コロナウイルス感染症の影響によるリモートワークの普及や、政府によるDX推進政策の後押しもあり、多くの企業がDX化を進めています。
当初は、DXと相性の良い特定の業界に限られていましたが、近年では、従来デジタル化が難しいとされていた介護業にもDXの波が押し寄せています。介護DXは、DXの概念を介護現場に適用し、デジタル技術やデータを活用したシステムを導入することで、介護業務のあり方を根本から改革する取り組みです。テクノロジーの力で介護の質の向上と、働き方改革の両立を目指しています。
DX事業については以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
介護DXを推進する理由
超高齢化社会の到来のため
日本は2025年問題と呼ばれる超高齢化社会の到来を目前に控えており、65歳以上の高齢者人口が総人口の3割近くを占める高齢化社会となっています。この状況下では、介護サービスの需要がますます高まることが予想され、限られた人材で効率的な介護サービスを提供できる体制を構築することが課題になっています。
LIFEの対応がしやすい
LIFEとは、厚生労働省が2021年から運用を開始した、全国の介護施設利用者の状態やケアに関するデータを一元的に収集・分析する情報システムです。LIFEの導入によりデータが国レベルで集約されるようになるため、膨大な量のデータに基づいた客観的な分析が可能となり、より質の高い介護サービスの提供が期待されています。
介護ソフトの中にはLIFEと連携し、入力データを自動的に共有できるものがあり、ソフトに入力した情報がLIFEに即座に反映されるため、重複入力の手間を省き、業務効率化に繋がります。このようなシステム連携は、介護DXの一例です。
DXを進めることで、様々な制度に対応するための事務作業を迅速かつ正確に行えるようになり、介護従事者はより多くの時間を利用者に寄り添うケアに充てることができるようになるでしょう。
介護DXを導入するメリット
ここでは、介護DXがもたらす主なメリットについて、詳しく解説していきます。
業務の効率化につながる
介護業務は多岐にわたるため、すべてを自動化することは難しいですが、入力作業や単純作業など一部の業務を専門のツールに置き換えることで、従業員の負担を軽減することができるでしょう。具体的には、デジタルツールの活用により、無駄な残業が減少し、残業代の削減にもつながります。
コスト削減による利益の拡大は、従業員の待遇改善やより高性能なシステムの導入など、施設全体のレベルアップに繋がる好循環を生み出します。
少人数で業務を回すことができる
介護ソフトや介護ロボットを導入することで、少人数での業務運営が可能となり、人手不足問題の解消に繋がります。そのため、従業員はゆとりを持って業務に取り組めるようになり、残業時間の削減や離職率の低下も期待できるでしょう。
また、従業員の負担軽減は、身体的な負荷や精神的なストレスの軽減にも繋がります。従業員の健康状態の改善やワークライフバランスの充実が図られ、定着率向上へと繋がり、人件費削減という経営側のメリットもあります。採用コストの削減や従業員のモチベーション向上による生産性向上は、経営の効率化にも繋がるでしょう。
質の高いサービスができる
データ活用やデジタル技術は、膨大な量のデータを分析することで、一人ひとりの利用者に対して最適なケアプランを作成し、よりきめ細やかなサービスを提供できます。また、自動化システムの導入により、事務作業に費やされる時間が大幅に削減され、職員はより利用者へのケアに集中できるようになるでしょう。
さらに、管理者はシステムを通じて職員の勤務状況をリアルタイムで把握できるため、業務の漏れやミスを未然に防ぎ、効率的な運営が可能です。介護DXで職員の負担を軽減し、同時にサービスの質を向上させることで、持続可能な介護サービスができるでしょう。
介護DXにおけるデメリット
介護DXは、介護サービスの質向上や業務効率化に大きく貢献する可能性を秘めていますが、同時に克服すべきデメリットも存在します。
現場の理解と信頼を得なければならない
現場では業務の増加を嫌う傾向があり、新しいシステムの導入に対しては、即効性のある成果を期待する声も少なくありません。介護DXは必ずしも導入直後から目に見える成果が出るわけではありません。
そのため、導入初期は現場からの強い風当たりにさらされながら、システムの定着を目指さなければなりません。この状況下で成功するためには、現場の理解と信頼を徐々に得ていくことが重要です。即ち、焦らず長期的な視点を持って、システムの運用を続ける覚悟が求められます。
法律や制度に対応しやすくなる
日本の高齢化は進んでおり、2024年の介護保険法改正では、利用者の負担割合が増加し、介護事業者の財務状況の透明性が求められるようになりました。さらに、災害時の事業継続を確保するため、すべての介護事業者にBCPの策定が義務付けられました。BCPは、企業が緊急事態に遭遇した際に事業を継続・復旧させるための計画を策定することです。
これらの法改正に、介護事業者が従来の紙の書類と手作業で対応することは、多くの時間と労力を必要とし、業務効率の低下を招く可能性があります。しかし、クラウド型の介護ソフトを利用すれば、ベンダー側が定期的にアップデートを行うため、常に最新のシステムを利用することができます。
このように、介護ソフトは法改正に迅速に対応し、業務の効率化を図る上で重要なツールと言えるでしょう。
費用対効果を求めることが難しい
介護DXは、現場の業務効率化を目的としたシステムのため、直接的な利益を数値化し、費用対効果を明確に示すことが難しいという特徴があります。経営者や管理者側としても導入効果を実感できれば、長期的な視点で現場に運用を任せられる余裕が生まれます。
しかし、効果が明確に見えない場合、現場にシステムの徹底運用を求めることになり、過度な負担が現場に掛かってしまうという問題が生じる可能性があるでしょう。
介護DXの導入事例
ここでは、介護DXを加速させるための様々なツールや実際の導入事例をご紹介します。
介護ロボットの導入
介護の現場では、高齢者の移乗や体位変換などの身体的な負担が大きい業務が数多く存在します。これらの作業は、従来は介護職員が全て手作業で行っており、職員の体力的な負担が大きな課題でした。
そのため、厚生労働省では以下のような介護ロボットの開発と普及を支援しています。
- 高齢者の歩行を補助する機器
- 介護職員がパワーアシストを受ける機器
- 歩行アシストカート
- センサーを用いた見守りシステム
- 設置位置を調整できるトイレ
さらに、介護ロボットを使いこなすためのシステムも開発されており、今後ますます多くの介護施設で介護ロボットが導入され、職員の負担軽減と業務効率化が進むことが期待されています。
ペーパーレスシステムの導入
介護現場では、利用者一人ひとりのケア記録や申し送り書の記入に多くの時間を費やしているのが現状です。業務中にメモを取った後、改めて正式な書類に書き写す、PCに入力し直すなどの非効率な作業が繰り返されており、記録作業の効率化が課題です。そのため、スマートフォンなどのモバイル端末と介護システムを連携させるプラットフォームが注目されています。
このプラットフォームを活用することで、場所や時間に縛られず、システムに直接データを記録し、共有することが可能です。これにより、書類の印刷や管理にかかるコスト削減だけでなく、職員間の情報共有を円滑にし、引き継ぎ業務の負担軽減にもつながるでしょう。
チャットでの情報伝達
忙しい介護現場では、口頭での情報伝達だけに頼っていると、重要な情報が漏れてしまったり、内容が歪曲されてしまう問題が起こりがちです。しかし、グループチャットを導入することで、これらの問題を解消し、よりスムーズな業務運営が可能です。
グループチャットとは、組織や集団で働く人々が情報をスムーズに共有し、円滑にコミュニケーションを取ることができるように設計されたソフトウェアのことです。一度共有された情報が履歴として残るため、後からでも内容を確認することができます。
情報伝達の漏れや誤解を防ぎ、正確な情報を共有し続けることができる上に、チャット上で共通の進捗管理表やスケジュール表を作成・共有することで、チーム全体で業務の進捗状況を把握し、効率的に作業を進めることができるのです。
介護DXを導入するためのポイント
介護DXの導入には様々な課題が伴うため、ポイントを押さえることでスムーズにDXを進めることができるでしょう。以下で詳しく解説します。
職員を課題を抽出する
正職員、非常勤などの雇用形態に関わらず、日々の業務で困っていることや時間がかかっていることを全員で共有してみましょう。介護記録や報告書の転記作業はいつも大変といった、多くのスタッフが抱えている課題を共有することで、新しいシステムを導入すれば、これらの作業を効率化できるかもしれない、というイメージを具体的に描きやすくなるでしょう。
現在の業務を見直す
会議やアンケートの結果から、現在の業務には改善の余地があることを明確にし、施設全体の業務プロセスを精査し、より良い業務フローを構築することを目指します。この際、DX化はあくまで一つの選択肢であり、必ずしもすべての業務に適用する必要はありません。業務の特性や目的に合わせた最適な改善策を検討することが重要です。
ルールを見直す
運用方法は導入後に考えるのではなく、事前にしっかりと計画を立てることが重要です。導入後も運用状況に合わせてルールを見直し、改善を続けていくことが求められます。
特に、一人の職員に管理業務が集中しないように、担当者を複数名に割り当てることが大切です。担当者を明確に分けることで、万が一の場合でも業務が滞ることを防ぐことができるでしょう。
また、介護施設だけでなく情報機器が利用される可能性のある休日や外出先での取り扱いルールも事前に定めておく必要があります。情報共有の方法やシステム入力時の単語の統一化などのマニュアルを作成し、定期的に改訂することで、円滑な運用ができるでしょう。
仕組みに慣れてもらう
実際に使ってみたら便利だった、というポジティブな実感を持ってもらうためには、まず、新しいツールに慣れてもらい、継続して使ってもらうことが重要です。そのためには、普段から使っているツールとの共通点を見つけ、抵抗感を減らす工夫が必要です。
例えば、夜間巡視の回数や利用者へのナースコール対応の回数などの改善効果が分かりやすい項目を導入前後で記録し、数値で変化を可視化することで、より効果的にツール導入のメリットをアピールできるでしょう。
職員の負担を減らすために配慮する
職員の負担軽減を目的としたシステム導入は、適切な手順と配慮がなければ、かえって現場の混乱を招き、スタッフの負担を増大させてしまう可能性があります。そのため、システムや機器を一斉に導入することは避けましょう。
段階的な導入により、現場の混乱を最小限に抑え、職員が新しいシステムに順応できる時間を確保することが重要です。また、情報漏洩のリスクを軽減するため、職員が私的なスマートフォンやタブレットを業務に使用することは避けるべきです。企業が提供する専用の端末やシステムを利用することで、情報セキュリティを確保しましょう。
介護DXを導入するなら人材育成サービスがおすすめ
介護DXの推進で、最も重要なのは現場で働くスタッフの協力です。もし、現場の協力なしにDXを進めてしまうと、導入したツールが使いこなされなかったり、業務プロセスが現場のニーズと合致せず、かえって非効率になってしまう可能性があるでしょう。
スムーズなDX推進のためには、現場のスタッフにDXの目的やビジョンを共有し、積極的に意見を求めることが大切です。以下のようなDX人材育成サービスは、このような状況を打破するための有効な手段です。DX人材育成を通じて、スタッフは新たなスキルや知識を習得し、DX戦略の立案や実行を支援できるようになるでしょう。
従業員のスキル向上を図るために利用できるDXリスキリング助成金については、以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
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介護DXは目的や戦略を明確化して実践しよう
今回は、介護DXを推進する理由や導入のメリット、事例や導入のポイントを解説しました。介護DXは業務の効率化や情報共有の円滑化などを通じて、介護職員の負担を軽減し、働きやすい環境づくりをサポートします。そのため、介護職員はより多くの時間を利用者の方々とのコミュニケーションやケアに充てることができるようになるでしょう。
介護DXを導入することで、介護職員の離職率を減らし、働きがいのある職場環境を実現し、地域に必要とされる施設運営を永続的に続けていくことができるのです。