国内最大級のスタートアップイベント「IVS(アイブイエス)」にて開催されたコンテストで、自動倉庫システムを手掛ける米RENATUS ROBOTICS(レナトスロボティクス)が優勝しました。RENATUS ROBOTICSはピッキングや梱包など物流で行う作業を1人の作業員で完結できるシステムが、人件費などのコスト削減や人手不足解消にも役立つと評価されました。
コンテストに登壇した企業15社の半数以上がAIを事業に活用しており、AIの活用が加速している海外での事業展開を目指す企業が多かったようです。現在、AI開発が急速に進展する中、海外に比べ日本はいくつかの点で遅れを取っているという指摘がされています。
日本のAI開発が海外に追いつき、追い越すためには様々な課題を解決する必要があります。今回は、海外のAI利用率や海外のAI導入事例、海外に比べ日本のAI化が遅れている理由、海外のようなAI化を目指すための対策をご紹介します。
海外のAI利用率とは
Deloitte Insightsの「アジアパシフィックにおける生成AI」調査レポートでは、海外のAIの利用率を以下の9カ国を対象に調査しました。
9カ国中、インドが87%でトップ、東南アジアは76%、中国と台湾、シンガポールは72%と高い利用率を示しています。学生と社会人では、学生の方が利用率が高い傾向があり、インドは90%を超える高い数字を記録していたようです。
- オーストラリア
- 中国
- インド
- 日本
- シンガポール
- 台湾
- 韓国
- ニュージーランド
- 東南アジア(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)
ちなみに、日本の利用率は39%と最下位で、アジア全体の平均を大きく下回っていました。また、日本の学生利用率は55%で、調査対象国の中で最下位でした。
日本は社会人のAI利用率も34%で、インドの83%、東南アジアの72%、中国の71%と比べ、大きく差がついています。日本は先進国としての危機感を持ち、AI人材の育成と積極的なAI導入を進めていく必要があるでしょう。
【業界別】海外のAI導入事例
日本より大きくAI化が進む海外では、AIをどのように導入しているのでしょうか。海外のAI導入事例を業界別にみてみましょう。
AIを始めとした海外企業のDX導入については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
海外の銀行業界AI導入事例
イギリスの雑誌「Economist」の調査部門Economic Intelligence Unitの調査によると、米国の銀行経営者の77%が、AIが銀行業界の勝敗を左右すると考えています。そのため、すでに多くの銀行がAIを導入し、業務の効率化や新たなサービスに取り組んでいます。
例えば、大手投資銀行ゴールドマン・サックスでは、AIを活用してインサイダー取引などの不正行為を検知し、金融犯罪の防止に努めています。AIが膨大な取引データをリアルタイムで分析することで、従来の人間による監視では見つけられなかった不正行為を早期に発見できるようになりました。
海外の物流業界AI導入事例
インドのShipsyは、物流業界のSaaSで注目を集めています。SaaSとは、Software as a Serviceの略でクラウド上で提供されるサービスの総称で、サーバー側で稼働しているソフトウェアをインターネットなどのネットワークを経由してユーザーが利用できる仕組みです。
物流業務を総合的に管理できるため、以下のような物流の全行程を一つのプラットフォーム上で可視化して、管理することができます。
- ファーストマイル(倉庫からの出荷)
- ミドルマイル(流通センター間の輸送)
- ラストマイル(最終顧客への配送)
Shipsyは50以上の配送会社と連携しており、見積書の共有や出荷の追跡、出荷書類の管理、請求書の照合などの業務を自動化し、業務効率化に貢献しています。
海外の医療業界AI導入事例
コンサルティング会社アクセンチュアの調査によると、米国ではAIによるヘルスケアシステムの効率化により、2026年までに年間1,500億ドルのコスト削減が見込まれています。米国では、すでにAIが医療の現場で様々な変化をもたらしています。
例えば、患者の咳の音を録音するだけで、様々な病気を診断できるアルゴリズムが開発されています。これにより、早期診断が可能となり、患者の予後を改善できる可能性が広がっています。
また、医療機関向けのAIチャットボットの導入も進んでおり、患者の問い合わせに迅速かつ正確に回答することで、医療従事者の負担軽減と患者満足度の向上に繋がっています。
海外の観光業界AI導入事例
世界中の観光業界でもAIの導入が始まっています。特に、旅行者の体験をより豊かにする「スマートツーリズム」が注目を集めています。スマートツーリズムとは、AIを活用して観光客のニーズに応え、より効果的に観光地に誘導する取り組みです。
AIはもちろん、ビッグデータやスマートフォン、アプリなどの技術を駆使し、個人の好みやニーズに合わせた旅行の提案や混雑回避・人流分散による消費拡大などを目的としています。オーストラリアでは、AIを活用した対話型ツアーガイドの導入が進んでおり、観光客はAIとの会話を通じて、観光地の歴史や文化に関する情報を手軽に得ることができます。
スマートツーリズムにより、現地に住んでいる人に案内されているようなパーソナライズされた観光体験が可能になりました。
海外のアパレル業界AI導入事例
海外のアパレル業界ではAIが様々な場面で活用されています。イスラエルでは、AIを活用して将来の需要予測をし、企業のビジネス戦略に貢献しています。在庫管理の最適化や新製品開発に繋がり、企業の収益性向上に大きく貢献しているようです。
一方、ニュージーランドでは、対話型AIデジタルヒューマンが顧客対応で活躍しています。まるで人間と会話しているかのような自然なやり取りを通じて、顧客満足度の向上に繋げているようです。
米国でもAIが顧客の好みを学習し、一人ひとりに合わせた最適な商品やサービスを提案する仕組みが普及しています。これにより、顧客の離脱を防ぎ、リピート率の向上に繋がっています。
海外の教育現場AI導入事例
米国では、AIが教師のアシスタントやバーチャル教師として活躍し始めています。AIは、生徒一人ひとりの学習進度や理解度に合わせて、最適な学習内容や課題を提供することで、よりパーソナライズされた教育を実現することが可能です。
一方、中国ではAIが学生の論文を評価するシステムが導入されています。AIは、客観的な視点から論文の質を評価することができるため、教師の負担を軽減して学生の学習効果を高めることが期待されています。
海外に比べ日本のAI化が遅れている理由
海外では様々な分野でAIが活用されていますが、日本は以下のような課題を抱えており、海外に比べAI化が遅れています。
- 優れたAI人材が不足している
- 企業が変化に対応できていない
- ビッグデータを活用できていない
以下で、海外に比べ日本のAI化が遅れている理由を詳しく解説します。
優れたAI人材が不足している
近年、AI業界における人材不足が深刻化しています。2030年には最大79万人のIT人材が不足するとの試算が出ており、日本経済全体に大きな影響を与え始めています。
AIの人材不足は、以下のような様々な要因があるとされています。
- 日本社会全体の少子高齢化
- 給与
- 労働時間
- 職場環境などの労働条件に関する不満
- AI技術の日進月歩の進化により人材育成が追いつかない
企業が変化に対応できていない
海外のビジネススクールIMDの調査において、日本の企業は「企業の意思決定の速さ」と「変化への対応力」で最下位でした。この背景には、日本企業が長年培ってきた「調整文化」が関わっていると言われています。
調整文化とは、組織内の秩序や安定性を重視することを指します。そのため、AIという新しい技術に対しては、上司や経営層の意向が最優先され、現場の意見が軽視される傾向があります。また、判断の正確性よりも上下関係や社内における人間関係を重視する傾向が強く、結果として意思決定に時間がかかりがちです。
日本の調整文化が根強い背景には、日本特有の以下のような要因が考えられます。
- 変化を恐れ、新しいことに挑戦することをためらう風土
- 経験や年齢を重視するため、能力や実績を評価する風土を阻害し、新しいアイデアや意見が出にくい
- 個人の意見よりも集団の意見を優先する傾向を強め、多様な意見が出しにくい
ビッグデータを活用できていない
海外の企業に比べ、日本企業はビッグデータのポテンシャルを十分に引き出せていません。2015年に行われた調査では、日本企業の6%しかビッグデータを活用していないという結果が出ており、その後も大きく改善されたとは言えないようです。
ビッグデータは、様々な分野で活用することで、クレジットカードの不正利用検知やシステムへの不正アクセス検知、セキュリティ強化、新たなサービスの開発、効果的なマーケティング戦略など企業に大きなメリットをもたらします。
海外のようなAI化を目指すための対策
海外のようなAI化を目指すためには、どのような対策を行えば良いのでしょうか。以下で詳しく解説します。
システムのオープン化やクラウド化を進める
海外企業のようなAI化においては、老朽化した従来のシステムからの脱却が早期に対応すべき課題となっています。その解決策として、システムのオープン化とクラウド化が注目されています。
オープン化とは、独自のシステムから業界の標準規格に基づいたオープンシステムに変更し、市場で多く利用されているOSやデータベースなどのソフトウェアを組み合わせてシステムを構築することです。一方、クラウド化とは外部のクラウドサービスが提供する資源を利用することです。
オープン化とクラウド化を組み合わせることで、ビジネスを成長させる海外企業のようなAI化を構築することができるでしょう。
デジタルインフラを整備する
AIの活用には大量のデータを収集・蓄積し、高速に処理するための基盤となるデジタルインフラが不可欠です。デジタルインフラが整備されていないと、データの利活用の制限やサイバー攻撃のリスクなどの問題が生じます。
また、大量のデータを短時間で処理することができず、AIモデルの学習に時間がかかるでしょう。デジタルインフラを整備するためには、大規模なデータセンターを整備し、以下のような対策を行うことが重要です。
- AIの学習に必要な環境を確保する
- AIモデルの開発・運用を支援するツールを導入する
- AIの開発・利用に関する倫理的なガイドラインを策定する
自社でAI人材を育成する
AI化を推進するためには、デジタルインフラの整備に加えて、AIを開発・運用できる人材の育成が不可欠です。AI人材に特化した人事評価制度を導入することで、社員がAIスキル向上に積極的に取り組む環境を作ることができるでしょう。
例えば、AIに関する知識や技術、プロジェクトへの貢献度などを評価項目に含め、AI人材専用のキャリアパスを設定し、早い段階から実案件に関われる機会を提供することで、AIスキル向上を促進することが可能です。
また、AIスキルが高い社員に対しては、より高い報酬やインセンティブを提供することで、モチベーションを高める効果もあるでしょう。
AIによる人材評価については以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
AI人材を育成するにはセミナーが効果的
社内でのAI人材育成が難しい場合は、AIに関するセミナーを活用することで、効率的に人材育成を進めることができます。セミナーはAIに関する知識だけでなく、実践的なノウハウも体系化されているため、効率的に学習を進めることができるでしょう。
以下で、AI人材を育成するためのおすすめのセミナーをご紹介します。
AIエンジニア育成講座
AI研究所のAIエンジニア育成講座は、実践的なスキルを身につけることを目的とした講座です。3日間の短期集中で、未経験の方でもAIの基礎からPythonプログラミングや応用までを習得できます。
会場での受講はもちろん、オンライン受講やeラーニングから選べるため、忙しい社会人でも無理なく受講できるでしょう。
ビジネス向けAI完全攻略セミナー
AI研究所が開催するビジネス向けAI完全攻略セミナーは、AIの知識が全くない方でも、1日でビジネスに活かせるAIの基礎知識と実践的なスキルを習得できるセミナーです。実務で使えるAIの知識と活用術に特化しており、受講後はすぐにビジネスに活かすことができます。
会場受講のほか、オンライン受講も可能で、場所を選ばずに学習できるため、自身のニーズに合わせて受講できます。
AIチャットボット入門セミナー
AI研究所のAIチャットボット入門セミナーは、AIの応用として注目されているチャットボットについて、基礎から実践までを1日で習得できる講座です。チャットボットの基礎はもちろん、ビジネスでの活用事例やチャットボットの作成を学ぶことができます。
eラーニングで受講できるため、いつでもどこでも自身のペースで学習できます。
海外に遅れているAI化を加速させよう!
今回は海外のAI利用率や海外のAI導入事例をご紹介しました。日本のAI化が海外に遅れているという現状を打破し、AI先進国へと大きく踏み出すために、以下のような様々な取り組みが求められています。
- システムのオープン化やクラウド化を進める
- デジタルインフラを整備する
- 自社でAI人材を育成する
しかし、海外と比べ、企業文化が根強い日本ではいきなり全ての業務をデジタル化することは現実的ではありません。まずは、一部の業務からAIを導入し、段階的にAI化を進めることが重要です。
まずは、社内のAI化に関する意識調査を実施し、具体的なロードマップを作成した上で、自社に合ったAI化の戦略を立てて、スムーズなAI化を進めましょう。