「DX」や「リスキリング」という言葉をよく聞くようになったものの、実際に公道仕様となると、何を学びどう取り組めばいいのか、わからない方は多いと思います。とくにリカレント教育やアンラーニングとの違いも曖昧なままでは、行動に移すのも二の足を踏んでしまうものです。
本記事では、DX時代に求められるリスキリングの本質をやさしくひもときながら、DX人材を目指すうえで必要な知識や支援制度について丁寧に紹介していきます。
DX時代に欠かせないリスキリングとは
デジタル技術の進化が加速する中、企業や個人にとって「リスキリング」は避けて通れない取り組みとなっています。これまでの経験や知識だけでは通用しなくなり、新たなスキルや思考法を習得する必要が出てきているのです。
とくにDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める企業にとっては、業務の効率化や競争力の向上のために、社員が時代に合った能力を身につけることが不可欠です。リスキリングは単なるスキルの上乗せではなく、既存業務の見直しや役割の再定義にもつながるため、個人にも組織にも大きな影響をもたらすでしょう。
リカレント・アンラーニング・OJTとの違い
リスキリングに関連する言葉として、
- リカレント
- アンラーニング
- OJT
があります。それぞれの違いを一覧にすると、次のようになります。
種類 | 概要 | 特徴・目的 | 前提 |
リスキリング | 業務や役割の変化に対応するために新たなスキルを習得すること | 職業能力の更新・再構築 | 実務変化への対応を前提とする |
リカレント教育 | 働きながら学び直すこと(学習と就労を繰り返す生涯学習) | 知識・教養の再取得 | 自発的・体系的な学び直しが中心 |
アンラーニング | 古い価値観や知識を意識的に手放し、新しい知識体系を受け入れること | 柔軟な思考・行動の獲得 | 意識改革が前提となる |
OJT | 実際の業務を通して上司や先輩が仕事を教える手法 | 実践的スキルの定着 | 日常業務に組み込まれており即効性が高い |
いずれもすべて「学ぶこと」の手段や考え方ということに変わりはないですが、目的に違いがあります。リスキリングは業務の変化に対応するための「必要に迫られた学習」であり、リカレント教育のように自己成長や教養のための学びとは性質が異なります。
また、アンラーニングは「学び直す前に捨てる」という考え方が軸になり、OJTは現場の実務に根差したトレーニングのことを指しています。リカレント教育について詳しく知りたい方は、以下を参考にしてください。
DXリテラシーとは
DXリテラシーとは、デジタル技術を単に使いこなす力だけでなく、それを活用して業務や組織、ビジネスそのものを変革していくための「考え方」や「判断力」を含む能力のことを指します。たとえばAIやIoTなどのテクノロジーの概要を理解する力に加え、「業務のどの部分にそれを適用すれば効果的か」を見極める視点なども求められます。
「プログラミングのような専門的なスキルが必須」というわめではありませんが、デジタル技術の特性やリスクを理解し、主体的に活用できる素養があることが大切ということです。現場の業務改善だけでなく、組織全体のDX推進にも関与できる人材になるためには、このDXリテラシーを身につけておくことが大きな武器になるのです。
DXとリスキリングの関係
両者の関係性でいうと、「リスキリングはDXの成功を左右する重要な要素」と考えるのがいいでしょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なるデジタル化ではなく、ビジネスモデルそのものを変革していく取り組みのことです。その変革を実現するには、従業員一人ひとりが新しい技術や思考法を身につける必要があります。
ここで重要になるのが「リスキリング」です。単にデジタルツールを使えるようになるだけでなく、従来の業務プロセスを見直し、データを活用して意思決定を行う力なども求められます。
つまり、リスキリングはDXの成功を左右する土台ともいえる存在なのです。企業がDXを推進するには、経営戦略と並行して人材育成の設計を行うことが不可欠なので、その手段として計画的なリスキリングの導入が求められるといった関係性になります。
DXリスキリングが注目される理由
DXリスキリングが注目されるのは、DXの成否を決めるのが「技術」ではなく「人」、という考え方が浸透してきているからです。どんなに高性能なツールを導入しても、それを使いこなせる人材がいなければ、変革は進みません。
たとえば製造業でIoTを導入しても、現場の社員がデータを分析・活用できなければ意味がありません。また営業職がSFAを導入しても、業務の進め方が変わらなければ効果は限定されてしまいます。
だからこそ業務そのものの理解がある現場の人材に、新たなスキルを付加するリスキリングが求められます。「単に外部のDX人材を雇うより、社内の人材を育てる方が現実的で効果的」ということに、企業が気づき始めているのです。
日本でDX化が進まない3つのワケ
日本でDXが進まないのは、大きく以下3つの理由があるとされています。
- デジタル人材が圧倒的に不足しているから
- 古い組織文化や業務慣習が壁となっているから
- DXは成果がすぐに見えづらいから
まず国内は世界的に見ても、デジタル人材が圧倒的に不足しています。既存社員にDXを担わせようにも、教育の機会が足りていません。また、古い組織文化や業務慣習が壁になっているのも、DXが進まない理由のひとつ。たとえば紙の書類やハンコ文化などが残っている現場はまだまだ多いですが、こういった企業はツール導入すら難しいのが現実です。
そして3つ目の理由は、成果がすぐに見えづらいこと。現代は短期的な費用対効果だけでものごとの良し悪しが判断されがちで、逆に中長期の投資が敬遠されがちです。このように、日本企業では人・文化・評価の3点でDX推進がつまずいているといっていいでしょう。
DXリスキリングするメリット・デメリット
ここまで「DXリスキリングは非常にいいこと」「ぜひやるべきこと」のような書き方をしましたが、やはり良し悪しは存在します。この章では、DXリスキリングを実施するメリットとデメリットをそれぞれ解説していきます。
DXリスキリングするメリット
DXリスキリングを実施するメリットは、主に以下です。
- 人手不足の解消につながる
- 従業員のやりがいと満足度につながる
- 既存業務がより生産的になる
DXリスキリングには、多くの企業が抱える人材課題を解決する可能性があります。たとえば、限られた人材をデジタル活用できるように育てれば、新たに採用せずとも業務を回せるようになります。
また従業員自身が新しいスキルを得ることで、「今の会社で活躍できる実感」が生まれ、やりがいや定着率の向上にもつながるでしょう。さらに、現場を理解している人がスキルアップすることで業務改善の着眼点も鋭くなり、生産性の向上が見込めます。
つまり、リスキリングは企業全体の底上げにも直結する投資だといえるでしょう。
DXリスキリングするデメリット
DXリスキリングを行うことには、主に以下のようなデメリットもあります。
- 実務への影響が出るリスクがある
- 従業員がストレスを抱える可能性がある
- 費用が大きい
たとえば、研修時間の確保によって現場の人手が一時的に足りなくなると、日常業務に支障が出る可能性があります。また、年齢層の高い社員などにとっては、急な技術学習に強いプレッシャーやストレスを感じることもあるでしょう。
さらに社内で講師を用意できない場合は、どうしても外部研修やeラーニングの導入費用がかさんでしまいます。
リスキリングやDXで使える補助金・助成金
リスキリングやDXで使える補助金・助成金には、主に以下のようなものがあります。
区分 | 名称 | 補助対象 | 概要 |
補助金 | IT導入補助金 | ITツールや業務用ハードウェア導入 | クラウドソフト導入支援。 上限450万円、補助率1/2~4/5 |
小規模事業者持続化補助金 | 販路開拓・業務効率化 | ウェブ制作も対象。 上限200万円、補助率2/3~3/4 | |
中小企業省力化投資補助金 | IoT、AI、ロボットなどの導入 | カタログ型で大規模投資に対応。 上限1億円、補助率1/2 | |
ものづくり補助金 | 設備投資・生産プロセス改善 | 革新的製品制作を支援。 上限2500万円、補助率1/2~2/3 | |
事業承継・M&A補助金 | 承継・M&A関連に付随する経費 | M&A後の統合支援含む 上限1000万円、補助率1/2~2/3 | |
助成金 | 人材育成支援コース | AI・IT等のOFF-JT/OJT | 経費助成率45%~75% 上限1000万円/年・1事業所 |
教育訓練休暇等付与コース | 有給の研修休暇を取得して学習 | 最大1600時間、賃金1000円/時を支給 | |
人への投資促進コース | 高度デジタル訓練・定額制等 | 経費助成75%・賃金1000円/時 条件で15%増 | |
リスキリング支援コース | 事業再構築に伴うスキル習得 | 経費助成75%・賃金1000円/時 研修時間により上限30~50万円 |
リスキリングやDX推進に活用できる補助金・助成金には、経済産業省と厚生労働省が提供する制度があります。
たとえばIT導入補助金やものづくり補助金では、クラウドツールや設備投資に対して手厚い支援が受けられます。また人材育成支援コースやリスキリング支援コースなどでは、AI・IT研修の実施に対して経費や賃金補助も可能です。
制度をうまく活用することで、費用負担を抑えつつ効率的に人材育成を行うことが可能になるでしょう。なお、補助金や助成金については、以下の記事も参考になるので、ぜひご一読ください。
リスキリングでDX人材育成するなら
DX人材を育てるためには、単なる知識の詰め込みではなく、業務に即したスキルの習得が欠かせないもの。
とはいえ、社員一人ひとりの習熟度や業務領域が異なる中で、社内だけで最適な育成プランを組み立てるのは決して簡単ではありません。独自に研修を設計しても、全員の理解度や実践力にバラつきが出てしまうケースも多いでしょう。
そうした課題に対して、今さまざまな企業から注目されているのが、DX・AI人材育成研修サービスです。
DX・AI人材育成研修サービスは、まず貴社のDXスキルレベルを可視化することからスタート。その上で、部門や役職ごとの課題に合わせた研修カリキュラムを提案するので、短期集中型から中長期型まで柔軟に対応しています。
現場課題に即したハンズオン研修やワークショップを通じて、実践力あるDX・AI人材を育てる仕組みが定評を集めており、製造業や建設業など専門性の高い多くの業界で数々の実績があります。資料ダウンロードやお問い合わせはいつでも可能、導入実績や他社事例を交えたご提案も行っておりますので、ぜひこの機会にご検討ください。
DXとリスキリングについてまとめ
DXを成功させるには、ツールや技術だけでなく、それを使いこなせる「人」の育成が欠かせません。その中核を担うのがリスキリングです。従業員が時代に合ったスキルや考え方を身につけることで、業務効率や生産性の向上はもちろん、組織の競争力も高まります。
補助金制度を活用すれば、育成コストの大きな負担軽減も実現することが可能です。今後のDX推進を見据えるなら、戦略的な人材育成の一手として、リスキリングは避けて通れない選択肢といえるでしょう。
