「業務のデジタル化を進めたいけれど、費用が高く踏み出せない」と悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
近年、国や自治体は中小企業のDX推進を支援するため、さまざまな助成金・補助金制度を拡充しています。業務効率化のためのITツール導入やクラウドサービスの活用、新たなビジネスモデルへの転換など、活用できる支援策はさまざまです。
そこで本記事では、2025年時点でDXに活用できる主な助成金・補助金制度を一覧で紹介するとともに、申請金額を上げるためのコツも詳しく解説します。
DXで活用できる助成金・補助金一覧
まずはDXで活用できる助成金や補助金について一覧で紹介します。以下の表を参照ください。
制度名 | 主な内容 | 上限額 | 特徴 |
①中小企業省力化投資補助金 | AI、IoT、ロボット等の導入による省力化投資を支援 | 750万円 | 大規模投資やカタログ型導入も可能 |
②キャリアアップ助成金 | DX人材の正社員化や処遇改善を支援 | 80万円 ※コースにより異なる | 雇用保険適用事業所が対象 |
③人材確保等支援助成金 | DX推進の一環としてのテレワーク導入等を支援 | 対象経費の50% | 雇用保険適用事業所かつ中小企業が対象 |
④サイバーセキュリティ対策促進助成金 | DX推進に必須のセキュリティ対策設備導入を支援 | 50万円 | DXのセキュリティ強化に活用 |
⑤人材開発支援助成金 | DX人材育成やリスキリングを支援 |
| 新規事業や新分野での人材育成にも対応 |
⑥IT導入補助金 | DX推進のためのITツールや業務用ハードウェアの導入を支援 | 150万円 | クラウドソフトや受発注システム、POSなど幅広く対象 |
⑦ものづくり補助金 | 生産性向上のための設備投資や生産プロセス改善を支援 | 4,000万円 | ロボットやAI、システム構築などDX投資に活用 |
⑧小規模事業者持続化補助金 | 業務効率化や販路開拓などDXを通じた経営改善を支援 | 250万円 | ウェブサイト制作や業務システム導入も対象 |
⑨事業再構築補助金 | DXによる業務改革や事業転換、事業再構築を支援 |
| 大規模な事業転換や新規事業にも対応 |
こちらはあくまでも政府が支給している助成金・補助金の一覧です。都道府県や市町村でも、DX推進を目的とした独自の補助金・助成金を設けている場合があります。
自社の課題や目的に合わせて最適な制度を選び、申請要件や補助対象経費をよく確認しましょう。
以下の記事でも助成金や補助金について解説していますので、あわせてご覧ください。
DXにおける助成金と補助金の違い
先ほど一覧で「助成金」と「補助金」を紹介しましたが、仕組みや目的に違いがあります。まずは以下の表を参照ください。
項目 | 助成金 | 補助金 |
支給主体 | 主に厚生労働省 | 主に経済産業省・中小企業庁 |
仕組み | 条件を満たせば基本的に支給 | 審査・選考により採択された場合のみ支給 |
対象の取組 |
|
|
対象の経費 | 人件費や研修費など | システム導入費、外注費、機器購入費など |
申請期間 | 通年受付が多い | 年に数回の公募期間のみ |
対象企業の例 | 雇用保険適用の中小企業など | 新規事業や設備投資を行う中小企業 |
「助成金」は、要件を満たせば基本的に支給される制度で、たとえば「雇用保険に加入している」「従業員に研修を受けさせる」など、あらかじめ決められた条件をクリアすれば受け取れる可能性が高いのが特徴です。
一方で「補助金」は、事業計画や内容が審査され、競争のうえで採択される制度です。たとえばDXを目的としたITツール導入補助などがあり、提出書類の質や計画の具体性が重要になります。
DXの助成金・補助金の申請方法
DXの助成金・補助金の申請方法を5つのステップで解説します。
- 計画を立案する
- 補助金を選定する
- 必要書類の準備を実施
- 申請・審査を受ける
- 実績報告・補助金請求をする
①計画を立案する
DX補助金・助成金の申請において最初に行うべきは、自社にとって必要なデジタル化の方向性や目的を明確にした計画の立案です。単に「ITツールを導入したい」というだけでは採択されることは難しく、なぜその投資が必要なのか、何を改善し、どのような効果が期待できるのかを説明できなければいけません。
特に補助金の場合は審査があるため、以下3つを意識して計画を構築しましょう。
- 実現可能性
- 費用対効果
- 成長性
たとえば、業務の非効率や属人化など、現状の課題を洗い出し、それに対してどのようなデジタル技術を導入するか、いつ・どの部署で・誰が中心となって実行するかなど、具体的な工程や目標を数値で表現すると審査に通りやすくなります。
②補助金を選定する
計画を立てたら適した補助金や助成金の制度を選びます。DX関連の支援制度は国・自治体・業界団体などさまざまな主体が提供しており、先述した一覧表でもわかる通り、目的・対象経費・補助率・上限額・申請期間が異なります。
たとえば、ITツール導入が目的であれば「IT導入補助金」、製造現場のスマート化であれば「ものづくり補助金」、事業転換や新分野進出であれば「事業再構築補助金」が候補に。
選定時には「自社の課題や目的に制度が合致しているか」「補助対象経費に無駄がないか」などを確認しましょう。また、同一事業で他の補助金と併用できない場合もあるため、制度の重複や条件を確認することが重要です。
③必要書類を揃える
助成金・補助金の申請では、必要な書類を正確かつ過不足なく準備する必要があります。制度によって異なりますが、一般的には以下の書類が必要です。
- 事業計画書
- 経費明細
- 見積書
- 会社概要
- 決算書類
- 誓約書
とくに審査がある補助金では、事業計画書の完成度が採択を左右します。申請者の熱意や計画の具体性を、数値・図表・スケジュールなどを交えてわかりやすく伝えることが求められます。
なお、不備や記載漏れがあると審査以前に差し戻されることがあるため、チェックリストを活用し、準備を進めましょう。
④申請・審査を受ける
書類が準備できたら、助成金・補助金の申請手続きと審査に進みます。助成金・補助金は「電子申請システム」などオンラインプラットフォームか、直接役所に出向いて申請します。
助成金・補助金の中には数百件以上の応募があるため、極力早めに申請をするのがおすすめ。補助金の評価ポイントは以下の通りです。
- 課題の明確性
- DXの波及効果
- 費用の妥当性
- 実現可能性
上記は、事業計画や収支計画が明確で現実的かどうかが重要な審査基準となります。「補助金ありきの計画」ではなく、補助金がなくてもある程度自走できる実行力があるかを示すと信頼性が高まります。
⑤実績報告・補助金請求をする
採択されて事業を実行した後は、「実績報告」と「補助金の請求」を行います。実際に計画通りの経費を使ってDXを進めたことを証明し、補助金を受け取るための手続きです。
納品書・領収書・振込記録などの「支払い証明資料」に加え、完了報告書などを提出しなければなりません。報告内容が不十分だったり、当初の申請内容と大きく乖離していたりすると、補助金が減額されたり、最悪の場合は支給されないことも。
また、事業によっては報告後も1~5年間の「事後報告」や「効果測定」が求められる場合もあり、補助金受給後も記録管理が必要です。
DXの助成金・補助金の申請金額を上げるコツ
DXの助成金・補助金の申請金額を上げる3つのコツについて解説します。
- 業務全体の課題と改善効果を明確に記載する
- 投資計画・返済プランを詳細にする
- 自社だけでなく地域や業界全体への波及効果をアピール
①業務全体の課題と改善効果を明確に記載する
申請金額を上げるためには、単に「デジタルツールを導入したい」と書くのではなく、自社が現在抱えている業務上の課題を全体的に把握し、どのような効果が期待できるのかを定量的・論理的に説明することが重要です。
たとえば「月に40時間かかっている紙での受発注作業を、クラウドツール導入により10時間に短縮し、年間360時間の労働コストを削減できる」といった、ビフォー・アフターの具体的な業務改善効果を提示することで、補助対象として明確に伝えることができます。
②投資計画・返済プランは詳細に書く
助成金・補助金は「その投資が将来的にどれだけの成果を生み出すか」「持続可能な経営に結びつくか」といった視点で評価を行います。
そのため、設備投資やIT導入にかかる費用を羅列するのではなく、それぞれの投資が何の目的で必要か、いつ、どのように回収するのかという中長期的な計画や収支シミュレーションを提示することが金額アップには必要です。
たとえば、「初年度に約300万円のツール導入を行い、年間人件費を120万円削減、営業利益の改善を見込む。3年で投資回収可能」といった数字ベースのシナリオがあると、信頼性が向上します。
また、補助金を活用した場合としない場合の比較を示すことができれば、なぜ必要なのかという説得力が生まれ、申請金額の増加につながりやすくなるでしょう。
③自社だけでなく地域や業界全体への波及効果をアピール
助成金・補助金の多くは、単に「企業の業績向上」だけでなく、地域経済の活性化や業界全体のデジタル化促進といった波及効果を評価軸として設けています。そのため、申請書では「このDX投資が自社だけでなく、どのように地域や業界全体に貢献するか」を具体的に示すことで、申請できる額を上げられます。
特に、地方自治体の助成金・補助金は「地域との連携」や「地域雇用創出」などが重視される傾向があるため、補助金の目的と合致した波及効果をアピールすることが、申請金額を最大化するうえで有効です。
DXの助成金・補助金を活用した事例
ここでは厚生労働省が公表している助成金・補助金を活用した事例を3つ紹介します。
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 高度デジタル人材育成訓練
- 情報技術分野認定実習併用職業訓練
①事業展開等リスキリング支援コース
1つ目の事例は、株式会社Hが自社のデジタル化に向けて、まず全従業員の「ITリテラシー」や「デジタルリテラシー」を高めるための基礎研修をサブスクリプション型で導入。
全社員を一度に集めるのが難しいという事情から、定額制の年間契約形式を選択します。1年分の研修費150,000円に対して、経費助成として75%(112,500円)の助成金を受給しています。集合研修が難しい場合でも、サブスク型やeラーニングなど柔軟な学習方法でも補助対象になる点が特徴です。
引用:厚生労働省
②高度デジタル人材育成訓練
この事例では、システム開発や運用保守に対応できるリーダー人材を育成するために、情報処理安全確保支援士の講座および試験費用、さらにOff-JT中の賃金を補助対象としたものです。
合計130,500円の費用に対して、経費助成80,600円+賃金助成22,000円=合計102,600円の補助を受けています。講座と資格取得の両方が対象となることに加え、Off-JT時間に対する賃金も補助されるため、より実践的な人材育成を目指す企業に適した制度です。
特に「セキュリティ」や「開発部門の中核人材」の育成を計画する企業にとっては、費用負担を抑えながら高度な人材を育てる例と言えるでしょう。
引用:厚生労働省
③情報技術分野認定実習併用職業訓練
最後の事例は、IT分野未経験の新入社員などを対象に、OFF-JTとOJTを組み合わせて教育する企業向けの支援です。人材不足を背景にIT未経験者を採用し、プログラミング講座(700,000円)、800時間のOFF-JT(800,000円)、200時間のOJTを組み合わせ、総額1,500,000円+OJT分で育成を実施。
これに対し、経費助成420,000円、賃金助成600,000円、OJT助成200,000円(定額)の合計1,220,000円の助成金を受給しました。未経験者育成にかかるコストを軽減できるこの制度は、IT人材の確保が難しい企業にとっておすすめの支援策です。
引用:厚生労働省
助成金でDX・AI人材育成研修サービスをお得に受講
助成金・補助金を活用して人材育成を考えている企業におすすめなのが「DX・AI人材育成研修サービス」です。
貴社のDXレベルを可視化する診断から始まり、短期集中型から中長期の育成プランまで、実務と両立できるカリキュラムを提供します。未経験からDXマスターまでの育成を段階的に支援し、10,000社以上が導入した実績と、製造業・建築業に精通したコンサルタントによる専門的サポートで、実践力のある人材育成を実現。
DXリスキリングや助成金の活用も無料で相談できますので、ぜひチェックしてみてください。
DXの助成金・補助金についてのまとめ
DXを推進するうえでかかる費用は、国や自治体が提供する助成金・補助金制度を活用することで抑えることが可能です。
DXは、ツール導入だけでなく「人材育成」や「業務改革」も含めた全体最適をどう設計できるかが重要です。補助制度を単なる資金調達手段として見るのではなく、DX推進計画の一部として位置づけ、前向きに活用していきましょう。
本記事を参考に助成金・補助金を申請してみてください。
