東北電力は、生成AIの開発や利用に不可欠なGPUをクラウド経由で提供する新たなサービスを開始すると発表し、コンテナ型のデータセンターを通じて提供され、2025年3月までのサービス開始を目指しています。
同社は、コンテナ型データセンターの設計とGPUクラウドサービスに関する豊富な経験を持つゲットワークス及びコンテナ型データセンターの運用・保守分野で高い技術力を持つGXテクノロジーとの業務提携を締結し、電気やエネルギーに関する深い知見を提供し、共同でサービス開発を進めていきます。
生成AIは大量のデータを処理し、複雑なモデルを学習するため、膨大な計算量を必要とします。GPUの並列処理能力を活用することで、より複雑なモデルを学習させることができ、生成AIの表現力や汎用性を高めることができるのです。
今回は、生成AIを開発する際のGPUの選び方や構築する際のステップを解説します。
GPUとは
GPUは、Graphics Processing Unitの略で、パソコンの画像処理を専門に行うパーツです。複雑な計算を高速に処理できるため、ゲームや動画編集など、画像処理を多く必要とする作業で威力を発揮し、近年では、人工知能の学習など、画像処理以外の分野でも活用が広がっています。
また、パソコンの処理装置には、GPU以外にもCPUというパーツがあります。CPUとGPUは得意な処理が異なるため、役割分担することでコンピューターの性能を最大限に引き出すことができるのです。
CPU | 連続的なタスク処理、多様な作業の処理 |
GPU | 大量データの並列処理、画像・映像処理 |
CPUは、Central Processing Unitの略で、コンピューター全体の動作を制御し、様々な計算処理を行います。連続的なタスクを効率よく処理することに優れており、一つ一つの作業を順番に正確に行うことが得意です。
GPUが生成AIに用いられている理由
GPUは元々、グラフィック処理用に設計されたチップですが、その並列処理能力の高さから、ディープラーニングをはじめとするAI処理に広く活用されています。
AIモデルの学習や推論においては、膨大な数の数値計算を高速に行う必要があります。GPUは、この大量の計算を並列処理することで、CPUに比べて大幅に処理時間を短縮できるのです。
生成AI、特にディープラーニングと呼ばれる技術においても膨大な量のデータに対して複雑な計算を繰り返す必要があります。
例えば、画像認識AIを開発する場合は、数百万枚もの画像を学習させ、特徴を抽出する必要がありますが、大規模な計算を短時間で実行するためには、GPUの並列処理能力が不可欠なのです。
一方、一般的なWebシステム開発では、生成AIのような大規模な計算は必要ないため、GPUのような高性能なハードウェアは必ずしも必要とされません。
生成AIを開発する際のGPUの選び方
生成AIの開発において、膨大なデータを高速に処理し、複雑なモデルを学習させるためには、適切なGPUを選ぶ必要があります。
以下では、AI開発に最適なGPUを選ぶためのポイントをご紹介します。GPU選びに迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
コストで選ぶ
GPUの導入には高額な初期費用がかかるだけでなく、オンプレミス環境で利用する場合には、GPUサーバーの設置や冷却システムの構築など、追加的なコストも発生します。
そのため、GPUの導入を検討する際には、必ずコストパフォーマンスを考慮する必要があります。近年では、クラウド環境上でGPUを利用できるサービスが普及しており、初期費用を抑えて高性能なGPUを利用できるようになりました。
クラウドGPUは、必要な時に必要なだけのGPUリソースをオンデマンドで利用できるため、コスト効率が良く、スモールスタートにも適しています。
生成AIの開発において、GPUの選択はモデルの精度と開発コストに大きく影響するため、GPUの種類や性能、クラウドサービスの料金体系などを比較検討し、自社の予算や目的に合った最適なGPUを選ぶことが重要です。
オンプレミス環境やクラウド環境については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
コア数で選ぶ
コアとは、CPUやGPU内部にある演算回路のことで、装置の中核を担う部品です。コア数が多いほど、一度に多くの計算を並行して処理できるため、処理効率が大幅に向上します。
一般的に、CPUは数個のコアしか備えていませんが、GPUは数千個ものコアを備えていることが特徴です。
GPUの性能を測る指標として、特に「CUDAコア」と「Tensorコア」が注目されており、それぞれ異なる特徴を持っています。
CUDAコア | Tensorコア | |
特徴 | 従来のグラフィックス処理に特化 | 行列計算に特化 |
強み | 高画質な映像処理に最適 | 大量のデータの高速処理に最適 |
GPUの選択は、生成AIの規模や目的によって最適なものが異なるため、コア数や搭載されているコアの種類に加えて、メモリ容量や消費電力なども考慮する必要があります。
メモリの容量と帯域で選ぶ
メモリ容量は、AIモデルが作業するための作業スペースのようなもので、大規模なAIモデルを扱う場合は、より多くのメモリ容量が必要となります。
一般的に、ゲーミング用途のGPUでは2GBから24GB程度のメモリ容量が一般的ですが、生成AI開発においては、40GBや80GBといった大容量のメモリを搭載したGPUが求められます。
一方、メモリ帯域はGPUとメモリ間のデータ転送速度を示す指標で、メモリ帯域が広いほどGPUとメモリ間のデータのやり取りがスムーズに行われ、処理速度が向上します。
生成AIの開発においては、メモリ容量とメモリ帯域の両方を考慮し、大規模なAIモデルを高速に処理するためには、十分なメモリ容量と高いメモリ帯域を備えたGPUを選ぶようにしましょう。
冷却装置機能があるかどうかで選ぶ
GPUは高度な並列処理能力を活かして、複雑なAIモデルの学習や推論を高速処理するため、どうしても熱を発してしまいます。
まるでエンジンが稼働しているかのように、内部が高温になるため、高性能なGPUを搭載したマシンには、強力な冷却装置が必須となります。
冷却が不十分な場合はGPUの性能が低下し、最悪の場合、故障の原因となってしまうこともあるでしょう。
GPUの種類や処理方法によって、最適な冷却方法も異なるため、生成AIを活用する際には、GPUの性能だけでなく、冷却システムについても十分に考慮することが重要です。
適切な冷却装置を選ぶことで、GPUの寿命を延ばしつつ、最大限の性能を引き出すことができるでしょう。
GPUを用いた生成AIを構築する6ステップ
以下では、AIシステム構築の一般的な手順を解説し、GPUを用いた実践的な方法をご紹介します。
AIを作るときにおすすめのツールについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
①AIを使った課題解決の構想をする
AIを活用してどのような課題を解決したいのか、その実現によってどのような効果が期待できるのかを具体的に検討しましょう。
AI開発は、高度な技術力と多額の費用を必要とするため、安易な取り組みは避けなければなりません。AIの導入によって解決できる課題を明確化し、その課題解決によって得られる利益と、開発に要する費用を比較検討することが重要です。
②学習するデータを収集する
構想が固まったら、学習用のデータ収集とラベル付けと言われるアノテーション作業を行います。大量かつ高品質なデータは、AIモデルの性能を左右する最も重要な要素の一つです。
例えば、画像認識AIを開発する場合、認識対象となる物体や人物が写った画像を大量に集め、一枚一枚に「これは猫」「これは犬」などの正解ラベルを付与する作業が必要です。
これらのアノテーション作業は非常に手間がかかりますが、AIモデルの精度に直結するため、丁寧に実施することが不可欠です。社内リソースで対応が難しい場合は、専門の企業にアウトソーシングすることも検討しましょう。
また、データ収集とアノテーションは、必ずしも開発の初期段階で行う必要はなく、開発側と相談しながら、PoCと並行して進めることも可能です。
構築したいAIによっては、アノテーションが不要なケースもありますので、開発側とよく話し合い、最適なアプローチを選択することが重要です。
③AIで課題解決ができるかPoCを実施する
PoCは、新しいAIモデルのアイデアが実際に実現可能かどうかを検証するための重要なステップです。PoCを実施しGPUを導入することで、AIモデルの開発期間を短縮し、より迅速に概念実証を行うことが可能です。
また、GPUを利用することで、大規模なデータセットを用いた学習やより複雑なモデルの検証も実現できるため、より精度の高いAIモデルの開発にも繋がります。
AI開発では、まず、アイデアを具現化するための仮モデルを開発し、実際にデータを学習させて運用した後、プロトタイプを構築し、当初の計画が実現できるか以下の点を検証します。
- データの量と質
- 処理速度
- 精度
これらの検証を通じて、開発中のAIが当初の構想通りに機能しているかどうかを厳密に評価します。
④最終的なAI開発を行う
PoCでAIモデルの実現可能性が確認されると、次は本番環境に耐えうる最終的なAIモデルの開発へと移行します。
PoCで開発された仮モデルをベースに、本番環境で求められる機能や性能を満たすよう、モデルの設計・開発を進めていきましょう。
具体的には、本番環境に必要な要素を一つ一つ洗い出しながら、AIモデルの最終的な形を決定していきます。この際、単にAIモデルの開発だけでなく、周辺システムとの連携やユーザーが直感的に操作できるようなUIの設計なども考慮する必要があります。
AIモデルが完成したら、いよいよテストに入ります。テストでは、開発したAIモデルが意図したとおりに動作するか、実務で問題なく運用できるかを検証します。
特に、周辺システムとの連携やUIの使いやすさなど、実際の運用を想定したテストを実施することが重要です。
⑤チューニングを行う
AIの開発が完了した後に行われるチューニングは、開発段階で収集したデータに基づき、AIが期待通りの結果を出力できるか、データに不足している部分はないかなどを綿密に検証し、必要に応じてデータやパラメータを調整することです。
AIを実際に運用する環境を想定し、学習とチューニングを繰り返し実施することで、AIの精度を徐々に向上させていきます。
例えば、AIチャットボットの場合、ユーザーからの多様な質問に対して的確かつ迅速に回答できるよう、学習データの拡充や応答ロジックの改善といったチューニングが重要です。
⑥生成AIを業務で運用する
チューニングを終えた段階で、いよいよAIを実際の業務に導入します。AIが従来の業務やサービスを円滑に代替できるかどうかを慎重に検証し、運用中に発生する不具合に対処するための保守作業と同時に、AI開発当初に設定した目標が達成できているかどうかの検証を行います。
この目標達成状況の確認には、PDCAサイクルが効果的に活用されます。PDCAサイクルとは、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)の4つのステップを繰り返すことで、継続的な改善を図る手法です。
まず、AIを実際の業務に導入し、性能や精度、現場からのフィードバックを収集し、データに基づいてAIの性能を評価し、改善すべき点や新たな課題を明確にします。
これらの課題を解決するために、計画的にAIの改修を行い、改修後のAIの性能を再度評価し、改善効果を確認することで、PDCAサイクルが完結します。
このPDCAサイクルを繰り返し実行することで、AIはより高度化し、業務効率の向上や新たな価値の創出に貢献していくことが期待できるでしょう。
GPUを用いた生成AI開発で高性能なモデルを構築しよう
今回は、生成AIを開発する際のGPUの選び方や構築する際のステップを解説しました。GPUは、従来から画像処理に用いられてきた演算装置ですが、その高い処理性能が注目され、AI開発の分野でも不可欠な存在となっています。
特に、ディープラーニングにおいては、GPUの並列処理能力が学習の効率化に大きく貢献しています。AI開発向けのGPUを選ぶ際には、コストも重要ですが、最も重要なのはコアの数と性能です。
コアの数が多いほど、同時に処理できる情報量が増え、コアの性能も学習の精度に影響を与えます。
また、AI開発のためのGPUインフラを構築したいと考えている方は、ProSkilllが提供している「AWSで始めるインフラ構築基礎セミナー」がおすすめです。
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AWSは、GPUインスタンスを簡単に利用できるため、AI開発の環境を迅速に構築することができるでしょう。
