近年、都道府県が中心となり、市区町村が共同でデジタルツールを調達する動きが活発化しています。
特に東京都では、都が全額出資する自治体DX推進組織が牽引し、この取り組みを積極的に推進しており、専門知識や人材が不足しがちな基礎自治体に対して、DXの実現を強力にサポートしています。
また、共同調達によって、調達費を大幅に削減できるだけでなく、複数の自治体で共通のツールを利用することで、情報連携の効率化や行政サービスの質向上にも繋がることが期待されています。
東京都の事例は、専門人材の不足や財政的な制約を抱える多くの自治体にとって、DX推進の新たなモデルとなる可能性を秘めているのです。
今回は、自治体DXを成功させるためのポイントや具体的な施策例を解説します。
自治体DXとは
自治体DXとは、地方自治体がITやAIなどの最新技術を導入し、行政サービスの質向上や業務効率化を図る取り組みです。
住民にとっては、より便利で迅速な行政サービスが受けられるようになり、自治体にとっては、限られた資源を有効活用し、より質の高いサービスを提供できるようになるでしょう。
総務省は、政府として目指すデジタル社会の実現に向けて、自治体DXを重要な取り組みとして位置づけており、住民の利便性向上、業務効率化、データの活用による行政の高度化、民間との連携による新たな価値創出などを目指しています。
さらに、情報処理や通信技術の発展により、自治体業務におけるペーパーレス化やクラウドサービスの利用が容易になり、自治体DXの取り組みは加速しています。
自治体DXがもたらす利点
自治体DXを推進することで、行政サービスは以下のような利点を得られます。
- 業務効率化に繋がる
- 住民の利便性が向上する
- 地域経済の活性化が期待できる
- 個人のプライバシー保護を確保できる
- 環境問題に対する取り組みができる
それぞれの項目を具体的に見ていきましょう。
業務効率化に繋がる
手続き情報のデータ化は、役所内の情報共有を円滑にし、業務効率化を促進します。また、申請書受付や処理の自動化により、人的ミスを減らし、業務の正確性を高めることができるでしょう。
さらに、職員の意識改革とスキルアップを推進することで、自治体全体のデジタル化が加速します。
職員がデジタルツールに慣れ、データ分析能力を身につけることで、より高度な行政サービスの提供が可能です。
オンライン化が進むことで、窓口業務は大幅に減少するため、少子高齢化が進む中で、少ない人員で効率的な行政運営を実現することができます。
住民の利便性が向上する
行政手続きのオンライン化により、住民は役所を訪れることなく、いつでもどこでも申請や手続きを行うことができるようになります。
また、スマートフォンやIoTを活用することで、地域の最新情報や必要なサービスをリアルタイムで入手できるようになり、生活がより便利になるでしょう。
さらに、オンラインでの意見交換や参加機会の拡大は、住民の声を行政に直接届けることを可能にし、より住みやすい地域づくりに繋がります。
これらの取り組みは、時間や場所の制約から解放され、住民が行政サービスをより身近に感じられる環境を創出します。
地域経済の活性化が期待できる
行政サービスや業務のデジタル化は、住民の日常生活にデジタル技術を根付かせるため、中小企業や農業、漁業など、地域を支える様々な産業が自然とDXに取り組みやすくなります。
自治体がデジタル化の先頭を走ることで、地域全体でデジタル技術への理解と活用が促進されるのです。
さらに、情報公開ポータルサイトの充実や行政情報の共有化は、行政の透明性を高め、住民からの信頼を獲得することに繋がります。住民は、自治体の取り組みをより深く理解し、行政への関心を高めることができるでしょう。
地方自治体のDX化は、地域住民の生活を便利にし、地域企業の競争力を高め、地域経済全体の活性化が期待できるのです。
個人のプライバシー保護を確保できる
紙媒体で保管されていた個人情報をデジタル化することで、手続きや申請がオンライン化され、申請書類の紛失や誤配送などのリスクを大幅に軽減することができます。
また、自治体が保有する個人情報を厳重に管理することで、個人情報漏えいによるトラブルを未然に防ぎ、市民のプライバシー保護を確保し、行政に対する信頼を高めることに繋がります。
ただし、デジタルデータの取り扱いには高度なセキュリティ対策が不可欠です。情報漏えいのリスクは、デジタル化によるメリットと表裏一体の存在であり、その対策を怠れば、個人情報保護の観点から大きな問題に発展する可能性があるでしょう。
環境問題に対する取り組みができる
デジタル化は、私たちの生活や社会構造を根本から変えつつありますが、その中でも特に注目すべきは、デジタル化が環境問題解決に貢献する側面です。
従来、行政手続きや申請書類などは紙媒体で行われ、膨大な量の紙資源が消費されてきましたが、これらの手続きをオンライン化することで、紙の使用量を大幅に削減し、結果として廃棄物量も減少させることができます。
また、クラウドサービスやAIの導入は、サーバーの稼働効率を最大化し、消費電力を最適化することで、ITインフラによる環境負荷を軽減することが可能です。
さらに、リモートワークやテレワークの普及は通勤や出張に伴う交通量を減らし、CO2排出量の削減に繋がるため、都市部の交通渋滞緩和や大気汚染の改善も期待できます。
このように、デジタル化は紙資源の節約やエネルギー消費の効率化、交通量の削減などの環境負荷を軽減し、環境問題への取り組みにおいて、もはや避けて通ることのできない重要な要素となっていると言えるでしょう。
自治体DXが進まない理由
上述したように自治体DXのメリットを認識しているにもかかわらず、実際にDXを推進できない自治体が数多く存在するという現状があります。以下で詳しく解説します。
DX人材が不足している
自治体DXの推進には、専門的なスキルを持った人材が不可欠なものの、こうした人材は都市部ですら十分に確保できていない現状です。
労働人口自体が少ない地方においては、こうした人材の獲得はさらに困難であり、これが地方におけるDXの進展を阻む大きな要因の一つとなっています。
アナログな業務が多い
地方自治体では、デジタル化の必要性が従来から十分に認識されていなかったという背景があります。
その結果、紙ベースの書類による手作業を中心としたアナログな業務が現在も広く行われており、業務効率化が進んでいません。
この状況は、職員の業務負担を大きく増大させ、新たな事業やサービスの創出などの変革を阻む要因となっているのです。
DX化の重要性が把握できていない
地方自治体は、都市部に比べて情報量が少ないという状況にあるため、デジタル化やDXの重要性について、十分に議論されていないのが現状です。
加えて、地方では第一次産業に従事する人が多く、デジタル機器に触れる機会が少ないという特徴があり、高齢化が進んでいることもDXの推進を阻む要因の一つとして挙げられます。
これらの要因が複合的に作用し、地方における自治体DX化が遅れていると考えられます。
自治体DXを成功させるためのポイント
住民サービスの向上や行政の効率化、地域全体の活性化など、自治体DXがもたらす効果は多岐にわたります。しかし、成功事例もあれば、課題を抱える事例もあり、その道のりは決して平坦ではありません。
以下で、自治体DXを成功させるための具体的なポイントをご紹介します。
自治体DX推進計画を指針にする
自治体DX推進計画とは、総務省が自治体のデジタル化を後押しするために作った計画書です。
この計画書には、自治体がどのようなデジタル化を進めれば良いのか、具体的な目標や取り組み方が書かれており、自治体がより効率的に住民サービスを提供できるようにするための道しるべのようなものです。
政府の動向を注視しつつ、ガバメントクラウドを活用することで、住民が時間や場所に縛られず、行政サービスを円滑に利用できる環境が作れるでしょう。
参考：自治体DX推進計画
段階的に進めていく
自治体DX推進計画の内容を理解できたところで、自治体DXを効果的に推進するためには、以下のような段階的なステップを順次踏んでいくことが重要です。
| 1 | DXについての知識を深める |
| 2 | 具体的な推進方針を定める |
| 3 | 推進体制を整える |
| 4 | 自治体DXを実施する |
各ステップにおいて、計画に沿った具体的なアクションを実行することで、自治体DXを円滑に進めることができます。
以下で、各ステップについて詳しく見ていきましょう。
自治体におけるAI導入については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
①DXについての知識を深める
DX推進を成功させるためには、まず、DXがどのような取り組みであるかを深く理解することが重要です。
特に、推進の初期段階においては、担当者や責任者が習得した知識をもとに、会議などを通じて職員全体へDXの取り組みについて情報を共有することで、組織全体の共通認識が図られ、実際の推進段階においてスムーズな進捗が期待できます。
また、DXに関する知識を深めることは、DXを推進すべきかどうかを判断するための重要な要素でもあります。
組織にとってDXが本当に必要かどうかを慎重に検討し、適切な判断を下すことが求められます。
②具体的な推進方針を定める
自治体の抱える課題を明確にし、DXを導入することでどのようなメリットが得られるのかを具体的に検討しましょう。
DX推進においては、各段階における期日や担当者を明確にすることで、プロジェクトの進捗を円滑にし、目標達成を加速させることができます。
③推進体制を整える
具体的な推進方針が決定したら、DXを専門とする部門を設置し、担当者や責任者を筆頭にチームを編成します。
この専門チームは、ITに精通した人材で構成し、電子機器のトラブルやデータ不良といった突発的な事態にも迅速に対応できる体制を整える必要があります。
加えて、DX推進には組織全体のデジタルリテラシー向上も欠かせないため、社員がデジタルスキルを習得できるような人材教育プログラムを活用することもおすすめです。
企業向けDX人材育成サービス
企業向けDX人材育成サービスは、お客様のご要望をじっくりとヒアリングし、課題を明確化します。
自治体DX推進による具体的な解決策を提案することで、単なる知識習得にとどまらず、現場で活かせる実践的な人材育成を実現します。
弊社では、お客様の業務状況に合わせた短期・中長期の様々なプランやeラーニングも活用し、時間や場所に縛られず、効率的に学習を進めることができるのが特徴です。
④自治体DXを実施する
決定された自治体DXの実践に移りましょう。常に最新の情報を収集し、状況に合わせて柔軟に対応できるよう準備しておくことが重要です。
また、政府の方針は随時変更される可能性があるためその動向を注視し、必要に応じて迅速に対応できる体制を整えておくことをおすすめします。
自治体DXで取り組みやすい具体的な施策例
DXを推進したいと考えているものの、どこから手をつければ良いか迷っている方も多いのではないでしょうか。
以下では、取り組みやすい具体的な施策例を解説していきます。
ペーパーレスの実施
ペーパーレス化でハンコや申請書類のデジタル化されると、業務の効率化に繋がり、経費削減だけでなく、書類処理時間の短縮も期待できます。
余った時間は、より重要な業務に充てることが可能です。また、環境保全の観点からもペーパーレス化は有効な手段と言えるでしょう。
RPAの利用
RPAは、パソコンで繰り返し行われる決まった作業を自動化するツールです。定型作業は時間がかかり、人による入力ミスも発生しやすいため、担当者の負担が大きいという課題がありました。
しかし、RPAを導入することで、これらの作業をロボットが代わりに行うことができ、人がより付加価値の高い業務に集中できるようになり、業務全体の効率化が期待できるのです。
チャットボットの導入
エントランスや窓口などの来客対応の現場や自治体のホームページにおいて、AIチャットボットを導入することで、人手不足の解消が期待できます。
チャットボットシステムは、定型的な質問への回答や案内を自動で行うことができるため、職員の業務負担を軽減し、より複雑な問題への対応に人員を集中させることが可能になるでしょう。
チャットボットについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
自治体DXは段階的に実行することが重要
今回は、自治体DXを成功させるためのポイントや具体的な施策例を解説しました。DXを推進するには、専門的な知識を持つDX人材が不可欠であるため、いきなり大規模なDXプロジェクトを始めるのではなく、まずは身近な業務からデジタル化や自動化を進めるなど、段階的な取り組みが現実的です。
近年では、国や自治体による地方のデジタル化支援策も強化されており、これらの施策を有効活用することで、DX推進を加速させることができます。
デジタル技術を活用することで、自治体の業務を効率化し、住民サービスの質を向上させることができ、財政効率の改善や地域経済の活性化にも繋がることが期待されるでしょう。
