中国の生成AIスタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)が1月、OpenAIのChatGPTを超えるといわれる新モデルを発表し、話題となっています。
DeepSeekの新モデルは、低コストでありながら高性能であることが特徴です。このモデルの登場は、AI覇権を狙う米テック業界に大きな衝撃を与え、その影響は世界中に広がっています。
今後、DeepSeekがOpenAIをはじめとする競合他社とどのように渡り合っていくのか、注目が集まります。今回は、DeepSeekとOpenAIのChatGPTの違いやDeepSeekに活用されている主な技術を解説します。
DeepSeekとは
中国・杭州に拠点を構えるDeepSeekは、AI分野で注目を集めるスタートアップ企業で、2023年末に、連続起業家として知られる梁文峰氏によって設立されました。
DeepSeekは、商業的な成功を急ぐのではなく、技術革新を重視する戦略を採用しており、資金調達に頼らず、自社のみでAIモデルの開発を進めることで、限られた資源の中で世界トップレベルのAIモデルを生み出すことに成功しました。
2025年1月に発表された最新モデル「DeepSeek-R1」は、開発コストを抑えつつOpenAIの最新モデルに匹敵する高い性能を持つと評価されています。
さらに、オープンソースを採用しており、コードや技術の詳細を公開しています。この取り組みは、AI技術の研究開発コミュニティにおける透明性を高め、活動を活性化させる上で重要な役割を果たしています。
DeepSeekとChatGPTの違い
DeepSeekとChatGPTは、大規模言語モデル(LLM)を基盤とするAIツールですが、その特性と強みには違いがあります。以下で詳しく解説します。
DeepSeek | ChatGPT | |
専門性 | 専門分野に特化したAI | 汎用性の高い会話型AI |
コスト | 低い | 高い |
性能 | 特化型 | マルチタスク |
スピード | 推論 | 書き出し |
セキュリティ | 独自のセキュリティポリシー | Azure OpenAI Service |
ChatGPTの無料と有料の違いやプランについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
専門性の違い
DeepSeekは、専門分野に特化した深いデータ分析能力を持ち、特定の業界や目的に合わせたカスタマイズに優れています。例えば、金融業界であれば金融データに特化した分析を行い、医療業界であれば医療データに基づいた診断支援を行うといった活用が可能です。
一方、ChatGPTは、幅広い分野に対応できる汎用性の高い会話型AIです。日常的な質問への回答や様々な情報の提供など、多様なニーズに応えることができます。
例えば、旅行の計画を手伝ったり、レシピを提案したり、ニュース記事の要約を作成したりといった活用が考えられます。
コストの違い
DeepSeek-R1は、他のAIモデルと比較して非常に低いコストで提供されており、商用APIも安価に利用できます。DeepSeekが低コストで高性能を実現できている背景には、トレーニングコストの大幅な削減があります。
ChatGPTと比較して、18分の1のコストでトレーニングが可能である点は、DeepSeekの大きなアドバンテージと言えるでしょう。
一方、ChatGPTは高い性能を持つことで知られていますが、その分コストも高めです。ChatGPT Plusのような月額課金制のプランや、API利用料も比較的高めに設定されています。しかし、その分品質は保証されており、大規模なデータ処理や高頻度の利用にも耐えうる安定性を持っています。
DeepSeekは限られた予算内でAI技術を活用できるため、導入のハードルが低く、商用利用においても高い性能を維持しつつコストを抑えることができるため、投資対効果を最大化することが期待できるでしょう。
一方、ChatGPTの利用料金は、モデルの性能に応じて異なります。最新の高性能モデルは、トレーニングや運用にかかるコストが高く設定されており、大規模なデータ処理や高頻度の利用にはコストがかさむ可能性があります。
性能の違い
DeepSeekは、特に特定の分野において高い性能を発揮することに焦点を当てて開発されています。数百万のパラメータを持つモデルを採用することで、専門的なタスクにおいて高精度を実現しています。
例えば、数学的な推論や専門的な質問応答においては、他のモデルと比較して優れた性能を示しており、数学オリンピックレベルの問題に対して96.7%の正確性を記録しています。
一方、ChatGPTは、自然な会話の流暢さや文脈理解に優れている点が特徴です。ユーザーとの対話において、自然な応答を生成する能力が高く、様々なトピックに対して適切な情報を提供することができ、複雑な質問に対しても、文脈を考慮した応答を行い、ユーザーの期待に応える性能を持っています。
推論スピードの違い
DeepSeekは、推論スピードの速さを強みとしています。しかし、この記事の執筆時点では、多くのユーザーがアクセスしているため、実際にはChatGPTの方が文章を書き出すまでのスピードは圧倒的に速いです。
また、DeepSeekの公式Webサイトなどで公開されているスペックは、実際の使用感とは異なる場合があるため、スペックを比較するだけでなく、実際に両方のモデルを使ってみて、出力結果を比較することが重要です。
DeepSeekとChatGPTのどちらが優れているかは、使用目的や状況によって異なります。例えば、推論スピードを重視する場合はDeepSeek、文章の書き出しスピードを重視する場合はChatGPTが適していると言えるでしょう。
セキュリティの違い
DeepSeekとChatGPTは、それぞれ異なるアプローチでセキュリティを確保しており、特に、ユーザーのプライバシー保護に関しては、方針や実施している対策に違いがあります。
DeepSeekは、ユーザーのデータを保護するために、いくつかのセキュリティポリシーを導入しています。データの暗号化やアクセス制御が強化されており、ユーザーのプライバシーを守るための取り組みが行われています。
しかし、ハードコーディングされた暗号化キーの使用や、未暗号化のデータ送信が指摘されており、これがセキュリティリスクを引き起こす可能性があります。
国際的に利用する際には、データの取り扱いやプライバシーに関する法律が異なるという注意が必要なため、ユーザーは自分のデータがどのように扱われるかを理解し、適切な判断を下すことが求められています。
一方、ChatGPTは、ユーザーのデータを取り扱う際に厳格なポリシーを設けています。データの収集や保存、利用に関する透明性を確保し、ユーザーが自分のデータに対する権利を理解できるよう努めています。
また、企業での使用に特におすすめなのが、「Azure OpenAI Service」です。Azure OpenAI Serviceでは、API経由でChatGPTを利用し、ユーザーが入力したデータは学習データに転用されず、情報漏洩のリスクを低減できます。
また、オプトアウトを申請すれば、入力データの保持と監視を拒否できるため、さらにセキュリティを高めることが可能です。Azure OpenAI Serviceを導入すれば、機密情報を扱う業務でも安心してChatGPTを利用でき、自社データを学習させてマニュアルやFAQを作成するなど、ビジネスに特化した活用も可能です。
プライバシー保護のために、データの匿名化や暗号化が行われており、外部からの不正アクセスを防ぐための対策も講じられています。
日本のAI法規制については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
DeepSeekに活用されている主な技術
DeepSeekが注目されている背景には、彼らが活用している様々な先進的な技術があります。これらの技術は、DeepSeekのモデルが高品質なアウトプットを生成し、多様なタスクに対応できる理由を説明する上で重要な要素となっています。
以下で、DeepSeekに活用されている主な技術について解説します。
MoE
DeepSeekの技術基盤を支える重要な要素の一つに、Mixture of Experts(MoE)と呼ばれる技術があります。MoEは専門家チームのように、複数の専門家モデル(Experts)の中から、入力されたデータに最適なモデルを選択させることで、高精度かつ効率的な計算を両立させる技術です。
従来のニューラルネットワークでは、全てのニューロンが均等に計算に関与していましたが、MoEでは入力データに応じて異なる専門家モデルが選択されるため、計算負荷を大幅に削減することができます。
このMoEの技術を効果的に活用することで、メモリ使用量を抑えながら、効率的な学習と推論を実現することで、大規模なデータセットを扱うことができ、より複雑なタスクに対応することが可能です。
知識蒸留
知識蒸留とは、高性能な教師モデルが持つ知識を、より小型の生徒モデルに効率的に伝達する技術です。この技術を用いることで、ゼロから新しいモデルを学習するよりも、はるかに効率的にAIを訓練できます。
DeepSeekでは、既存の大規模モデルであるDeepSeek-R1から、Qwen2.5やLlama3などのオープンソースモデルに対して知識を転移させています。転移した知識をもとに、オープンソースモデルに微調整を加えることで、より効率的で高性能なAIモデルを構築しています。
この技術を活用することで、DeepSeekは限られたリソースの中で、競争力のあるAIモデルを生み出すことに成功しています。
GRPO
GRPOは、従来型のPPOを改良したもので計算リソースを削減します。従来のPPOでは、AIが報酬を最大化するための方策を学習する際に、「状態価値モデル」と呼ばれるものが必要でした。
しかし、GRPOではこの状態価値モデルを準備する必要がなく、学習の過程でその場で比較を行うことで基準を決定します。この独自のアプローチにより、DeepSeekはメモリ使用量を大幅に削減することに成功しました。
さらに、GRPOを活用することで、効率的に学習を進めながら、複雑なタスクに対応できる高度な能力を獲得しています。
DeepSeekにおける懸念点
DeepSeekは、大規模言語モデルを活用したAI技術において、目覚ましい進歩を遂げていますが、その一方で、国際社会からはいくつかの懸念点が指摘されており、情報セキュリティと国家安全保障の観点から、以下のような警戒感を示しています。
中国政府への情報漏洩リスク
最も大きな懸念材料として挙げられるのが、DeepSeekが収集したデータが中国政府に提供される可能性です。中国には、国家情報法などの法律があり、政府の要請に基づいて企業がデータを提供することが義務付けられています。
そのため、DeepSeekも例外ではなく、中国の法律に従ってデータを政府に提供する可能性があります。もし、DeepSeekが収集したデータに機密情報や個人情報が含まれている場合、それが中国政府に渡ることで情報漏洩のリスクが高まることが懸念されているのです。
この問題は、DeepSeekのサービスを利用する企業や個人にとって、大きな不安要素となっており、機密情報を扱う企業やプライバシーを重視する個人にとっては、利用を躊躇する要因となる可能性があります。
DeepSeekは、データセキュリティ対策を強化することで、この懸念に対応しようとしていますが、中国の法律や政府の意向に左右される状況は、依然としてリスクとして残っています。DeepSeekを利用する際には、情報漏洩のリスクを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要です。
個人情報の取り扱い
DeepSeekのプライバシーポリシーにおいて、ユーザーから収集される個人情報の範囲と、その取り扱いについて注意すべき点があります。DeepSeekは、ユーザーから多岐にわたる個人情報を収集しており、その中には以下のようなものが含まれます。
- アカウント作成時のメールアドレスや電話番号、生年月日など
- ユーザーが入力した音声やテキスト、チャット履歴
- ユーザーの機種やOS、IPアドレス、キー入力パターンなど
これらの情報は、サービスの提供や改善、広告パートナーやグループ企業との共有など、様々な目的で利用され、収集された情報は必要な限り保管されるとされています。
DeepSeekのプライバシーポリシーは、ユーザーのプライバシーに関わる重要な情報を含んでいるため、サービスを利用する前に、プライバシーポリシーをしっかり読み、内容を理解しておくことが重要です。
特に、中国国外に居住するユーザーは、自身の情報が中国国内のサーバーに保存されることや、中国の法令に基づいて取り扱われることについて、留意する必要があります。
DeepSeekを活用するには懸念点を理解しよう
今回は、DeepSeekとOpenAIのChatGPTの違いやDeepSeekに活用されている主な技術を解説しました。DeepSeekは、中国から生まれたAIスタートアップでありながら、その技術力で世界を驚かせており、低コストで最先端の技術を効果的に活用し、独自のノウハウを蓄積することで、競合他社には真似できない高度なAIを生み出しています。
しかし、DeepSeekの技術が今後どのように応用されていくのか、他の企業がどのように対抗していくのかについては、まだ不透明な部分も多くあります。
また、いくつかの懸念点もあり、多くの国々がDeepSeek社に対し、個人情報の取り扱いに関する詳細な情報を開示するよう求めるなど、警戒態勢を強めています。DeepSeekに限らず、AIモデルへの入力情報はサービス提供者側で利用可能な状態になるため、機密性の高い情報を扱う際には、常に注意が必要です。
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