【2025】AI制御とは?そのメリットや活用事例・注意点をわかりやすく解説

オフィスでは、室温を快適に保つために空調システムが不可欠です。しかし、従来の空調システムは、日射や外気温の変化に柔軟に対応できず、過剰な運転やエネルギーの無駄遣いが課題でした。ダイキン工業は、この課題解決に向けて、AIを活用した新たな空調制御サービスを開発しました。

空調制御サービスでは、AIが室内の温度や湿度、外気温、日射量などのデータをリアルタイムに分析し、最適な運転計画を立てることにより、室温を快適に保ちながら、消費電力を最小限に抑えることが可能になるようです。今回はAI制御の概要やPID制御との違い、メリット、注意点を解説します。

AI制御とは

AIは、人間の脳の働きをコンピューターで再現する技術です。このAI技術を活用することで、機械やシステムを自動で制御するAI制御が実現しました。

AI制御の空調システムでは、空調機に設置されたセンサーが収集した温度や湿度などのデータを、ネットワークを通じて中央の制御システムに送ります。システムに搭載されたAIは、収集された膨大なデータを分析し、常に最適な室温と湿度を保つための設定を自動で行います。

例えば、室温が高いと判断した場合、AIは冷房を強化し、逆に室温が低いと判断した場合には冷房を弱めるなどの調整を行います。さらに、AIは過去のデータに基づき、天候の変化や人の行動パターンを予測することも可能なため、会議室など特定の時間帯に人が多く集まる場所では、事前に冷房を強めるなど、きめ細やかな制御も行うことができます。

AI制御には機械学習と強化学習が必要

AI制御において、機械学習と強化学習は欠かせない要素です。機械学習とは、AIが大量のデータからパターンや規則性を自動的に学習し、新たなデータに対する予測や判断を行う技術です。一方、強化学習は機械学習の一種であり、AIが環境と相互作用しながら、データの価値を最大化するための行動を学習する手法です。

機械学習データから学ぶことで高度なタスクを遂行する
強化学習データを手がかりに最大化した判断を行う

データには、静的なものと動的なものがあります。静的なデータは、過去の販売実績や気象データのように、一度収集されると変化しないデータです。一方、動的なデータは、株価やゲームの盤面のように、時間とともに変化し続けるデータです。

AI制御では、動的なデータを元に最適な行動を選択することが求められるため、強化学習が特に重要です。強化学習により、AIは試行錯誤を繰り返しながら、環境の変化に対応し、常に最適な制御を行うことができるようになるのです。

強化学習については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。

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AI制御とPID制御の違い

PID制御は、古くから広く利用されている制御方式の一つで、システムの現在状態(現在値)と目標とする状態(目標値)の差に基づき、システムを目標値に近づけるための操作量を計算します。PID制御は、この計算に用いられる以下の3つの要素の頭文字をとって名付けられました。

  • 比例(Proportional)
  • 積分(Integral)
  • 微分(Derivative)

これらの要素は、それぞれ異なる役割を果たし、組み合わせることで精度の高い制御を実現します。PID制御はシンプルさと汎用性の高さから、ごみ焼却プラントなどさまざまな分野で利用されており、重要なインフラ設備で安定的で効率的な運転を行っています。

PID制御とAI制御は、それぞれ異なる特徴を持ち、適用範囲も異なります。PID制御は、シンプルで安定した制御が必要な場合に適しており、AI制御は、複雑なシステムの最適化や自己学習が必要な場合に適しています。

AI制御PID制御
モデルデータから学習したモデル単純なモデル
パラメータ調整自動学習人手によるチューニング
学習能力ありなし

近年では、両者の特徴を組み合わせたハイブリッドな制御方式も研究されており、より高度な制御システムの開発が期待されています。

AIにおけるインフラ管理の企業事例や注意点・成功の秘訣については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。

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AIで空調を制御するメリット

AIで空調を制御するメリット

では、AIで空調を制御するメリットには以下のようなものがあります。

  • 効率が向上する
  • 地球温暖化の抑制に貢献できる
  • 建物の快適性が向上する
  • 空調管理を手動で行う必要がない
  • 空気の質と換気が改善される
  • 他の管理システムと連携できる

それぞれの項目を詳しく解説します。

効率が向上する

空調システムのAI制御は、建物の構造や空気の流れなどの情報を熱センサーと組み合わせることで、建物の状態変化に対応し、最適な空調設定を自動調整します。従来の空調システムと比較して、より少ないエネルギー消費で快適な室内環境を実現することが可能です。

さらに、モーションセンサーなどの技術を導入することで、人がいない部屋の空調を停止するなど、無駄なエネルギー消費を削減することや遠隔操作に対応した空調の設定変更が可能となります。しかし、AIを活用した高度なシステム導入が必ずしも必要というわけではありません。

小規模な建物では、スマートサーモスタットなどの比較的安価な製品で、自動化や遠隔操作を行う方が向いているでしょう。

地球温暖化の抑制に貢献できる

先述したように、AIを活用した空調制御は大幅な省エネ効果が期待できます。従来のシステムでは、設定温度に達するまで一律に運転が継続されるため、室温が十分に暖まっている場合でも暖房が稼働し続け、過剰なエネルギー消費につながっていました。

一方、AIによる自動制御では、室温センサーや外気温センサーなどのデータをリアルタイムに収集し、分析することで室温が設定温度に達すると自動的に運転が停止したり、外気温の変化に応じて暖房・冷房の切り替えを最適化したりすることが可能になります。

AIによる空調制御の導入は、CO2排出量の削減にもつながります。省エネ化により、電力消費量が減少し、CO2排出量を抑制することができます。CO2排出量の削減は、地球温暖化の進行を抑制するために不可欠な取り組みであり、AIによる空調制御は、その実現に向けた有効な手段の一つと言えるでしょう。

建物の快適性が向上する

空調のAI制御は、建物内の温度を居住者のニーズに最適化し、快適な環境を提供する技術です。AI制御システムは、建物内のセンサーから得られるデータと、人にとって最適な温度範囲に関する知見を組み合わせることで、建物の温度を動的に調整するため、常に快適な環境で過ごすことができ、生産性の向上に繋がります。

さらに、AI制御システムは自然換気やその他の技術と連携することで、建物を複数のゾーンに分割し、それぞれの温度を個別に調整することも可能にするため、好みに合わせた温度設定を行うことができ、よりパーソナライズされた快適な空間を実現できます。

空調管理を手動で行う必要がない

従来、空調設備の管理は、専門スタッフが手動で行う必要がありました。温度や湿度、人流、天候などの様々な要素を考慮しながら、最適な状態に調整するためには、人的な労力と時間が不可欠でした。

しかし、AIの導入により、センサーなどから収集したデータに基づき、室温や湿度を最適に制御し、快適な環境を自動で維持するため、専門スタッフが出勤して空調設備を調整する必要が減り、人件費を削減できるのです。

空気の質と換気が改善される

自動化された空調システムは、建物の温度を一定に保つだけでなく、空気の質も常に最適な状態に保つことが可能です。リアルタイムで空気の質をモニタリングし、その情報に基づいて空調の機能を自動的に調整するためです。

このような自動化された空調システムは、既存の監視テクノロジーを活用することで実現できます。特に、倉庫や工場では、すでにインターネットに接続された空気質監視システムが導入されているケースが増えています。

さらに、空調システムはフィルターの交換時期や空気清浄機のメンテナンスが必要なタイミングを自動的に検知し、建物の所有者やメンテナンス担当者に通知することができるため、空気の質の低下を防ぎ、建物の衛生状態を常に良好に保つことが可能です。空気を清浄化し、ウイルスや細菌を捕捉することで、感染症の拡大も防止することができます。

他の管理システムと連携できる

空調のAI制御システムは、単独で機能するだけでなく、ビル全体の管理システムと連携することで高度な制御を実現することができます。連携することで、建物のエネルギー効率を向上させ、利用者の快適性を高める上で重要な役割を果たしています。

空調のAI制御システムは、建物のセキュリティシステムやアクセス制御、照明など、他のシステムとも連携することができます。これらのシステムから得られる情報に基づき、空調を最適化し、建物のエネルギー効率を最大限に引き出すことが可能です。

AIで空調を制御する際の注意点

AIを活用した空調の自動制御は、エネルギー効率の向上や快適な室温の維持など、多くのメリットをもたらします。しかし、導入にあたっては、いくつかの注意点も考慮する必要があります。以下で詳しく見てみましょう。

多額の初期費用がかかる

AIによる自動制御を導入する際には、専門ソフトの購入やセンサーの設置、担当者のトレーニングなど、さまざまな費用が発生するため、初期費用は決して安くはありません。しかし、AI導入による長期的な効果として、光熱費や人件費の削減が期待でき、ビル全体の空調を最適化することで、大幅な光熱費削減を実現できるケースもあります。また、単純作業の自動化によって人件費を削減することも可能です。

これらのメリットを踏まえると、AI制御の導入は初期費用に見合う長期的な投資と言えるでしょう。さらに、AI制御の導入を段階的に進めることで、初期投資を分散し、リスクを軽減することができます。例えば、ビルの一部からAI化を開始し、その効果を検証しながら、徐々に導入範囲を広げていく方法が考えられます。

このように、AI導入には高コストというデメリットが存在しますが、計画的な導入によって、初期の金銭的な負担を最小限に抑え、長期的な利益を最大化することができます。

ランニングコストがかかる

AIは人々の動きや室温、気温などの様々なデータを収集し、データに基づき空調システムを最適化します。より正確な制御を実現するためには、AIが膨大な量のデータを学習する必要があります。そのため、AI導入直後は十分なデータが蓄積されていないために、エネルギー消費量を最小限に抑える最適な運転が難しい場合があるでしょう。

AIの学習には時間がかかり、より長い期間データを収集し続けるほど、AIはより正確な判断を下せるようになります。つまり、学習期間が長ければ長いほど、AIは空調システムをより効率的に制御できるようになるのです。

AIによる制御は省エネやコスト削減につながる

AIによる制御は省エネやコスト削減につながる

今回はAI制御の概要や、PID制御との違いやメリット、注意点を解説しました。空調システムのAI制御は、インターネットに接続された温度センサーや空気の品質モニターが収集した情報を元に、建物の状況に合わせて自動的に運転を調整します。そのため、建物は常に快適な状態を保ち、人々はより効率的かつ安全に作業できる環境を得ることができます。

さらに、AI制御システムの導入は、エネルギー消費量の削減によるコストの低減や効率的な運用、従業員の健康促進など多岐にわたる効果が期待できます。空調AI制御システムは今後、ますます普及していくことが予想されます。近い将来、私たちの生活空間は、AI制御技術によってさらに快適で持続可能なものへと進化していくでしょう。

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