【2025】 なぜ自動運転にAIが不可欠なのか?IT企業が知っておくべき理由

公道では予測不能な事態が常に起こりうるため、自動運転の実現には、AIによる柔軟な制御が不可欠です。例えば、歩行者や停車車両だけでなく、落下物や動物の飛び出しなど、様々な障害物が予期せず出現します。

AIを用いない従来のルールベースのプログラムでは、このような多様な状況に完全に対応することは困難です。一方、AIは過去の学習データから分析・予測を行い、初めての状況にも適切に対応できます。

米国では、すでに多くの企業が自動運転の公道走行を実施しており、画像認識や動画認識などのAI技術が、自動運転の基盤を支えています。一方、日本ではまだ公道でのサービス提供が本格化しておらず、自動運転とAIの拡大に対する具体的なイメージを持ちにくい状況です。

今回は、IT企業が知っておくべき自動運転にAIを活用する理由や自動運転を支えるAIの技術、課題を詳しく解説します。

自動運転にAIを活用する理由

自動運転にAIを活用する理由

なぜ自動運転にAIが不可欠なのか、その理由を深く理解している方はどれほどいるでしょうか。以下では、自動運転におけるAIの役割や重要性について解説していきます。

交通事故の減少が期待されているため

自動運転の実現は、運転者の負担を軽減するだけでなく、交通事故の大幅な削減にも貢献すると期待されています。

その理由は、自動運転技術によって、ACC(アダプティブクルーズコントロール)やLKAS(レーンキープアシスト)といった高度な運転支援機能が実現されるためです。

ACC先行車との車間距離を一定に保ちながら走行する機能
LKAS車線の中央を走行するようにステアリング操作を支援する機能

交通事故の主な原因は、ドライバーの不注意やミスによるものが多くを占めています。自動運転機能が車に搭載されれば、こうした人的要因による事故を大幅に防ぐことができると考えられています。

運転手不足が解消されるため

運転手不足が深刻な地域では、バスやタクシーの運行維持が困難な状況ですが、自動運転技術の導入により、運転手の確保が不要になります。

また、高速道路などでの自動運転や新たな交通サービスの発展は、トラックドライバーの高齢化問題の解消にも繋がるでしょう。

さらに、清掃車両や道路点検車両を自動運転化することで、人件費の削減も可能です。自動運転技術は人手不足に対応することで、移動手段の安定的な確保や観光・運送事業の発展に貢献することも期待されます。

自動運転タクシーについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。

【2025】自動運転タクシーが日本に導入されるのはいつ?7つのメリットや仕組み・実用化における課題を詳しく解説

災害時の迅速な対応ができる

緊急車両などに自動運転機能を搭載することで、人員を割かずにスムーズな移動が可能になります。これにより、地震や台風などの災害発生時には、以下の様な活用が期待できます。

  • 立ち入り困難地区や被災地の状況が最善ルートで確認できる
  • 被災者や救援物資が迅速に搬送できる

また、警察車両に自動運転機能やアラーム機能を搭載することで、24時間体制でのパトロールが可能となり、犯罪抑止にも繋がるでしょう。

車間距離を保つことができる

先行車との車間距離を一定に保ちながら走行するACC(アダプティブクルーズコントロール)は、速度を設定するだけで、車間距離を保ちながら一定速度で走行できるため、加減速によるガソリンや電気の消費を抑え、低燃費が期待できます。

さらに、バスや電車などの公共交通機関に自動運転技術を導入すれば、人件費や維持費の削減に繋がり、移動にかかる運賃を低く抑えることができる可能性もあるでしょう。

自動運転は環境負荷の軽減だけでなく、ガソリン代や電気代、移動費の節約にも繋がる経済的なメリットも期待されています。

移動時間の快適性が向上するため

完全自動運転が実現すると、ユーザーは運転という行為から解放され、移動時間を仕事や食事などに有効活用できるようになり、快適性が向上します。

また、運転手が必要なくなるため、運転免許を持たない人や子ども、高齢者でも自由に移動できるようになります。

さらに、GPSなどの位置特定技術を活用することで、リアルタイムに道路状況を把握し、最適なルートでの運行が可能です。車間距離を適切に保ち、一定速度で走行できるため、交通の流れがスムーズになり、渋滞の発生も抑制されることが期待されています。

自動運転を支えるAIの技術

自動運転を支えるAIの技術

自動運転技術の進化を根幹で支えているのが、第3次AIブームといわれるディープラーニングです。以下では、自動運転を支える主要なAI技術を解説します。

ディープラーニングについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。

【2025】ニューラルネットワークとディープラーニングの違いを徹底解説

画像認識

自動運転の実現には、LiDARやステレオカメラによって取得した画像の分析・解析が不可欠です。自動運転の画像分析・解析においては、「分類」と「検出」という2つの重要な機能が活用されています。

分類画像に「何が」映っているのかを識別する機能
検出画像に「何が」「どこに」映っているのかを判別する機能

「分類」は、AIによる画像解析の基本となる画像セグメンテーションとも呼ばれ、画像に写っている物体をピクセル単位で分類する技術です。

例えば、「車」と「信号」が映っている画像がカメラから送られてきた場合、AIは膨大な画像や動画にアノテーションという作業を行います。アノテーション作業とは、画像データに対して、それが何であるかを示すタグを付与する作業のことです。

一方、「検出」はバウンディングボックスを使い、リアルタイムの渋滞画像データからどの道がより空いているのか、より安全なのかを判断することができます。

「検出」や「分類」の学習を自動的に繰り返すことで、街全体、道路全体としての空間状況も把握できるようになり、空間のどこに車や人がいるのか、どのルートを取れば良いのか学習する能力の精度も高まります。

IoTセンサー

自動運転において、AIは突発的な事態が発生した際に、カメラ画像やIoTセンサーから得られたデータをもとに、止まるべきか、減速すべきか、進むべきか、ハンドルを切るべきかといった判断を行います。

例えば、前方の信号が赤であれば減速し、歩行者が飛び出してくれば停止したり、回避したりするように、繰り返しの学習を通して精度を高めていきます。

予測

高精度なAIは自動運転において、従来のGPSを用いたカーナビゲーションの渋滞予測とは異なり、以下の動きを先回りして予測し、快適かつ安全な走行を実現します。

  • 隣接車線を走行する車両の動き
  • 前方を往来する歩行者の動き

さらに、近隣で開催されているイベント情報や天候情報などに基づき、道路状況を予測することも可能です。AIによる視界全体に入るデータの予測機能が向上することで、自動運転の安全性と快適性は格段に向上することが期待されるでしょう。

ダイナミックマップ

ダイナミックマップは、特にレベル4の自動運転を実現するために重要なデジタル地図で、以下の様な静的情報と動的情報を組み合わせています。

静的情報動的情報
路面情報交通規制や工事情報
車線情報事故や渋滞、信号情報
建物などの構造物歩行者や落下物

より快適で安全な自動運転を実現するためには、固定された静的情報に加え、道路上で刻々と変化する膨大な動的情報を基にデジタルマップを作成するAI技術が欠かせません。

マッピングの初期段階では、人間の手作業に頼っていましたが、AIはビッグデータの分析に優れているため、自動的に学習と判別を行うことが可能です。

さらに、ディープラーニングはAIが自律的に学習を行うため、これまで経験したことのない状況でも正確なマッピングが期待されています。

コミュニケーション

現在のAI技術の進化において、画像認識機能とともに特に著しい進歩を見せているのが「音声認識機能」です。例えば、走行中に急な用事でどこかに立ち寄る必要が生じた場合、「止まって」と声で指示を出すような状況が考えられます。

この時、AIは音声認識によって得られたデータに基づき、単に車両を発進・停止させるだけでなく、乗員の状況に合わせた最適な判断を学習していきます。

さらに、過去の音声・画像データの蓄積から、AIがユーザーの性格や好みを判断し、最適な店やスポットを予測して提案してくれる機能も開発されています。

ルートの最適化

AIによる自動運転は、リアルタイムな情報収集と分析に基づき、最適な走行ルートや経由地の変更を可能にします。バスの運行においては、利用者のニーズに合わせたルートの最適化も可能です。

さらに、AIは搭乗者の年齢や性別、声の高さや早さを分析し、急いでいるのか、落ち着いているのかなどの状況を感知し、運転当日の状況に合わせて自動的にチューニングできるようになるでしょう。

セキュリティ向上

自動運転においては、リアルタイムな判断が求められるため、常時大容量の通信ネットワークへの接続が必須です。そのため、自動運転の安全性と快適性の維持には、ネットワークの安全確保が不可欠となります。

AIの自動学習能力は、サイバー攻撃データの収集や解析を通じて、未知のネットワーク攻撃に対する効率的な予防策を講じることを可能にします。

ハッキングなどのサイバー攻撃が高度化する現代において、安全な自動走行を実現するためには、AIの存在が重要です。

マルチモーダル

マルチモーダルAIは、テキストや画像、音声、動画など、複数の種類のデータを同時に処理できるAI技術です。この技術は、様々な情報を統合して高度な判断を可能にするため、従来のAIでは対応できなかったタスクの処理が期待されています。

特に、VLMやMLLMを用いた自動運転技術は、マルチモーダルAIの発展によって大きく進化しており、画像やテキスト、音声などの多様なデータ形式を統合的に処理することで、より高度な判断が可能です。

VLM(Vision-Language Model)画像や映像などの視覚情報と言語データを同時に処理できる
MLLM(Multimodal Large Language Model)言語や画像、音声、動画など様々な形式のデータを統合的に処理できる

例えば、カメラ画像と自然言語を組み合わせることで、複雑な交通状況を理解し、適切な判断を下したり、画像とプロンプトを入力として、直接制御指令値を出力したりする方式も採用されています。

マルチモーダル学習は、カメラを中心とした画像による運転システムの開発だけでなく、乗客とのコミュニケーションや救急車のサイレン、踏切の警笛音など、音声や自然言語の入力も含めた研究が進められています。

自動運転におけるAIの課題

自動運転におけるAIの課題

自動運転技術は日々進化を続けていますが、その技術が社会に受け入れられるためには、様々な課題があります。最後に、自動運転におけるAIの課題を見ていきましょう。

AIが状況を完全に把握できない

車両に搭載されたセンサーが捉える情報には限りがあるため、AIが周囲の状況を完全に把握することができないという根本的な問題を指します。これが、AIにおける「不完全知覚問題」です。

自動運転車に搭載されたカメラやレーダー、LiDARなどのセンサーは、周囲の状況を認識するために不可欠なツールです。しかし、これらのセンサーで計測できる情報は限られており、あらゆる状況を完全に識別することはできないのです。

このように、センサーが捉える情報が限られていることや、情報に欠落が生じることによって、AIは状況を誤認識する可能性があります。例えば、道路標識の一部が汚れていたり、影になっていたりする場合、AIはそれを別の標識と誤認識するかもしれません。

また、歩行者が急に飛び出してきた場合、AIがそれを認識するまでに時間がかかり、回避が間に合わない可能性もあります。AIが状況を正しく認識し、適切な判断を下すためには、センサーの性能向上だけでなく、AIの学習能力を高める必要があるのです。

急な切り替えに対応しきれない

日本の自動運転レベルは、高速道路などの特定の条件下で、自動運転レベル3の車両が走行することが法的に認められています。レベル3の自動運転では、AIが危険を予測した時点でドライバーに手動運転への切り替えが求められますが、「切り替え問題」という、急な切り替えでは人間が対応しきれない可能性があります。

本来は、危険予測の時点でAIがその原因をドライバーに提示し、精神的な余裕を与えながら手動運転に切り替えるのが理想的です。

しかし、深層学習では推論過程がブラックボックス化するため、AIが危険を察知しても、その判断根拠をドライバーにうまく伝えることができません。AIから人への円滑な情報伝達方法を確立しない限り、事故を回避できない可能性が指摘されているのです。

トロッコ問題の可能性がある

トロッコ問題は、制御不能となったトロッコが迫る危機的な状況下で、人がどのような選択をすべきかという難題を指します。

例えば、車のブレーキが故障した場合、目の前の歩行者と衝突するか、ドライバーを犠牲にして壁に衝突するかという選択を迫られる可能性があります。

このような状況において、AIにどのような判断をさせるべきかという問題は、非常に複雑です。人を意図的に轢くことを想定した学習には倫理的な問題があり、社会的に受け入れられにくい側面もあります。

運転の仕事を奪う恐れがある

自動運転技術の進化は、人手不足解消への期待と同時に、既存の運転サービスの仕事が奪われるのではないかという懸念も生んでいます。特に、トラックやタクシー運転手など、職業ドライバーへの影響は注視すべき課題です。

自動運転の実用化に向けては、物流業界をはじめとする各方面への影響について、議論を深めることが重要です。しかし、自動運転システムが導入されたとしても、その設定やメンテナンスは人間が行う必要があり、最適な経路での運行には、現役ドライバーの知識や経験が欠かせません。

そのため、自動運転が実現したとしても、全ての運転業務が完全に代替されるわけではなく、人間の役割は依然として重要であると考えられます。

完全自動運転における法整備がない

自動運転技術の実用化は着実に進んでいますが、完全自動運転の実現には、技術的な進化だけでなく、法整備も欠かせません。

現在、実用化されているのはレベル3までの自動運転であり、レベル4の完全自動運転を実現するためには、以下の様な課題を解決する必要があります。

  • 既存車両との交通ルールを明確化する
  • 自動運転車が事故を起こした場合の責任の所在を明確にする
  • レベル4による自動運転のルールを整備する

自動運転におけるAIはなくてはならない存在

今回は、自動運転にAIを活用する理由や自動運転を支えるAIの技術、課題を解説しました。完全自動運転の実現にはまだ時間を要しますが、AIを活用した安全運転支援技術はすでに実用化されています。

AIは機械学習と深層学習により、障害物を的確に識別する能力を日々向上させています。しかし、センサーの計測限界に起因する不完全知覚問題、人間へのスムーズな情報伝達が求められる切り替え問題など、解決すべき課題も存在します。

これらの課題は新しいテクノロジーにより、いずれ克服されると期待されています。AI技術の進歩に伴い、自動車業界におけるAI活用はますます多様化していくでしょう。

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