病害虫や雑草は、農作物の生産量と品質を大きく左右する深刻な問題です。従来の対策は、長年に渡って農薬や除草剤の散布などが行われてきましたが、近年深刻化している後継者不足と気候変動という2つの課題が状況をさらに悪化させています。
高齢化による農業従事者の減少は、作業に必要な人手不足を招いており、適切な対策を講じることが難しくなっています。さらに、気候変動の影響による異常気象で、病害虫や雑草の発生状況をより複雑化させ、従来の経験や勘だけに頼った対策では対応しきれない状況です。
そこで、AI技術を導入することで、農業における病害虫・雑草問題解決の新たな可能性があると期待されています。今回は、気候変動対策にAIを活用するメリットやデメリット、対策事例や気候変動対策事例をご紹介します。
AIは気候変動を分析できる?
一見、無関係のように見えるAI技術と気候変動問題ですが、実は密接な繋がりを持ち、気候変動問題解決に向けた強力なツールとなり得ます。AIは、膨大なデータを高速かつ正確に分析・処理する能力を持ち、その力を活かして気候変動問題の予測と解決策の提案に役立てることが期待されています。
AIは膨大な気象データを分析することで、過去の気候変動パターンを把握し、気候変動を予測することができます。さらに、予測結果に基づいて、地域ごとの適応策を導き出すことも可能です。例えば、降水量の変化に合わせた水資源管理や、異常気象による農作物被害への対策などを立案することができるのです。
気候変動対策にAIを活用するメリット
複雑なパターンを解き明かすAIは、気候変動対策のあらゆる分野で革新をもたらす力を持っており、これまで不可能だった高度な予測や最適化を可能にします。AIを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。
見落とされがちだった問題点を発見できる
AIは膨大な量の気象データや過去の気象パターンを分析することで、従来の予測よりも高精度な気候予測が可能です。また、将来の気候変動シナリオをシミュレーションし、地域ごとの影響を詳細に予測することができます。
そのため、見落とされがちだった問題点を発見することができるのです。
シミュレーションを行うことができる
AIは高精度な気候変動シミュレーションが可能です。そのため、将来の気候変動がどのように地球に影響を与えるのかを予測し、具体的な対策を講じることができます。
例えば、温室効果ガスの排出削減目標を設定したり、気候変動の影響を受けやすい地域への適応策を策定したり、省エネ技術の開発・普及を促進することができます。様々な不確実性を考慮したシミュレーションを行うことで、将来の気候変動のリスクをより正確に評価することが可能です。
気候変動対策にAIを活用するデメリット
AIを活用した気候変動対策には、メリットもある一方で以下のようなデメリットも存在します。以下で詳しく見ていきましょう。
AIシステムの構築と運用にコストがかかる
AIシステムの開発には、ハードウェアやソフトウェアの購入、データ収集、AIモデルの開発など多額の費用がかかります。また、AIシステムを構築した後は継続的な運用が必要です。
具体的にはデータの更新やメンテナンス、システムの監視など、様々な作業を行わなければいけません。これらの作業やAIシステムの開発・運用には、AIに関する専門知識を持つ人材が必要です。
このように、AIシステムの構築と運用には様々なコストがかかるのです。
AIの決定には透明性が欠けることがある
AIは膨大な量のデータを分析して学習し、自らの意思決定を行います。しかし、その学習過程や意思決定の根拠は、人間にとって理解しにくいブラックボックスとなっている場合が多いでしょう。そのため、AIの決定が透明性欠如により、説明責任を果たせないという問題が出てきます。
例えば、AIが洪水リスクの高い地域と判断した場合、その根拠を説明できなければ、住民が避難するなどの適切な行動を取ることができず、被害が拡大する可能性があります。そのため、AIに学習させるデータの偏りを解消するための取り組みや人間とAIが協働して、意思決定を行う仕組みを構築する必要があるでしょう。
AIによる気候変動対策事例をご紹介!
AI技術はまだ発展途上ですが、すでに様々な分野で気候変動対策に活用されています。例えば、以下のような事例が挙げられます。
スマートサーモスタットでエネルギー利用を制限
AI家電は生活データを分析することで、より効率的な省エネ・節電を実現します。例えば、冷蔵庫やエアコンなどに搭載される「スマートサーモスタット」技術は、AIを活用して冷やしすぎや暖めすぎを防止し、無駄なエネルギー消費を削減します。
スマートサーモスタットは生活データを分析しつつ、外気温、湿度、日射量などを考慮し、最適な室温を自動調整することが可能です。
服の需要予測で廃棄量を削減
ファッション業界では細分化されたシーズン展開が主流となり、トレンドの変化に対応できるよう、常に新しいアイテムを生み出し続けています。しかし、急速な変化の裏側には、大量生産・大量廃棄という深刻な問題が潜んでいるのです。
そこで注目をされているのが、AIによる需要予測です。AIは過去の販売データや顧客情報などを分析し、製品がどれくらい売れるのか、顧客がどのような商品を購入する可能性が高いのかを予測することができます。
そのため、服の廃棄量を大幅に削減して、環境負荷を低減しつつ、顧客満足度を向上させる可能性を秘めています。
土地の耕作の実現可能性を測定
かつてはトマト畑が広がっていたインド中央部では、近年の異常気象の影響で干ばつが頻発し、農家の生活が脅かされていました。しかし、シリコンバレーのClimate社が開発したAIによるシミュレーションで、気候や水、土壌のデータを分析し、今後数年間におけるその土地の耕作の実現可能性を測定したのです。
その結果、今後のトマト生産量が約30%減少するという予測を提示し、気候に強い種子品種への切り替えや、トマト種子の植付け時期のシフトなどの対策を講じました。
晴天乱気流を予測
NASA(米航空宇宙局)は、地球温暖化の影響で「晴天乱気流」が2050年までに10〜40%増加する可能性があると発表しています。晴天乱気流は、雲のない晴天時に発生する乱気流で、パイロットやレーダーが予測することが困難です。
晴天乱気流に遭遇すると、飛行機は上下左右に大きく揺さぶられ、乗客がけがをしたり、荷物が落下したりするなどの被害が発生する可能性があります。そのため、科学者たちはAIを活用した晴天乱気流予測システムの開発に取り組んでいます。
AIは膨大な気象データを学習し、過去の乱気流発生パターンや気象条件を分析することで、従来の予測システムでは不可能だった高い精度で晴天乱気流の発生を予測可能です。
水害発生時のリスクを把握
SMBCグループは、気候変動の影響を先取りして経営に活かすため、AI技術を活用した高度な気候変動シナリオ分析を実施しています。この分析により、2050年までに水害リスクによる与信関係費用が累計550億〜650億円程度になる可能性を予測しました。
従来の分析では、科学データや対象地域の網羅性に課題がありました。しかし、AIと衛星画像解析を駆使し、国内外の担保、事業法人を対象とした洪水発生時の浸水深を把握・算出し、担保毀損や財務悪化の影響の分析を行いました。
分析結果は、取引先へのリスク評価の高度化や水害対策への投資の検討など、SMBCグループの今後の経営戦略に活かされるようです。
AIによる気候変動対策の課題
AIは気候変動対策において大きな可能性を秘めている一方で、いくつかの課題も存在します。以下で、主な課題をご紹介します。
AIによる温室効果ガスの排出量の増加
高性能なAIモデルの学習には、膨大な計算量が必要であり、多くのエネルギーを消費します。これは、気候変動問題を解決しようとしているAI自体が、温室効果ガスの排出量を増やしてしまうという皮肉な結果をもたらす可能性があります。
実際に米国の地球温暖化問題の解決を謳うAI企業が、自らの活動によって環境負荷を増加させていると指摘されています。AI企業は、省エネ技術の開発や再生可能エネルギーの利用促進など、環境負荷低減に向けた積極的な取り組みが必要です。
バイアスを反映してしまう可能性がある
AIは学習データに基づいた生成結果を提供します。そのため、学習データにバイアスが含まれていた場合、結果に反映してしまう可能性があります。
例えば、過去のデータに基づいて開発されたAIが、特定の地域や人種に対して不公平な結果を出す可能性があるのです。データセットの多様性の確保や倫理的なガイドラインの策定などの対策が重要です。
プライバシーに関わる情報が収集される
AIの活用には、多くのデータを必要とするという課題があります。AIは学習や予測を行うために、膨大なデータを解析してパターンを抽出します。
そのため、企業や組織は顧客や利用者に関するデータを収集しなければいけません。データ収集には、個人情報や個人の行動パターンなどがAIによって収集される可能性があり、不可避的にプライバシーの問題が伴います。
そのため、情報が漏洩したり不正に利用されたりすると、個人のプライバシーが侵害されるだけでなく、社会的な信用を失墜させる重大なリスクにもつながるのです。AI導入においては、データ収集とプライバシー保護のバランスを取ることが重要です。
企業は個人情報の取り扱いに関する法令や規制を遵守し、データ漏洩や不正利用を防止するためのセキュリティ対策を徹底する必要があります。
AIによる気候変動問題の解決に期待!
今回は、気候変動対策にAIを活用するメリットやデメリット、対策事例や気候変動対策事例をご紹介しました。地球温暖化は異常気象の頻発や海面上昇など、その影響は私たちの生活に深刻な脅威を与えています。
従来の対策では限界があった問題においても、AIは新たな突破口を開き、持続可能な社会の実現に向けて大きく貢献することが期待されています。しかし、AI技術は万能ではなく光と影、希望と懸念は表裏一体です。
AIと人類が共存するためには、技術的な発展と倫理的な議論を進めていくことが重要です。
