リモートワークは企業にとって働き方の1つとして標準化されつつあります。しかし、導入に際して多くの課題に直面する企業も少なくありません。
本記事では、リモートワークの基礎知識から企業が導入する方法を解説します。リモートワークのメリット・デメリットや成功事例まで紹介しているので、導入を検討・推進している方は必見です。
リモートワークとは?
リモートワークとは、自宅やカフェ、コワーキングスペースなど、会社以外の場所で仕事をする働き方のことです。
「リモート(遠隔)」と「ワーク(仕事)」を組み合わせた言葉で、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方として、近年大きな注目を集めています。
リモートワークとテレワークの違い
テレワークは自宅勤務、モバイルワーク(外出先や移動中の仕事)、サテライトオフィス勤務などを含む幅広い働き方の総称です。一方、リモートワークはその中でも自宅からの勤務を指す場合が多く、IT企業などで頻繁に使われます。
テレワークは週に何度か出社を求められる場合がありますが、リモートワークは常に在宅勤務が一般的です。
リモートワークの普及率と現状
国土交通省によると、令和6年時点で雇用型テレワーク(リモートワークを含む)は約24.6%となっており、IT業界や大企業を中心に高い普及率を誇っています。
出典:令和6年度 テレワーク人口実態調査 -調査結果-
都市部では通勤混雑の回避や柔軟な働き方の実現を背景に、リモートワークを標準とする企業も増加しつつあります。
リモートワークを導入する企業のメリット・デメリット

ここでは、企業視点から見たリモートワークの利点と欠点について整理し、導入の判断に役立てられるように解説します。
企業側のメリット
リモートワークを導入する企業には、コスト面・人材確保・従業員満足度・業務効率といったさまざまなメリットがあります。
- オフィスコストの削減が可能になる
- 全国から優秀な人材を採用できる
- 従業員満足度や定着率の向上が期待できる
- 業務の効率化・生産性向上に貢献
それぞれを上から順に解説します。
①オフィスコストの削減が可能になる
リモートワークを導入することで、オフィスの賃料や光熱費、備品代など、固定費の大幅な削減が可能になります。とくにフルリモートを採用する企業では、物理的なオフィスを廃止し、バーチャルオフィスで業務を完結させているケースも増えています。
②全国から優秀な人材を採用できる
場所に縛られない働き方が可能になるため、全国どこからでも人材を募集できるようになります。
その結果、首都圏に限らず、地方在住の優秀な人材や、育児・介護などの事情で通勤が難しい層も採用対象に含めることができます。
③従業員満足度や定着率の向上が期待できる
通勤の負担がなくなることで、ワークライフバランスの向上が期待できます。
また、働く場所を自ら選べることで仕事へのモチベーションも高まりやすくなり、離職率の低下や従業員満足度の向上が見込めるのです。
④業務の効率化・生産性向上に貢献
集中できる環境で働くことで、業務の効率がアップする従業員も多くいます。また、業務のオンライン化に伴い、ペーパーレス化や業務プロセスの見直しが進み、組織全体の生産性向上にもつながるケースもあります。
時間や場所にとらわれないリモートワークの働き方は、勤時間や無駄な会議なども減らせます。
企業側のデメリット
ここでは、企業がリモートワークを導入する際に気を付けるべき3つのデメリットを紹介します。
- 従業員の勤怠や業務管理が難しくなる
- 社内コミュニケーションが減少する
- セキュリティリスクの増加
それぞれの課題について、詳しく見ていきましょう。
①従業員の勤怠や業務管理が難しくなる
オフィス勤務とは異なり、従業員の働きぶりを目に見える形で確認することが難しくなります。そのため、労働時間の管理が曖昧になったり、成果の進捗が見えづらくなるケースも少なくありません。
対策として、KPI管理の導入や勤怠管理ツールの活用が効果的です。
②社内コミュニケーションが減少する
対面でのやり取りが減ることで、ちょっとした雑談や相談の機会が失われがちです。その結果、チーム間の連携が取りづらくなったり、情報の伝達ミスが起きやすくなる傾向があります。
これを防ぐには、Zoomでの定期的な1on1ミーティングなど、意識的なコミュニケーションを取ることが必要です。
③セキュリティリスクの増加
社外ネットワークや個人端末の利用が増えることで、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクも高まります。とくに公共Wi-Fiの使用やUSBメモリによるデータ持ち出しは、セキュリティ事故の原因となりかねません。
企業が安全なリモート環境を維持するためには、VPNの導入や業務端末のアクセス制限が必須です。
リモートワークを導入する従業員のメリット・デメリット

ここでは、リモートワークが従業員にもたらすメリットとデメリットをご紹介します。
従業員側のメリット
通勤時間の削減や柔軟な働き方の実現など、リモートワークは従業員にとっても大きなメリットがあります。
リモートワークによって従業員が得られる主なメリットは、次の内容が挙げられます。
- 通勤のストレスや時間を削減できる
- ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方ができる
- 自分に合った仕事環境を整えやすい
- 生産性の向上や自己管理能力が高まる
生活環境を整えることで、リモートワークの満足度や作業効率がより一層向上します。在宅勤務の快適さをさらに高めたい方は、以下の記事で紹介するスマート家電の活用もおすすめです。
従業員側のデメリット
リモートワークは柔軟な働き方を可能にする一方で、従業員にとっては課題やストレスの原因となることもあります。
リモートワークを実践する中で従業員が感じやすい3つのデメリットは、以下の3つが挙げられます。
- 孤独感や孤立感を感じやすい
- 仕事とプライベートの境目が曖昧になる
- 情報共有や連携がしづらくなる
こうした課題に対しては、オンライン雑談の導入や作業時間の明確な区切りを設けるなど、意識的な対策が求められます。
リモートワーク導入の注意点

リモートワークの導入を成功させるには、単に制度を整えるだけでは不十分です。情報管理・コミュニケーション・労務制度・組織体制など、多方面にわたる準備と運用が求められます。
リモートワークの導入を行う際は、次の内容に注意しましょう。
- 情報漏えいを防ぐためのセキュリティ対策を検討
- リモートワークに最適なコミュニケーションツールを導入
- リモート勤務でも機能する労務管理と評価制度
- 社内体制の整備し、リモートワークが継続的に選ばれる働き方として定着できるようにする
より広い視点での組織改革については、以下の記事で紹介する社内DXの進め方を参考にしてください。
段階的に進めるリモートワークの導入方法

リモートワークを成功させるには事前準備をしっかり行い、段階的に導入することが重要です。いきなり全社導入するのではなく、準備・実行・改善を繰り返すことで、スムーズに現場へ浸透させられます。
ここでは、リモートワーク導入の流れを5つのステップに分けてご紹介します。
- 業務を洗い出し、リモート化の可否を判断する
- 必要なツールやIT環境を整備する
- 勤怠管理や就業ルールを見直す
- 小規模から試験運用を始める
- 導入後は継続的な改善で定着を図る
それでは、上から順番に見ていきましょう。
①業務を洗い出し、リモート化の可否を判断する
リモートワークを導入する際は、まず社内で行われている業務をすべて洗い出し、どの業務が在宅で対応できるかを精査することが最初に行うべき内容です。
たとえば、以下のように分類できます。
| 業務内容 | リモート対応 | 補足 |
|---|---|---|
| Web会議 | 対応可能 | ZoomやGoogle Meetで実施可能 |
| 資料作成 | 対応可能 | GoogleドキュメントやPowerPointを使用 |
| メール対応 | 対応可能 | クラウドメール環境があれば問題なし |
| データ分析 | 対応可能 | ExcelやBIツールを活用 |
| チャット対応 | 対応可能 | SlackやChatworkで対応 |
| 現場作業 | 難しい | 製造・物流などの場合は物理的対応が必要 |
| 対面での接客 | 難しい | サービス業の場合はお客様との直接対応が必要 |
| 紙書類の押印 | 難しい | 電子契約・電子印鑑への移行が必要 |
| 社内限定ネットワークでの処理 | 難しい | VPNなどセキュアな接続環境の整備が必要 |
また、属人化している業務がある場合、それがリモート対応を阻む要因になります。
②必要なツールやIT環境を整備する
リモートワークを円滑に進めるためには、業務を支えるITインフラの整備が必要です。
通信の安定性や情報セキュリティ、スムーズな情報共有など、オフィスと変わらない環境を用意することで従業員のパフォーマンスを維持できます。従業員に対して操作方法やセキュリティリテラシーを学ぶ研修も行いましょう。
③勤怠管理や就業ルールを見直す
オフィス勤務とは異なり、時間や場所の把握が難しくなるため、勤怠の記録方法や労働時間の管理ルールを明文化することが必要です。
たとえば、以下のような制度が求められます。
- 出退勤の記録ルール(打刻ツールや日報)
- コアタイムの設定とフレックスタイム制の導入
- 業務中の連絡体制の整備
ルールの形骸化を防ぐためにも、定期的なチェックとフィードバックを行いましょう。
④小規模から試験運用を始める
全社一斉のリモートワーク導入はリスクが高いため、まずは特定の部署やチームを対象に小規模な試験運用から始めましょう。初期段階では、現場社員からのフィードバックを積極的に収集し、改善を図ることが成功への近道です。
⑤導入後は継続的な改善で定着を図る
リモートワークは導入後にどれだけ現場に合った運用を続けられるかという点が大切です。
リモートワーク制度を形だけで終わらせないためには、従業員の満足度や仕事のしやすさや、生産性がきちんと保たれているかを定期的に確認しましょう。
リモートワークを導入した企業の成功事例

リモートワークは働き方の柔軟化にとどまらず、実際に成果を上げている企業も増えています。
ここでは、実際にリモートワークを導入して成功している企業の事例を紹介します。
株式会社サイボウズ:自由な働き方で離職率が劇的に低下
株式会社サイボウズは、リモートワークや在宅勤務、時短勤務、ワーケーションなど柔軟な働き方を積極的に導入し、社員が自分のライフスタイルに合った働き方を選べる制度を整えました。
その結果、2005年には28%だった離職率が2020年にはわずか4%にまで低下し、社員の満足度と優秀な人材の定着にも成功しています。
株式会社メルカリ:フルリモート導入で全国から優秀な人材を採用
株式会社メルカリは、2021年からフルリモート制度「YourChoice」を導入し、従業員が働く場所や時間を自分で選択できる働き方を制度化しました。
さらに、リモート環境での働きやすさを支えるために、在宅勤務手当や必要機材の支給なども整備を行い、社員の働きやすさと採用力を両立させる施策として業界内外からも高く評価されています。
リモートワークの基礎と導入ポイントを理解して実践しよう
リモートワークは、企業と従業員に柔軟性と効率性をもたらす働き方です。一方で、セキュリティ対策や評価制度の見直し、社内体制の整備をしっかり行わなければ、思わぬトラブルにつながることもあります。
本記事で紹介した導入ステップや成功事例を参考に、自社に合った形でリモートワークを取り入れてみましょう。






